増殖中?「荒れた"外国人マンション"」深刻な背景

荒らされた共用部分の惨状, 小ぎれいな「オフィス街のマンション」がなぜ, 「ゴミの捨て方がわからない」という大きな壁, 共有部分が荒れると起こる「恐ろしい問題」, 外国人を受け入れる側のインフラが追いついていない

マンションのエントランスにはゴミはなかったが、駐輪場ではないのに自転車が駐められていた(写真:筆者撮影)

大阪市内のオフィス街にあるマンション。そこは外国人が多く住む物件で、共用部に足を踏み入れると、およそ日本とは思えない光景が広がっていた。
本連載では、さまざまな事情を抱え「ゴミ屋敷」となってしまった家に暮らす人たちの“孤独”と、片付けの先に見いだした“希望”に焦点をあてる。
YouTube「イーブイ片付けチャンネル」で多くの事例を配信するゴミ屋敷清掃・不用品回収の専門業者「イーブイ」(大阪府)代表の二見文直氏に、荒れ果てたマンションの現状を聞いた。これは外国人の問題なのか。それとも――。

荒らされた共用部分の惨状

大阪市中央区、道頓堀まで徒歩圏内のとあるエリア。周囲のビルや街並みを見ると「ビジネス街」といった印象だ。その一角にごく普通の、強いて言えば若干年季の入ったマンションがある。

【写真】「共有部分が“自宅化”」「洋服や家電があちこち置かれ…」荒れ果てたマンションの共有部分と、中国人留学生の“ゴミ屋敷”

しかし、ゴミ屋敷清掃業者「イーブイ」のスタッフが廊下に足を踏み入れると、光景が一変した。

自転車が1台、壁に立てかけられている。その隣には衣類がずらりと並んだハンガーラック。反対の壁際にはスチールラックに布が垂れ下がり、天板の上にはホコリと枯れ葉が積もっている。

足元にはゴミ袋が数袋。段ボール箱、スーツケース、洗濯機、炊飯器、電子レンジ、食品の空き箱……。廊下の奥まで、住人たちが部屋から放り出したモノが大量に放置されている。

【写真を見る】「共有部分が“自宅化”」「洋服や家電があちこち置かれ…」荒れ果てたマンションの共有部分と、中国人留学生の“ゴミ屋敷”(9枚)

「イーブイ」代表の二見文直氏がこのマンションを訪れたのは、住人から引っ越しの見積もりの依頼が来たからだ。大阪市内での転居を予定していた中国人女性が、荷物の搬出を依頼してきたのである。

そして、部屋に向かうと、冒頭の惨状が目に飛び込んできた。二見氏は話す。

「廊下にあるのは、これから引っ越す依頼主さんの荷物ではないんですよ。ほかの住人たちが放り出しているモノです。しかも、この状況が当たり前になっているようでした」(二見氏、以下同)

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ゴミやモノが散乱する共有部分の廊下。置かれたハンガーラックには、まるで自宅のクローゼットかのように服がたくさんかけられていた(写真:イーブイ提供)

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階段へと続く廊下部分にもゴミが山積みになっている(写真:イーブイ提供)

依頼主である女性の部屋の中はいたって普通だった。共有部分とは対照的に、室内は整理されていた。ただ、女性は廊下の現状について、とくに気に留めていない様子だった。

小ぎれいな「オフィス街のマンション」がなぜ

マンションが建つ南船場は外国人たちが集まる街ではない。むしろ、小ぎれいなビルが並ぶオフィス街だ。なぜここに、このようなマンションがあるのだろうか。

「オーナーが管理会社に丸投げなんでしょう。加えて高齢オーナーも増えている昨今、現場を見に来ることもほとんどない。それをいいことに管理会社が何もしないんだと思います。日々いろんな物件を訪れていますが、同じような事例は全国的に見ても少なくないです」

入居者の側から見れば、このような物件はどう考えても住みづらい。集合住宅で住居を探す際、「共有部分の管理状況はしっかりチェックすること」というのは鉄則だ。しかし、それは“日本人の感覚”での場合だ。

「外国人にとっては同郷の人がいっぱいいるほうが安心なんだと思います。日本人ばかりのマンションのほうが逆に住みにくいんじゃないですかね」

共有部分がどれだけ荒れていても、同じコミュニティの人間が集まっているという安心感が、外国人入居者にとって住む理由になっているのだ。その結果、誰も咎める人はおらず、共有部分はさらに悪化していく。

