校内に響く「メェ~!」 現役小学校教諭が語るヤギと過ごす学校生活、命と向き合う授業の舞台裏とは

 子どもたちが登校する時、「メェ~」という鳴き声が響く――相模女子大学小学部(神奈川県)では、生活科の一環としてヤギを飼育しています。母ヤギの出産に立ち会ったり、亡くなったヤギのお葬式に参列したり。全国的に学校での動物飼育が減っている中、“ヤギのいる学校”の日常について、同校教諭でヤギの飼育担当をする三橋正英さんに聞きました。※前編<学校から“ウサギ”が消えたのは、なぜ? 動物飼育が半減した「切実な理由」とは>から続く

■1年生でモルモット、2年生からはヤギも飼育

――相模女子大学小学部では、いつ頃からヤギの飼育が始まったのでしょうか?

 小学校に生活科(※)が導入されたのをきっかけに、1992年からヤギの飼育を始めました。せっかくなので家では飼えない動物にしようということになって、学校周辺の牧場や酪農家、近隣のつてで探し、当時の在校生とも相談してヤギを選びました。

 今飼っているヤギは7代目に当たります。

(※相模女子大学小学部では、教科の「生活科」を「総合」と名称づけています)

――何年生がヤギの飼育をするのでしょうか?

 2年生です。いきなりヤギを飼育するのは難しいので、その前に1年生でモルモットの飼育をします。いずれも生活科の一環です。

 1年生の10月ごろからモルモットを受け入れるための学習が始まり、冬休み前からクラスごとに1匹ずつ、教室でモルモットの飼育をします。

 1年生の終わりの3月に、上の学年からヤギを引継ぐ「引き継ぎ会」が行われると、春休みから当番制でヤギのお世話をするようになります。2年生はヤギのお世話をしながらモルモットの飼育もしています。

――ヤギはどこで飼育されているのですか?

 ヤギは子どもの生活空間のど真ん中に当たる、校舎前の飼育小屋にいます。休み時間や登校時間、教室移動の時にもヤギに会えますし、併設する幼稚部の園児たちもお散歩でヤギに会いに来ていますよ。

――子どもたちはみんな、熱心に動物飼育をするのでしょうか?

 もちろん、ちょっとサボりたいなという子もいます。でも、友だちが飼育しているのを見ているうちに自分もやるようになる。動物を通じて子どもたち同士の交流が深まったり、つながりも生まれたりしていきます。

 最初はしぶしぶお世話をしている子も、続けていくうちに自分から進んでやるように変わっていく姿を何度も見ました。自分が用意したご飯を動物が食べてくれるのが嬉しいのかもしれないですね。

■動物は寿命を迎えるまで飼うのがポリシー。「喪」の授業も行う

――動物たちが年を取っても飼育は続けていますか?

 はい、本校では責任を持って動物が寿命を迎えるまで飼い続けることにしています。ヤギの寿命は10年以上だから在学中に死ぬとは限りません。一方、モルモットは寿命が4~5年くらい。ほとんどの子どもたちは、在校中にモルモットの死を体験します。

 小学生の時期、特に低学年のうちに、触れ合って気持ちを通わせてきた動物の死は、子どもたちにとって命の尊さを学ぶ貴重な体験です。だから動物が死んだら学校全体でお別れの時間を作ります。

――お別れの時間にはどんなことをするのでしょうか?

 2014年の夏休み明けに6代目のヤギ「ミルク」が亡くなった時は、まずは教師が体をきれいにしてペット葬儀社さんにお葬式を依頼し、卒業生や関係者に連絡をしました。

 それから、1番長くミルクのお世話をしてきた2年生と、どんなふうにお見送りをしたいか相談しました。

 その上で、夕方の5時まで学校のホールに祭壇を作って、お別れしたい人がミルクに会えるようにしました。在校生はもちろん卒業生や卒業生の保護者など、色んな方が来てくれました。

 その後ミルクを葬儀社さんに火葬してもらって、遺骨はしばらく校長室に安置しました。子どもたちみんなが繰り返し、骨になったミルクにも会いに来ました。

 遺骨は樹木葬として、百年桜と呼んでいる学内の大きな桜の木の根元に埋めました。その後も飼育小屋前に献花台を設けておいたので、しばらくは幼稚部の子や保護者の方、昔お世話した子が集まったりしていました。

