本当に中国による台湾侵攻の危機は遠のいたのか、2027年説を米情報機関の報告書が否定

2027年台湾侵攻の実行計画も予定表もなし, 台湾国防部の見積もりとも整合, 台湾統一に向けた3層構造のハイブリッド戦, 台湾人意識と現状維持・独立意識の高止まり, 対中戦略的優位性の向上を急げ

台湾の頼清徳総統(3月14日撮影、写真:ロイター/アフロ)

2027年台湾侵攻の実行計画も予定表もなし

 米国の情報機関(Intelligence Community, IC)は、2026年3月公表の「年次脅威評価(ANNUAL THREAT ASSESSMENT)」において「中国指導部が現在、2027年に台湾侵攻を実行する計画はなく、統一達成のための固定されたタイムラインも持っていないと評価している」と明示した。

 同文書は、「中国は、必要であれば統一を強制するために武力を行使するとの脅しを維持し、・・・人民解放軍(PLA)もまた、命令が下された場合に軍事力を用いて統一を試みるための計画と能力の開発を継続している」としている。

 その上で、中国は2049年の中華人民共和国(PRC)建国100周年までに「民族復興」という目標を達成するため、「2026年において、北京(中国)はおそらく武力衝突に至らない形で最終的な台湾との統一に向けた条件整備を引き続き進めるだろう」(括弧は筆者)と予測している。

 その大きな理由として、「台湾への水陸両用侵攻が極めて困難」であることと、「特に米国の介入があった場合には失敗のリスクが高い」ことの2点を挙げている。

 加えて、中国と台湾の間で紛争が発生した場合、「世界経済にとって重要な貿易および半導体技術へのアクセスが妨げられる可能性がある」とし、米国との長期戦は、「米国、中国、そして世界経済に前例のない経済的コストをもたらすリスクがある」と指摘している。

 また、同文書は、日本の高市早苗首相の「存立危機事態」発言を取り上げ、「中国は、高市首相の発言が台湾の独立運動を強化することを懸念している可能性が高い」と指摘しており、日米共同作戦強化の及ぼす地政学的影響も判断材料にしているようだ。

 米国のICは、中央情報局(CIA)や国家安全保障局(NSA)、国防情報局(DIA)など18の機関から構成されている。

 今回示された年次脅威評価は、日本と米国、台湾をはじめとする関係国に重大な影響を及ぼすことから、米国の情報能力を結集し、極めて信憑性の高い情報源・資料によって裏付けされていると見て間違いなかろう。

台湾国防部の見積もりとも整合

 元を正せば、2027年危機説は、ウィリアム・バーンズCIA長官(当時)が2023年2月にジョージタウン大学主催の行事で講演し、中国の習近平国家主席(共産党総書記)が「2027年までに台湾侵攻を実行できる態勢を整えるよう軍に命じたことを指すインテリジェンス(情報)を把握している」と発言したことに始まった。

 その後、2024年12月に米国防総省が発表した「中国軍事力に関する報告書(China Military Power Report)」は、習近平主席が過去1年半の間で軍の腐敗を一掃してきたことにより、2027年以降の軍の近代化目標の達成が妨げられる可能性があると指摘した。

 さらに、台湾国防部(国防省)は2025年8月、中国人民解放軍(中国軍)が2035年までに軍の全面的な近代化を実現させ、対台湾封鎖や接近阻止・領域拒否(A2/AD)などの能力の完備を目指しているとの「2025年中国共産党軍事力報告書」を立法院(国会)に提出し、その概要を公表した。

 台湾国防部による中国軍に関する見積もりは、バーンズCIA長官が指摘した2027年危機説が、2035年まで後退する可能性を示唆したものと受け止められた。

 この台湾国防部の見積もりは、今般の米ICの脅威評価と整合するものであり、ここに至って2027年危機説の後退が有力視されるようになっている。

 一方、中国は、孫子の教えの忠実な実践者であり、「戦わずして勝つ」、すなわち間接攻撃と心理戦を交えた謀略戦で敵を攻略することを原則としている。

 そのため、「武力衝突に至らない形」、すなわちハイブリッド戦(グレーゾーン事態)によって、軍事力を背景に威圧を通じ戦わずして台湾を屈服させる強制的平和統一、あるいは戦争に至らない強制作戦が、軍事侵攻が発動されるぎりぎりまで強化されることになろう。

台湾統一に向けた3層構造のハイブリッド戦

 筆者は、中国による台湾統一のハイブリッド戦を、外交工作、軍事工作および内部(台湾国内)工作の3層構造で捉えている(下図参照)。

 外交工作は、台湾を国際社会(国際機関、外交関係)から締め出すとともに、特に協力連携関係にある日本、米国、台湾を離反させ、国際社会から孤立させることである。

 国家の権利および義務を定めたモンテビデオ条約(1933年)によると、国家資格の要件は、明確な領域、恒久的住民、政府(統治機関)および外国との関係を結ぶ能力(外交能力)の4つとされており、台湾は明らかに国家としての実体を備えている。

 そのため、中国は、「一つの中国」原則の主張を正当化するため、「樹交原則*1」の下、台湾の「外交能力」を妨害し、国家要件を剥奪して国際空間から締め出そうと躍起になっている。

*1=台湾問題における樹交原則とは、中国が他国と外交関係を樹立・維持する際、相手国に対して「一つの中国」原則のもとに台湾との断絶を要求する外交上の原則。

 台湾の蔡英文前政権時代には当初22か国と国交があったが、その後10か国が台湾と断交し、現在12か国に減少、ますますその空間が狭められようとしている。

2027年台湾侵攻の実行計画も予定表もなし, 台湾国防部の見積もりとも整合, 台湾統一に向けた3層構造のハイブリッド戦, 台湾人意識と現状維持・独立意識の高止まり, 対中戦略的優位性の向上を急げ

