トライアル「998円スウェット」他と違う勝ち筋

トライアルでは998円(税別)~さまざまなスウェットが開発されている(写真:編集部撮影)
かつてスウェットといえば家で着る普段着の代表格だった。
【写真を見る】トライアルの998円スウェットはこんな感じ
しかし、オフィスのカジュアル化やコロナを経た生活様式の変化などで、今やスウェットで出社したり、街でも着たりする流れがトレンドだ。スウェットはいまやあらゆるシーンで選ばれる服に変わりつつある。
スウェットを複数展開しているトライアル
東京への「RIALT(リアルト)」出店でも話題になった24時間営業のディスカウントストアのトライアルでも、スウェットは複数展開している。
「ふんわりタッチスウェットプルオーバー998円(税別)」や「エアリーストレッチスウェットトレーナー1490円(税別)」は、手に取りやすい価格帯に加えて、ほかの服と合わせやすいシンプルでクセのないデザイン。着心地もよく動きやすい。さらに、買い物ついでという日常の生活動線上で手に入るのがありがたい。

筆者が通うトライアルの様子。お惣菜や生鮮食品、日用品、衣類と広い敷地で幅広い商品を取り扱う(写真:筆者撮影)
筆者自身、近所のトライアルで見かけて以来「エアリーストレッチスウェット」の黒とグレーを上下2色そろえて愛用している。在宅で原稿を書く日も、近所に買い物に出る日も、気づけばこのスウェットに手が伸びる毎日だ。

エアリーストレッチスウェットの売場。2025年モデルは1355円(税別)だったが、2026年から1490円(税別)に。この売場で扱っているのは2025年モデル(写真:編集部撮影)
この着心地と価格は、どうやって実現しているのか。そして今のファッションのトレンドをどう捉えているのか。トライアルにその舞台裏を聞いたところ、レディース開発担当の岡村征哉さん、メンズ開発担当の藤木佑将さんが取材に応じてくれた。
スウェットで出社できるようになったのは、オフィスカジュアル化の流れの中でも大きな変化である。トライアルは今の流れをどう捉えているのか? 岡村さんは「コロナが大きな転機」だったという。
「リモートワークやオンライン会議が日常になり、部屋で快適に過ごせて、そのまま外出できる服が求められるようになりました。そして、コロナが収束した後も、一度楽な服に慣れちゃうとカチッとした服には戻れないですよね」(岡村さん)
トライアルでは、こうして快適さに慣れた人たちの思いを需要として認識し、応えていくべくアパレルの商品開発に取り組んでいるという。つまりは「きちんと見えるけれど、着心地は楽な服」だ。
ただし、九州を中心に郊外に展開する郊外型ディスカウントストアであり、メイン客層は40~50代の女性。だから、オフィスカジュアル系にも対応できるようなきれいめ服への取り組みは段階的に進めており、現段階では特に着心地が一番大きなテーマだという。
きれいめスウェットの秘密はダンボール素材
岡村さんによると、スウェットはデータで見ても、元々かなりの売れ筋だという。トライアルはお客さんに支持されていたスウェットを、市場の変化や顧客の声を聞きながら、毎年アップデートしてきた。
そんな中で2022年に登場したのが「エアリーストレッチスウェット」だ。これは生地の表面にハリ感があって上品に見える一方で、柔らかく着心地がよい。着心地に「きれいめ路線」も加わった商品だ。

エアリーストレッチスウェットトレーナー1490円(税別)(RIALT公式サイトより)
使われている「ダンボール」素材は、表面と裏面の間に空洞がある構造で、段ボールの断面に似ていることからその名がついた。軽いのに厚みがあり、保温性やストレッチ性も高いのが特徴だ。
「当時はまだ、ダンボール素材がそこまで広く浸透していなかったんです。でも、スウェットなのに表面にハリがあってきれいなので上品な印象になり、部屋着に見えにくい。これはいけるんじゃないかと」(藤木さん)