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本来ゴミの日に出すべきものも、このマンションでは共有部分に置かれてしまっていた(写真:イーブイ提供)

「ゴミの捨て方がわからない」という大きな壁

イーブイのもとには近年、外国人からの相談が増えている。その多くに共通するのが、「ゴミの捨て方がわからない」という問題だ。

「粗大ゴミをどうやって捨てればいいかわからない、という相談が一番多いです。ネットで申請して、コンビニで粗大ゴミのシールを買って……。そういう仕組みの存在自体を知らないんです」

日本のゴミ分別ルールは、世界的に見ても複雑だ。欧米では「普通のゴミ」と「リサイクルゴミ」の2種類程度しかない国もある。

一方の日本は、可燃ゴミ、不燃ゴミ、資源ゴミ、粗大ゴミと細かく分かれており、それぞれ回収日も異なる。日本語が読めない外国人にとって、このルールを理解するのはたやすいことではない。

その結果、より深刻な事態に発展することもある。

2021年8月。香川県の海岸で家庭ゴミ約72キロを不法投棄したとして、ミャンマー国籍の技能実習生2人が廃棄物処理法違反容疑で逮捕された。

2人は「日本は分別が細かすぎてゴミを出しても持っていってもらえず、処分に困った」と供述していた(「読売新聞」21年8月23日付)。

イーブイには過去に中国人留学生の部屋を片付けた事例がある。来日して2年が経つ留学生のワンルームには、玄関先から段ボールやゴミ袋が散乱し、キッチン下の収納にはペットボトル、空き缶、空き瓶が押し込まれていた。

ゴミの分別方法がわからず、見えない場所に隠していたのだ。もともと片付けが苦手であることと、言葉の壁が重なり、ゴミ屋敷化してしまった。

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この部屋に住み始めて半年ほどでこのような状態になってしまったという(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

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「部屋の中に虫が出るのが気になる」とスタッフに伝える留学生女性(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

共有部分が荒れると起こる「恐ろしい問題」

廊下にゴミやモノが放置されている状態は、単に見た目が悪いだけではない。

「共用部分がこんな状態になってしまうと、外からネズミやゴキブリが入りやすくなるんです。個別の部屋がゴミ屋敷になっている分には、害虫や害獣がそこにとどまっているので、隣近所の部屋には影響があるかもしれませんが、マンション全体にまで及ぶことは少ない。

でも、共用部分が荒れていると、あちこちに発生源があるので全体に波及します。マンションにネズミが住み着くと、もう終わりですよ」

繁殖すれば各部屋への侵入も避けられず、住人が感染症にかかるリスクも高まる。ネズミだけでなくハトも問題だ。ベランダに住み着いたハトの糞は、乾燥して塵になると健康被害を引き起こすことがある。洗濯物にも付着し、周りの部屋にも悪影響が及ぶ。

「ただ、日本人にも不法投棄する方はいます。粗大ゴミのシールを貼らずにゴミ捨て場に出してしまう方もいます。でも、マンションの共用部分である廊下に日常的に家電を出しているというのは、さすがに見たことがなかったですね」

今回のマンションで起きていることは、外国人に限った問題ではない。管理が機能しない物件では、誰が住んでいても同じことが起こりうる。ただ、ゴミの出し方がわからない外国人が多く集まる環境では、その悪化が加速しやすい。

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粗大ゴミもマンションの共有部分のあちこちに置かれていた(写真:イーブイ提供)

外国人を受け入れる側のインフラが追いついていない

同じゴミ問題でも、自治体によって対応は異なる。たとえば、クルド人が多く住むことで知られる埼玉県川口市は、24年4月から新築ワンルームマンションの所有者や管理者に対し、ゴミ出しルール表示の多言語化を義務付けることを決めた。

一方の大阪市はどうか。市はゴミの出し方に関するパンフレットを英語・中国語・ベトナム語など4言語で作成しウェブ上で公開しているが、川口市のようにオーナーや管理者への義務化には踏み込んでいない。情報はあっても、届く仕組みがないのだ。

24年末の在留外国人数は約376万人超。前年比10.5%増で、3年連続の過去最高となった。大阪府は東京都に次いで全国2位の多さである。国籍別では中国が87万人超でトップだ。これだけの規模で外国人が暮らすようになっているにもかかわらず、受け入れ側のインフラが追いついていないのだ。