建築家・筒井 慧の自邸。旧知の建築家・川口琢磨と形にした、高低差をリズムに変える「関口の家」

建築家・筒井 慧の自邸。旧知の建築家・川口琢磨と形にした、高低差をリズムに変える「関口の家」
東京・関口の住宅地に建つ、建築家・筒井慧さんの自邸。地名の由来にもなっている、川の流れを制御し、分けるための構造物「堰(せき)」に着想を得た、小さな段差が連なる空間が特徴です。人の動きや視線が緩やかに分かれ、またつながる――。その空間体験は、設計事務所時代の同期であり、建築家として互いに信頼を置く川口琢磨さんとの対話から導き出されたものでした。2人の建築家が地形を読み解き、地歴を編み直すことで誕生した、都心の住まいを紹介します。

Taisuke Inatsugu
2人の建築家による「対話」と「共作」から始まった家づくり
「川口くんとは18年の付き合いになります。お互いに建築が好きで気が合う仲間であると同時に、ディテールまでつくり込む彼の実力を知っていましたし、庭や周囲の景観との調和も大切にしながら設計できる方なので、自宅を建てるときはぜひ力を貸してほしいと思っていました」(筒井さん)2人が思い描いたのは、土地の風土になじむ日本の建築。必要な要素を揃えながらも飾り立てることのない、質実剛健な住まいを目指していたといいます。「筒井くんが送ってくれたイメージ写真を共有しながら、図面やスケッチを通して具体化していく。そんなやり取りを何度も重ねながら、2人でプランを練り上げていきました」と川口さんは振り返ります。 <写真>外壁を囲う6層の板金(小庇や水切り)。コンクリート、モルタル、縦格子という3種の異なる質感をシャープに引き立てる意匠。左手の格子戸は、アプローチを兼ねた「露地」へと続く。

Taisuke Inatsugu
<写真>格子戸から続くアプローチ。夕暮れと共に、コンクリートの壁と木の質感が際立つ。静かな佇まいが、奥へと視線を導く。

Taisuke Inatsugu
<写真>石畳の露地を抜けると、右手に玄関、左手に緑豊かな中庭へのアプローチが広がる。

Taisuke Inatsugu
<写真>奥さまの京都の実家から受け継いだ庭石。植栽は筒井さんが長年育ててきたもので、自ら手入れを続けている。

Taisuke Inatsugu
敷地にある60cmの高低差を「堰」に見立て、空間のリズムを生む
基本設計は、土地の特徴を丁寧に読み取ることから始まりました。筒井さんが購入したのは、東西に60cmほどの高低差がある土地。この傾斜こそが「関口の家」の個性を際立たせることになります。「地形に抗うのではなく、むしろ敷地に合わせてつくりたいと考えました。この土地の高低差を、かつて神田上水の流れを分岐するために造られた『堰』に見立て、設計の着想としました。」(川口さん)川の流れを二手に分ける堰の役割に注目し、住まいの至る所に「分岐点」を設けています。路地から玄関と中庭へ。玄関からピアノ室と食堂へ、さらに食堂から台所、居間へ。小さな段差を越えるたびに空間の向きや視線が少しずつ変化し、家の中に心地よい動きを生み出しています。足元に目を向けると、土地の傾斜をなぞるように小さな段差が連なり、各スペースが続きます。場所ごとに分かれながらも、全体として緩やかにつながり合う。その独特のリズムが、この家の暮らしを形づくっています。 <写真>食堂を基準に、台所側は15cm、居間側は30cm、階段部分は38cmと、それぞれステップを上げてフロアレベルを構成。段差の境界線を長く設けることで、空間を緩やかに仕切りつつ、視線と動線の自然な分岐を生み出している。

Taisuke Inatsugu
<写真>居間から台所、食堂を望む。洗面や階段まで、すべての空間がステップを介してつながっている。ダイニングセットや収納棚は、熟練の家具職人が一つひとつ丁寧に仕立てたもの。

Taisuke Inatsugu
<写真>食堂から居間を望む。露地の緑が室内に溶け込み、内と外を緩やかにつなぐ。長く伸びる段差は、腰を下ろすベンチとしても活用されている。

Taisuke Inatsugu
<写真>台所からの眺め。料理をしながら中庭の緑が自然と視界に入り、日々の暮らしに安らぎを添える。

Taisuke Inatsugu
<写真>玄関ホールから、正面の中庭、左手の食堂、右手のピアノ室へと視線が広がる。天井に井桁(いげた)状に組まれた「根太(ねだ)」が、コンクリートの質感に呼応する力強いアクセントに。