ダンボール素材(トライアル公式サイトより)
ダンボール素材は2021年に別のスウェットで採用したところ売れ筋になり、2022年に展開が始まったエアリーストレッチスウェットのシリーズにもこの生地を採用することになったのだ。
実際に店頭で試してみたところ反応が良く、徐々に展開を広げていった。その後、ユニクロやGUなど大手もダンボール素材のスウェットを投入し、一気に市場が広がった。トライアルはその先を走っていたことになる。
さらに、トライアルは2026年から「ふんわりタッチスウェットプルオーバー998円(税別)」も発売されている。こちらの商品はエアリーストレッチよりも生地が軽く、ふんわりと柔らかい着心地が特徴だ。重めのスウェットが苦手な人にも着やすく、春先にもぴったりな一着だ。
スウェット開発は着心地を第一に、お客さんからの声やトレンドを反映させつつ、常に微調整を繰り返している。

ふんわりタッチスウェットプルオーバーの売り場の様子。色は白、グレー、ベージュ、黒の4色を展開(写真:編集部撮影)
なお、完全な部屋着として作られているスウェットもある。
裏起毛スウェット上下セット、907円(税別)。こちらは2024年9月から2025年2月の半年間で約35万着を販売しているトライアルの人気商品だ。
「裏起毛のほうはパッケージに入った上下セットで、完全に部屋着。お客様もほぼ毎シーズン買い替えるような感覚で買われています」(藤木さん)
外にも着ていけるスウェットに、完全に部屋着のスウェット。トライアルはどちらの路線も用意しており、これらが907円~1490円と手ごろな値段で手に入る。日常の野菜や肉など食料品の買い出しのついでにチェックできるのも便利だ。

裏起毛スウェット(写真:編集部撮影)
お客さんの「本当の声」を聞く難しさ
取材で最も印象に残ったのは、デザインについて聞いた時の、岡村さんのこの言葉だった。
「お客様の声を聞くって、言葉では簡単なんですけど、間違った捉え方をすると結構失敗するんです。レディースは特に……」
エアリーストレッチスウェットは毎年アップデートを重ねているが、その過程には試行錯誤がある。岡村さんは2023年から2025年の変遷を、画像を見せながら語ってくれた。
2023年、女性のお客さんから「もっと色が欲しい」という声が上がった。それならばと、トレンドカラーを含めた色展開を一気に増やした。しかし、その結果色物が売れ残ってしまった。

2023年のエアリーストレッチスウェット(写真:トライアル)
発言の真意をくみ取れてなかったのかもしれないと岡村さんは振り返る。お客さんが「色が欲しい」と言った背景には、「もっと女性らしいものが欲しい」という気持ちがあったのではないか。色はその気持ちを表す一番わかりやすい言葉だっただけで、本当に求められていたのは別のことだったのかもしれない。
2024年、色をベーシックに戻し、代わりにシルエットで女性らしさを表現する方向に切り替えた。肩幅を落として少しゆるくしたり、サイドのスリットの長さを調整したり。地方のトライアルのメインの顧客層である40~50代の女性がシルエットを拾う服を避けがちだという実態を踏まえ、お尻やおなか周りが目立たないデザインを意識した。すると結果、売り上げは伸びた。

2024年のエアリーストレッチスウェット(写真:トライアル)
2025年、今度はトレンドに合わせてパンツをワイドにした。若い層には受けたが、もともとの主要顧客である50~60代の女性が離れてしまった。

2025年のエアリーストレッチスウェット(写真:トライアル)
「ちょっとやりすぎちゃったかなと。2026年はパンツの幅をワイドすぎず、でも細すぎないほどよい加減に調整する予定です」(岡村さん)
素材感の微調整も毎年続けている。柔らかいほうがいいのか、もう少しハリがあるほうがいいのか。トレンドとお客さんの実際の好みの間で毎年毎シーズン、答えを探り続けている。
この試行錯誤の過程で、ひとつ貫いているルールがある。
「アップデートは基本的に足していくもの。1回良くしたものはできるだけ下げない。それがポイントです」(藤木さん)
良くなった部分は削らない。物価高でコストが上がっても、お客さんにとって必要な改良であれば維持する。削るのではなく、他の工程で吸収する。
とはいえ物価高などコスト自体は上がっており、吸収しきれない部分も出てくる。その場合は、お客さんにとってなくさないほうがいいものであれば「削ることより価格に反映させること」を選ぶ。その上で、買いやすい値段を維持する。その積み重ねが、毎年少しずつ進化するスウェットを支えている。

