世界一周でANA「SFC」得た直後に「改悪」?——費用対効果を再考した結論《楽天ブラックとも比較》
全日本空輸(ANA)が上級会員向けサービス「ANAスーパーフライヤーズカード(SFC)」の制度変更を発表し、大きな波紋を呼んでいる。それまではカードを保有しているだけでラウンジ利用などの特典を受けられたが、カードで年間300万円分の決済をしなければ、ラウンジ利用などの特典や、スターアライアンス・ゴールドの資格が失われる。
【写真】世界一周に加えて“SFC修行”もした筆者
筆者は、スターアライアンスの世界一周航空券を使って旅をしたのを機に、今年2月にSFCに切り替えたばかりだった。SFCの「改悪」がなぜここまで物議を醸しているのか、世界一周によってANAのステータスのみならず、「楽天ブラックカード」を入手した経験も踏まえレポートしたい。
そもそもSFCとは
筆者が「SFC修行」なる言葉を知ったのは、世界一周旅行の半分が終わった頃だった。2024年11月末、ANAから「ブロンズステータスに到達しました」という一通のメールが届いた。
同じころ、旅の様子をSNSで発信していたら、「世界一周航空券でどれくらいプレミアムポイント(PP)がたまりますか?」と質問された。修行経験者には説明不要な用語だが、当時の筆者は何のことか分からず、調べてみて初めて以下の仕組みを理解した。
ANAやスターアライアンス加盟航空会社のフライトを利用すると、フライトマイルとは別にANAの「プレミアムポイント」が積算される。1〜12月の累計で3万ポイントに到達すると「ブロンズ」、5万で「プラチナ」、10万で「ダイヤモンド」というステータスを得られ、さまざまな特典を受けられる。
正直なところ、ブロンズの特典はプラチナ・ダイヤモンドに比べると大きく見劣りする。
空港ラウンジの利用、優先搭乗、専用保安検査場の利用といったサービスはプラチナ・ダイヤモンド会員に提供されるからだ。さらに、これらの両会員には「スターアライアンス・ゴールド」のステータスも付与され、スターアライアンス加盟航空会社でも同様の待遇を受けられるようになる。

ANAプラチナ、スターアライアンス・ゴールドで利用できるニノイ・アキノ国際空港(マニラ)のラウンジ(写真:筆者撮影)
このステータスは毎年の搭乗実績に応じて更新される。しかし、プラチナ以上のステータス保有者が申し込める「SFC」を保有すれば、以降は1万円台からの年会費を払い続けるだけで、搭乗実績にかかわらずスターアライアンス・ゴールドの資格を維持できる。
この「一生ものの特権」を求めて、1年間だけ集中的に飛行機に乗りまくってプラチナステータスおよびSFCを目指すのが、いわゆる「SFC修行」。修行する人たちは自らを「修行僧」と呼び、1円でも安いコストで5万ポイントを目指す。
プラチナ到達に必要な5万ポイントは、東京ー那覇間を「早割」運賃で購入する場合、おおむね17往復で到達できる。修行僧のミッションは、極力低コストでのSFC獲得なので、日帰りで沖縄往復は当たり前、中には1日に2往復するような猛者もいる。
世界一周航空券を足場に修行
最初に断っておくが、SFC取得を目的に世界一周をする人はまずいない。プレミアムポイントの換算率は、国内線なら路線距離の2倍、アジア・オセアニア路線なら1.5倍になるため、国内線を往復し続ける方がはるかに効率的だからだ。
しかし、スターアライアンスの世界一周航空券で旅をすると、日本に戻る頃には相当なポイントがたまっている。そこで「あと少し頑張ればSFCが手に入る」という誘惑に駆られるのだ。
筆者は2024年に日本を発って東回りでトルコまで行き、2025年にトルコから日本に戻った。出発時はSFCのことなど頭になかったので、年をまたいでいるし、アジアから日本への移動もプレミアムポイントが加算されるANAを使わなかった。
結果、2024年に3万ポイント、2025年に1万5000ポイントが付与された。2024年にブロンズステータスのお知らせを受け取ったことで、SFC修行について学習し始めた筆者は、多くのブログで「JALが2024年に制度を見直し、1年の修行ではステイタスを獲得しにくくなった。ANAも早晩、追随するだろうから今のうちに修行してSFCを確保しておくべき」との文言を読んだ。
その言葉に背中を押され、世界一周を終えてからも各地を飛び回った。
とは言え仕事を持ち運べる筆者は、「沖縄日帰り往復」のようなストイックな修行はせずに、 石垣島発着でフィリピンへ飛んだり、福岡での用事に合わせて羽田から石垣・那覇と乗り継ぐ「三角飛び」を敢行したり、旅のついでに修行した。

