「PTAのボスママにうんざり」ママ友との関係に悩む親に3児の母・小児精神科医が出した回答
「娘のクラスのAちゃんママは学年2クラスの中でもボス的存在。Aちゃんのお姉ちゃんが優秀で有名私立の中学に入ったこともあって、先生たちや他のママたちもヨイショばかり……。先日、運動会があってみんなAちゃんママ詣でに忙しくて……。子どもの運動会でなんで人間関係を気にしなくちゃいけないのか、ウンザリです」(40歳)
「先日の保育園の遠足のとき、参加したお母さんたちから『Bくんたちとみんなで新しくできた英会話教室に通ってみようかっていっているんだけど、Cくんも一緒に行こうよ』としつこく誘われました。みんなはもう通うことで話がまとまっているようで…。でも、下の子にもお金がかかる時期。『うちは下の子にまだ手がかかるから……』と言いたいけど、輪から外れそうで言い出せません……」(38歳)
保育園・幼稚園や小中学校での保護者同士のコミュニティに難しさを感じる人は少なくない。
株式会社AZWAY が2026年3月に発表した『ママ友付き合いに関するアンケート 』(※1)によると、ママ友付き合いでストレスを感じたことがある人は75.0%もいた。ストレスを感じやすい場面は園・学校行事32.0%、PTA・役員29.7%、グループLINE27.3%と、学校コミュニティが深く関係していた。5月に運動会がある学校も多く、すでにそのストレスを感じた人も少なくないのではないだろうか。

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「小児精神科医をしているのですが、子どもの悩みだけでなく、母親が子どもの学校コミュニティで抱える悩みについて聞かれることは少なくありません。私自身も3人の息子がいるので、親同士の関係性について難しさを感じることはあります。でも、私が住んでいるアメリカ・ボストンよりも日本のほうが親同士のコミュニケーションに悩んでいる人が多いと感じます」
こう語るのは『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』(文春新書)などの著書がある小児精神科医でハーバード大学医学部准教授の内田舞さんだ。内田さんのところに寄せられたある母親からの相談から、親同士の学校コミュニティの呪縛から脱却するかを前後編でお伝えする。
ある母親からの悩み
「子どもの友だちのお母さんグループがつらい……。どうしても気が合わない人がいるのです。その人は上の子も同じ学校に通い、長く学校コミュニティに関わっていることもあって、PTAでも中心的な存在です。先生方とも親しそうで、他のお母さんたちとも自然と打ち解けているように見えます。子ども同士は仲がよいのでイベントで一緒になることも多いのですが、私はそのグループに馴染めず、居心地の悪さを感じます。どうしたらいいでしょうか」
こんな相談を受けました。こういった母親の人間関係に関する悩みは、実はとても多いものです。
けれど、多くの人は、「大人なんだから気にしてはいけない」「母親としてうまくやるべき」「ママ友コミュニティ、学校コミュニティは大事なのだから……」と思い、自分の寂しさや緊張、モヤモヤをなかなか口にできません。
学校コミュニティは、他のコミュニティとは違う独特の空気があります。特に、その地域に長く住んでいたり、幼稚園や低学年のころから親同士の付き合いが続いていたりすると、自然と強い結びつきができていきます。
運動会で隣に座っていたこと。
PTAで 毎年同じ係をしていたこと。
放課後に何度も子どもたちと一緒に遊んだこと。
そうした小さな積み重ねが、「すでに出来上がった輪」に見えることがあります。ですから、転園・転校、クラス替えなどで途中から入った人が少し疎外感を覚えるのは、ある意味とても自然なことで、その輪に自然に溶け込めないのは、あなたの魅力や価値とは全く別の話です。
学校には、時としてPTA活動や保護者ネットワークの中心にいる、“存在感のある親”がいます。先生方とも親しく、情報にも詳しく、他の保護者との付き合いも長い。そんな人を見ると「あの人にどう思われるか」が、必要以上に気になってしまうことがありませんか? でも、その“力”は、実は私たちが感じているほど大きなものではありません。

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その人は本当に力を持っているの?
その人が持っている影響力は、あくまで「その学校コミュニティの中」でのものです。長年学校に関わっていたり、先生方のことをよく知っていたり、保護者ネットワークの真ん中にいたりすると、“中心人物”のように見えることがあります。
でも、その力は学校の外にはほとんど持ち出されません。職場、地域、昔からの友人関係、家族……人には学校以外にもたくさんの世界があります。学校コミュニティを一歩出れば、その人も「ひとりの保護者」に過ぎません。

