ドコモ3G終了で顕在化した高齢者スマホ移行問題

3Gを終了するNTTドコモ(筆者撮影)
日本の携帯電話サービスで、ついに「3G」が歴史に幕を下ろす。2026年3月末、NTTドコモのFOMAが予定通り終了し、国内の3G回線は完全停波となるのである。NTTドコモが2001年にサービスを開始したFOMAは、実は世界で初めて商用化されたW-CDMAという技術方式の3Gサービスとして知られている。その栄誉ある3Gサービスも、各国で3G終了が相次ぐ流れのなかで役割を終えたのだ。
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3Gサービスの終焉と「ガラケー」の根強い人気
かつて数千万回線を抱えた3Gサービスは、その後に登場した4G、5Gに後の道をゆずり、静かにその役目を終えたのである。3Gサービス終了直前の発表によれば、ドコモの3G回線契約者数はピーク時の約5700万契約から約350万契約にまで減少し、そのうち個人向けは約50万回線まで減っていた。
この最後の数十万人の多くは高齢者を中心とした、従来型の10キーを搭載する携帯電話、いわゆる「ガラケー」ユーザーであった。総務省の通信利用動向調査を見れば、個人のスマートフォン保有率はすでに全世代平均で約8割に達しており、インターネット利用率も同様に8割を超える。
一方で、70代のスマホ保有率は6割前後、80歳以上では3割を切り、いまだにスマホを持たない高齢者が相当数存在している。

高齢者にはガラケー人気が根強い(筆者撮影)
消費者庁が総務省データを整理した資料でも、70代・80代世帯ではスマホの保有率が低い一方、スマホを除く従来型の携帯電話の保有率が5割を超えているとされる。3G停波の瞬間、多くの高齢者にとって「自分の電話」が突然使えなくなるという事態が、現実に起きていたのである。
高齢者のインターネット利用率に目を向けるとこのギャップはさらに浮き彫りになる。国民全体のインターネット利用率が8割を超える一方で、65歳以上は5割強、70~79歳では6割台後半、80歳以上では3~4割にとどまると各種統計は示してきた。
高齢者層にとってはいまだにガラケーのほうがなじみのあるデバイスであり、「電話と簡単なメールができれば十分」と考えるユーザーも多い。3G停波はその高齢者たちに否応なくスマホ時代への対応を迫る出来事でもあった。
スマホ移行を阻む「不安」と「慣れ」の壁
高齢者にガラケー人気が根強かった背景には「壊れるまで使う」傾向が強かったこともある。慣れ親しんだ携帯電話をあえて買い替える必然性が乏しく、一度手になじんだ端末を長年使い続けるスタイルが自然だったのだ。
また数字キーを押せば操作できるシンプルな10キー入力は身体に染みついた動作であり、画面を正確にタップしなくてはならないタッチパネル方式のスマホに乗り換えるのも不安が大きい。多くの高齢者にとってスマホへの移行は「便利になる」より「今までできていたことができなくなるかもしれない」という不安要素のほうが大きいのだ。
加えてガラケーを使っていても「今のままで困っていない」という実情がある。通話とメール、メッセージである程度のコミュニケーションが可能であり、モバイル決済が主流になりつつも普段の買い物は現金でもまだ問題はない。
さらにガラケーの料金プランがシンプルであるのに対し、スマホはいきなり「ギガ」などの言葉がでてきて、さらにセット割など理解しにくい内容もある。スマホ利用に際してアカウントを作り、さらにアプリやサービスごとにもログインが必要となる。「スマホはよくわからない」という不安感も、ガラケーを使い続けたくなる心理をいっそう強くしてきたのである。

