東武東上線「間違えられる駅」の駅長に聞く日常風景 川越の隣の「川越市」、その隣は「霞ケ関」

「この写真、朝の6時くらいの人がいない時間帯に行って私が撮影したんです」

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2026年3月まで2年間、東武川越駅管区川越市駅長を務めた浜島順二さん。東武東上線川越市駅の改札脇にある事務室の一角、パーテーションで区切られた駅長の応接スペースで話してくれた。壁に貼られているのが、浜島さん自身が撮影したという写真だ。

「蔵造りの町並み」が近い

写っているのは蔵造りの町並みと時の鐘、大正浪漫夢通り。どれも川越の観光名所である。同様のものが、改札口にも「ようこそ川越へ」という文字とともに展示されていた。川越駅のお隣、川越市駅。確かに、川越駅よりも川越市駅のほうが、蔵の町などの観光名所にはいくらか近い。

「ただ、観光のお客さまはやっぱり川越駅が中心ですね。バスも出ていますし、商店街もあるので。よく間違えてここで降りられる方もいますが、だいたいは川越駅まで戻って行かれます」

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むしろ川越市駅は、駅の近くに川越女子や山村学園など高校があり、通学の学生たちでにぎわう駅だ。改札口は駅舎のある北側に1つだけ。反対の南側には車両基地が広がり、その奥にJR川越線の線路が通っている。学校と、車両基地と、あとは住宅地。そういう町の玄関口が、川越市駅というわけだ。

「蔵造りの町並み」が近い, 西武本川越駅との乗り換えも, 川越市ならではの駅員の仕事, 改札業務が「照れくさかった」, 埼玉にある霞ケ関駅, 職場は明るく、風通しよく

自らが撮影した川越の蔵造りの町並みをバックに話す浜島さん。2026年4月からは運輸部に勤務(撮影:鼠入昌史)

西武本川越駅との乗り換えも

そして、西武新宿線本川越駅との乗り換え駅という役割も持っている。

2016年には本川越駅に西口が設けられ、川越市駅との乗り換えの便が大きく向上した。

「朝のラッシュ時は、乗り換える人たちでスゴいですよ。駅前から一本道で本川越駅の西口に繋がっているんですが、もうクルマも通れなくなるくらいです」(浜島さん)

西武から東武へ、東武から西武へ。通勤で乗り換える人も多く、とくにどちらかのダイヤが乱れたときには乗り換えの流れが激しいものになる。そうした事情もあるため、現場の職員間で電話番号を教え合い、互いに連絡を取っているという。

「駅がくっついていればダイヤが乱れたとか状況はすぐわかるんですけど、離れているとそうもいかない。なので、何かあったらこまめに情報を交換して。最近ではお客さまも情報が早いんですよね。こちらがまだ把握していないのに、振り替えでばーっとやってきたりして。それで、何かあればすぐに連絡を取り合うようにしています」(浜島さん)

車両基地があることから想像できるとおり、川越市で折り返す電車が多く設定されているという特徴がある。和光市・池袋方面から川越市駅にやってくる電車は、平日の日中で1時間に14本。このうち、8本までが川越市駅終点。折り返し用の引き上げ線を経て上りホームに転線し、また出発してゆく。

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引き上げ線から折り返しの電車が入線。2面4線のうち、内側の2線を川越市発着電車が使う(撮影:鼠入昌史)

川越市ならではの駅員の仕事

折り返しの列車があるということは、車内点検が大きな仕事の1つになっている、ということだ。

「2人の駅員が前と後ろから入って、それぞれ真ん中まで点検して。それをずっと繰り返すことになりますね。この駅は東上線の忘れ物を取り扱っている駅でもあるので、それも大変です。朝は雨が降っていて、昼過ぎに止んだ、なんてなるともう大量の傘が集まってきます」

ブランド品の高級傘ならいざ知らず、ありふれたビニール傘の忘れ物に持ち主が名乗り出てくることなど滅多にない。ただ、それでもきちんと一定期間保管する。そうした仕事を1つひとつ丁寧にこなしていくのが、現場の駅員の仕事なのだ。

