「なかなか食べられないレア商品」「価格は驚きの360円!」すき家が投入「とん汁みそらーめん」が決して迷走でないワケ

牛丼チェーン最大手の一角、「すき家」が驚きの一手を打った。

【画像7枚】すき家は販売開始した「とん汁みそらーめん」(320円)はこんな感じ

発売されたのは「とん汁みそらーめん」。これまで他チェーンが仕掛けてきたラーメン戦略に対し、「すき家」がどう応じるのか注目されていた中での一手であり、ラーメン界においても意外と大きなニュースである。

牛丼チェーンのラーメン戦略, とん汁と麺文化の距離の縮まり, すき家の「とん汁みそらーめん」は単品360円, この一杯は確実に次へつながる布石だ

「とん汁みそらーめん」。セットで850円だ(写真:筆者撮影)

一見すると、既存のとん汁に麺を合わせたシンプルな商品。しかしこの一杯は、単なる新メニューではなく、牛丼チェーンが直面している構造的な課題と、その打開策を示すメニューである。

なぜ今、「すき家」はとん汁ラーメンを選んだのか。その背景と狙いを読み解いていきたい。

牛丼チェーンのラーメン戦略

まず押さえておきたいのは、牛丼チェーン各社がここ数年、明確にラーメン領域へ踏み込んでいるという事実だ。

吉野家はラーメン店のM&Aを進め、専門業態の獲得に動いている。加えて「牛玉スタミナまぜそば」を皮切りに、「牛肉玉ラーメン鍋膳」「油そば」といった限定メニューを展開し、既存店舗でもラーメン的な商品をテストしてきた。

一方で松屋フーズも動きは活発だ。ラーメン専門店「松太郎」をオープンしたほか、さらに人気つけ麺ブランド「六厘舎」の松富士をM&Aで傘下に収めるなど、外食企業としてのポートフォリオを広げている。

つまり、牛丼チェーンにとってラーメンはサイドメニューではなく、明確に攻略すべき市場となったのだ。

背景のひとつとしてあるのは、単価の壁だ。牛丼は安価であるがゆえに客単価が伸びにくい。対してラーメンは、比較的価格帯を引き上げやすく、ブランド次第では高付加価値化も可能だ。加えて、国内市場が成熟する中で新しい売り上げの柱を求める必然もある。

そんな中で登場したのが、すき家の「とん汁みそらーめん」である。ポイントは明確だ。既存の人気商品である「とん汁」をそのまま活用している点にある。

牛丼チェーンのラーメン戦略, とん汁と麺文化の距離の縮まり, すき家の「とん汁みそらーめん」は単品360円, この一杯は確実に次へつながる布石だ

牛丼チェーンにおいて、サイドメニューの中でも重要なポジションのとん汁(写真:筆者撮影)

牛丼チェーンにおいて、とん汁はサイドメニューの中でも重要なポジションだ。寒い時期を中心に高い支持を集め、具材も多く満足度が高い準主役級の商品。通常のみそ汁より単価も高いため、店としても売りたい商品だ。これをラーメンに転用することで、以下のようなメリットが生まれる。

・新規食材の追加がほぼ不要

・調理オペレーションの変更を最小化

・食材ロスの削減

・既存顧客への受容性が高い

外食ビジネスにおいて、オペレーションの複雑化は即コスト増に直結する。その意味で、「とん汁を麺にかける」という発想は極めて合理的であり、すき家らしい堅実な一手と言える。

とん汁と麺文化の距離の縮まり

実はこの商品、完全な新機軸ではない。新潟のローカルからじわじわと広がっている「とん汁ラーメン」という文脈が存在する。

代表格が新潟県妙高市にある「とん汁の店たちばな」で提供しているとん汁ラーメンだ。味噌ベースの旨味あふれるとん汁に麺を合わせた一杯は、長年にわたり地元で愛されてきた。

牛丼チェーンのラーメン戦略, とん汁と麺文化の距離の縮まり, すき家の「とん汁みそらーめん」は単品360円, この一杯は確実に次へつながる布石だ

新潟県妙高市「とん汁の店たちばな」ではとん汁ラーメンを提供。味噌ベースの旨味あふれるとん汁に麺を合わせた一杯は、長年にわたり地元で愛されてきた(写真:筆者撮影)

近年では、この「たちばな」監修のとん汁ラーメンがチェーン店「らあめん花月嵐」でも展開されるなど、首都圏を中心に認知が拡大。さらに、アメリカ・ニューメキシコ州サンタフェで開催された伝統的なスープコンテスト「SOUPER BOWL」に日本代表として出場するなど、話題性も高まっている。

