スズキ「ジムニー」は5ドアの「ノマド」追加でどれだけ販売台数を伸ばしたのか? 発売1年の販売状況を振り返る
ジムニーは、トラックなどと同じ堅牢なラダーフレームをベースに、FR(後輪駆動)レイアウト、副変速機付きパートタイム4WDシステム、リジッドアクスル式サスペンションという車体構成を採用。
【写真】この道具感がたまらない!「ジムニーノマド」のタフなスタイル
こうした構成は、オフロード走行を主眼とする車両に採用されるもので、いわゆる「クロカン4WD」などと呼ばれる本格的なオフローダーだ。今や世界でもめずらしい。
しかも、ジムニーは軽自動車が基本なため、非常に軽量。この軽さと本格的なオフロード向けの車体構成により、ジムニーは非常に優れた走破性を実現する。狭く険しい道を得意とする、稀有な存在なのだ。

軽自動車となる「ジムニー」の3ドアモデル(写真:スズキ)
そんな性能の高さだけでなく、その特性に特化したスタンスとデザインも、ジムニーの大きな魅力だ。
誰が見てもオフローダーだとわかるルックスは、普遍的な魅力を備える。また、流行に左右されない道具っぽさ(=ギア感)もジムニーならではの大きな特徴だ。
言ってみれば、安価な軽自動車であるけれど、本物の道具であるジムニーであれば、どんな高級車と並んでも恥ずかしくない。個性があるからこそ、ジムニーは、1970年の初代から現在まで50年以上も長く愛されてきたのだと言える。
強い個性を優先したことによる弊害とは
そんな魅力あふれるジムニーであるが、その個性が欠点になることもある。それが“3ドアしかない”ことだった。
高い走破性を求めてショートホイールベースにしたため、1970年の初代から2018年デビューの現行モデルまで、歴代ジムニーはすべて3ドアであった。
しかし、利便性という点では、5ドアには劣る。そのため“ジムニーの5ドア”を求める声は昔から根強く存在していたのだ。
そうした要望に応えたのが2025年4月3日に発売になった「ジムニー ノマド」だ。ジムニー(3ドア)の登録車版が「ジムニー シエラ」であり、さらにその派生版となる5ドア版がジムニー ノマドとなる。

登録車となるシエラはオーバフェンダーとワイドタイヤを装備(写真:スズキ)
生産は、スズキの第2の本拠地とも呼べるインド。逆輸入車となるが、人件費の安いインド製のため、価格は265.1万円~とお手頃なものとなった。発売時の月間目標販売台数は1200台だ。
発表数日で3年半以上分の注文が殺到
1月30日のジムニー ノマド発表会には筆者も参加したが、その時に感じたのは「月間1200台はあまりも少ない」ということだ。案の定、ジムニー ノマドには注文が殺到。わずか4日後の2月3日には、スズキから「ご注文停止のお詫び」が発表される。
なんと数日の注文が5万台を超えてしまったという。当初の予定からすると、3年半分もの注文だ。のんびり注文してしまうと、納車が3年も4年も先になってしまう。注文停止は、当然の措置だろう。

あまりの人気から中古市場では一時期、400万円以上の値がついた(写真:スズキ)
それからさらに3カ月後となる5月末には、スズキから「増産を開始」が発表された。日本向けの現地生産を、約3倍弱となる約3300台に増やしたというのだ。
その結果、積み上がった受注分も解消のメドが立ったようで、26年1月30日に注文が再開された。ただし、2月末までの注文に関する納車は抽選順になるという。発売最初の1カ月を逃し、ジリジリと注文再開を待っていた人たちの熱量に対する配慮だろう。
ちなみに、26年3月1日からは通常通りの注文が可能となっている。ただし、3月以降の注文の場合、発売直後と、その後の26年2月注文分の納車が解消された後になるはず。まだまだ長い納期待ちを覚悟しなければならないことには変わりない。
まだまだジムニー ノマドは、品薄感の強い製品と言えるだろう。
そんな人気の高いジムニー ノマドではあるが、走らせてみるとどうなのだろうか。試乗したときの印象をレポートしよう。
結論から先に言えば、ジムニー ノマドの印象は、良くも悪くも軽自動車ジムニーの延長線上にある。
突出したオフロード性能を持っているけれど、街乗りの乗用車として見るなら、いろいろと割り切りが必要だろうということだ。

車体幅は軽自動車モデルと同じだから決して広くはない(写真:スズキ)
室内空間は前後に伸びているものの、車体幅そのものは軽自動車のまま。それほど広々というわけではない。インテリアの質感は、質実剛健そのものだ。
1.5リッターの4気筒エンジンは、最高出力が74kW(101馬力)あるため、サイズ感の割にパワーは十分だが、いかんせんギア比が低い。ゆっくり走る分には力強いけれど、高速道路では伸び感が不足し、高速道路では自ずと左側車線を走ることになる。
燃費は、4AT仕様で13.6km/L、5MT仕様で14.9 km/L(どちらもWLTCモード)であり、今どきのクルマとしては、あまり褒められたものではない。

