NetflixのWBC独占配信は成功だったのか?

第5回と第6回で大きく異なる放送体制, Netflixのスポンサー営業は極めて好調だった, 地上波放送と異なる「視聴者の質」, 日本戦以外を視聴した人が55%, テレビ以外のアプローチも, NetflixがMLB中継をする可能性は?

(写真:AFP=時事)

Netflixは、ビデオリサーチに委託した調査に基づいた第6回WBCの総括をリリースした。冒頭で、「Netflixが日本国内で独占配信した2026ワールドベースボールクラシックは、20の国と地域が熱い戦いを繰り広げた全47試合を配信し、歴史的な記録を打ち立てました」としているが、今回のNetflixの日本国内での独占配信は、前回の第5回WBCの放送と比較して、どれだけインパクトがあったのか。どこがどう違っていたのか。比較してみよう。

【画像】地上波放送あったWBC前回大会のすさまじい視聴率

第5回と第6回で大きく異なる放送体制

第5回WBCの日本国内での放送体制(再放送を除く)

・テレビ朝日、TBS(地上波)が日本戦全7試合を中継放送

・ニッポン放送(ラジオ)が日本戦全7試合を中継放送

・Amazon Prime Video(有料オンデマンド配信)が日本戦全7試合と、日本戦以外では準決勝1試合を含む計8試合をライブ配信

・J SPORTS(BS、CS有料放送)が、WBC全47試合を放送・配信。このうち1次ラウンドから準々決勝までの日本戦以外39試合は生中継。

第6回WBCの日本国内での放送体制

・Netflix(有料オンデマンド配信)が全47試合を中継放送

(東京プールに加え、準々決勝・準決勝・決勝の一部は日本テレビが制作受託)

・ニッポン放送(ラジオ)が侍ジャパン出場全試合を中継放送

・文化放送(ラジオ)は、アメリカ・マイアミで行われた準々決勝、準決勝、決勝の3試合を中継放送

第5回と第6回では、放送の体制が大きく違うため、単純比較はできないが、ビデオリサーチによれば第5回WBCの日本戦全7試合の視聴率(世帯視聴率、個人視聴率)と、「自宅内テレビでの地上波放送リアルタイム視聴者数(1分以上視聴)」は以下のようになる。試合開始は日本時間。

第5回と第6回で大きく異なる放送体制, Netflixのスポンサー営業は極めて好調だった, 地上波放送と異なる「視聴者の質」, 日本戦以外を視聴した人が55%, テレビ以外のアプローチも, NetflixがMLB中継をする可能性は?

改めて前回大会の盛り上がりのすさまじさを思い出す。個人視聴率はすべて25%超え、世帯視聴率も40%超え。準決勝以降はアメリカラウンドとなり、試合開始は日本の朝の時間帯となった。準決勝は祝日だったが、決勝戦は平日。それにもかかわらず世帯視聴率は40%を超えた。決勝戦のために会社を休んだ、遅刻したという声があちこちで上がったのを思い出す。

この年のすべての地上波テレビ番組の個人視聴率ランキングの1位から9位を、WBC中継とその関連番組が占めた。7試合いずれかの試合を視聴した人の合計は9446.2万人だった。4人に3人以上の日本人が視聴したことになる。

第5回と第6回で大きく異なる放送体制, Netflixのスポンサー営業は極めて好調だった, 地上波放送と異なる「視聴者の質」, 日本戦以外を視聴した人が55%, テレビ以外のアプローチも, NetflixがMLB中継をする可能性は?

(画像:Netflix)

これに対して、今回のWBCの視聴者は、WBCを視聴した人数は総計で3140万人、最も多くの視聴者が見た試合は3月4日の日本―オーストラリア戦で1790万人だった。この視聴者数にはオンタイムの視聴者と、試合終了から24時間以内に見たアーカイブ視聴者が含まれる。

ただし、今回の3140万人はオンタイム視聴と試合終了後24時間以内のアーカイブ視聴を含む延べ接触人数で、前回の9446.2万人とは指標の定義が異なる。したがって、単純比較はできない。誰でも無料で自宅のテレビで視聴できる地上波テレビと、有料契約の「有料オンデマンド配信」の違いを実感する。

