ドコモ「人文字」炎上に見る大企業の致命的盲点

“人文字”企画が実施された背景, なぜ「ハラスメント的」と捉えられたのか?, 大切なのは「当事者である新入社員の気持ち」, 企業側は炎上を予想していたか?, “見られ方”のブランディングが必要な時代

NTTドコモ入社式で行われた人文字の様子(画像:ギネス世界記録X公式アカウントより)

NTTドコモが国立競技場(MUFGスタジアム)で行った入社式が、SNS上で話題になっている。新入社員が“ロゴマークの人文字”を形作り、ギネス世界記録に挑戦する試みが実施されたのだが、それに対して「ハラスメントではないか」との批判が出ているのだ。

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個人的には、人文字そのものには、さほど問題はないと思っている。しかし、それをアピールした点においては、配慮がたりなかったのではないかと感じた。ネットメディア編集者の視点から、「企業側の発信と、ネットユーザーの印象にあるズレ」について考えた。

“人文字”企画が実施された背景

NTTドコモの公式Xによると、2026年4月1日に行われたドコモグループの入社式には、グループ全体で約1400人の新入社員が参加したという。国立競技場は1月から、三菱UFJフィナンシャル・グループのネーミングライツ(命名権)取得により、「MUFGスタジアム」となっている。

そして、そのMUFGスタジアムにおける“オフィシャルパートナー”の第1号になっているのがドコモだ。スタジアムのゲートのうち、1つの名称に「NTTドコモ」を冠するほか、場内に「ドコモ MAX Lounge」を設置するといった施策が行われている。

“人文字”企画が実施された背景, なぜ「ハラスメント的」と捉えられたのか?, 大切なのは「当事者である新入社員の気持ち」, 企業側は炎上を予想していたか?, “見られ方”のブランディングが必要な時代

入社式での人文字の様子は、公式Xアカウントでも報告された(画像:NTTドコモ公式アカウントより)

そんな縁のある会場で行われたドコモ入社式で行われたのが、“人文字”企画だ。ロゴマークを観客席に再現すべく、テーマカラーである赤と白のフード付きの服を着用した新入社員たちが、一斉に頭を下げることにより、大きなロゴマークが描かれた。

この様子は、ドコモ側のみならず、「人文字で企業ロゴを表した最多人数」としてギネス世界記録の公式Xでも紹介された。しかし、SNSの反応は芳しくなかった。「パワハラではないか」「入社前から練習させられていたのではないか」「同調圧力」といった批判や疑問が相次いでいる。

なぜ「ハラスメント的」と捉えられたのか?

バッシングの多くは「ハラスメント的ではないか」といったもの。いわゆる「体育会系のノリ」で強制しているように見えるネットユーザーが多いようだ。

たしかに画一的な行動をさせることにより「会社組織の枠にはめようとしている」と感じさせ、個を育てる「ナンバーワンよりオンリーワン」の風潮に逆行しているようにも思える。

「社員は企業の顔」とはよく言うが、それはあくまで各個人の顔が見えていてこそだ。フードをかぶって、下を向いている状態では、個人の識別は難しい。「企業人は、全体を構成する一部でしかない」と、社会の厳しさを教える意味合いであれば話は別だが、そうした意図はないだろう。

一方で、共同作業そのものには、チームワークを育む側面もある。単に服を着て、頭を下げる程度で、どれほどの達成感が得られるかは、正直なところよくわからない。だが、一緒になって大きなことを成し遂げる、その一助になったと感じる人がいてもおかしくはない。

たとえ、全員が嫌々やっていたとしても、数年たって同期同士の飲み会で「あんなことやらされたよな」などと、酒のつまみになる。グチを言いたくなるほどの“やらされた感”が、かえって結束を強めさせる場合もある。

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ギネス世界記録のX公式アカウントで、「人文字で企業ロゴを表した最多人数」達成が発表された(画像:ギネス世界記録X公式アカウントより)

大切なのは「当事者である新入社員の気持ち」

筆者個人としては、「新入社員たちが納得しているのであれば、他人がとやかく言うものではない」という立場だ。中小企業に入社して、会議室での簡単な入社式を終えたあと、数時間後には仕事に入っていた私からすれば、若干うらやましくすらある。

ただ、それは「業務の一環」として、人文字が行われていた場合に限る。練習期間も含めて、そこに適切な給与が与えられていれば、「そんな仕事もあるのだな」と割り切れるはずだ。