2025年はSFC修行で数回石垣島を訪れた(写真:筆者撮影)

石垣島での食事(写真:筆者撮影)
西表島や小浜島に足を運んで遊び倒しつつ、12月下旬に滑り込みでプラチナステータスに到達した。

あくまで旅を主目的にSFC修行した。写真は西表島(写真:筆者撮影)

2025年はSFC修行を兼ねて沖縄の離島・小浜島も訪れた(写真:筆者撮影)
楽天ブラックカードからも招待状
プラチナに到達した12月、実は楽天カードの最上位である「楽天ブラックカード」の招待状も受け取った。
かつては招待の基準が謎に包まれていた楽天ブラックカードだが、2024年7月に申込制へと移行し、条件も明示された。具体的には「楽天プレミアムカード」を12カ月以上契約し、直近12カ月の決済額が合計500万円以上の会員が対象となる。

2025年12月に届いた楽天ブラックカードの招待状(写真:筆者撮影)
90万円近くした世界一周航空券をはじめ、宿泊費や食費など旅費のすべてを楽天カードで支払っていた。さらに、旅先での子どもの怪我による医療費や旅費、帰国後のSFC修行の費用が重なり、期せずして「500万円決済」のハードルをクリアしてしまったのだ。
楽天ブラックカードの年会費は3万3000円。SFC(ゴールド)と2枚持ちにすれば、年会費だけで計5万円近い。一瞬迷ったが、以下の理由で切り替えを決めた。
プライオリティ・パスの利便性:ブラックカードには、世界中の空港ラウンジが使える「プライオリティ・パス」が付帯する。回数制限がなく、同伴者2人まで無料という点が魅力だ。楽天プレミアムカードのプライオリティ・パスの特典が2025年から年間5回までに制限されたのも、切り替えの誘因になった。
家族カードの充実:2人分まで無料で発行でき、海外旅行保険が自動付帯する。少し前に家族の海外での事故でクレジットカードの保険を利用したこともあり、メリットを感じた。
希少性:年間500万円決済は筆者にとってイレギュラーが重なった結果であり、通常は年間100万円も利用しない。申し込めるのは資格が発生してから3カ月間のみで、この機を逃すと二度と申し込めそうにない。
昨年12月時点では、「SFCはしばらく維持し、楽天ブラックカードは1年使って価値を見極めよう」と考えていた。
しかし今年4月に発表されたANAのSFC制度変更で、スターアライアンス・ゴールドのステータスを保持するためには、カードでの年間300万円以上の決済が必須になったことで、当初の構想が崩れた。
SFC修行の価値は暴落必至で、筆者は期せずして「最後の修行者」になってしまった。
優雅ではないラウンジ
SFCと楽天ブラックカードに切り替えて数カ月。今年に入って飛行機に10回ちょっと乗ったので、現時点での感想を記したい。
ANAプラチナとスターアライアンス・ゴールドの会員には、優先チェックイン、手荷物許容量の拡大、優先セキュリティレーン、手荷物の優先受け取りといった特典がある。
だが、1週間程度の旅行ならキャリーケースすら持たない筆者にとって、手荷物関連の優先サービスは宝の持ち腐れになっている。また、頭上の棚の空きを心配する必要もないため、優先搭乗のニーズも薄い。
「優先セキュリティレーン」も、混雑が激しい空港に限って設置されていないことが多く、恩恵はあまり感じていない。エコノミークラスのカウンターが長蛇の列の際、ビジネスクラスカウンターで即座にチェックインできるサービスはありがたかった。