――お葬式の間だけでなく、その後も喪が続いたのですね。

 モルモットのお葬式も、もう少し規模は小さくなりますが同じようにしています。

 お葬式のあと、1~2カ月ほど空き教室にこれまでの観察ノートを置いておきました。しばらく教室を訪れては観察ノートを読み返している子がいました。読み返しながら天国にいったモルモットと心の中で対話していたのでしょうね。

 気持ちを適切に解消できるように喪の時間を保証し、見守るようにしているのも、本校ならではだと思います。

――かわいがってきた動物の死に出会って、子どもたちの心にはどんなことが起こるのでしょうか? 

 ヤギや動物たちの存在が自分にとって何だったのか、そんな思いが子どもたちの心に押し寄せてきます。

 子どもたちがミルクに書いた手紙を見ると、「悲しいけど乗り越えられるよ、安心してね」と書かれていたり、ミルクとの思い出が綴られていたりします。びっくりした、悲しいという気持ちを乗り越えようとしたり、たくさんの楽しかったことを思い返したり、そんな内的変化が起こっているのでしょう。

 友だちもいる学校だから動物のお世話をがんばれるし、悲しみをみんなで共感し合って死別体験を乗り越えられる。学校だからこその体験で、心が育っていくのだと思います。

■ヤギの出産を間近で体験したことも

――これまで7頭のヤギを飼育してきて、出産も体験されたそうですね。

 そうなんです。毎日飼育をしてきた動物がお母さんになっていく、そんな自然な姿を子どもたちに見せたいと思っていました。2016年、お世話になっている牧場で7代目のヤギ「バニラ」を種付けしてもらいました。

 妊娠が進むうちにバニラのお乳はだんだん張っていき、出産が近づくにつれてお腹もパンパンに膨らんでいきました。それを見て、子どもたちも「まだかなあ」と出産の日を気にしていました。

 バニラの出産はゴールデンウイーク中、午後5頃に破水が始まりました。すぐに「子どもをヤギの出産に立ち会わせたいご家庭は来てください」と保護者の方たちに連絡して、5~6組のご家庭が集まりました。

――先生と子どもたちと保護者で出産を見守ったのですね。

 保護者の方のつてで獣医師さんにも来ていただきました。難産で赤ちゃんヤギがなかなか出てこられず、獣医師さんに胎内の子ヤギの姿勢を正していただいたところ、日付が変わる直前にようやく1匹目を出産。その後2匹目はスムーズに出てきました。

 さすがに遅い時間になってしまったので、出産した頃にはもう子どもたちは帰宅していましたが、本校にとってとても大きな出来事でした。

――赤ちゃんヤギが生まれていかがでしたか?

 学校が驚くほど明るくなりましたよ。

 生まれて1週間もすると、子ヤギは子どもたちと遊び始めます。バニラを散歩に連れ出すと、子ヤギも後からついてくるのです。学校の子どもたちと子ヤギは、まるできょうだいのようにじゃれあったり遊び回ったりして、みんな楽しく過ごしました。

 生活科に取り組むのは1~2年生の2年間だけですが、デジタル教育が増えた今、動物飼育などの実体験は生活科を超えて大事なものとなります。

 よく「学校動物飼育は大変だから無理」と言われますが、どうして無理なのか、どんなことが大変なのか課題を洗い出して、本校のように飼育を続けている学校に相談してみてほしいですね。動物飼育がより多くの学校に広がっていったらと思っています。

(取材・文/大崎典子、写真提供/三橋正英)

○三橋正英(みつはし・まさひで)/相模女子大学小学部教諭。着任した2008年以来学校でのヤギ飼育を担当し、生活科における継続的な動物飼育の実践や指導に取り組んでいる。全国学校飼育動物研究会所属。

・【前編を読む】学校から“ウサギ”が消えたのは、なぜ? 動物飼育が半減した「切実な理由」とは

・【写真】小学校で飼育しているかわいい動物たちはこちら

・7歳娘の母・森泉に聞く、約30匹の動物とのにぎやかな暮らし 「娘は一人っ子だけど、きょうだいがいっぱいいる感じ」