スマホのプランは年配者にとってもわかりにくい(NTTドコモホームページから)
筆者の母親も70代でガラケーからスマホに乗り換えたが、それは脳梗塞による長期の入院がきっかけだった。普段は電話で子供や孫たちと連絡を取り合っていたが、病院では携帯電話が使える場所と時間が限られている。リアルタイムのコミュニケーションが取りにくくなったことから、まずはAndroidタブレットをガラケーと併用させ、タブレットでLINEの操作を教えた。
退院後にガラケーをスマホに移行してもらったものの、操作方法(画面のタッチ、アプリの操作)にかなり手間取り、慣れるには半年以上かかった記憶がある。
しかし社会インフラの動きを見ると、日常生活はスマホを使うこと前提に進んでいる。通信利用動向調査を見てみると、スマホをインターネット利用端末として挙げる割合は9割程度に達しており、とりわけ20~40代ではほぼ100%に近い。家族や友人との連絡は携帯キャリアの電話や携帯メールではなく、LINEなどSNSのメッセージ機能・通話機能が標準になった。
高齢者向けの調査でも家族との連絡にスマホアプリを使うことが増えたと答える人が年々増加しつつあると報告されている。ガラケーでも一部のスマホアプリのサービスは利用できるものの、機能や操作性も制限されている。
「スマホありき」で進む社会インフラ
キャッシュレス決済の普及を見ても、スマホが社会インフラとして日常的に使われていることがわかる。経済産業省の発表によると、2000年代初頭には1割程度だったキャッシュレス決済の比率が、2024年には42.8%に達した。これは政府が掲げた「2025年に4割程度」という目標を前倒しで達成している。
また決済額ベースで見るとQRコード等のコード決済も利用率は1割弱まで増加した。日本の社会も「現金だけでも何とかなる」から「キャッシュレスが前提の場面が増えた」のである。
店舗側の導入状況を見ても、中小店舗でのQRコード決済対応が急伸し、地方の商店街でも「現金・クレジット・QRコード」が標準装備になりつつある。自治体のポイント還元事業や地域クーポン配布も、専用アプリやQRコード読み取りを前提とするケースが増えており、「スマホを持っているか、持っていないか」で受けられる恩恵に明確な差が生まれ始めている。
もはやスマホを持たないという選択は支払い手段や行政サービスへのアクセスでも不利な状況になりつつあるのである。
通信キャリアや端末メーカー側にとっても、減少する3G利用者のサービス維持にはコストがかかる。NTTドコモの3G加入者数はサービス終了直前で全契約者数の1%未満とされている。一方でKDDIやソフトバンクはそれぞれ2022年3月末、2024年7月末に先行して3Gサービスを終了させ、4G・5Gへの投資を加速させている。
近年、NTTドコモの5Gについては「エリアの広がりが遅い」「速度が期待ほど出ない」といった不満の声も指摘されている。3Gサービスの維持と新世代ネットワークへの投資配分の難しさが、結果として5Gの体感品質に影響した側面もあったのかもしれない。
一方で、端末メーカーにとっても10キー搭載型のガラケーや、その中身をスマホOSに置き換えた「ガラケー風スマホ」の投入を続けるのは簡単ではない。
日本国内の携帯電話出荷台数を見ると、2024年時点でスマホが約2789万台と全体の96.6%を占め、フィーチャーフォン(いわゆるガラケー)は97.8万台、わずか数%台にまで縮小している。こうした状況のなか、専用設計のガラケーを新規開発するのは開発コストや調達規模を考えると割に合わないのが実情だ。
海外に目を向けても、先進国でガラケーを販売している国はアメリカやヨーロッパなどまだまだあるものの、その数はほとんどない。シャオミなど中国メーカーはそもそもスマホから市場に参入しガラケーの製造は行っていないのだ。古くからあるメーカー、サムスン電子やモトローラなどもすでにガラケーからは撤退している。

ヨーロッパで販売中の高齢者向けのガラケー(筆者撮影)
ガラケーユーザーを救う「ケースマ」
それでは高齢者は今後、3G終了後のガラケーの代わりとなる製品をどうやって入手すればいいのだろうか?
通信キャリアの店舗では、4Gに対応したガラケーを販売している。ひとまずはそれらの機種に移行すれば、しばらくは慣れ親しんだ10キーを使った操作方法を利用できる。だが4Gガラケーの大半はすでに生産が終了しており、キャリアの在庫がなくなれば入手は不可能となる。また日本社会は着実に「スマホ時代」へと移行している。
その隙間を埋めるように登場したのが、韓国メーカーALTの10キー付きスマホ「MIVE ケースマ」だ。ALTは韓国でシニア向け・キッズ向け端末をシリーズ累計100万台以上販売しており、販売実績や製品の使い勝手には定評のあるメーカーである。
サムスン電子とアップルがスマホ市場をほぼ寡占する韓国において、こうした専業メーカーが独自端末で一定のポジションを築いているという事実は、その製品が特定のニーズを的確に捉え、多くのユーザーに支持されてきたことの裏返しでもある。
「MIVE ケースマ」は年配者が慣れ親しんだ10キーを搭載しており、本体を折りたためば誤操作も防止できる。中身はAndroidスマホなので、LINEなどのSNSアプリや、QRコード決済にも対応する。本体サイズは従来のガラケーより若干大きいものの、4.3インチの大きな画面はメッセージの文字も読みやすく、写真もきれいに表示してくれる。

ガラケー型スマホ「MIVE ケースマ」(筆者撮影)
デジタル社会における包摂力
この「MIVE ケースマ」は韓国では通信キャリアの店舗で販売されている。つまり通信キャリアとしても、非スマホユーザーである高齢者に対し、使いやすい端末を提供するという社会的な役割を意識しながら10キー付きスマホを扱っていると言える。
SNSの設定など高齢者にとって難しい操作も、キャリアの店舗ならサポートしてくれるわけだ。この姿勢は日本のキャリアもぜひ取り入れてほしいものである。
ガラケーからフルタッチのスマホへと一足飛びに移るのは、多くの高齢者にとって大きな不安がつきまとう。ALTの「MIVE ケースマ」のような10キー付きスマホは市場全体の出荷台数から見れば数%程度のニッチな存在かもしれない。
しかしそのごく少数のユーザーにとって、ガラケーと同じ感覚で操作でき、なおかつスマホのアプリやキャッシュレス決済にもアクセスできる端末が、日常生活を支える「命綱」となりうるのだ。
スマホが前提の社会になったとはいえ、誰もがそれを違和感なく使いこなせるわけではない。残された数%のユーザーが無理なくデジタル社会に参加し続けられるようにすること、それは単なる「弱者対応」ではなく、社会全体の包摂力を問うテーマでもあるはずだ。
通信キャリアと端末メーカーは、高齢者が「スマホ時代」に無理なくなじみ、安心して使い続けていけるようにするにはどうすべきかという問いに対し、10キー付きスマホのような選択肢も含め、改めて真剣に向き合う必要があるだろう。