サクラステージら「新しい廃墟」とは真逆の発想だ『大井町トラックス』がガラガラ施設を尻目に敷いた「最強の布陣」の全貌

都心の商業施設で「ガラガラ問題」が囁かれている。鳴り物入りで開業したものの、話題が一巡すると人々の足が遠のく――そんな施設が相次ぐ中、3月28日に開業した「大井町トラックス(OIMACHI TRACKS)」は、開業から1カ月近く経った今も賑わいが続いている。

【写真を見る】ゴールデンウィーク前に好スタートを切った大井町トラックス

外食ジャーナリストの筆者が訪れて気づいたのは、飲食テナントの「ある共通項」だった。それは、これまでの商業施設の常識とは真逆のものだった。

近年の他施設にはない、明確な違い

高輪ゲートウェイシティと同日開業した「大井町トラックス」は、大型複合施設。2棟の高層ビルに、飲食店・小売店から映画館、サウナ、ホテル、オフィス、賃貸住宅などが入る。

飲食店も多く営業しており、筆者は実際に何度か現地に足を運んでチェックしてみた。結論から言うと、飲食店テナントは近年まれに見る秀逸なセレクト。そこには、サクラステージなど"新しい廃墟"と化した近年の「ガラガラ施設」との明確な違いがあった。

近年の他施設にはない、明確な違い, ラーメン、すし、点心まで、全方位ジャンルが揃う, 目的なく訪れても「入りたい店」見つかる, 「初上陸」「初出店」で釣る時代は終わった, 「冒険する人」は商業施設に行かない

夜の大井町トラックス(写真:筆者撮影)

まず感動したのは、抜群のアクセスだ。電車を降りてわずか1分ほどで、迷わずたどり着けた。というのも最近の都心の商業施設は「駅直結」「駅チカ」などと謳いつつ、実際は駅の改札からかなり歩かされたり、数多くある出口から正解を選ばないと迷ってしまったりということが非常に多かった。

大井町トラックス開業に伴い、大井町駅には「トラックス口」という出入口が新設された。案内板に従えばすぐにたどり着く。特に開業直後の現在は、駅構内に嫌でも目に飛びこんでくる大きな看板があり、迷う人はいないだろう。「迷宮」と言われる渋谷や新宿の商業施設に行くときとはまるで違う。

駅を出ると、まず見晴らしのいい広場にたどり着く。すぐ横の車両基地が一望でき、遠くには都心のビル群が見える。この眺めだけでワクワクする。これも大きな体験価値で、足を運ぶ理由になるだろう。

早速、飲食店をチェックしていこう。駅からすぐの棟の1~5階がまとまった商業ゾーンで、全81テナントが営業中だ。飲食店テナントもここに集中している。

テナントを眺めていて気づくのは、思った以上に全国チェーン店が多いことだ。建物はおしゃれでイマドキな造りなのに、ちょっと意外に感じた。

サーティワンアイスクリーム、スターバックス、スープストックトーキョー、ディーンアンドデルーカ、タリーズコーヒー……女性向けの業態がやや多いが、誰もが知っているチェーン店があり、知っている看板を見つけると安心感が半端ない。

飲食店以外にはセブン-イレブンもあるし、スーパーやドラッグストアもある。スーパーは成城石井のような高級スーパーではなく、庶民派の「ライフ」。生活に密着した施設であることがわかる(ただ、隣にライフの高級ライン「ビオラル」もあるが)。

ラーメン、すし、点心まで、全方位ジャンルが揃う

大手以外のテナントも、よりどりみどりだ。ラーメン、すし、牛たん、カレー、サラダ、点心、海鮮……あらゆるジャンルの店がバランスよく揃っている。日曜の夜に行った際、食事系業態の多くに行列ができていた。

さらに、「WELLSIDE TABLE」というフードホールまである。広々としたフロアにはラーメンやうどん、定食、韓国料理、クレープなどのテナントが営業しており、各々で注文して共用テーブルで食べられる。価格も他のテナントに比べて気持ち安めなので、手頃に済ませたいときや、各々が好きなものを食べたい家族連れによさそうだ。

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大井町トラックスのテナント一覧(写真:筆者撮影)

食事だけでなく、お酒が楽しめるテナントも結構ある。ちょっとした会食やデートができそうなレストランから大衆酒場まで揃っていた。

特に筆者が「おっ」と思ったのが、一人でも入れそうな立ち飲みもあったこと。「立呑み8」「リザラン」などがそうだ。実際にその2店に筆者も一人で入店したところ他にも一人客が散見され、違和感なく楽しめた。街場ならともかく、商業施設で一人飲みがしやすい店があるのは少し珍しい。