浜島さんは、1991年に東武鉄道に入社した。最初に配属された駅は、亀戸線の小村井駅。自動改札が導入され始めた頃で、まずは改札に立つ仕事からのデビューだ。

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現在の川越市駅は印象的な三角屋根の駅舎(撮影:鼠入昌史)

改札業務が「照れくさかった」

「小さい駅なので、改札に立っているのは私ひとりなんですよね。電車が到着すると、みんな私めがけて歩いてくるじゃないですか。それがなんだか照れくさかったのを覚えています。もちろん、誰も私を見ているわけではないんですが(笑)」

その後、曳舟駅では信号係を10年ほど務めた。

「当時は信号の扱いも駅で人がやっていたんです。でも、いまはそういうことはなくなった。自動改札になれば、お客さんとの会話も少なくなりますね。私の新入社員の頃には、結構会話があったんですよ。毎日通勤で乗られる方とはどうしても顔見知りになりますし、声をかけてくれたりして」

浜島さんが若かりし頃に経験したことがある。

「霞ケ関駅に行きたいんだけど、ってお客さまに聞かれて。墨田区だから、とうぜん地下鉄の『霞ケ関』だと思うじゃないですか。そうしたら、『あなたの会社のだよ』って……(笑)。後ろにいた先輩からも、霞ケ関は2つあるんだぞ、と」

しばしば“間違えられる駅名”として話題になる霞ケ関駅。東武東上線では川越市駅の1つ下り方にあって川越市駅の管轄となる。

「実際は間違えてくる人はほとんどいないと思います。東京の霞ケ関駅とは違い、こっちの霞ケ関は地元に住んでいる方と、あとは東京国際大学の学生さんが日常的に使っているような駅ですね」

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川越市駅から下り方面に1つ隣、霞ケ関駅の南口(撮影:鼠入昌史)

埼玉にある霞ケ関駅

東京国際大学の一部が池袋に移転したこともあり、霞ケ関駅を使う学生数は減ったというが、駅の周りにはほんのり学生街らしい雰囲気が漂う。いまでは橋上駅舎になって駅の南北に出入り口があるが、かつては南側だけで、ホームとは地下通路で結ばれていたという。

「霞ケ関駅はほかに特徴的なものがあるかと言われると難しいのですが、川越市駅とはうってかわって、静かな駅ですよ。新入社員のときには存在もよくわかっていなかった駅を、いまでは私が管理していると思うと不思議な感じですね」

本社など駅の現場から離れて勤務をしていると、どうしても若い職員と接する機会が少なくなってしまうもの。その点、久しぶりに駅長として現場に戻ったときには、戸惑いもあったという。

「最初はみんな若いなあと思いましたよ。でも、楽しいですね。いかに彼らに鉄道の仕事に対する意識を持ってもらうか。そして、乗務員の仕事のよさも伝えていければいいなと思っています」

浜島さんの若手時代ならば、改札などで客と接する機会はいくらでもあった。だが、いまでは客とコミュニケーションを取ることはめったになくなっている。さらに、信号の扱いもすべて自動。そうした中でも鉄道の仕事への高い意識を持ってほしい。それが、浜島さんの思いだ。

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霞ケ関駅の北口。2006年に出入り口が設けられた(撮影:鼠入昌史)

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職場は明るく、風通しよく

「あとは、職場を明るくしたかったんです。多少冗談を言えるほうが、風通しがよくなるんですよね。私もパーテーションを隔てたところにいるだけだから、事務室にいる駅員とはすぐに目が合いますし」

社内試験の勉強中という駅員2人が、駅長席の脇の応接スペースで勉強していたことがある。わからないことを聞いてくるので教えてあげたのだとか。「無事に受かったのでよかったです」。

長い鉄道員人生、さまざまな職場で培ってきた経験。それをどのように伝え、次の世代に繋いでゆくのか。それこそが、駅の“顔”である駅長のいちばんの仕事、ということなのかもしれない。