後席以降が延長された「ノマド」の室内。荷室も拡大されている(写真:スズキ)
また、ロングホイールベース化の悪影響で、ジムニー ノマドの最小回転半径は5.7m。ジムニー シエラの4.9mより80cmも大きくなる。ステアリングの手応えも重いので、狭い場所での取り回しは、少々苦労すると覚悟しておこう。
乗り心地の面では、195/80R15と扁平率が高いタイヤのため、柔らかさを感じやすい。その分、路面の凹凸の細かいショックは吸収してくれるが、剛性感があるわけではない。
しかしながら、こうした不満も、オフロードの道なき道に入れば印象はガラリと変わる。小さな車体は自車のサイズを把握しやすいし、小さいからコース取りの自由度も高い。ギア比の低さは力強さそのもの。簡素な室内空間は汚れに強い。
オフローダーとして、これほど頼りになるクルマは少ないだろう。5ドアになったといっても、やはりジムニー。オフロード走行用に特化したクルマなのだ。
街乗りでは割り切りが必要だが、これは大昔からのジムニーシリーズそのものであり、その前提を納得できる人が選ぶクルマなのだ。5ドア化で利便性は向上したかもしれないが、まぎれもないジムニーなのである。
ルックスだけ見て気に入り、普通のSUVを選ぶ感覚で乗ると、がっかりするだろう。この“わかった人が乗るのがジムニー”という部分も、ある意味、魅力の1つと言える。
5ドアをプラスして販売台数を約2倍にアップ!
では、そんなジムニー ノマドは、実際にどれほど売れたのか。
25年4月から26年3月の新車販売ランキング(登録車)を見ると、ジムニーは5万1358台を販売し、18位に食い込んでいる。これはスズキとしては16位「ソリオ」の5万2642台につぐ、相当によい数字だ。
ただし、5万1358台の数字は3ドアのジムニー シエラと、5ドアのジムニー ノマドを合算したもの。このうち、ジムニー ノマドの数字をスズキ広報に問い合わせてみれば、約3万9000台であるという。残り約1万2000台がジムニー シエラということになる。これもかなりの数だ。

一部改良によりアダプティブクルーズコントロール(ACC)が搭載された(写真:スズキ)
ざっくり3ドアのシエラを1とすると、5ドアのノマドが3倍強売れていることになる。ちなみに、ジムニーシエラだけ販売していた24年度のジムニーの販売台数は2万6192台でランキング27位であった。
5ドアのジムニーノマドを販売したことでジムニー シエラの販売は半減したが、全体としては約2倍に増えたのだ。
また、ベスト20にランクインしたのも、大きな功績だ。20位までにランキングしたメーカー別の数をカウントすると、最も多いのがトヨタの12車種、続いてホンダの4車種、そしてスズキと日産の車種と続く。
三菱、スバル、マツダ、ダイハツはベスト20に1台も入っていないのだ。つまり、ジムニー シエラだけであれば20位以下であったところ、ジムニー ノマドをプラスすることで、20位以内にランクインしたのである。スズキの登録車としては大ヒットと言えるだろう。
実際のところ、ジムニー ノマドは、現在でも生産が追い付いていない。もしも、スズキにもっと生産能力があれば、より販売台数を増やすことができるはずだ。
とはいえ、乗れば誰もがわかるように、ジムニーシリーズは万人受けするクルマではない。そのため、作れば作っただけ売れるクルマとは言えない。トヨタ「カローラ」や「シエンタ」とは異なるのだ。

一部改良で登場した新色「グラナイトグレーメタリック」の「ノマド」(写真:スズキ)
そのため、スズキは慎重に生産能力を調整している。いま売れるからといって、生産設備に投資すれば、あるところから供給が需要を上回り、赤字になってしまう。そうなっては、スズキが困るだけでなく、ジムニーシリーズの存続にも関わる。
そういう意味で、若干ニーズが上回っている現状が健全なのだろう。ファンであれば、ある程度の納期は我慢すべきと言えるかもしれない。
「日本車の逆輸入」を当たり前に
ジムニーノマドのヒットは、スズキが1970年からジムニーを大切に作り続けてきたという歴史が土台にある。つくづく個性や伝統といったものの大切さを感じさせるヒットと言えるだろう。
そして、最後に見逃せないのが、今回のジムニー ノマドのヒットによって、海外生産される日本車の逆輸入という存在が、より身近になったことである。
同じ、インドからはホンダの「WR-V」というSUVが導入されているし、日産「キックス」はタイからやってきている。トヨタ「ヴォクシー」を台湾で生産するという話もある。
こうした海外生産車は、これからも増えてゆくことだろう。「日本車=日本生産」ではなく、「日本車=日本ブランド」への変化を加速させたことも、ジムニー ノマドの功績のひとつではないだろうか。