「とりあえず10本」って言っちゃう…串カツ田中の絶好調を牽引、1本55円の「無限に食べられる串」が地味に凄い6つの理由
月曜の夜、串カツ田中。平日にもかかわらず、入店してすぐサイコロを振る音が聞こえた。テーブルごとにどんぶりが置かれ、1本55円の串が次々と卓上に積み上がっていく。
【画像14枚】華金はこれで決まり!1本55円なのに美味しくお酒もすすむ…串カツ田中「無限串」やその他の人気メニューの様子
運営するのは、ユニシアホールディングス(旧串カツ田中ホールディングス)だ。2025年4月に投入した「無限串」シリーズは2026年3月末時点、約1年で累計2000万本を突破した。日本人の約6人に1人が体験した計算となる。
値上げが続く居酒屋業界で、なぜこの店だけが客を増やし続けているのか。その仕掛けを紐解いていく。
実際に食べてみた。55円の「解像度」
月曜の夜、串カツ田中 相模原店を訪れた。カウンターに着いてまず感じるのは、注文のハードルの低さだ。10本頼んでも550円。この計算が無意識に働いて、「とりあえず10本」という言葉が自然に口をついて出そうになる。
「無限土手みそホルモン串」は、濃いめの甘辛みそが牛ホルモンにしっかり絡んだ一本だ。衣はサクッと軽く、噛むと脂のじゅわりとした旨みが広がる。こってりとした土手みその風味が、次の一本への食欲を呼び起こす。
対照的に「無限柚子ぽん酢ホルモン串」は、さっぱり系だ。柚子の清涼感とぽん酢の酸味が脂をきれいにリセットし、何本食べても飽きが来ない。脂の旨みとさっぱりさ、2種の交互食いが止まらなくなる設計だ。

左:寄り添い(ピンク)、右:ツンデレ(クリア)、手前は無限土手みそホルモン串と無限柚子ぽん酢ホルモン串。とりあえず10本を堪えた結果それでも4本ずつ頼んでしまった(写真:筆者撮影)
ここに「無限串専用サワー」が加わる。2026年4月1日から投入された「ツンデレ」(税込319円・平日限定価格)は、レモンとライムの鋭い酸味とほんのりした塩味が広がるドライ系。「寄り添い」(同)は、梅の甘酸っぱさとグレープフルーツの爽やかさが溶け合った軽やかな一杯だ。透明に近い「ツンデレ」とほんのりピンクの「寄り添い」2つを並べた卓上の絵がそのまま映えになる。

葱まみれチー平焼き572円。メニューを眺めていたら、つい頼んでしまった。とろーりとよく伸びるチーズに思わず微笑んでしまう(写真:筆者撮影)

タコウィンナー炒め。楽しい気持ちになっていると、こういったメニューを頼んでしまうのはなぜだろう(写真:筆者撮影)

甘くて濃厚な味噌味に期待して、間違いない一品。ここに来たら食べておかないとね。と思ってしまうのが、牛すじ土手(写真:筆者撮影)
「無限土手みそホルモン串」4本・「無限柚子ぽん酢ホルモン串」4本でそれぞれ税込220円(1本55円)。あまりの安さに油断して、他の酒も料理も追加が進む。
従業員の声かけも注文のきっかけに
巧みなのは、テンポよく空いた皿を下げてくれる従業員による、おかわりを確認する一声。スマホでの注文を基本としつつ、声かけによってドリンクの追加注文が増える。顧客体験価値も高く、ドリンクの出数も増えるのでWin-Winだ。
余談になるが、決して忙しいとは言い難い月曜日の夜。従業員はテキパキとチャキチャキ働いていた。この動きも思わず注文したくなる雰囲気を作っている。
2名で来店し約2時間の滞在で合計5725円、1人あたり2863円という着地になった。いつもの流れでビールから始まるが、従業員からの説明によって確実に無限串専用サワーと55円の無限串が入口になり、ドリンクや一品料理が自然に積み上がっていく。
「値上げの時代」に、串カツ田中が選んだ逆張り
串カツ田中の既存店売上が、1年以上にわたって前年比110%を超え続けていることをご存じだろうか。しかもその原動力は、1本55円の串だという。
ユニシアホールディングスが2026年4月に公表した第1四半期決算説明資料には、こう記されている。「ヒット商品の『無限串』による集客効果により、キャンペーン等に頼らず昨年度から昨対比110%を維持し売上高を継続的に拡大」。

無限串が業績を牽引中。客単価を上げない(値上げに頼りすぎない)ことが、好調の一因だろう(画像:ユニシアHD 2026年11月期Q1決算説明資料より)
食材費・人件費の高騰を受け、外食各社が値上げを重ねるなか、串カツ田中は2025年4月にあえて1本50円(税込55円)という低価格の看板商品を打ち出した。大型キャンペーンに依存せず集客できるこの体制は、2025年11月期の既存店売上高前年同月比平均113.1%、2026年11月期第1四半期では118.2%という数字として結実している。

