大盛況のプロ野球でじわり進む「勝ち組」「負け組」の明暗…阪神は全試合完売の一方で動員が伸び悩む球団

プロ野球の2026年シーズンが始まった。今季も、各球場には多くの客が詰めかけて大盛況だが、子細に見ると昨今のNPB球団は「勝ち組」「負け組」の色分けができつつあるように思う。今回は、変貌しつつある「チケット事情」も交えてセ・パ両リーグ各球団の状況を見ていこう。

【画像でわかる】セ・リーグの観客動員数はこんな感じ

まずはセ・リーグ、開幕から4月19日までの観客動員について、昨年の同じ試合数を消化した時点と比較しよう。地方球場で開催された試合を除く。

6球団中5球団の動員率(観客数÷プロ野球試合時の球場定員)が90%超。9割を超せば、見た目には「満員」と言ってよい状況になる。リーグ全体でも94.9%。

阪神、年度初めに全試合完売の「超優良企業」, DeNA、ファンクラブ拡充で観客急増, 中日、貧打のチームでもドーム満員続き, 広島、コロナ明けから動員伸び悩み, ヤクルト、ダイナミックプライシングで物議

阪神、年度初めに全試合完売の「超優良企業」

とりわけ阪神は昨年から「立錐の余地がない」状況になっている。

阪神は、春と夏の高校野球全国大会が行われている期間は本拠地の甲子園球場を明け渡し、京セラドームで主催試合を行うが、今年は京セラも超満員。本来の球場の持ち主であるオリックスよりも客が入っている。

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2025年10月2日の阪神最終戦(写真:筆者撮影)

実は、今から阪神の主催ゲームを見に行きたいと思っても難しい状況になっている。

4月の段階で、阪神タイガースはシーズン最終戦までのチケットを売り出したが、すでに開幕戦から、9月21日に予定されている甲子園でのDeNAとの最終戦まで、全試合のチケットが完売している。阪神の主催試合でチケットの売れ残りがあるのは5月に倉敷マスカットスタジアムで行われる中日戦だけだ。昨年からこの状況が続いている。

一般企業に例えるならば「年度当初に全商品が完売」しているという、夢のような状況だ。そういう意味では、阪神は超優良企業だ。

しかしながら「完売」ということは「もう売る商品がない」ということでもある。

企業の業績は「昨対(昨年対比)」で100%をどれだけ上回るかで決まる。観客動員がほぼ100%になった現状で、昨対をアップするためには「客単価」を上げるしかない。今季、阪神は、京セラドームでの主催試合を含む一部席種でチケット代金を値上げしたが、ファンの反発を買わないように、今後もじわじわとチケット代金を上げることになるのだろう。なお阪神は状況に応じて柔軟に料金を上げ下げする「ダイナミックプライシング」を導入していない。発売して短時間でチケットが完売するから、その必要がないのだ。

また甲子園球場のシーズンシート(年間予約席)も4月初旬には完売している。バックネット裏など人気の席種は、数年待ちと言われている。阪神は年間9試合の京セラドーム、さらには二軍戦を行う兵庫県尼崎市のSGLスタジアムでもシーズンシートを発売したが、いずれも完売している。

今後、阪神タイガースは「客単価アップ」のために、場内の飲食、物販にさらに力を入れる可能性もある。甲子園球場の売り子から買うビールは1杯800円だ。東京ドームなど他球場は900円が相場になりつつあるので、値上げを視野に入れているのではないか。

実はそれでも阪神戦を甲子園で観戦できる可能性はゼロではない。屋根のない甲子園球場では、雨天中止試合が年間、数試合は出る。消化できなかった試合日程は、シーズン終盤に新たに予定が組まれ、そのタイミングでチケットが販売される。ほとんどが平日だが、これはまだ入手できる可能性がある。筆者は昨年、このチケットを購入してシーズン最終戦を観戦したが、優勝も決まった「消化試合」にもかかわらず超満員だった。

DeNA、ファンクラブ拡充で観客急増

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2025年の横浜スタジアム(写真:筆者撮影)

DeNAの本拠地横浜スタジアムは、長く3万人弱の観客席をなかなか満杯にすることができなかったが、2015年ころから観客が急増し、2018年には1試合平均28,116人とほぼ満員となった。「チケットが買えない」という苦情も出始めたが、2019年にはライト側ウィング席、翌2020年にはレフト側ウィング席を増設、キャパシティは34,046人まで増加した。コロナ禍もあって、観客動員は一時落ち込んだが、23年から急上昇し、25年には95%を超えた。今季も好調な出足で、阪神ほどではないがチケット入手はかなり困難になっている。

ベイスターズはTBSが親会社だった11年までファンクラブにほとんど力を入れてこなかったが、DeNAが買収して以降、横浜市、川崎市を中心にファンクラブ会員を急拡大。またベイスターズはDeNAグループの「スポーツ・スマートシティ事業」の中核企業であり、川崎ブレイブサンダース(Bリーグ)、SC相模原(Jリーグ)などグループ企業とともに地域密着型のマーケティングを展開、こうした取り組みが観客動員につながっていると考えられる。

かつては「超満員のプロ野球」と言えば巨人戦、と相場が決まっていた。今も阪神戦に次ぐ動員を誇ってはいるが、筆者の実感でいえば、巨人戦のチケットの購入はそれほど難しくはない。1~2カ月単位で順次発売される先行販売チケットは、人気のある席を除けば普通に購入できる印象だ。