Taisuke Inatsugu
ピアノの音色を包み込むRCと、軽やかな木造が溶け合う住まい
「関口の家」のもう1つの特徴は、重厚なRC(鉄筋コンクリート)構造に、木の構造体が重なる「混構造」です。プロピアニストとして活躍する奥さまが使うピアノ室は、音漏れを気にせず演奏に集中できるよう、RC造の箱型として設計。生活空間である食堂や居間を挟むように2枚の独立壁を立て、そのコンクリートの骨組みに、軽やかな木の梁や根太を組み合わせています。コンクリート造のピアノ室から奥へ進むにつれて、次第に木の柔らかな質感が空間を支配していく。1階から2階へと移動することで、素材の比率が次第に移り変わっていく様子を肌で感じられるのも、この家の醍醐味です。<写真>木材とコンクリートの対照的な素材が心地よくなじむ。

川口琢磨建築設計事務所
<アクソノメトリック図>頑強なコンクリートの躯体に、木造を組み合わせた「混構造」。ピアノ室から居間へ、さらに1階から2階へと進むにつれて、木とコンクリートのバランスが緩やかに変化していく。

Taisuke Inatsugu
<写真>豊かな音響を叶えるため、天井高は約2700mmとゆとりを持たせた設計。また敷地形状に合わせ壁をハの字に配置することで、音の響きをより美しく整えている。外からの視線を遮り演奏に集中できるよう、光は高窓と地窓から効果的に取り入れた。

Taisuke Inatsugu
<写真>2階の間取りは、主寝室と水回りに加え、将来的に仕切って個室にできる予備室とホール。美しく組まれた垂木(たるき)や棟木(むなぎ)などの構造材をそのまま見せ、木の温かみと柔らかな肌ざわりに包まれる空間に。

Taisuke Inatsugu
街の記憶を継ぎ、地形と共に暮らすということ
地形の特徴を捉え、住み手の願いを丁寧に汲み取って形にした「関口の家」。周辺環境への配慮や社会状況による課題もありましたが、それらを乗り越えてこの住まいが完成したのは、互いを信頼し合う建築家同士の、深い対話があったからこそといえるかもしれません。「設計者として納得のいくものができましたし、住み手としても希望を形にしてもらえて本当にうれしい。光や風の入り方、視線の抜け方まで細かく計算されているので、季節の移り変わりや天気の変化など、外の自然を身近に感じながら過ごせています」(筒井さん)「理想の住まいに仕上げるため、遠慮なく意見を交わしました。設計のパートナーであり、施主でもある筒井くん、そして奥さまの想いを形にしていく過程は、私にとっても非常に貴重な経験でした」(川口さん)

Taisuke Inatsugu
<写真>2階の廊下のRC段差は、1階にあるピアノ室の天井部分。この床の高低差を、空間を切り替えるステップとして生かしている。ホールには天窓を設け、カウンターや床のガラス越しに、1階へと光を届ける設計に。

Taisuke Inatsugu
<写真>主寝室は、L字型の水平窓と三角形の窓によって視線が抜けるつくり。横に連なる障子がアルミサッシを隠しつつ、柔らかな光で室内を落ち着いた雰囲気に包み込む。

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DATA関口の家□設計/川口琢磨建築設計事務所 川口琢磨、飯田康二朗、新畦友也+筒井 慧□敷地面積/100.16㎡□延床面積/110.91㎡1階/53.56㎡2階/53.40㎡塔屋/3.95㎡□家族構成/夫婦+子供2人□所在地/東京都□用途地域/第一種低層住居専用地域□構造/RC造+木造□設計監理/川口琢磨建築設計事務所+筒井 慧□構造設計/坂田涼太郎構造設計事務所 □工事期間/2021年9月〜2023年1月□施工/渡辺富工務店□テキスタイル/押鐘まどか□外構・造園設計/筒井 慧、川口琢磨MATERIALS●外部仕上げ屋根/ガルバリウム鋼板縦ハゼ葺き(日鉄鋼板)外壁/針葉樹合板化粧型枠コンクリート打放しモルタル+弾性リシン吹付(スズカファイン)●内部仕上げ食堂、台所、居間床/ラーチフローリング無節+自然塗料(オスモ&エーデル)壁/針葉樹合板化粧型枠コンクリート打放し島田式樹脂系左官天井/ラーチベニヤ、木架構現しホール2-1、2-2床/ラーチフローリング+自然塗料(オスモ&エーデル)コンクリート金ゴテ押え壁/島田式樹脂系左官天井/ラーチベニヤ、木架構現し主寝室床/ラーチフローリング+自然塗料(オスモ&エーデル)壁/島田式樹脂系左官天井/ラーチベニヤ、木架構現し
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