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こういった「一歩そのコミュニティの外に出れば、人はみな『ひとりの人間』である」事柄は、学校コミュニティに限らず、どんな世界にも共通していることなのかもしれません。
例えば、オリンピック選手はその競技の世界の中では圧倒的な存在感を持ち、多くの評価や注目を集めます。でも、一歩その競技とは関係のない世界に出れば、「ひとりの人」として日常を生きています。部活動でも同じで、その部活の中では絶対的な存在に見える先輩や中心人物も、学校の外に出れば、また別のひとりの人間で、違う印象や評価を受けることは少なくありません。私たちは、今自分がいる小さな世界の空気に、思っている以上に影響を受けます。
その場で誰が中心に見えるか。
誰に認められるか。
誰から距離を感じるか。
でも、その“評価”は、実はとても限定された文脈の中で生まれています。
こういったことを加味してまずお伝えしたいのは、外側からの反応によって、自分が積み重ねてきた努力や、人としての価値まで変わるわけではありません。また、自分が大切だと思っているものや、心から尊敬している人が、世の中の多くの人に理解されるとは限りません。
逆に、多くの人が価値を置いているものに、自分はそれほど魅力を感じないこともあります。人間は、それぞれ違う背景や価値観を持ちながら生きています。だから、「誰にどう評価されるか」を人生の軸にしてしまうと、どうしても心は不安定になります。それよりも、「自分は何を大切にしたいのか」「どんな人間でありたいのか」に意識を戻していくこと。それが、どんなコミュニティの中でも、自分を見失わずにいるための支えになるのかもしれません。
親同士の関係は永遠というわけはない
学校コミュニティやママコミュニティに居心地の悪さを感じると、このモヤモヤしたストレスが永遠に続くような気持ちになります。ですが、保護者同士の関係性は永遠ではありません。私も経験がありますが、実際にはかなり変化します。

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子どもの交友関係が変われば関係性が変化することもあれば、引っ越しなどで転園・転校で会わなくなることもあります。また、子どもの学年が上がるにつれ、親が学校や子どもの生活にかかわる頻度も減りますし、親同士の関わりそのものが減っていくこともあります。
こういった些細な変化の積み重ねから、濃密に感じていたコミュニティの綻びや実は思ったほどベッタリな関係性ではなかったという姿が見えてくることもあります。外から見ると親しく見えるママグループでも、実は中ではさまざまな複雑な思いが交差していることはよくあります。
特に、今は“中心”に見える保護者と学校との距離感も永遠というわけではなく、成長によって大きく変わっていることは珍しくありません。ドラマや映画などでは、学校を牛耳る保護者の存在がよく描かれます。もちろんドラマのように力を持ち続ける保護者もいるかもしれませんが、教育現場や周囲の声、私自身の経験からもひとりの親の権力が長く続くということはないと考えます。だから「絶対なる存在」として恐れる必要はないのです。
子どもの幸せと自分自身の“力”
「そうはいっても学校コミュニティやママコミュニティは子どもに影響するし……」
「私が溶け込めないことで、子ども同士の関係が悪くなってしまうかも……」
「一時的なのであれば、それこそ子どものために我慢したほうがいいのかも……」
と考える方もいます。
確かに、親同士の関係は、子どもに全く影響しないわけではありません。でも、私たちが思うほど決定的でもありません。子どもが小さいころは親同士が介在することもありますが、成長に伴い、子どもも自分自身で友だちを選び、自分自身でコミュニティを形成していきます。そのプロセスの中では、ケンカや仲違いなどが生じることもあるでしょう。でも、それはあくまでも子ども同士のコミュニティであり、自分たちでまずは解決を考えることも必要です。解決が難しい不安や悩みが発生したときに、親などの大人たちが手を差し伸べればいいのです。
ですが、親は先んじて「子どもがいじめられないために」と親同士仲良くせねば、力がある親とコミットしておかねば、と思ってしまいます。でも、子どもにとっては、自分の親がどの親と親しいかよりも、子ども自身が「自分らしくいられる友だち」と出会えることのほうが、ずっと大切なのです。
「自分らしくいられる」ことの大切さは、子どもだけでなく親も同様です。例えば、転校してきたり、今まで仕事が忙しく学校コミュニティに関わってこなくて、アウェイ感を持ったとしても、あなたにはあなたの強みがあります。
私は精神科医なのでこれまでも治療で多くの人の心の悩みに向き合ってきました。人は悩みを抱えていると、自分は他者に比べて価値がない、よい部分がないと思いがちです。ですが、そんなことはありません。どんな人にもその人の魅力や力はあります。
例えば、ひとりの人間として積み重ねてきた経験。学校の外にある人間関係。自分が育んできた価値観や文化。一対一で人と深く繋がる力……。一見派手でない事柄かもしれませんが、それを必要としている人にとっては、とても大きな安心や魅力になります。
だからこそ、お伝えしたのですが、学校コミュニティ、ママコミュニティで中心となる人だけに力があるわけでもなく、そういったコミュニティに順応する=よいことであるとも限りません。「あの人の輪に入れるか」ではなく、 「自分がどんな人間関係を育てたいか」……そこに意識を戻すことで、学校コミュニティの中で感じる息苦しさは、少し軽くなるのかもしれません。

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でも、勘違いしてほしくないのは、学校コミュニティの中で“力を持っているように見える人”に圧倒されそうになったときに大切なのは、相手を否定したり下げたりすることではありません。相手の影響力を、「実際の大きさに戻して捉え直す」ことです。実際の大きさを理解できるようになると、「その人にどう思われるか」が、自分の価値そのものではないことに気づきやすくなると私は思っています。
◇後編「「学校のママ友グループになじむのが難しい」人へ3児の母・小児精神科医が提言する「群れない力」」では、保護者同士のつき合いでもっともストレスを受けやすい「学校行事」での対応について内田さんに引き続き寄稿いただく。