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2025年の東京ドーム(写真:筆者撮影)

ただ東京ドームのシーズンシートは「グループ席」を中心に売れ行き好調だ。今年のWBCの日本戦はプラチナチケットになったが、巨人のシーズンシート契約者には先行販売された。

これもシーズンシートの購買動機になったとされる。シーズンシートは一般にはネット裏や内野低層席などが中心だが、東京ドームは最上段のスカイシートのシーズンシートも販売している。上は年間230万円以上のダイヤモンドボックスから、下は22.4万円のスカイシートまで、メニューも豊富だ。

従来、シーズンシートは福利厚生目的で法人が購入することが多かったが、バラでリセールに出品できるので個人での購入も増えているという。

中日、貧打のチームでもドーム満員続き

チームは低迷が続いているが、このところ中日の本拠地、バンテリンドームの入場者数が急増している。

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2025年のバンテリンドーム(写真:筆者撮影)

今年、バンテリンドームは、貧打にあえぐ中日打線をサポートする意味もあってホームランウイングを設け、アリーナシートを新設した。客席数は36,412席から36,778席にやや増えたが、開幕から立錐の余地のない満員が続いている。数年前なら当日券でも楽々入れただけに隔世の感がある。数字でいえば2022年の180.8万人(1試合平均25,459人)から昨年は252万人(35,012人)と実に37.5%の増加、そして今季はこれをさらに上回ろうとしている。

その背景にファンクラブの強化がある。今年20周年を迎えたドラゴンズファンクラブだが、「エグゼクティブ会員(1,200人限定)」や「ゴールド会員(1万4,000人限定)」は一般募集の前にほぼ完売。チケットは2カ月程度で区切って先行販売しているが、いずれも短時間で売り切れている。阪神に続いて「チケットが取れない」状況になるのではないか。

広島、コロナ明けから動員伸び悩み

観客動員が低迷しているのは広島だ。2016年からのリーグ3連覇時代は2016年215.7万人(1試合平均29,963人)、2017年217.8万人(30,670人)、2018年223.2万人(31,001人)と観客数を増加させ、定員約33,000人のマツダスタジアムは連日満員だった。2014年に流行語大賞にノミネートされた「カープ女子」ブームもあっての人気急上昇だが、コロナ禍以降は、2023年205.5万人(28,540人)、2024年208.6万人(29,376人)、2025年204.1万人(28,356人)と伸び悩んでいる。今季はさらに厳しい。

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2026年のマツダスタジアム(写真:筆者撮影)

広島は毎年3月1日に、シーズン終了までのチケットを一斉に販売する。3連覇の時代は4月までにチケットがほぼ売り切れていた。今の阪神と同じ状況だ。

当時、広島市内では「チケットがとれない」という声が聞こえた。関東圏などから押し寄せた「カープ女子」が早々にチケットを押さえたこともあって反発を覚えた地元民が相当いたのではないかと考えられる。

今では土日を除けば当日券もあるが、コロナ明けからの観客数の伸び悩みは、カープの成績不振に加えて広島ファンの間に「どうせ売り切れだ」という認識が広まったからではないか。

広島カープと阪神タイガースでは、商圏規模は大きく違うが「チケット完売」が続く阪神にも、広島と同様の懸念が残ることは言っておきたいと思う。

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2026年のマツダスタジアム(写真:筆者撮影)

ヤクルト、ダイナミックプライシングで物議

ヤクルトはチケットの「ダイナミックプライシング」が話題になった。

球団公式サイトでは各シートの価格が表示されているが、すべて⚫︎⚫︎円~となっていて「上記の価格は、ご選択いただいた席種の最低価格を表示しております。座席毎にダイナミックプライシングが適用される為、実際の決済金額とは異なる場合がございます」という但し書きがある。

数千円の価格表示であっても、週末や祝日、阪神、巨人などの人気カード、好天、さらには購入が直前になるとチケットは高騰する。3000円前後の外野指定席が1万円に跳ね上がることもある。

「ダイナミックプライシング」は12球団中8球団で導入している。ヤクルトも22年から導入しているが、「外野席で1万円!」という価格がインパクトがあった。「老朽化が進むスタジアムのわりに」ということもあって、否定的な見方が多かったのだろう。

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2025年の神宮球場(写真:筆者撮影)

ヤクルトの本拠地神宮球場は、ヤクルト球団や親会社の所有ではなく、指定管理者にもなっていない。使用料を払って「借りている」状態だ。球団としてはチケット価格に見合うシートに改修したいところだが、それもままならない。

近年、チケットの販売方法が変化している。

従来、野球のチケットを買うときは、大手チケットサイトであるローソンチケット(ローチケ)、セブンチケット、チケットぴあ、e+(イープラス)、CNプレイガイドなどで購入するのが一般的だったが、近年、多くの球団は自社で設けたチケットサイトでの購買を強化している。阪神は「虎チケ」と「甲チケ」、DeNAは「ベイチケ」、中日は「ドラチケ」、ヤクルトは「スワチケ」でチケットを先行販売している。

球団の営業担当は「チケットサイトで買う客は負けが込むと買わなくなる。球団サイトから購入するには、最低クラスのファンクラブに入会することが条件になるから、ロイヤルティができるんだ。ファンが推しになる、と言ってもいい」と断言する。

プロ野球のチケット販売をめぐる状況は大きく変わろうとしているのだ。