昔ながらの飲み屋街が発達している大井町には、のんべえも多い。これは嬉しい地元民も多いのではないか。

いろいろと見てきたが、筆者が最も感銘を受けたのが、地元の飲食グループが数多く出店していることだ。

先ほども出てきた「立呑み8」に、焼肉の「銭場精肉店」も、大井町発の飲食店で地元では知られた存在だ。さらに、大井町ではないが近隣エリアでドミナント展開するグループも多い。

例えば「そば道」も、運営会社は品川発祥の飲食企業で、「肉力屋」などを展開している。「GONZO」「レジュ ド ベベ」は目黒を中心に飲食店を展開するグループだ。

目的なく訪れても「入りたい店」見つかる

総括すると、大井町トラックスのテナントは2つの「安心感」があると感じた。

一つは「どんなシーンでも、入りたい店が見つかる安心感」だ。

大井町トラックスでは、和洋中アジアンと多種多様なジャンルの店がバランスよく揃っている。そして、それ以上にあらゆる利用シーンや客層でも、全方位に対応する業態がひと通り揃っている。デート向けのレストラン、家族連れでもくつろげる店、手早く済ませたいときのフードホール、一人で来てもふらりと寄れる立ち飲み……。

例えば「どこかで外食したいけど、店まで決められない」と目的なく訪れても、施設を回遊する中でどこかしらシーンに合った一軒が見つかりそうだ。大井町トラックスが掲げるコンセプトは「思いがけない時間と出会う」だが、まさにそれが体現されている。

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大井町トラックス開業に沸く大井町。「出没!アド街ック天国」でも特集が組まれた(写真:筆者撮影)

もう一つは、知名度のある店が多く、安心感があること。「失敗したくない」現代人の心理に沿っている。

先に述べたように、思った以上にチェーンの飲食店が多い。さらに、地元で知られた店も多く出店している。お客側からすると知っているお店があると安心する。

1つ目の安心感ともつながるが、目的なく施設に来てどこで食事するか迷ったら、最終手段は知っているチェーン店や地元の店にしておけば間違いないのだ。

あらゆる情報があふれる時代、人々は以前にも増して「失敗したくない」という気持ちを強めている。「どの店に入るのが正解か?」「貴重なお金と時間を使って、ハズレの店に行きたくない」――こうした「失敗回避」が消費行動の重要指標になりつつあるのだ。商業施設のテナント選定もまた、この時代の変化と無縁ではない。

その点、よく知る店ならば間違いがない。

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駅からビル内を進み、抜けた先には広々とした芝生公園が(写真:筆者撮影)

「初上陸」「初出店」で釣る時代は終わった

これまで商業施設では「初上陸」「初出店」を打ち出したり、今までにない食文化を提案する新業態を入れたりと、話題先行型のテナントをバンバン入れて話題をつくろうとすることが多かった。しかし、これは徐々に時代錯誤になっている。SNSやメディアでの話題性こそが集客装置になっていた時代は終わりつつある。

現代人は「失敗」に敏感だ。今までにない業態は気にはなるが、未知ゆえに「失敗したら嫌だ」とリスクを抱き、来店のハードルが上がる。

とはいえ、知っている店ばかりを並べると郊外のショッピングセンターのようになってしまう。そこで大井町トラックスはトレンド感あるテナントとのバランスが絶妙だ。話題性のあるテナントもちょこちょこ挟まれている。

SNSで話題のオムライス専門店「イエロー」には、わざわざ訪れたと思われる人たちが行列を作っていた。豚まんの「羅家 東京豚饅」、「とんかつ檍」なんかも、比較的、話題性のあるブランドだ。

ただ、話題性の高い店も、扱っているものはオムライス、豚まん、とんかつなど誰しもが知るなじみあるメニューであり、さらに高単価ではないことが共通している。話題性が先行する店も、来店の心理的ハードルが低い店ばかりなのがポイントだろう。

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大井町トラックス自慢のトレインビュー(写真:筆者撮影)

「冒険する人」は商業施設に行かない

大井町トラックスを見るに、何度も足を運びたくなり、結果として街に賑わいをもたらす施設にするには、この「安心感」が必要だと改めて思わされる。

商業施設に足を運ぶ人は、もはや話題性を求めていない。施設に行く動機の多くは、「行きたい店が浮かばないけど、あそこに行ったら何かあるだろう」だ。

もちろん、世の中にはトレンドを追いかけて目新しい店に行きたいと思う人もいる。ただ、そういう人たちは「この店に行きたい!」と思ったらその店にめがけていくので、施設内である必要がない。

秀逸なテナントセレクトで、多くの人にとって開かれた場所になっていた大井町トラックス。「初上陸」「初出店」などの話題性で集客する時代は、もはや終わりつつあるのかもしれない。

話題性先行のテナントを揃えた商業施設が食傷気味の中、今後の新たな商業施設のロールモデルとなりそうだ。