NFLでもMLBでもない…アメリカで今、人気沸騰しているスポーツの選手たちがファンの心を掴んだ理由

「ディフェンスもオフェンスも両方面白いのが女子プロバスケの試合。今日は息子と一緒にサンディエゴからケイトリン・クラークのプレーを観に来たよ。彼女がトリプル・ダブルを決めてくれたら嬉しい」

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そう語るのはルディ・ローマンさん、60歳だ。息子で26歳のジョシュアさんと共に片道2時間半かけて、車でロサンゼルスのクリプトドットコム・アリーナにやって来た。

今、アメリカ女子プロバスケリーグWNBAの試合会場で、彼らのように父と息子が一緒に観戦に来る姿が多くみられる。注目度は海を渡り、日本でもSNSで話題になることが増えた。

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ルディ・ローマンさんと息子のジョシュアさん。親子でケイトリン・クラークのファン(写真:筆者撮影)

WNBAのスター、ケイトリン・クラーク

ちなみにローマンさん親子の目当ては、WNBA最大のスター選手、24歳のケイトリン・クラークだ。

2024年春、中西部のアイオワ大学からドラフト1位でインディアナ・フィーバーに加入した彼女がLA会場に現れた途端、割れんばかりの歓声がとぶ。

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インディアナ・フィーバーの主力、ケイトリン・クラーク(写真:筆者撮影)

183センチと比較的小柄なクラークの得意技は、コートの真ん中のロゴが描かれた場所の近くから放つ3点シュート、通称「ロゴ3」だ。

「あのシュートは本当に難しい。自分もバスケ部で3ポイントシューターだったからわかるけど、あれを簡単にやってるように見せる彼女のスキルは凄いよ」とジョシュアさん。

父親のルディさんはこの日のチケット代に1席当たり250ドル払い、さらに会場前で売られていたクラークの背番号22のユニフォームを1着50ドルで買ってすでに着ていた。

「男子に比べて女子の試合は、よけいな政治的な駆け引きがない分、ピュアに楽しめるよ。女子リーグは、男子と比べて日の目が当たらない時代が長かったけど、ついに本格的に人気が爆発した」とルディさん。

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試合中のクラーク(写真:筆者撮影)

スター選手のクラークが出場する試合のチケットは完売することも多いが、彼女のチームが出場しない他の試合でも、WNBA全15チームの地元ファンたちが会場の席をコンスタントに埋めているのが特徴だ。

たとえばロサンゼルス・スパークスのホームゲームの1試合あたりの平均観客数は、23年シーズンでは約6500人だったが、25年には1万2000人を超え、ほぼ倍近くに増えている。

さらには、今春26年シーズンからアマゾン・プライムビデオがWNBAの試合のストリーミング放送を31試合に大幅拡大した。今これほど急成長中のアメリカプロスポーツは他にない。また、日本でもアマゾンやWNBAリーグパスなどで試合がストリーミングで観られるようになった。

闘争心の塊、五輪金メダリストのケルシー・プラム

人気の秘密は、クラークだけでなく、多くのスター選手がファンたちを惹き付けていることだ。たとえばスパークスのガードで五輪金メダリストのケルシー・プラム選手は、ラスベガス・エーシズという常勝チームから昨年「よりリーダーシップを発揮できる場所」を求めて、プレーオフ出場から遠ざかっていたスパークスに自分の意思で移籍してきた。

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LAスパークスのリーダー的存在、ケルシー・プラム(写真:筆者撮影)

闘争心の塊である彼女は「昨年、うちのチームは残念ながらプレーオフに出られなかったけど、今年は新しいメンバーも加入して勝つことにとことん貪欲だ」と26年シーズン開幕前の会見で語った。

彼女がリクルートした30代のベテラン選手たちが今年新たにスパークスに加入したことで、メディアから「選手の年齢が一番高いチーム」と揶揄されてもいる。

それでも31歳のプラムは対フィーバーの試合で自ら25得点を決めてベテランとしての実力を見せた。彼女のような五輪金メダリストの本気のプレーを目の前で観ることができるのがアメリカ女子バスケの試合の醍醐味のひとつでもある。

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LAスパークス対インディアナ・フィーバーの試合風景(写真:筆者撮影)

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同じく試合風景(写真:筆者撮影)

迫力のブロックで観客を沸かせるキャメロン・ブリンク

また、対フィーバーの試合では、ケイトリン・クラークのレイアップシュートを身長190センチを超えるスパークスのキャメロン・ブリンクがバレーボールのアタックのように高くジャンプして、バシッとブロックし、雄叫びを上げる光景もあった。その瞬間、会場のスパークスファンたちが沸き、大歓声が響いた。

