「引き出し屋」の恐怖が今も消えない…自宅から着の身着のまま連行する「自立支援」の被害者たちの訴え
「ひきこもり支援」をうたう施設に自宅から無理に連れ出され、施設に監禁されて精神的苦痛を被ったなどとして、元入所者らが施設の運営法人と代表らに損害賠償を求めた集団訴訟の判決が15日、横浜地裁で言い渡される。原告は「恐怖が今も消えない。被害者を増やさないため、強引な手法は違法だと司法で明確にしてほしい」と求める。(森田真奈子)
◆「自宅に突然、業者が来て…」
「自宅に突然、業者が来て、行き先も分からないまま施設に連れて行かれた」。訴状などによると、原告の1人で30代の渡辺豪介さんは2018年3月、横浜市の自宅アパートを突然訪れた男性3人から「福祉の者で、主治医の精神科医からも相談されて来た」などと同行を求められた。

「司法が手法の違法性を明確にしてほしい」と訴える渡辺さん=横浜市内で
「行政の強制的な措置だろう」と思い込み車に乗ると、着いたのは神奈川県中井町のワンステップスクール湘南校(現在は閉鎖)。訪ねてきた3人は、同校を当時運営していた一般社団法人若者教育支援センター(東京)の理事らだった。
◆小学生向けのドリルや軽い運動をやらされる日々
渡辺さんは大学卒業後、大手通信会社に勤め、過労で精神疾患となり退職。入院し回復した後は、アパートで1人暮らしをして就職活動した。アルバイトで働く予定だったが、家族が施設に入所を依頼していた。入寮費は80万円、月の費用は25万円程度とみられる。
50人ほどが生活していた施設は「社会復帰の支援をする」としていたが、実際には小学生向けのドリル教材や軽い運動などをやらされる日々。外出や外部との連絡も制限された。居室の窓は大きく開かないよう固定され、逃げ出そうとして連れ戻された人も見た。
◆入所者8人で脱出し、保護された
着の身着のままで来たため携帯電話や財布、身分証もなかった。周りの人も同様で、例外的にパソコン使用を認められていた入所者の協力で外部と連絡を試みた。入所4カ月後の同年7月、8人で抜け出し、福祉施設に保護された。
集団訴訟の原告は、渡辺さんを含め首都圏や沖縄県などの20~40代の男性5人。2020年10月に提訴した。意に反して入所させられ、外出を制限されたとしてセンターや代表理事らを相手取り、1人当たり440万円の賠償を求めた。
◆被告側は「本人の同意なしには入れない」と主張
うち原告2人について地裁は昨年12月、被告が承諾なく自由を違法に制限したと認め、慰謝料計70万円を支払う義務があると決定。訴訟で被告側は「本人の同意なしに施設には入れない。入寮中も外出の自由がある」などと主張したが、決定を受け入れ、原告側代理人によると慰謝料は既に支払われた。

横浜地裁(資料写真)
渡辺さんは、精神疾患での療養や仕事を辞めただけで入所させられた例も目立つとし「『ひきこもり』の問題ではない。『社会的におかしい』とレッテルを貼られただけで被害に遭う」と訴える。法人側弁護士は取材に「従前の主張と変わりない」とコメントした。
◇
◆違法性を認定した判決が相次いでいる
ひきこもりや不登校の人たちへの支援などを語り、本人の意に反して自宅から連れ出す業者は「引き出し屋」と呼ばれ、各地で問題となってきた。
自宅から連れ出され、実態のない支援で多額の契約料を支払わされたとして、親子が損害賠償を求めた訴訟では、東京地裁が2019年、業者に約500万円の支払いを命じた。自立支援施設に入所させられた女性が原告の訴訟では、東京地裁が2022年、業者と入所を契約した母親に計約55万円の損害賠償を命じるなど、業者側の違法性を認定する例が相次ぐ。

(本文とは関係ありません)
「悪質な自立支援ビジネスが横行している」との声を受けて国も2020年、被害者へのヒアリングを実施。2024年の生活困窮者自立支援法の改正では、付帯決議に「いわゆる引き出し屋による被害防止の措置を講じる」と明記された。
引き出し屋問題に詳しいジャーナリストの加藤順子さんは「意に反した連行や移動の自由の侵害が司法で認められた例が積み上がっている。国が問題点を整理し、被害を続けないための具体策を、制度に落とし込むべきだ」と指摘する。
【関連記事】"ひきこもり支援と称して監禁、財布や携帯も取り上げ…「引き出し業者」の違法性認め慰謝料支払いを決定 横浜地裁
【関連記事】"監視カメラに鉄格子、所持金は取り上げられ… 引きこもり支援の「引き出し屋」を集団提訴
【関連記事】"江戸川区の不適切発注「検証できず」 監査委員、工事には「重過失がある」 業者への損害賠償請求を勧告