「ここまで差がつくのか……」中古査定で「マニュアル車」の扱いが180度変わってしまったワケ――需要と市場構造が生んだ評価の分かれ目とは

AT化が進んだ構造

 日本の中古車査定では、オートマチック・トランスミッション(AT)とマニュアル・トランスミッション(MT)の間に価格差が生じることが一般的である。その背景には、新車販売の段階でATが圧倒的多数を占めている現状がある。

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 乗用車のトランスミッション構成比を統計で振り返ると、1990(平成2)年時点ではMTが27.5%、ATが72.5%であった。その後もAT化は進み、2016(平成28)年には新車販売の約

「98.4%」

がAT車というデータも示されている。現在の日本市場が、ほぼATを前提として動いていることは数値から明らかである。

 この流れは、日本の交通環境においてATが一般的な存在になったことを意味している。メーカーの生産から部品の供給、整備の体制に至るまで、車を扱う多くがATを前提に整えられてきた。その結果、MTは維持や修理に手間がかかる扱いにくい存在となり、効率を重視する市場のなかでは優先度が下がっていった。こうした変化が、中古価格にも影響を与えている。

AT中心の購買層

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「運転免許統計(令和5年版)」における令和5年中の運転免許試験実施状況(画像:警察庁)

 新車販売でATが大半を占める現在の状況は、中古車市場の構成にも影響している。その結果、AT車は流通量が多く、購入を検討する層も厚い状態が続いている。一方でMT車は市場全体では少数であり、運転できる人の層も限られている。

 警察庁の最新統計(2023年版)によると、普通免許の合格者のうちAT限定は約68%に達している。2016年の統計でも、教習所の卒業者の約6割がAT限定であり、この傾向はすでに定着している。

 免許制度は、中古車市場における買い手の範囲をわける要因となっている。MT免許の取得には追加の費用と時間が必要となるため、多くの人にとって負担の大きい選択と受け止められている。その結果、市場は広く利用できるAT市場と、限られた免許保有者だけが参加できるMT市場にわかれている。

 買い手が限られることは、売却時に現金化しにくくなることを意味し、査定の評価を下げる要因となる。流通量と運転できる人数の差が、価格差を生む要因となっているのだ。

需要集中と在庫回転

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軽自動車やコンパクトカー/ミニバンなどのファミリーカーの多くは「AT」仕様なのは何故か(画像:ファンくる)

 軽自動車やコンパクトカー、ミニバンなど日常で使われる車はAT車の比率が高く、購入者の多くがATを前提としている。中古市場でもATへの需要が集中しているため、同じ年式や走行距離であればAT車の方が早く売れる傾向がある。

 都市部の渋滞や起伏のある場所での走行を考えると、操作の負担が少ないATを選ぶ人が多い。家族にAT限定免許の保有者がいる場合は車の共有が難しくなるため、結果としてATが標準となっている。中古車販売を行う側にとって重要なのは、

「仕入れた在庫をどれだけ早く現金に変えられるか」

という速さである。幅広い需要があるAT車は動きが早く、すぐに利益につながる資産となる。一方で、買い手が限られるMT車は長く在庫として残るおそれがある。販売店はこうした在庫の滞りを見込んで査定を行うため、MTの評価額は上がりにくいのだ。

 さらに、衝突被害軽減ブレーキなどの安全支援機能はATとの連動を前提に作られている。こうした機能を十分に使いにくいMTの実用車は、市場での評価が下がる要因を抱えている。

体験価値による価格形成

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スポーツカー市場では、ファミリーカー市場とは異なる現象が…(画像:クイック・ネットワーク)

 スポーツカーの分野では、今でもMT車が高く評価されている。走りを楽しむ層には、エンジンの回転を自ら調整し、シフト操作そのものを味わいたいという意識が根強く、国内外の愛好者や収集家の需要を背景に、MT仕様の価値が高まっている。

 マツダRX-7(FD3S型)スピリットRの5速MT仕様では、買取の最高額が約700万円台の中古車も見られる。一方で同じRX-7でもAT仕様は価格が抑えられる傾向にあり、MTとATの間で数百万円規模の差が生じた事例もある。マツダ・ロードスターやトヨタ・GR86のように、操る楽しさを前面に出した車種では、査定の場でもMT仕様に人気が集まり、中古価格も高くなる傾向がある。

 こうした価格の上昇を支えているのは、移動の手段としての価値ではなく、代えのきかない体験を得るための価値である。趣味性の高いモデルでは、MTは他の方法で補うことができない機能として受け止められており、価格が上がっても需要が大きく減りにくい性質を持つ。

 さらに、北米など海外市場での日本車人気も価格を押し上げている。海外の業者が日本の希少なMT車を買い付ける動きが強まり、国内の需給の枠を越えた価値がついている。査定額は、その車が国の外にまでどれだけ強く求められているかによって左右される。

用途別でわかれる評価

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「希少性」と「需要」が高いほど査定額も高くなる法則とは…?(画像:中嶋自動車工業)

 MT車の新車販売比率は、近年おおむね1~1.5%ほどにとどまり、市場の大半はAT車が占めている。国内の新車市場では、新車の約95%以上がAT車であり、MT車は数が明らかに少ない。

 中古車市場では、この数の少なさと、それを求める人の多さが重なったときに査定額が大きく上がる。一方で実用車では、幅広い人が運転できるAT車の方が選ばれやすく、その結果として査定でも有利になりやすい。

 重要なのは、MTかATかという区分そのものではなく、その車を求める人たちがどのような価値を見るかという点である。実用車におけるMTは、修理部品の手当てにかかる費用や再販売の手間の大きさから、時間の経過とともに価値が下がりやすい。一方で、一部のスポーツモデルにおけるMTは、代わりのない体験を得るための限られた存在として扱われる。

 査定額は、その車が市場で必要とされるか、あるいは残す価値があると見られるかを示す目安となる。トランスミッションの違いは、今の時代において、その車がどの位置にあるかを見極めるための手がかりとなっている。市場の状況を踏まえれば、どちらが高くなるかは一様には決まらない。

役割の二分化

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中古車査定額のAT・MT比較。

 新車販売の約98.4%をAT車が占め、免許取得者の約68%がAT限定となった現在、日本の車社会は大きな変化の局面にある。1990年には27.5%あったMT比率が、現在では約1.5%まで縮小しており、車はふたつの役割にわかれつつある。一方は生活を支える道具としての役割であり、もう一方は個人の好みに応える価値を持つものとしての役割である。

 今後は電動化の流れが進み、MTという存在自体が市場から姿を消していく可能性がある。日常の移動ではATが広く使われ、楽しみを重視する場面ではMTが特別な存在として扱われる傾向は、さらにはっきりしていくだろう。

 車を選び、手放す際には、その車が市場のなかでどの位置にあるかを見極める必要がある。トランスミッションの選び方が、将来に残る金額に大きく影響する時代になっているのだ。