Netflixのスポンサー営業は極めて好調だった

しかし「今回のWBC放送は、前回よりも大幅に視聴者数が減ったから失敗だった」と断じることはできないだろう。

前回のWBCでテレビ朝日、TBSが支払った放映権料は合計で30億円だったとされるが、両局の採算はそれでもぎりぎりだったといわれる。地上波テレビ局の収益の大半は「CM収入」だが、世帯視聴率40%以上という驚異的な数字を上げながら、スポンサー営業などが芳しくなかったいう声もある。

これに対して、今回のNetflixのスポンサー営業は、広告代理店関係者によれば極めて好調で、多くのスポンサーが手を挙げたという。広告代理店側は「WBCのスポンサー+Netflixの番組スポンサー」というセット営業も展開したようだが、これが好評だった。

Netflixの視聴プランには「広告つきスタンダードプラン(月額890円)」「広告が入らないスタンダードプラン(月額1590円)」「プレミアムプラン(月額2290円)」の3種があるが、WBCだけは通常広告が入らないプランにもCMが入った。国際映像が基本のライブ中継で「CMが入ること」が前提だから、外すことが難しかったということがあるが、同時にスポンサーからの要望もあったといわれている。

地上波放送と異なる「視聴者の質」

Netflixのビジネスモデルは、視聴者とのサブスク契約が基本だが、今回のWBCではそれに加え、CMによる広告収入も好調だったのだ。

端的に言えば「視聴者の質」が違うのだ。地上波放送の視聴者は無料でテレビを見ているが、いわゆる「ながら見」が多い。だから民放地上波は必要以上に「大げさに騒ぎ立てる放送」が多いともいえるが、CMへの食いつきもそれほど良くない。

しかしNetflixの視聴者は、最低でも月額890円(限定キャンペーン期間は初月498円)を支払ってまでWBCを見ている。番組への集中度が違う。CMへの反応も地上波とは「別物」と判断したスポンサーが多かったのだろう。さらにスポンサーにしてみれば、視聴者層が明確なターゲットにアプローチできるのも大きい。スポンサーが多すぎたために、スタッフはコールドゲームなど試合時間が短くなると契約本数のCMをインサートするのに苦慮したといわれている。

さらに言えば、視聴者の属性にも大きな違いがあった。通常「野球放送」といえば「中高年男性」と相場が決まっている。

第5回と第6回で大きく異なる放送体制, Netflixのスポンサー営業は極めて好調だった, 地上波放送と異なる「視聴者の質」, 日本戦以外を視聴した人が55%, テレビ以外のアプローチも, NetflixがMLB中継をする可能性は?

(画像:Netflix)

2024年の調査では、プロ野球(NPB)をテレビで観戦した割合は男性55.1%、女性39.8%だった。一方、今回のNetflixの放送では男性52%、女性48%と拮抗していた。指標は異なるものの、従来の野球中継より女性視聴者の比率が高かったことがうかがえる。

さらに年齢では50歳以上の視聴者が44%に対し、49歳以下は56%。「中高年のスポーツ」と言われる野球で、この数字は注目に値するだろう。おそらく「大谷翔平効果」もあっただろうが、テレビだけでなくスマホやタブレット、パソコンなどさまざまなデバイスでも視聴できたことも大きかっただろう。

平均視聴時間は147分と極めて長かった。地上波テレビの「ながら見」とは、真剣度が大きく違っていたといえる。Netflixの場合、中座するときは、ライブ放送でもポーズボタンで一時停止することができる。そういう便利さもあって視聴時間が長くなったと考えられる。

第5回と第6回で大きく異なる放送体制, Netflixのスポンサー営業は極めて好調だった, 地上波放送と異なる「視聴者の質」, 日本戦以外を視聴した人が55%, テレビ以外のアプローチも, NetflixがMLB中継をする可能性は?