筆者作成

 軍事工作は、台湾封鎖の大規模軍事演習、ミサイル発射、軍用機・軍艦等の中間線越え侵入の常態化(新常態)など、軍事的威圧によって台湾政府・国民に恐怖心・無力感などを植えつけるとともに、軍事侵攻の予行演習(リハーサル)を行うことである。

 直近では、昨年12月に「正義使命2025」を実施した。

 東部戦区にロケット軍が加わり、台湾封鎖を模擬した大規模演習を実施し、主要港湾・地域封鎖や列島線外における軍事力展開、台湾北部・南西部の海域の海上目標に対する実弾射撃訓練(ロケット弾27発)などを行った。

 その目的は、「台湾独立」勢力と見なす頼清徳政権への警告および米国による台湾への大規模武器売却に対する抗議とされ、高市首相の「存立危機事態」発言への抗議が含まれていた可能性もある。

 内部(台湾国内)工作は、多種多様で巧妙かつ徹底的である。以下、その具体的な動きを列挙する。

・台湾(軍)に対する浸透工作(スパイ:5000人以上、台湾側の推計)      

・政治工作:親中政治団体の創設・支援(資金)、中国寄りの国民党など野党との積極交流

・情報・世論工作:マスメディアの買収

・認知戦・心理戦:偽情報の拡散

・サイバー攻撃(2025年、1日平均263万件)

・経済制裁:優遇税制停止、農水産物(パイナップル・高級魚「ハタ」など)禁輸など

・若者の懐柔・取り込み:「ヒマワリ学生運動*2」など

*2=2014年3月18日に台湾の学生と彼らを支持する市民が立法院(日本の国会議事堂に相当)を占拠したことから始まった社会運動。

 中国は、このような工作を通じ、台湾政府の正当性を毀損し、国民の士気を低下させ、社会的抵抗意思を剥奪し、台湾を屈服させる強制的平和統一を目指しているのである。

 このアプローチは、締め付けを段階的に強化し、孤立と士気の低下で最終的に台湾を屈服させることから「アナコンダ戦略」とも呼ばれている。

 第1段階を「強引な説得」、第2段階を「威圧:強制的平和統一」、第3段階を「強制(武力行使)」とすれば、中国の台湾統一戦略は、すでに第2段階の後半に入っていると見られる。(下図参照)

2027年台湾侵攻の実行計画も予定表もなし, 台湾国防部の見積もりとも整合, 台湾統一に向けた3層構造のハイブリッド戦, 台湾人意識と現状維持・独立意識の高止まり, 対中戦略的優位性の向上を急げ

筆者作成

 しかしながら、中国のハイブリッド戦は、必ずしも所期の成果を上げていない。

台湾人意識と現状維持・独立意識の高止まり

 台湾国立政治大学選挙研究センターが行った意識調査(2024年調べ)によると、自身を台湾人と考える人は61.7%、台湾人および中国人32.0%、中国人2.4%、無回答3.5%であり、少なくとも93.7%が台湾人アイデンティティを含むと回答している。

 また、台湾人の統一・独立に関する意識調査(同上センター、2022年調べ)では、永遠現状維持28.6%、現状維持・再決定28.3%、現状維持・将来独立25.2%、即独立5.2%、現状維持・将来統一5.1%、即統一1.3%、無回答6.32%となっている。

 中国による台湾統一の意志は、1949年の「中華人民共和国」成立以来、一貫して掲げられてきた歴史的目標であるが、その統一戦略は必ずしも首尾よく運んでいない。

対中戦略的優位性の向上を急げ

 いま、台湾国防部の見積もりでは軍事侵攻の危機が2035年まで後退する可能性が示唆され、米ICの脅威評価は当面の軍事侵攻に否定的である。

 しかし、習近平国家主席は、台湾統一は中国共産党の歴史的任務であるとし、我々は台湾の政治的解決を永遠には待てないとたびたび述べてきた。

 習近平主席の「兄貴分」として知られ、党中央軍事委員会副主席を務めていた張又侠氏の粛清は、台湾軍事侵攻の可能性に懐疑的な現実論者の同氏と意見の不一致があったとも伝えられている。

 中国は、2026年の国内総生産(GDP)成長率を4.5~5%に下方設定したが、同国が成長鈍化の時代に入りつつあることを示唆しており今後の見通しは暗い。

 中国が用いる戦狼外交*3には、国際社会の批判が多い。そのうえ、台湾に対するハイブリッド戦が壁にぶつかっているとすれば、習近平主席の忍耐も限界に達する可能性は否定できない。

*3=中国の利益を記者会見やSNSで激しい言葉を用いて喧伝し、欧米などの批判に報復する外交手法。名前は映画「戦狼」に由来する。

 歴史的粛清によって中核的軍事専門家の補佐を欠いた習近平主席の台湾統一意思は固く、諸問題の一挙解決を狙って、いつ軍事的冒険に打って出てもおかしくない。

 米国とともに日本、台湾、フィリピンなどの第1列島線上に位置する国・地域は、相変わらず危険な挑戦を受けているとの危機感を堅持する必要がある。

 我が国にとっては、あくまで「台湾有事は日本の有事」であり、安全保障・防衛上の最優先課題である。

 束の間の余裕のようであるが、その間に、中国に対する戦略的優位性を高め抑止力を強化する不断の努力が強く求められる。

 そのため、日米同盟を再強化し、それを基軸に韓国、台湾、フィリピン、そしてオーストラリアを交えた安全保障・防衛協力メカニズムの構築を急ピッチで進めなければならないだろう。

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