「じゅんわり」で勝負、ロッテ新ブランド仰天戦略

ロッテが13年ぶりの新ビスケットブランドとして投入した「The BUTTER(ザ・バター)」(写真:筆者撮影)
実に13年ぶりとなる焼き菓子の新ブランドの投入だ。大手菓子メーカーのロッテは3月24日、新しいビスケットブランド「Theシリーズ」を立ち上げ、「The BUTTER(ザ・バター)」と「The CARAMEL(ザ・キャラメル)」を発売した。
【写真あり】「じゅんわり」って実際どんな食感? 写真でも十分わかる「しっとり」を超えたシズル感
世の中には「しっとり」「ふんわり」といったおいしそうな食感表現があふれているが、今回ロッテが打ち出したのは「じゅんわり」。口にすると、生地の中に染み込んだソースがじゅわんとにじみ出てくるような感覚だ。しっとりを超え、内部から染み出すソースの質感を「じゅんわり」と言語化して打ち出した。
「じゅんわり」を実食
マドレーヌとフィナンシェという、洋菓子店でおなじみの焼き菓子をベースに、専用に開発された特製ソースを組み合わせている。ロッテ独自の「じゅんわり製法」により、バターなどの油脂を多めに配合して焼いた生地に、ソースを注入する構造だ。
「The BUTTER」は丸いフィナンシェにバターソースを、「The CARAMEL」はキャラメル風味のマドレーヌに生キャラメルソースをとろりと入れている。
じゅんわり感は、視覚からも伝わってくる。袋を開けて「The BUTTER」を割ると、ツヤツヤのソースが光り、断面にはソースと、それが染み込んだ生地の部分も見える。ふわりとバターが香り、口に入れるとソースがじゅわっと広がり、濃厚で豊かな風味が立ち上る。
ちなみに、出来上がりから約1週間後に、ソースが生地にちょうどよくなじんだ状態となり、その後もベストな「じゅんわり」が保たれるよう設計されているという。
一般的にビスケットは、水分量が少なくサクッとした固い食感の菓子を指すことが多いが、その中には「半生ビスケット」というカテゴリーがある。半生ビスケット市場は拡大を続けており、ロッテは約55%という国内トップシェアを誇る。しっとり柔らかなケーキタイプで、代表格は同社の「チョコパイ」だ。

「チョコパイ」(左上)に代表される「半生ビスケット」の市場でロッテは約55%の国内シェアを握る(写真:筆者撮影)
クリームをサンドした生地をチョコレートでコーティングした「チョコパイ」は、言わずと知れた大ヒット商品で、3年連続で過去最高売上高の更新が見込まれている(2025年4月~26年2月の出荷金額速報値で前年度比107%を記録。海外売り上げ、チョコパイのアイスとチルド品を除く)。
背景には、物価上昇に伴う消費者の意識の変化が考えられる。専門店のスイーツや生ケーキが高価になる中、「そこまでお金はかけられないが、特別なお菓子は食べたい」というニーズが、この市場の成長を支えているとみられる。
「ギルトフリー」の逆を行く
もう1つ浮かび上がるのが、菓子の役割だ。近年は健康志向の高まりから「ギルトフリー(罪悪感の少ない)」の菓子が注目されているが、半生ビスケットはその流れに逆行している。いわば「ザ・ギルティ」とでも言いたくなるような濃厚さなのだ。
「多くの人が本当に望んでいる要素を狙いました」と話すのは、「Theシリーズ」の開発を担当したロッテマーケティング本部の塙克実さん。

「Theシリーズ」の開発を担当したロッテマーケティング本部の塙克実さん(写真:筆者撮影)
「当社のニーズ分析によると、半生菓子の購入者として急増しているのは30代から40代の女性で、その多くが濃厚でしっかり甘く、食べ応えのあるものを求めていました。忙しさやストレスの中で、濃厚でおいしいものを食べたいというニーズは強いのです」
ユーザーへの個別インタビューでは「ケーキや甘いものが好きだけれど、頻繁に洋菓子店のものは食べられない」「忙しいから、小分けで一口でぱっと食べられるものがいい」といった声もあったという。
仕事や家事に追われながら家計をやり繰りする中で、時には濃厚でおいしいものを食べ、小さなぜいたくで元気になる——。お菓子本来の役割や価値は、いつの時代も変わらないのだ。
「専門店品質」を追求するため、担当社員は街の洋菓子店の味を研究し、原料にも徹底してこだわった。バターは2種をブレンドし、キャラメルに使う生クリームは北海道産を選んでいる。

キャラメルペースト入りのしっとり生地に生キャラメルソース入り(写真:筆者撮影)
当然、その分コストは上がる。それでも踏み込んだのは「量産菓子でありながら専門店のような味」を目指したからだ。
量産化までの道のりは険しかった。「ベストな“じゅんわり”にたどり着くまで3年試行錯誤し、量産ラインに乗せて安定生産・販売に至るまでには、通常商品の3倍の労力がかかりました。もはや研究や工場、マーケティングなど、現場の執念の結果です」と、塙さんは振り返る。
「ご褒美」需要に寄り添う
「個食」への最適化も図られている。「チョコパイ」が6個入りなのに対し、「Theシリーズ」は3個入りの薄型パッケージ。ファミリー向けというより、1人で楽しめるサイズになっている。
想定小売価格は税込302円(3個入り)で、同社のカスタードケーキやチョコパイと比べると高い。しかし、外食や専門店のスイーツよりは手に取りやすい。そこに「ちょっとぜいたく」というポジションがある。

箱のフタ裏には、オーブントースターで温める食べ方が紹介されている(写真:筆者撮影)
その意味では、自宅でのアレンジも提案されている。箱の裏にオーブントースターで温める食べ方が紹介されていたので、試しに2分ほど温めてみた。すると、バターの風味が格段に豊かになり、ぐっと本格的な味わいになった。
「じゅんわり」という言葉は、いかにもおいしそうに響く。日本人は「ふんわり」「しっとり」「なめらか」といった、繊細な食感を好む傾向がある。生チョコのような、水分量の多い柔らかさへの嗜好も一例だ。

オーブントースターで温めると表面がかりっとして、かなり「専門店」っぽくなる(写真:筆者撮影)
ヨーロッパにもシロップを染み込ませた菓子はあるが、量産菓子としてここまで「染み込み」を前面に打ち出した例は珍しい。「じゅんわり」とは、日本人が好む食感を捉えた、ありそうでなかった表現ではないだろうか。
チョコパイ、カスタードケーキに続く第3の柱
50年前の1976年にビスケット事業に参入したロッテは、83年に「チョコパイ」、86年に「カスタードケーキ」を発売し、日本で半生ビスケット市場を牽引してきた。
そんな同社が、満を持して13年ぶりに投入した「Theシリーズ」は、「個食」「ちょっとぜいたく」「濃厚志向」といったリアルな消費感覚に応え、「じゅんわり」という新たな食感を示した。

箱の内部には、開発担当者の直筆メッセージをそのまま印刷(写真:筆者撮影)
「じゅわっではなく、じゅんわりなんですよ」と笑う塙さん。確かに、ゆっくりと味がにじみ出す感覚に言葉がはまる。
ロッテが次の50年を見据え、「チョコパイ」「カスタードケーキ」に続く3本目の柱として打ち出した最新ブランド。まずは東日本エリア(静岡県を含む)で先行販売が始まった。今後の広がりは未知数だが、安さに頼らない戦略だけに、じわじわと存在感を増していきそうだ。