1500年ぶりに復活したヒエログリフはお土産でも人気…考古学者が情熱を傾ける「古代文字」の謎

陶器の上に書かれた「死者の手紙」。現世で生きている人が亡くなった死者に向けて書いたもの。古代エジプト人は日常的に書簡をやり取りしていた(『古代文字を解読していたら、研究に取り憑かれた話』より)

実は三方向から読める

右から読むのか、左からなのか。単語なのか、音なのか。ゾウやキリンは何を意味しているのか──。

古代エジプト文字のヒエログリフ。神殿や石碑にフクロウやワシ、ヘビ、手、足などが刻まれたもので、一般人には暗号にしか見えない。そもそもどうやって読むのだろうか。

「右からも左からも上からも三方向から読めるものですが、起点は動物や人間で、例えば、鳥の顔が右を向いていたら、右から左に読んでいきます。王が勅令を出すときに記されたもので、仕えていた神官や書記は読み書きできます。貴族には濃淡があり、日本語が話せるけど書けない外国人のように何となく書ける人もいる。

鳥だけでも30種類の文字があるので、下手な書記が書くと、どれかわからなかったり、どちらを向いているのか判別しづらいものもあります(苦笑)。とはいえフクロウ、猛禽類、ツバメがよく使われ、前後の文脈から判断はできます。見てわかる象形文字・表語文字であると同時にアルファベットのような表音文字でもあります」

そう説くのは『古代文字を解読していたら、研究に取り憑かれた話』(ポプラ社)の共著者の1人である大城道則教授(駒澤大学文学部歴史学科)だ。

ヒエログリフが使われた時期は長く、紀元前27世紀から紀元後4世紀までと約3000年の歴史がある。

「古代エジプトは文明が発展し、他の古代文明と違って市井の人たちの識字率も高く、時代ごとに使われる文字は増えていった。しかし、ローマ帝国の侵攻によって使用が禁じられます。その過程でヒエログリフを使える人が消失してしまったのです」(大城氏、以下のコメントも)

ロゼッタ・ストーンが解読のカギに

ヒエログリフは4世紀末には完全に消滅。他言語との関連性が不明だったため、数世紀にわたり解読できない文字として謎に包まれていた。解読できるようになったのは、200年ほど前。大英博物館に展示されている「ロゼッタ・ストーン」が解読の鍵となった。1799年、ナポレオン率いるフランス軍がエジプトを軍事占拠し、石碑を発見。1801年、イギリス軍がエジプトでフランス軍を破るとロゼッタ・ストーンなど歴史的遺物がイギリスに引き渡された。

「石碑には上からヒエログリフ、真ん中にデモティック(ヒエログリフの草書体)、下にギリシア語が刻まれ、三言語が併用されています。最初のヒエログリフは判読できなくともギリシア語の知識を手がかりにヒエログリフを読み解けるのではないか、と判読が始まったのです」

1822年、フランスのエジプト学者ジャン・フランソワ・シャンポリオンがついにヒエログリフの解読に成功。古代文字で最初に解読された文字となり、その見た目からも人口に膾炙(かいしゃ)した。

現在のエジプトの観光地であるハーン・ハリーリ市場ではヒエログリフの関連グッズで溢れている。アルファベットのように音を置き換えて自分の名前をヒエログリフで記したグッズが人気で、中でもペンダントが一番人気だ。余談だが、大城氏は遥か離れたエジプトの市場で日本のギャグを売り子に教えたという。

「売り子たちは日本人だとわかると『バザールでござーる』『山本山』と昭和のCMの一節で客引きをしてくる。『さすがに古いよ』と教えると、『いまの日本で何が流行っているんだ?』と問われ、その場で『ゴイゴイスー』を教えました」

読めても何の役にも立たないが…

女優の芦田愛菜さん(21)もヒエログリフに魅了されたことをテレビ番組で語っている。難解な文字だが、なぜか人を惹きつけるのだ。

「エジプト学者であれば読めるに越したことはないですが、一般の方にとって何の役に立つのか、と問われても答えに窮します。読めたとしても、何の役にも立ちません。 

それでも若いときの私はヒエログリフを学ぶことで古代エジプト人の考えや文化に触れ合えるかもしれない、と思いました。目的も建築方法もわかっていないピラミッドの謎が解けるかもしれない、と。大いなる神秘として容易に解読できないからこそ、ヒエログリフは多くの方から愛されているのではないでしょうか」

判別されないままの文字が世界にはまだ残されている。モアイ像で知られるイースター島のロンゴロンゴ文字は未だ解読されていない、否、今後もその見込みがないといわれている。

「ロンゴロンゴ文字はインダス文明の文字に近いという意見もありますが、そのインダス文明の文字も解析できていません。またイースター島が絶海の孤島に位置し、インダス文明が起こったパキスタンやインド北部とも距離があり、どう伝わったのかも不明なまま。

ロンゴロンゴ文字やインダス文明の文字をはじめ世界には解読されていない文字がまだ残っているのです。ヒエログリフ解読には3言語が並列されたロゼッタ・ストーンが発見され、比較対照ができたから前に進みました。ロンゴロンゴをはじめ未解読文字の解読のために比較できるものが発見できないと難しい。解読できない可能性もある。でも、謎に包まれているからこそ古代文字には言い知れぬロマンがあるのです」

『古代文字を解読していたら、研究に取り憑かれた話』には古代文字に魅せられた研究者たちの好奇心がつまっている。その探究心が新たな発見を生んでいくことだろう。コスパやタイパなる言葉をしばし忘れ、新春に目を通したい1冊だ。

ヒエログリフグッズはお土産でも人気。パソコンに名前を入れるだけで自動的にパピルスに書いてくれるマシーンも(『古代文字を解読していたら、研究に取り憑かれた話』より)

ヒエログリフで名前を入れたペンダント。ヒエログリフは表音文字でもあるので、アルファベットに置き換えることもできる(『古代文字を解読していたら、研究に取り憑かれた話』より)

キャラクターとして人気の高い『メジェド』。古代エジプトの神様とされるが、実は神様なのかどうかもよくわかっていない謎の存在だ(『古代文字を解読していたら、研究に取り憑かれた話』より)

大城道則教授。考古学を志した理由の一つが「ヒエログリフを読んでみたかったから」だという(『古代文字を解読していたら~』より)

大城氏のほか、古代地中海史が専門の青木真兵氏、比較言語学が専門の大山祐亮氏の3人が古代文字への熱い思いを語っている

『古代文字を解読していたら、研究に取り憑かれた話』(大城道則、青木真兵、大山祐亮・著/ポプラ社)

取材・文・写真(大城氏):岩崎大輔