「赤字は55億円超…」 JR東日本ワーストの不採算区間、普通列車で始まった“見慣れぬ動き”の正体
全国初となる定期「貨客混載」輸送
日本郵便とJR東日本は2026年4月13日、列車で荷物を運ぶ「はこビュン」を使い、羽越(うえつ)本線の普通列車で鶴岡駅~あつみ温泉駅間の貨客混載による定期輸送を始めた。
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両社は2024年2月21日、社会の課題に対応するため連携を強める協定を結び、互いの網を生かした物流の見直しを進めてきた。今回の取り組みはその第1弾にあたる。これまで鶴岡郵便局と温海郵便局の間では、日本郵便の車両で1日3往復の輸送を行っていた。このうち片道一便を、列車輸送に切り替える。
使う列車は酒田発村上行きの普通列車で、鶴岡駅を16時45分に出て、あつみ温泉駅に17時20分に着く。荷物は先頭の乗務員室に積み、郵便物やゆうパックなどを運ぶ。輸送は毎日行う。定期輸送としては全国で初めての例だという。
郵便車両から鉄道へ切り替えることで、二酸化炭素の排出を減らし、環境への負担を抑えるとともに、人手不足への対応も図る考えだ。
4月13日の初回の様子は地元の報道でも伝えられた。4月15日の地元紙・庄内日報によると、この日に運ばれた郵便物は、ゆうパックを含めて約3kgだった。
両社は今後、この取り組みで得た経験をもとに、在来線のほかの区間や新幹線へと広げていく考えだ。
広大な鶴岡市の地域事情

輸送のイメージ(画像:JR東日本)
ではなぜ、JR東日本の広い沿線のなかで、鶴岡~あつみ温泉間が第1弾に選ばれたのか。この点を考えるには、鶴岡市の地域の事情と、日本郵便・JR東日本それぞれの事情を見ておく必要がある。
いまの鶴岡市は、2005(平成17)年に旧鶴岡市と周辺の三町一村が合併してできた自治体である。市の広さは東北で最大となる約1300平方キロメートルに及ぶ。このうち、あつみ温泉駅のある旧温海町は、合併で鶴岡市に入った地域だが、中心の市街地からは約30km離れている。現在も温海温泉を軸に、旧鶴岡市とは別のまとまりを持つ地域という印象が強い。
一方、日本郵便の側から見ると、鶴岡郵便局と温海郵便局はいずれも集配を担う局であり、その間で自社の車両による輸送が1日3往復あった。これは、同じ市のなかでも一定の輸送の需要があったことを示している。ただし見方を変えれば、荷物が少ない日や便でも両局の間を定期便として走らせる必要があり、効率の面で課題があった可能性もある。
地方の都市や町では、集配を担う郵便局が駅から少し離れた市街地にあることが多い.
鶴岡郵便局も駅からやや距離がある。一方で温海郵便局は、あつみ温泉駅のすぐ近くにある。この立地の違いも、第1弾の区間として選ばれた理由のひとつと考えられる。
前述のとおり、貨客混載の初日である4月13日に運ばれた郵便物は約3kgで、肩掛けのやや大きめのかばんで収まる量だった。今後、荷物が多い場合の運び方などには課題も残るが、この3kgが日常的な量だとすれば、車両一台を動かすには少なすぎる。
人手が足りない状況も踏まえると、郵便車両から鉄道による貨客混載へ切り替える流れは、自然なものといえる。
メンテナンスコストの重圧

JRあつみ温泉駅(画像:写真AC)
一方、JR東日本が今回の取り組みに踏み切った背景には、より重い事情がある。
JR東日本が2025年10月に公表した「ご利用の少ない線区の経営情報(2024年度)」によると、羽越本線の村上~鶴岡間の運輸収入は6億6000万円にとどまるのに対し、営業費用は61億7400万円にのぼり、差し引き
「55億1400万円」
の赤字となった。この赤字額は同社の線区で最大である。もっとも、営業係数は935円で、100円の収入を得るのに9倍以上の費用がかかる状況ではあるが、開示された線区のなかには係数が1万円を超える区間もある。赤字額は最大でも、係数で見れば利用の少ない線区のなかで特に悪い水準とはいえない。
赤字額が大きくなる理由は、村上~鶴岡間が約80kmと長く、県境をまたぐ利用の少ない区間であることに加え、重量の大きい貨物列車の運行が多く、線路などの手入れに費用がかかるためだ。
貨物列車はJR貨物がJR東日本に線路の使用料を払う形で走っている。詳しい説明は省くが、この使用料はJR貨物に有利な水準とされ、JR東日本をはじめとする旅客会社の負担が重いといわれている。
もっとも、羽越本線の村上~鶴岡間は、この区間だけで成り立っている路線ではない。同区間を含む新潟~酒田・秋田間には特急「いなほ」が1日7往復走っており(臨時列車を除く)、貨物列車も羽越本線を越えて広い範囲で運行されている。このため、この区間は他の線区の収入にも寄与している面がある。
村上~鶴岡間のような利用の少ない区間だけを取り出して赤字額を強調するのは、公平とはいいにくい。とはいえ、赤字の額が大きいことに変わりはなく、この区間では今回の取り組みを含め、収入を増やすための手立てが求められていた。
「運べるものは運ぶ」物流モデルの転換

鉄道車両と郵便車両の連携イメージ(画像:JR東日本)
今回の取り組みで、日本郵便がJR東日本に支払う輸送料金は公表されていない。参考までに、JR東日本が示している「はこビュン」の法人向け輸送では、事前契約が必要で、特急や在来線を使い荷物が5箱以内の場合、1箱あたり1650円とされている。1箱は三辺の合計が約120cmの大きさを想定している。ただしこれは基本料金で、荷物の量や回数、区間によって変わる。
この料金から考えると、乗務員室に収まる範囲で、肩掛けのやや大きめのかばん程度の荷物量では、1回の輸送でJR東日本が得る収入は小さいとみられる。それでもJR東日本にとっては、新たに専用の車両や列車、特別な場所を用意する必要がない。これまで使われていなかった車内の空間を使い、収入に変えられる点は意味がある。一方、日本郵便にとっても、JR東日本に料金を支払うとしても、人手が足りないなかで自社の車両を使う負担を減らせるなら、その利点は大きい。
JR東日本グループは2025年3月、これまで新幹線を中心に行ってきた駅間の荷物輸送サービス「はこビュン」を強め、グループ全体で年100億円規模の収入を目指すと発表した。2026年3月23日には、荷物専用の新幹線を使い、平日に定期で約1000箱を運ぶ大口輸送も始めており、収入拡大に向けた動きは進んでいるように見える。
「はこビュン」だけで大きな赤字を埋めるのは難しいとみられるが、在来線に目を向ければ、郵便局の集配局同士の輸送など、鶴岡~あつみ温泉間以外にも活用の余地はある。また、日本郵便に限らず、ヤマト運輸なども営業所間の輸送を鉄道や路線バスに切り替える動きを進めており、こうした取り組みまで含めれば、広がりはさらに大きくなる。安全に運行できる範囲であれば、赤字を抱える鉄道路線を維持するために
「運べるものは何でも運ぶ」
という流れが今後強まる可能性があるだろう。