また、とん汁専門店として人気を集める「ごちとん」も見逃せない。こちらは「とん汁を主役にする」というコンセプトで成功し、ビジュアルや提供スタイルもどこかラーメン的。とん汁と麺文化の距離は、確実に縮まっていたのだ。

すき家の「とん汁みそらーめん」は単品360円

とはいえ、この「とん汁みそらーめん」、実際に食べようとすき家に向かうも、その一杯に出会うまでなかなか苦戦した。複数店舗を回ったが見つからず、最終的に本部へ問い合わせる事態となった。返ってきた答えは「東京では浅草エリアで展開中」。限定導入という慎重な姿勢がうかがえる。

牛丼チェーンのラーメン戦略, とん汁と麺文化の距離の縮まり, すき家の「とん汁みそらーめん」は単品360円, この一杯は確実に次へつながる布石だ

「すき家」でも、一部の店舗でしか販売されていない「とん汁みそらーめん」(写真:筆者撮影)

向かったのは「すき家 台東下谷店」。ここでようやく実物と対面した。

牛丼チェーンのラーメン戦略, とん汁と麺文化の距離の縮まり, すき家の「とん汁みそらーめん」は単品360円, この一杯は確実に次へつながる布石だ

価格はなんと360円から(写真:筆者撮影)

まず驚くのは価格だ。単品360円。牛丼チェーンらしい圧倒的な低価格である。店頭では牛丼とのセット(850円)も打ち出されており、あくまで主役は牛丼、その補助線としてのラーメンという位置づけが明確だ。

実際に食べてみると、味わいは極めてストレート。既存のとん汁をベースにしたスープに、そのまま麺を合わせた印象で、油の追加などによるラーメン化は最小限に抑えられている。

牛丼チェーンのラーメン戦略, とん汁と麺文化の距離の縮まり, すき家の「とん汁みそらーめん」は単品360円, この一杯は確実に次へつながる布石だ

その味は、いい意味で極めてストレート。既存のとん汁をベースにしたスープに、そのまま麺を合わせた印象だった(写真:筆者撮影)

結果として、非常にあっさりしている。ラーメンとしてのパンチは控えめだが、その分、牛丼の味噌汁代わりとしては抜群に機能する。特に朝食帯にはフィットしやすく、軽く食べたい層にはむしろこのバランスが心地よい。

この一杯は確実に次へつながる布石だ

ここに、この商品の本質がある。この「とん汁みそらーめん」は、単体でラーメン専門店と戦うための一杯ではない。あくまで牛丼の価値を底上げするための導線として設計されているのだ。ポイントとしては以下の4つが挙げられるだろう。

・牛丼+αの満足度向上

・客単価の微増

・来店頻度の向上

・新カテゴリーへの布石

特に重要なのは、いきなり本格ラーメンに振らなかったという判断だろう。すき家はまず、自社の強みである既存オペレーションと商品資産を活用しながら、ラーメン市場に足場を築こうとしているのだ。これは、吉野家や松屋が外部資産(M&Aや専門店)で一気に拡張しているのとは対照的なアプローチだ。

では、この先に何があるのか。おそらくこの商品が一定の成果を上げれば、次はよりラーメンらしい商品への展開が考えられる。重要なのは、いきなり完成形を出さないという点である。外食産業においては、小さく試し、データを取りながら拡張していくことが成功確率を高める。その意味で、この一杯はまだ実験的要素が強い。

牛丼チェーンのラーメン戦略, とん汁と麺文化の距離の縮まり, すき家の「とん汁みそらーめん」は単品360円, この一杯は確実に次へつながる布石だ

既存資産を活用し、進化を続けるすき家。「とん汁みそらーめん」は、示唆に富んだ一杯なのだ(写真:筆者撮影)

「とん汁みそらーめん」は、味だけで評価すればシンプルで控えめな一杯だ。しかし、その裏にある戦略を読み解くと、極めて示唆に富んでいる。

牛丼チェーンがラーメンに向かう理由。既存資産を活用した効率的な商品開発。そして、段階的に市場へ浸透させる戦術。派手さはないが、この一杯は確実に次へつながる布石だ。

ラーメン戦争は、専門店同士の争いだけではない。巨大チェーンによる静かな侵食が、いま確実に始まっている。

【関連記事】水道橋に誕生した「謎のラーメン店」店主はあのSUSURUだった!「何度も出店の誘いを断ってきた」彼がなぜ実店舗を出すのか では、遂に店を出したラーメンYouTuber・SUSURUの挑戦の裏側をラーメンライターの井手隊長が取材。豊富な写真とともに詳細にお伝えしている。