SFC会員は保安検査や手荷物検査を優先して受けられるファストトラックも利用できる(写真:筆者撮影)
そして、最大の焦点が「ラウンジ」だ。SFCの特典として空港の航空会社ラウンジへのアクセスが真っ先に挙がることから分かるように、修行の大きな動機付けになっている。
確かにラウンジは魅力的で、筆者もビジネスクラスで世界一周したとき、大きな楽しみだった。しかし、国内のANAラウンジは常に混雑している。
昨年、石垣島の1泊2000円台のホステルに泊まったとき、管理人が「1~3月はSFC修行の人がたくさん来る」と話していた。航空券の価格が安くなる1、2月に集中的に修行していると思われる。
SFC修行がテレビやYouTubeでたびたび紹介され、投資効率やお得さを重視する人が大挙してSFC取得に動き、そういう層がラウンジを利用しているのだから(筆者もその一人ではあるが……)、ステータスや優雅さを感じる場所ではなくなっている。
筆者はアルコールを飲まないので、おにぎりや麺類を食べながら、搭乗までほぼ作業をしている。有料の場合いくらなら利用するかを冷静に考えると、1回2000円程度ではないだろうか。
スターアライアンス・ゴールド会員はANAラウンジだけでなく、海外空港のラウンジも利用できるが、その質はピンキリで、イスタンブール空港のターキッシュエアラインズのラウンジのような「是非とも再訪したい」ラウンジはそこまで多くない。

イスタンブール空港のターキッシュエアラインズのラウンジ内にあるシャワールーム(写真:筆者撮影)

イスタンブール空港のターキッシュエアラインズのラウンジは、食事が充実していた(写真:筆者撮影)
プライオリティ・パスの魅力
ニッチな観光地を好む筆者にとって、実用性が高いのは「プライオリティ・パス」だった。
ガラパゴス諸島やペルーのクスコといった地方空港、あるいはフィリピンのプエルト・プリンセサ、ベトナムのフーカット空港など、日本人の多くが「どこそこ?」と思うような小さな空港でも、プライオリティ・パスで入れるラウンジがあった。

プライオリティ・パスで利用できるジョージア・トビリシのラウンジ(写真:筆者撮影)

ジョージア・トビリシのラウンジの内部(写真:筆者撮影)

プライオリティ・パスで利用できるインド・デリー国際空港のラウンジ(写真:筆者撮影)
地方の小さな空港は飲食店も少なく、出発まで時間を持て余しやすい。軽く飲食やPC作業ができる場所を確保できるのは非常に助かる。家族旅行で70代の両親や大学生の子供がいると、2人まで無料で同伴できる点にもメリットを感じた。庶民家系なので、プライオリティ・パスのラウンジでみんな喜んでくれる。

プライオリティ・パスで利用できるインド・ジャイプル国際空港のラウンジ(写真:筆者撮影)
また、プライオリティ・パス対応ラウンジの設備は千差万別だが、ハブ空港だといくつも選択肢があり、ニーズに合わせて使い分けられる。
楽天ブラックカードは日本の主要国際空港で荷物の無料宅配サービスも年に2回使える。
プライベートで海外の地方都市をたびたび訪れる筆者には使い勝手が良く、家族旅行の機会が一定程度ある間は、保持する価値があると感じている。

プライオリティ・パスで利用できる香港国際空港のラウンジ(写真:筆者撮影)

ほとんどの日本人が知らないであろうベトナムのフーカット空港にもプライオリティ・パスで入れるラウンジがあった(写真:筆者撮影)
あるべき姿に戻ったSFC
ANAのSFCはもともと、出張で各地を飛び回るビジネスパーソンに利便性や快適さを提供する制度だったのだろう。今回の変更は「あるべき姿に戻した」だけなのかもしれない。
それでもこれだけ波紋を広げているのは、ライバルのJALがステイタス制度刷新時に既存会員の既得権益に配慮したのに対し、ANAの対応がドライに映ったからだ。
ANA公式サイトのSFC紹介ページには、かつて「永続的に享受できる」「会員である限りプラチナと同等のサービスを」といった言葉が並んでいた。
特典を半永久的に受けられるという前提があるからこそ、空港から一歩も出ずに羽田と那覇を往復するような行為が一定の価値を持つわけで、その前提を一方的に書き換えられたことに、「裏切られた」と感じる人もいるだろう。
筆者も『SFCがあるから』と楽天ブラックカードの招待をスルーしていたら、冷静ではいられなかったはずだ。今年いっぱいはプラチナのステータスなのだから、今になってみればSFCに急いで切り替える必要もなかった。
いずれにせよ、年会費1万円台の楽天プレミアムカードも前述の通り、2025年にプライオリティ・パスの利用回数を制限した。年会費が安いカードは、付帯する海外旅行保険の利用条件を相次ぎ厳格化している。
相応のサービスを受けるには相応の利用を、というメッセージは明確だ。筆者もこの1年で、カードの選別をしっかり考えたい。