日本と事情が違う「ドイツ鉄道は遅延ばかり」の真相 「時間に正確」は過去の話に、なぜ悪化したのか
最近、「ドイツ鉄道は遅延ばかり」という話がSNSなどに繰り返し投稿される。もはや定番の「ネタ」のように扱われているドイツの列車の遅れだが、冗談のように軽く扱っているだけでなく、中にはドイツ鉄道を非難したり酷評したりする辛辣な投稿も多い。
【写真を見る】▶「時間に正確」なイメージが強い日本の鉄道とは異なり、いまや遅延がひどいと旅行者から悪評高いドイツの鉄道、どんな列車が走っている?
かつては「時間に正確」というイメージもあったドイツの鉄道。「遅れ」の話がそれだけ多く交わされる中、実際の鉄道事情はどうなっているのだろうか。そして「遅延ばかり」というのは、誇張ではなく事実なのだろうか。
遅れた列車は本当に「ドイツ鉄道」?
話を進める前に、まず根本的な部分で知っておくべきことを先に説明しよう。
ネット上では、「ドイツ鉄道の遅れがひどい」などと投稿されることが多いが、これは少々誤解を招く表現かもしれず、さらにいえば誤りである可能性も否定できない。その「遅れた列車」のすべてが本当に「ドイツ鉄道」の列車である可能性は低いからだ。
「DB」の略称で知られるドイツ鉄道は、ドイツ全土で列車を運行している同国最大の旅客鉄道会社で、日本で言うところのJRに相当する。1990年の東西ドイツ統一後、94年に両国の鉄道が統合されて誕生した。
ドイツを含むヨーロッパ各国の鉄道が日本と大きく異なる点は「上下分離」である。ヨーロッパ各国は、EU(欧州連合)の指令によって鉄道が上下分離化され、線路などを管理するインフラ会社と、その上を自社の車両を使って列車(旅客・貨物)を走らせて営業する運行会社は別となっている。
車両から駅、線路に至るまで基本的に自社で管理しているJR旅客6社をはじめとする、日本の鉄道とはこの点に大きな違いがある。

ヴュルツブルク中央駅に並んだドイツ鉄道(奥)と民間運行会社Go-Ahead(手前)の列車。ヨーロッパ各国の鉄道は上下分離化と参入自由化によってさまざまな運行会社が同一線路上を走っている(撮影:橋爪智之)
「ドイツの鉄道」が遅れるのは事実だが…
鉄道の上下分離化によって、それまで基本的に各国の国鉄が運行を担ってきたヨーロッパ各国の鉄道は、一定の基準さえ満たせばほかの民間企業が列車運行事業に参入できるようになった。
この「オープンアクセス」によって、今やドイツ国内ではドイツ鉄道だけでなく非常に多くの列車運行会社が参入しており、それらが同じ線路や駅を使って、ダイヤを分け合って運行している。

民間運行会社ODEGのローカル列車。左奥に見えるのは別の民間企業Trilexの列車。ドイツ鉄道の列車を見かけない地域もある(撮影:橋爪智之)
つまり、遅れている列車はドイツ鉄道=DBではなく、ほかの運行会社の列車である可能性もあるわけだ。
「ドイツ鉄道の遅れが~」と断定して、同社にばかり責任を押し付けるのは、さすがにちょっと気の毒と言わざるを得ない。せめて「ドイツ『の』鉄道」と主語を広げる必要があるかもしれない。
しかし実際に、DBが運行する高速列車「ICE」は遅れていることが多く、これは言い逃れができない。DBの2025年報告書(暫定版)によると、25年上半期の定時運行率(6分未満の遅れは定刻扱い)は、地域輸送の列車については90.6%だが、ICEなど長距離列車は63.4%となっている。

9時31分発のはずが20分以上遅れているICEのミュンヘン行き。次の10時04分発も10分遅れの表示(撮影:橋爪智之)
ではICEの遅れの原因はすべて、DBの運行管理に問題があるせいなのだろうか。
比較として、日本の新幹線を見てみよう。新幹線は、在来線とは規格や構造が異なる別の鉄道システムで、山形新幹線や秋田新幹線のような「ミニ新幹線」の直通などの例外を除けば、新幹線と在来線が同じ線路や駅を共用することはない。そもそも、一般の在来線とは線路の幅が違うので、直通運転もできない。