たとえ無給であっても、1400人近くの新入社員が、全員やりがいを覚えているのであれば、「課外活動の一環」として扱える。

つまりは、当事者である新入社員が、どういう気持ちでいるのか。そして、どのような待遇のもとで行われたのか。こうした判断材料がそろって、初めてバッシングの対象となるのではないか。

もし批判的に感じている新入社員がいるならば、遅かれ早かれ、SNS上で内部告発されるだろう。そうした事態に発展していないにもかかわらず、勝手に“相手の気持ち”を想像してもいいものか。

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頭をさげて「人文字」をつくっていた新入社員たちはどんな気持ちでいたのだろう(画像:ギネス世界記録X公式アカウントより)

そう考えると、新入社員の気持ちを先回りして、勝手に「嫌がっている」と決めつける行為には、いささか問題があるように感じてしまう。ただでさえ、SNSでは「意思」が見えづらく、あらゆる文脈がそぎ落とされる。

人文字の例で言えば、画像だけがひとり歩きしてしまい、その背景にある情報は、判断材料にならない。もっとも、たとえドコモ側が“社員のノリノリっぷり”をアピールしたとしても、「言わせている」と、さらにネガティブなメッセージをあたえてしまうため、あまり得策ではない。

いずれにせよ、当事者である新入社員たちや、企画した先輩社員たちの思いに関係なく、ネットユーザーの評価は進む。そして、拡散することで、増幅していく。最終的には「人文字そのものの是非」ではなく、「社風や労働環境」に焦点が移り、大きな風評被害に及ぶおそれもある。

企業側は炎上を予想していたか?

そこで、改めて考えたいのは、企業側がそうした声を予想していたかどうかだ。ドコモといえば、数日前にサービスを終了した「iモード」によって、モバイルの普及に多大な貢献をした企業である。SNS時代のブランディングにも柔軟に対応していてほしいが、果たしてそうなっていたのだろうか。

大企業の入社式は、広報イベントとして機能しがちだ。著名人のサプライズ登場など、報道各社による取材を前提とした「映える」演出は、今に始まったことではない。広告出稿となれば、多大な費用が必要だが、それよりは安価にメディアに露出できる。

今回のような「ギネス記録に挑戦」も、その一種だろう。ドコモ以前にも例はあり、例えば2025年10月には、みずほフィナンシャルグループが、内定式で「同時に折り紙でハートを作った世界記録」に挑戦している。各社報道によると、つながりや親睦を深める意図があったそうだ。

とはいえ、みずほとドコモでは、状況が異なる。金融系であれば「人海戦術」を取るような試みをしても、さもありなんという印象を持つ。だが、IT企業はそうではない。「むしろアナログ回帰を進めようとしている」といった、誤ったブランディングになりかねないのだ。

そうしたネガティブなメッセージを与える可能性を、しっかり考慮していたのだろうか。仮に議論を重ねた上での実施だったとしても、結果的にはたたかれてしまっている。となると、準備が不十分だったと言うしかない。

“人文字”企画が実施された背景, なぜ「ハラスメント的」と捉えられたのか?, 大切なのは「当事者である新入社員の気持ち」, 企業側は炎上を予想していたか?, “見られ方”のブランディングが必要な時代

「人文字」実施前に議論は重ねられたのだろうか(画像:ギネス世界記録X公式アカウントより)

“見られ方”のブランディングが必要な時代

社員総動員でのプロモーション活動は、団結や仲の良さをアピールできる一方で、社内外の温度差を浮き彫りにする。2013年ごろには、AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」の“踊ってみた動画”を、各社が相次いで投稿して話題になった。

当時投稿された動画で、もっとも話題になったと思われるのが、某ネット系広告会社によるものだ。あらゆる部署の社員たちがノリノリで踊る様子を見て、SNS上では「リア充(リアルが充実している人々を指すネットスラング)」との指摘が続出。言及の多くは、どちらかと言えば、嘲笑に近いニュアンスだった。

ちなみに、この動画への批判は「同調圧力」ではなく、「まぶしさ」が中心だった。イケイケのネット広告会社として、その社風が世間に知られていたからこそ、苦言が相次いでも、大きなダメージにはつながらなかったのだろう。

おそらく企業側も、そうした批判は想定の範囲内で、痛くもかゆくもなかった。むしろ「そういう会社ですが、何か?」と開き直る戦略を取ることで、さらに社内の結束を強め、社風を確固たるものにしたのかもしれないとすら感じる。

社内の「熱狂」と、周囲からの「冷めた視線」を、どうコントロールするか。そうした“見られ方”のブランディングが、昨今のSNS広報では求められているのだろう。