鉄道車両の「台車にひび」とは何なのか? その対処法とは?

E721系
ニュースや鉄道事業者のプレスリリースなどで、「台車にひびが入る」と聞いたことはないでしょうか?
最近の例では、2026年2月にJR東日本の仙台地区などで使用されているE721系の台車で「ひび」が入るという報道がありました。さらに、過去の例では2019年8月に特急「ラピート」で使用される南海50000系で、台車の亀裂(ひび)による重大インシデントの事例がありました。
また、2020年6月には北総鉄道7800形が京成線の青砥駅構内で脱線し、2016年5月には東武10000系が東上線中板橋駅構内で脱線していますが、これらの事例は台車の亀裂(ひび)に起因しています。
電車をはじめとした鉄道車両に使われている台車で、「ひび」が発生するとはどういうことなのでしょうか?
台車の「ひび」を放置すると、どうなる?

東武10000系で発生した台車の「ひび」。東上線中板橋駅で発生した脱線事故の要因となりました(運輸安全委員会の報告書説明資料より)
鉄道車両に使われている台車の多くは、部材と呼ばれる金属の鋼材の部品を組み合わせて溶接することで組み立てられています。最近では鉄道事業者のYouTubeチャンネルで台車の製造風景が見られることがあり、2026年時点では相鉄13000系や京王2000系の制作動画の一部として公開されています。
台車は各所に大きな力がかかる部品でもあり、長期間の使用や、稀な事例では製造や補修の不具合により、台車の部材に「ひび」が入ることがあります。部材に「ひび」が入ると、必要が強度が保てなくなり、「ひび」が進行すると部材が破損することになります。
先のJR東日本の例では、「ひび」が入ったのは台車の先端部分で、これが進行すれば台車の部品が脱落する可能性があります。また、先の北総鉄道・京成や東武の例では、亀裂(ひび)の発生によって左右の車輪にかかる重さ(輪重)のバランスが崩れ、片方の車輪にかかる力が少ない状態でカーブを通過したために、車輪がレールに乗り上げて脱線したものと考えられています。
ただし、部材には強度に余裕を持たせているため、「ひび」の発生が直ちに大事に至るということではありません。大抵の場合は、車両の検査によって「ひび」が発見され、大事に至る前に補修が施されています。
「ひび」や「傷」を調べる方法

車両工場の大宮総合車両センターで整備された台車(撮影:柴田東吾)
台車の「ひび」は、溶接部に発生しやすいことが経験的に分かっています。このため、車両の定期検査で「ひび」を「傷」として調べ、「ひび」や「傷」が発見された場合には適宜対処する方法で保守が行われています。
「ひび」や「傷」を発見する方法としては、主に「目視」「打音検査」「磁粉探傷検査」「渦電流探傷検査」があります。「目視」では目に見える「ひび」や「傷」を発見する方法ですが、「ひび」や「傷」が微少な段階では人の目には見えづらいのが実態です。「打音検査」では当該の箇所を叩き、音の違いで傷を発見する方法です。ボルトやナットの緩みなどを調べる方法としても知られています。
「磁粉探傷検査」では、台車の部品を磁化させたうえで、表面に磁粉液(蛍光剤を混ぜた金属の粉)を調べたい部分に塗ります。「ひび」や「傷」があれば、磁粉液が傷部分に吸着します。そこのブラックライトを当てると、蛍光剤が発光して「ひび」や「傷」を発見することができます。
ニュースや鉄道事業者のプレスリリースなどで、「ひび」が入った台車の画像が見られることがあります。「ひび」や「傷」の部分が黄色や黄緑色に塗られているように見えますが、これが「磁粉探傷検査」の際に塗布された磁粉液です。
「渦電流探傷検査」は、交流の電気を流したコイル(電線を渦状にまとめたもの)を台車の調べたい部分に近づけ、交流の電気につられて台車側に発生する電流の変化によって「ひび」や「傷」を調べる方法です。
「磁粉探傷検査」「渦電流探傷検査」では、「ひび」や「傷」が発見される精度が高くなりますが、台車を完全に分解する必要があります。一方で、「目視」や「打音検査」は精度が低いものの、簡単な検査方法でもあります。「目視」や「打音検査」は日常的な車両の検査で、「磁粉探傷検査」「渦電流探傷検査」は大規模な車両の検査の際に行うことで、ある程度の安全性が担保されています。
「ひび」や「傷」ができたら、どうする?
「ひび」や「傷」が発見された場合、どのように対処されるのでしょうか?一般的には、溶接によって「ひび」や「傷」を埋める方法で補修されています。
また、先の特急「ラピート」の事例では、運輸安全委員会から公表された鉄道重大インシデント調査報告書で、南海50000系の台車で行われた過去の補修事例の状況が示されています。これによると、同業他社で発生した亀裂(ひび)の対策を50000系の台車にも展開しているほか、けん引リンク受座と呼ばれる、台車の力を車体に伝える部品を受ける在座に亀裂(ひび)が発生し、補修が行われた旨が示されています。最終的に、南海50000系の事例では、同形式の全電動車で台車が交換されています。
ニュースや鉄道事業者のプレスリリースなどでは、複数の車両で同時期に「ひび」や「傷」が発見される事例が見られます。同じ品質の製品を同じ条件で使用すれば、結果は同じになるのは自然なことです。「ひび」や「傷」を適宜補修し、必要があれば交換することで、保守が行われ、日々の安全運行が保たれています。