(画像:串カツ田中HD 2025年11月期決算説明資料より)
なぜ55円で利益が出る?六層の「仕掛け」を読み解く
「安く売って儲かる」という矛盾の答えは、六層の仕掛けが一本の線でつながっている点にある。
まず素材だ。牛ホルモンは、通常の部位と比較して原価コントロールがしやすい部位である。小ぶりなサイズ設定が一人あたりの消費本数を増やし、1本ではなく「10本・20本単位」で注文するという行動を自然に引き出す。安さを「お得感」として演出するのではなく、「何も考えずに注文できる価格」として機能させているのが、この商品の核心だ。

ふと顔を上げると、そこには無限串。卓上だけでなく、店内に目を移しても視界に入ってくる(写真:筆者撮影)
無限串は「お酒が無限に進む」をコンセプトに開発されており、専用サワー「ツンデレ」「寄り添い」の投入(2026年4月〜)はその延長線上にある。通常税込462円のサワーが平日限定で税込319円になるこの「専用サワー」は、串との組み合わせを前提に設計されている。
実際、チンチロリンの対象商品としても明示されており、串・サワー・ゲームの三点セットとして一体化している。

POPの記載に加えて、従業員が丁寧に説明してくれるので安心だ(写真:筆者撮影)
「また来たい」を作る、「惜しかった」という感覚
串カツ田中には「チンチロリンドリンク」という定番のサイコロ遊び企画がある。2個のサイコロを振って出た目で特典が変わる。ピンゾロ(田中の目)ならメガジョッキが倍量で無料、ゾロ目なら無料、偶数なら半額、奇数ならメガジョッキ(倍量・倍額)。無限ミッション専用サワーもこのチンチロの対象商品だ。

サイコロを振り入れる瞬間。ものすごくドキドキしてテーブルを囲む人の視線はこの瞬間に集中する(写真:筆者撮影)
同行者は普段、1杯目も2杯目もビールを頼む。しかしこの日、メニューを見て言った。「無限ミッションのサワー、平日319円か。それならこれも一杯頼もうかな」。55円の串が入口になり、専用サワーへの橋渡しが自然に起きた瞬間だった。
取材当日、そのサワーでチンチロに挑戦した。サイコロ2個をどんぶりに投げ入れる。カラカラと転がる音が卓上に響き、周囲のテーブルでも同じ音がしていた。
1投目――ゾロ目が出た。税込319円がゼロ円になった。思わず声が出た。「もう一回いける」。2投目への期待感が自然に次のサワーを注文させる。2投目――偶数。税込319円が半額の159円になった。ゾロ目の再現はならなかったが、それでも「惜しかった」という感覚が残る。この「惜しい」が、また来たいという気持ちを作る。

出た目はゾロ目、ツンデレが無料に。注文履歴にも「¥0」として記録された(写真:筆者撮影)
ゲームの結果は注文履歴に「290ツンデレゾロ目 ¥0」「290寄り添い偶数 ¥159」として記録されていた。盛り上がりながら次のドリンクを注文する。この体験は計算通りに機能した。

「皆で勝ち取れ!無限ミッション」。月間5万杯達成で翌月も平日限定価格継続の条件が明記されている(写真:筆者撮影)
ドリンク単価設計のもう一つの仕掛けが「無限ミッション」だ。月間5万杯達成なら翌月も平日限定税込319円を継続、達成できなければ終了、という条件設計になっている。全国の来店客全員が「達成者」になる構造だ。
4月はこのミッションをクリアし、5月も継続が決定した。達成をSNSで告知する仕組みが、自然な口コミを生む。「自分も5万杯のうちの1杯だった」という参加感が、SNS投稿の動機になる。
五つの仕掛けは一本の線でつながっている

