EVの限界を揺るがす「走るほど充電」の仕組みとは? 回転式試験機と3kW走行中ワイヤレス給電が示す、EV開発の転換点
走行中給電が変えるEVの前提
環境負荷を抑える次世代の移動手段として電気自動車(EV)への期待は大きい。気候変動への対応という面でも中心的な役割を担い、化石燃料に頼る内燃機関から離れ、再生可能エネルギーを活用する流れが進めば、二酸化炭素の排出を大きく減らせるとされている。
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一方で、普及にははっきりとした壁が残る。バッテリー価格の高さが車両価格を押し上げていることに加え、走行距離の限界も課題として続いている。距離を伸ばそうと電池を大きくすれば、その分だけ車体は重くなり、費用もさらに増える。この負担の連鎖から抜け出しにくい状況が続いている。
こうした流れを変える手段として注目されているのが、走りながら電力を供給する
「走行中ワイヤレス給電(DWPT)」
である。車両にケーブルをつなぐことなく電力を送ることで、走行距離の拡大と電池の小型化を同時にねらえる仕組みだ。これが広がれば、EVの価値は「どれだけ電池を積むか」から
「電力供給の仕組みをどう使うか」
へと軸足を移していくことになる。さらに電池を小さくできれば、リチウムやコバルトといった希少金属への依存も弱まり、供給面の不安も和らぐ。結果として、補助金に頼らず内燃機関車と競える価格帯に近づく可能性がある。
ただしこれまでは、送電側の設備を埋め込んだ専用の実験路が必要で、費用や土地の確保が大きな負担となってきた。研究予算が限られる現場では参入のハードルが高く、開発の広がりにも制約が生じていたのだ。
回転式試験装置が広げる開発環境

「動的無線電力伝送の回転式実験システムの解析、設計、および実証」(画像:IEEE Open Journal of Vehicular Technology)
東京都立大学の研究チームが、2025年12月に「IEEE Open Journal of Vehicular Technology」で発表した成果が注目されている。
研究開発に参加できる主体を広げることを狙ったもので、EVが送電側の上を高速で通過する状況を再現できる回転式の試験用の仕組みだ。
これまで必要だったのは、広い土地と多額の費用を投じた専用の実験路だったが、この方法によって小規模な組織でも精度の高い検証が行えるようになる。開発の偏りを和らげ、業界全体の底上げにつながるとみられている。
この仕組みでは、電力を受ける側を取り付けたアームを高精度のモーターで回し、その下に道路側の送電環境を模した特殊な形状のコイルを並べる。事前の計算では、回転する動きであっても、直線の道路と同じ強さの電磁場を再現できることが確認された。さらに、時速40kmまでの動きを再現した際の機械への負荷も検証している。
この速度域は都市部の物流や公共交通の実態に近く、宅配や短距離輸送を担う車両の実用化に直結する内容だ。あわせて、実際の道路で起きる位置のずれが電力の伝わり方にどう影響するかも分析できるようになった。こうした成果は、量産に向けた品質の確認や、国際的な基準づくりに必要な裏付けとなるデータを与えるものだ。
小型車両を支える3kW給電性能

東京都立大学(画像:写真AC)
この試作機は、およそ3kWの安定した電力伝送を実現している。走行中の条件でも性能が大きく落ちることはなく、実用に足る水準を示した点が注目されている。静止状態での成功にとどまらず、動きや機械的な負荷を前提に検証を重ねたことで、研究室内の成果を実際の道路環境へとつなぐ段階に近づいたともいえる。
約3kWという出力は、小型の移動車両を一定の速度で走らせ続けるうえで必要となる電力をまかなえる規模にある。走行中の電池消費を外部から補うことで、実質的な負担を軽減する運用も視野に入る。充電と走行を切り分けるのではなく、走りながら電力を受け取る発想に現実味が帯びてきた段階だ。
この取り組みが持つ意味は、利便性の向上にとどまらない。小規模な施設でも検証の場を持てるようになることで、改良の試行錯誤を進めやすくなり、次の給電技術へ向けた開発の速度にも影響していく可能性がある。
さらに、粒状に配置された送電側のコイル構成は従来の直線的な配置とは異なる特性を持ち、電力の伝わり方を高めながら電磁的な乱れを抑える工夫が重ねられている。道路そのものが輸送のための空間から、電力を受け渡す機能を備えた基盤へと少しずつ性格を変えつつある。
分野横断の技術統合が支える進展

東京都立大学(画像:写真AC)
計算による検討と機械による確認を組み合わせることで、電気と磁気、機械の動きが重なり合う領域に残っていた課題がひとつずつほどかれている。
物理、電子、材料、構造といった複数の分野が交差するこの領域の進歩は、EVの発展に直結するものでもある。持続可能な移動手段の確保が世界的な課題となるなかで、この成果は将来の方向をより具体的な形で示しつつあるように見える。試験の手順を簡素にするだけでなく、複雑な現象を整理して捉える手がかりにもなっている。
この進歩が持つ意味は、運用面にも及ぶ。充電のために車両が止まる時間をほとんどなくし、稼働できる時間を大きく延ばす可能性が見えてきた。とりわけ物流や公共交通では、充電待ちによる運行停止を減らせる影響は小さくない。輸送コストの圧縮につながるだけでなく、社会全体の生産性にも波及していく余地がある。EVの普及を妨げてきた走行距離への不安を和らげる現実味も、少しずつ増している。
将来像として語られるのは、高速道路を中心とした走行中給電の導入だ。まずは限られた区間から始まり、運用と検証を重ねながら広がっていく流れが想定される。
走行中給電が変える価値の置き場

走行中給電の回転式試験機。
走行中給電の広がりは、自動車の価値そのものの見え方を変えつつある。
これまで車両価格の中心にあった電池への投資は、徐々に道路側の仕組みを整える方向へと重心を移し始めている。この回転式の試験機が示したのは、資金力のある一部の企業に限らず、異なる技術を持つ主体が次の基準づくりに関わる余地が開かれているという点だろう。
3kWの電力伝送と時速40kmでの安定した動作は、都市部への導入が現実の射程に入っていることを裏づけている。道路そのものが電力を供給する場へと変われば、輸送の収支の組み立ても大きく変わる可能性がある。
物流の現場で充電待ちが解消されれば、人手不足やコスト上昇といった課題にも少なからず影響が及ぶはずだ。こうした領域では、日本が持つ工学の蓄積をどう束ね直すかが、競争力を左右する要素になっていく。
いま起きている変化は、移動手段としての性能を競う段階から、社会の仕組みとどう結びつくかを競う段階へと移りつつある流れともいえる。この転換をどの速度で捉え、具体的な形へ落とし込めるかが、今後の産業の力を分けていく条件になっている。