2026年春の新作(写真:トライアル)
「この品質でこの値段なの?」を実現する
ふんわりタッチスウェット998円、エアリーストレッチスウェットは1490円、裏起毛スウェット上下セットは907円。他社と比べても、明らかにトライアルのスウェットは安い。この価格はどうやって実現しているのか。
「半分ぐらい気合いって言いたいところなんですけど」と藤木さんは笑いながら切り出した。もちろん気合いだけではない。トライアルが食品、日用品、衣料品と幅広く扱う総合小売り業であること。アパレル専門店とはビジネスモデルが違い、衣料品単体で利益を出す構造に依存していないことが、価格の土台にある。
加えて、メーカーとの協業でコストを抑える方法を模索している。特徴的なのは、工場の生産ラインの「閑散期」を狙って発注する手法だ。
「工場の皆様は、うちの商品だけを作っているわけじゃないので、縫製ラインが空いているタイミングでオーダーを入れれば、繁忙期より生産コストが下がります。ただ、それは実際に必要なタイミングよりずっと前なんです。早めに企画を固めて、余裕を持って発注する。そこがポイントです」(藤木さん)
ただし、安さのために品質を犠牲にはしない。
「お客様がぱっと見た時に、『あ、これ安いね』って思われたら嫌なんです。触った生地がペラペラだったら、この値段でもがっかりされる。だから、まず『この品質でこの値段なの?』と感じてもらえるボーダーラインを決める。そこから、どうやってコストを組み替えるかをチームで考えていくんです」(岡村さん)
品質のラインを先に決めて、そこを下げずに価格を実現する方法を考える。順番が逆なのだ。安くしてから品質を決めるのではなく、品質を決めてから安くする道を探る。
スウェットといえば、まず思い浮かべるのはユニクロだろう。筆者が感じたのは、ユニクロのスウェットが1980~2980円くらいの価格帯で高い完成度を実現しているとすれば、トライアルは998円~1490円という価格帯の中で、期待を超える品質を目指している。そして、生活動線上でついで買いができる生活密着アパレルだ。戦うフィールドが違うのだ。
地方と都心で売れるサイズが違う
取材の終盤、興味深い話が出た。サイズの売れ方が、地方と都心でまったく違うというのだ。
トライアルのスウェットはレディースがM〜3L、メンズがM〜LLで展開している。Sサイズも一部作っている。
「うちのお客様って、とりあえず大きめを買う傾向にあります。Sで着られる人も、1~2サイズ上のMかLを買うんです」(岡村さん)
大は小を兼ねるという感覚。ゆとりがある方が安心感がある。中にインナーを着込めるし、動きやすい。トライアルが主に展開する地方では、この「大きめ志向」が主流だという。

大きめサイズを選べば、中に重ね着して寒い日もあたたかく着れる(写真:編集部撮影)
一方で、2025年にオープンした都心型の衣料品専門店「RIALT(リアルト)」では、逆にSサイズが売れている。
「リアルトに出したら小さいサイズが売れるんですよね。だからお客様の層が違うんだなと思いました」(岡村さん)
ぶれない軸はファッションよりも”着心地”
地方の40~60代と、都心の若い層。同じスウェットでも、求められるサイズ感がまるで違う。今後はこうした都心向けの開発も広げていく方針だが、岡村さんはひとつ、ぶれない軸を語った。
「今、若い子っておへそが見えるぐらい短いのを着てたりするじゃないですか。今のトレンドかもしれませんが、着心地で考えると、よくないと思うんです。僕らはトレンドを意識しますけど、着心地が損なわれるんだったら、ファッションよりも”着心地”をとります」
トレンドは追う。でも、着心地は譲らない。
トライアルのスウェットの開発思想は、この一言に集約されていると感じた。
もともとスウェットが強かったトライアルが、お客さんの声を聞き、時に失敗し、毎年アップデートを重ねている。色を増やしてみたり、シルエットを変えてみたり、ワイドにしすぎて戻したり。その試行錯誤の積み重ねが、907~1490円のスウェットの中に詰まっていた。
後編では、筆者自身がエアリーストレッチスウェットを着て、部屋から近所、街中へと着用範囲を広げてみた正直レビューをお届けする。