卓上の「楽しむコツ」スタンド。STEP1(QRチェックイン)→STEP2(飲みPass)→STEP3(チンチロ)の三段階が明示されている(写真:筆者撮影)
一度来店した客を次回につなぐ仕掛けも、店内に三つ組み込まれている。まず「チェックインQR」卓上の二次元バーコードをグループ全員で読み取ると、串カツ1本が当たる抽選ゲームがアプリ上で起動する。全員参加を促す設計が、グループでの来店体験を強化する。
次に「飲みPass(田中で飲みPass)」。通常版は1枚550円(税込605円)で1カ月間有効、対象ドリンク(税込550円以下)が1杯250円(税込275円)になる。3杯で元が取れる計算で、購入した客は「元を取りに来る」動機が生まれる。さらに飲みPass適用時のチンチロはより有利な条件になると明示されており、リピーターほどゲームが楽しくなる設計だ。
「55円で呼び込み、専用サワーでドリンク単価を上げ、チンチロで滞在させ、ミッションで口コミを作り、パスと抽選で再来店させる」。五つの仕掛けが一本の線でつながっている。
この企画の巧みさは、プレスリリースを読むとさらによくわかる。
まず数字の翻訳だ。累計2000万本という数字を、そのまま出していない。本文には日本人の約6人に1人が体験した計算となる、と書いてある。2000万という数字を人口比に変換することで、読者が自分ごととして受け取れる体感値に落とし込んでいる。プレスリリースとしての要件である事実の伝達を守りながら、メディアが見出しに使いたくなる言葉を同時に用意している。
さらに際立つのが、無限ミッションの設計だ。「月間5万杯達成で来月も継続、達成できなければ終了」という数値目標と条件をプレスリリースで公開することで、達成の告知そのものが次のニュースになる。単なる企画のお知らせではなく、続報が生まれる構造をプレスリリースの中に仕込んでいる。4月の達成を告知したプレスリリースは、その設計が機能した証拠だ。
「ツンデレ」「寄り添い」というネーミングも同様だ。味の説明ではなく人間関係のような言葉を使うことで、SNSで語りたくなる言葉になっている。プレスリリースに求められる要件を満たしながら、キャッチーさを手放さない。この徹底ぶりが、企画全体のトーンと一致している。
そもそもプレスリリースとは、報道機関に向けて発信する会社の公式文書である。直接の読み手は記者や編集者であり、そこで取り上げられて初めて、一般消費者や投資家、株主といった最終的な読み手に届く。記者が記事にするかどうかは、送り手ではなく受け手が決める。毎日届く無数のプレスリリースの中で、手が止まるものはごくわずかだ。
事実を正確に伝えることが絶対条件である一方、メディアが思わず取り上げたくなる切り口と数字を用意できるかどうかが、腕の見せどころになる。そして、これを継続するのは意外と難しい。自らニュースバリューを生み出し続けられる企業は、そう多くない。
「流行っている気がする」を数字が証明する
2名で5725円。55円の串が起点になり、ドリンクと一品料理が積み上がる。この構造は、決算資料の数字として記録されている。
2025年11月期の串カツ田中セグメント売上高は175億22百万円(前期比+24億52百万円)、営業利益は14億14百万円(同+4億18百万円)。会社側はこの増収要因を「新たな看板メニュー『無限ニンニクホルモン串』の導入による来客数の伸長」と説明している。
2026年11月期第1四半期(3カ月)では串カツ田中事業の売上高が49億20百万円(前年同期比+21.4%)、営業利益は6億53百万円(同+1億31百万円)。決算資料には「『無限串』による集客効果が続き売上・営業利益共に増加」と記されている。
営業利益率も2024年11月期の5.0%から2025年11月期は5.6%へ改善した。55円の串は「赤字覚悟の集客商品」ではなく、収益構造ごと底上げしている。

55円串は赤字覚悟の一手ではない、むしろ業績牽引の秘策だったのだ(画像:串カツ田中HD 2025年11月期決算説明資料より)
次の一手。55円の串は「居酒屋の未来」を定義するか
無限串の設計には、もう一つの巧みさがある。「世代交代」が制度として組み込まれている点だ。
初代「無限ニンニクホルモン串」は累計1400万本超を記録して2025年12月末に販売終了した。2代目は「土手みそ」と「柚子ぽん酢」の2種体制に進化し、シリーズ累計は2000万本に達した。「飽き」を商品サイクルで制御しながら、ブランドとしての「無限串」を更新し続ける。これはシリーズとして管理された戦略である。
ユニシアホールディングスは2028年11月期に売上高約480億円・604店舗を目標とする中期計画を公表している。串カツ田中グループ単体でも235億円を見込む。無限串はその成長の起点として、IR資料上でも明示的に位置づけられている。

人気ファミレス「ピソラ」買収でも話題に。拡大に余念がない(画像:ユニシアHD 2026年11月期Q1決算説明資料より)
値上げが続く外食業界で、1本55円の逆張りが既存店売上を1年以上にわたって前年比110%超に維持した。その貢献は「流行」ではなく、複数期にわたる決算資料に記録されている。
次に「55円の串」を真似る居酒屋チェーンが現れるとしたら、おそらく真似るべきは価格ではない。入口の価格設計・ドリンクへの誘導・ゲームによる滞在延長・参加型口コミ・再来店の仕掛け。真似るべきは、設計だ。
そしてその設計の中に、「惜しかった」と思わせるサイコロが一つ転がっている。