大谷翔平と同じくらいの身長の女子選手たちがいて、彼女たちがぶつかり合うフィジカルな試合は、間近で見ると想像以上に迫力がある。

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練習中のキャメロン・ブリンク(写真:筆者撮影)

ちなみにブリンクはスタンフォード大卒の24歳で、ドラフトで2位指名だった。スーパーモデルのような容姿で、インスタグラムのフォロワー数は140万人を超える。彼女は昨シーズンは膝の怪我で半数以上の試合を欠場していたため「試合に出られないのに、ソーシャルメディアに出過ぎなのでは?」という批判も一部ファンからとんでいた。

今季の記者会見で「怪我から復帰するのに、メンタル的に何が一番きつかったか?」と記者から聞かれたブリンクが、笑顔から一転「正直、朝起き上がることすら辛い時もあった」と感極まって言葉に詰まっていたのが印象的だった。

メディアが注目する華やかなスター選手たちの陰で、シーズン前のトレーニングキャンプを終えた段階で、新しいユニフォームもすでにもらったのに、開幕試合前にいきなり解雇された選手もいる。

苦汁を味わってきた外国人選手、ジュリー・ヴァンルー

例えばベルギー出身のジュリー・ヴァンルーは、開幕直前のスパークスの会見で「私はWNBAでは31歳でルーキーとしてデビューしたけど、諦めなければ誰かが見ていてくれる。道は開ける」と力を込めて語っていた。しかしその数日後にスパークスから突然放出されてしまい、いきなり職を失った。

無職になった彼女はベニスビーチの野外公営コートに行き、シュート練習をしていたという。

しかしヴァンルーはSNSで「私は大丈夫。逆境には慣れている。闘う準備はできている」とコメントし、ファンの共感を呼んだ。

するとそんな彼女にニューヨーク・リバティが故障者の穴を埋める短期契約「ハードシップ・コントラクト」をオファーした。彼女はすぐにLAから飛行機に乗り大陸横断して深夜にニューヨークに到着。そして翌日の試合に出場し12得点を上げ、11アシストをこなすというキャリアハイの活躍をした。

ベルギー代表選手として2度のヨーロッパ・チャンピオンに輝いたヴァンルーだが、WNBAでは控えの選手として解雇を含む苦渋を複数回味わってきた。そんな苦労人の彼女を応援するファンも急増している。

『Sportico』のデータによれば、ニューヨーク・リバティのチーム評価額は6億ドル(日本円で約954億円)。それを上回るのがサンフランシスコ拠点のゴールデンステイト・バルキリーズで、評価額は8億5000万ドル(日本円で約1351億円)に達したという。

投資マネーの流入増加や観客動員数増加、メディア放映権の売り上げなどでリーグが潤うとともに、WNBA選手たちの最低年俸も昨年までの約6万6000ドルから約27万ドルへと今シーズンから約4倍にやっとアップした。

プラムが年俸をあえて100万ドル以下に抑えた意図

そんな中、スパークスの主力のケルシー・プラムは年俸99万9999ドルで今シーズン1年契約している。あえて自らの給料を100万ドル以下に抑えることで、チームがより多くの選手をスカウトできるようにという意図だとして話題になった。

対フィーバー戦で敗戦した後の会見でプラムは「あなた自身が25点得点したことをどう思うか?」と記者に聞かれ「正直それはどうでもいい。それよりミスして相手チームにボールを取られたことが何度かあった。リズムをもっと作らなければ」と悔しそうに語っていた。

プラムは「母の胎内から生まれた瞬間から私の人生の使命は勝つこと」と断言するほどの、筋金入りの負けず嫌いだ。そして、彼女がそんな闘争心を一切隠さずに言語化してメディアを通してファンに伝える点も見所だ。

また、試合に勝ったインディアナ・フィーバーのスタッフに直接聞いたところ、同チームは遠征にもスポーツサイコロジストを同伴させ、練習前には呼吸法のエクササイズを全員でやり、さらにジャーナリングと呼ばれる「自分の思いを紙に書き出す」手法もトレーニングの一環として取り入れているという。

バスケは、フィジカル重視のように見えるが、実はメンタルスポーツでもあるということを、選手もコーチも十分自覚しているということなのだろう。

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試合前の練習風景(写真:筆者撮影)