ヴュルツブルク中央駅へ進入するICE。貨物列車や近郊列車と線路を共用している(撮影:橋爪智之)
一方でドイツのICEは、線路や駅を在来線と共用できる構造だ。高速運転を行う新線区間は都市部の駅を発車して市街地を抜けた先にあり、一般道と高速道路のような関係だ。列車は都市間では高速新線を走り、停車駅に近づけば新線から在来線に下りて駅に向かう。
その際、在来線ではローカル列車や貨物列車の隙間を縫っての運行となる。もしこれらの列車が少しでも遅れていようものなら、ICEにも遅れが波及してしまう。こうした遅れが停車駅ごとに数分ずつ積み重なっていくと、結果的には30分や1時間の遅れにつながってしまうことがある。
追いつかないインフラ整備
ただ、在来線と線路を共有することのメリットもある。例えば万が一、高速新線で事故や故障などが発生した場合、在来線を迂回させることで影響を最小限にすることができる。日本の新幹線は在来線への迂回は不可能で、災害などが発生すれば長期運休を避けられない。

ドイツの在来線は高速列車から貨物列車まで同じ線路を使用する(撮影:橋爪智之)
遅延の原因としてはほかに、列車の本数増加に現在のインフラが対応できなくなっている点が挙げられる。ドイツ国内における公共交通としての鉄道の歴史は1835年に始まり、すでに190年以上が経過している。総延長は3万3000kmを超え、世界で6番目に大きい鉄道網を持つ鉄道大国だが、長い歴史を経るなかで鉄道網は老朽化し、駅構内の配線などは現代の運行スタイルに合わなくなってしまった。
そこで大都市のターミナル駅周辺を中心に大規模な再建工事を行っているが、この工事が遅延の原因の一つになっている。日本の1.5倍以上にもなる広大な路線網の再構築は、一朝一夕にできるものではなく、長い年月を必要とする。傍目にはいつまで工事をやっているつもりなのだろう、と感じることもあるかもしれない。

高速新線のトンネル(奥)を出て在来線へ進入するICE(撮影:橋爪智之)
3万3000km以上という巨大な路線網を維持するための保線作業が追いついていない点も指摘されている。ある区間の保線工事が終わったら別の場所、そしてまた別の場所と移動していくうちに最初に工事を行った区間のメンテナンスが再び必要な時期となり、いつまでたっても工事が終わらないスパイラルに陥っている。
また、日本でも深刻化しているが、ドイツでも鉄道工事関係の従事者が減っており、人手不足が問題となっている。その影響で作業工程が遅れて工期が延びることも、前述の通り工事が延々と続くことにつながっている。こういった事情により、遅延が一向に改善されない状態となっているのだ。
「時間通りの国」スイスの“非情”対応
さらに、隣国のスイスは日本と並び称されるほどの定時運行を売りとしており、よく比較されてしまうこともドイツの悪評が際立つ理由だ。
スイスは近年、ドイツを筆頭に周辺国から来る列車の定時運行率の低さが自国のダイヤに悪影響を及ぼすと非難を強めている。

スイス国内を走るドイツの高速列車ICE。遅れにより国境手前で運行が打ち切られることも多い(撮影:橋爪智之)
最近はついに、相手国からの国際列車が定時に到着しない場合、その列車が走る予定のダイヤで別の列車を走らせ、遅れて到着した国際列車は国境駅で運転を打ち切るという「非情」な手段に出るようになった。
ただし、スイスは九州ほどの国土で鉄道網は約5000km、しかも他国と接続されている標準軌の路線は3800km程度で、他国からの影響を受けにくく、遅延回復もしやすい。状況の異なるスイスと比較するのは、ドイツにとって少々酷というものだ。

スイスの鉄道は運行の正確性で知られる(撮影:橋爪智之)
「ドイツ鉄道」の遅れではなくても…
利用者の立場からすれば、毎日いくつもの列車が数十分~数時間の遅れで運転されていれば、文句の一つも言いたくなるであろう。しかし、原因の大半は必ずしも「ドイツ鉄道=DB」のせいというわけではなく、そもそも利用している列車がドイツ鉄道の列車かどうか、一般の人からすれば分からない。

ドイツ国内でも、やって来るのはドイツの列車ばかりとは限らない。ポーランドからの国際列車EC(ユーロシティ)(撮影:橋爪智之)
ドイツで列車が遅れていたら、このような事情を頭の片隅に置いておいてほしい。ただ、「ドイツ『の』鉄道」が遅れやすいことは事実であり、利用する際は遅延を考慮に入れて十分な余裕を見た日程を組むことをお勧めしたい。