(画像:Netflix)

日本戦以外を視聴した人が55%

さらに、今回のWBCの視聴傾向は、前回と大きく違っていた。Netflixが放送した全47試合のうち、日本戦以外を少なくとも1試合以上視聴した人が55%もいる。

今年のWBCは、日本戦以外も好ゲームが続出したが、こうした試合を見て野球、国際試合の面白さを知った人も多かったのではないか。東京プール以外は、現地から送られてくる映像に日本のスタジオでアナウンスと解説をつける「オフチューブ」であり、前回までのJ SPORTSと同じスタイルだった。

第5回と第6回で大きく異なる放送体制, Netflixのスポンサー営業は極めて好調だった, 地上波放送と異なる「視聴者の質」, 日本戦以外を視聴した人が55%, テレビ以外のアプローチも, NetflixがMLB中継をする可能性は?

(画像:Netflix)

J SPORTSの加入者数は600万世帯とされる。前回のWBCの「日本戦以外」の視聴者数はわからないが、視聴者数はそれをはるかに上回ったと思われる。そもそも「日本戦以外のWBCの試合」は、これまで地上波で中継放送されることはなかった。今回、日本戦から入って、他の国の動静を知るためにアクセスして「日本戦以外のWBCの面白さ」を初めて知った視聴者がかなりいたのではないか。

テレビ以外のアプローチも

このコラムでも取り上げたが、今回のWBCが前回までとまったく違っていたのが「SNSの活用」だった。ヒカキンをはじめとする、YouTubeやTikTok等で活躍するNetflix公式クリエイター等による「最強応援団」が大会期間中に約1700本もの動画をアップし、総再生数は約2.7億回に達した。

第5回と第6回で大きく異なる放送体制, Netflixのスポンサー営業は極めて好調だった, 地上波放送と異なる「視聴者の質」, 日本戦以外を視聴した人が55%, テレビ以外のアプローチも, NetflixがMLB中継をする可能性は?

(画像:Netflix)

こうした「テレビ以外のアプローチ」は、従来の地上波テレビにはほとんどなかった。SNSでは試合の動画を使うことも許可された。Netflixの視聴はしなくてもSNSでWBCの活況を知った層もいたのではないか。さらにこれも紹介したが、侍ジャパン選手の出身地を中心に全国でパブリックビューイングが行われ、多くの地元ファンが試合を観戦し、盛り上がった。

Netflixは「今回の日本におけるNetflix独占配信は、ワールドベースボールクラシックとしても、野球配信全体としても、グローバルで過去最大の視聴を記録しました」としている。

しかしそうであっても、有料配信のみだったことへの不満の声が多数上がっているのも事実である。「日本もユニバーサルアクセス権(国民的関心の高いスポーツイベントを広く視聴できるよう保障する権利)を法制化すべきだ」という声も上がっているが、そもそも極端にアメリカ側の利益の取り分が多いWBCが、それに該当するかどうかという議論もあるだろう。

Netflixは、これを「成功」とみなすのか、そうではないのか。今後も日本のスポーツシーンにビジネスの触手を伸ばすのかは、まだよくわからない。

ただ、WBCが閉幕して1週間後、NetflixはMLBのオープニングゲーム「ヤンキース対ジャイアンツ」戦を独占配信した。こちらは米国主導の案件とみられるが、日本でも配信された。アメリカのNetflixは、MLBオールスターゲームの前日に行われるホームランダービーや、年に1度行われるMLBの歴史にちなんだ特別試合「フィールド・オブ・ドリームス」の独占配信も行うという。

オープニングゲームに関しては、現地の評価は必ずしも芳しくなく、カメラワークや文字表示などで違和感を覚えるファンも多かったようだが、注目すべきはこの放送が「多言語対応」で、日本版も放送されたことだ。日本語放送はTBSを退社したばかりの石井大裕アナと、解説・長谷川滋利のコンビで配信された。

NetflixがMLB中継をする可能性は?

今、日本のMLB中継はNHK BSとJ SPORTSが行っているが、NetflixがWBCでの経験を活かして進出する可能性もあるだろう。さらに、今、地上波、BS、CS、さらにDAZNなどが放送しているNPBの放送に食指を伸ばすことも考えられる。

Netflixは単に有料ネット配信でコンテンツを配信するだけでなく、巨大な資本力を背景に、さまざまなプロモーションを駆使して「盛り上がり」を作っていく。旧態依然とした地上波テレビなど日本メディアは、抜本的な対策が必要ではないか。