中国出身テロリストがシリア軍幹部に抜擢──それでも各国が黙認する理由

<アメリカはシリアに対する1970年代以来の制裁を事実上解除し、中国も暫定政権との間で投資・貿易などに関する協議を進めている>, 中国出身テロリストの「昇進」, ザヒードだけではない, シリアを制圧した過激派, 「次は中国の番だ」, 米国の安全保障、欧州の難民

中国出身テロリストがシリア軍幹部に抜擢──それでも各国が黙認する理由

シリアのアル・シャラ暫定大統領と面会する米トランプ大統領。サウジアラビア政府の仲介で実現(5月14日、サウジアラビア・リヤド) Saudi Press Agency/Handout via REUTERS

<アメリカはシリアに対する1970年代以来の制裁を事実上解除し、中国も暫定政権との間で投資・貿易などに関する協議を進めている>

・昨年12月に首都を陥落させ、実権を握ったシリア暫定政権は、軍の新幹部に数多くの外国人戦闘員を抜擢し、そのなかには中国出身者も含まれる。

・シリアの外国人戦闘員は2012年以降、世界各地から集まったイスラーム過激派で、アル・シャラ暫定大統領もサウジアラビア出身である。

・しかし、米中をはじめ各国はそれぞれの理由からシリア新体制との関係を優先させているため、外国人戦闘員の問題を実質的には不問に付している。

中国出身テロリストの「昇進」

米トランプ大統領は5月14日、シリアのアル・シャラ暫定大統領と会談し、両国の関係改善を協議するなかで「外国人戦闘員の追放」を求めた。

フランス、ドイツなどヨーロッパ各国首脳も同様の懸念を示している。

シリアの外国人戦闘員とは何者か。

その象徴ともいえるのが通称ザヒード、本名アブドルアジズ・ダウド・フダヴェルディだ。

ザヒードは中国西部にある新疆ウイグル自治区出身の48歳。イスラーム過激派組織トルキスタン・イスラーム党(TIP)メンバーだ。

ウイグル人のほとんどはムスリムで、中国共産党体制に対する抵抗が根強い。その分離独立運動には平和的なものが多いが、一部はアルカイダなど国際テロ組織に結びついている。

中国は平和的な抵抗運動も含めてすべての反対派をテロリストとみなし、押さえ込んできた。習近平体制のもとでは多くのウイグル人を強制収容所に隔離するなど、取り締まりがエスカレートしている。

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このウイグル自治区生まれのザヒードは昨年12月、シリア軍准将に任命された。

ザヒードだけではない

ただし、シリア軍の外国人戦闘員はザヒードだけではない。

その人数は定かでなく、1500~6000人程度とみられる。シリア軍全体に占める割合は大きくないが、比較的高い階級の者が珍しくない。英BBCによると、昨年12月に発表されたシリア軍の新幹部約50人のうち、少なくとも6人はザヒードを含む外国人で、いずれも出身国でテロリストと認知される者ばかりだった。

なぜ彼らはシリア軍幹部になれたか。その曰くはシリア内戦にさかのぼる。

シリアでは2011年初頭、強権的なアサド政権に対する民主化運動が広がり、これを軍が鎮圧するなかで内戦に発展した。混乱に乗じてアルカイダ系組織が流入し、それがさらに分裂して2014年にはイスラーム国(IS)が誕生した。

アルカイダ系も外国人中心だったが、ISはさらに世界中に参加を募り、最盛期には約3万人がシリアに渡航したといわれる。

ザヒードはこうした外国人戦闘員の一人で、2012年にそれまで拠点にしていたアフガニスタンからシリアに渡ったといわれる。

シリアを制圧した過激派

外国人戦闘員の多くは2015年以降シリアを離れた。ロシアの支援を受けたアサド政権が、反政府勢力の占領地の多くを奪還したからだ。

ところが、それでも一部の外国人戦闘員はシリアにとどまり、北西部イドリブ周辺を支配し続けた。

転機は昨年12月だった。イスラーム過激派タハリール・アル・シャーム機構(HTS)を中核とする反政府連合が首都ダマスカスを攻略し、アサド政権はもろくも崩壊したのだ。

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HTSを率い、その後暫定大統領に就任したアル・シャラ自身サウジアラビア出身で、アルカイダ系組織の一員だった経歴の持ち主でもある。そのためアル・シャラの周囲には内戦時代からの外国人戦闘員が多い。

このなかでザヒードを含むウイグル人は、中央アジア出身者とともにアル・シャラの警備を担ってきたといわれる。

こうして外国人戦闘員のなかから新生シリアの正規軍幹部が誕生したのだ。

ただし、この状況に多くの国は懸念を表明しながらも、実際には曖昧に済ませている。

「次は中国の番だ」

例えばアメリカは、外国人戦闘員の排除が確約されていないなか、シリアに対する1970年代以来の制裁を事実上解除した。ヨーロッパもほぼ同様だ。

さらにザヒードの出身国、中国も例外ではない。

中国は冷戦時代からアサド政権と友好的だった。さらにザヒードの立場がオーソライズされれば、ウイグル過激派が活気づきかねない。

実際、ダマスカス陥落直後、ウイグル人戦闘員は「次は中国の番だ」と動画で発信した。

ところが中国政府は「テロ対策の重要性」を強調しつつ、今年に入ってシリア暫定政権との間で投資、貿易などに関する協議を進めている。

各国のこうした反応の一因は、シリア暫定政権による過激派イメージ払拭にある。

HTSをはじめ過激派のなかには「イスラーム国家建設」を標榜する者も珍しくなく、ダマスカス攻略以前、イドリブなどの支配地で女性の権利制限、キリスト教徒など異教徒の弾圧といった人権侵害が目についた。

ところが、暫定政権発足の前後からHTSは方針転換し、少数民族クルド人との協議を進めたり、キリスト教徒の女性を閣僚に加えたりして、新生シリアの建設をアピールしている。

それは「外国にテロ攻撃をしない」という暗黙のメッセージといえる。アメリカがアフガニスタンのタリバンと最終的に和平合意した一因は、「アフガニスタンを外国攻撃の拠点にしない」とタリバンが確約したことにあった。

米国の安全保障、欧州の難民

ただし各国の「物分かりのよさ」は、これだけが理由ではない。むしろ各国はそれぞれシリアと良好な関係を築きたい立場にある。

たとえばアメリカは、安全保障上の理由からシリアを取り込みたい。

アサド政権時代、シリアはイランと良好な関係にあった。一方、アメリカは1979年からイランを「テロ支援国家」に指定してきた。

ところでイランはレバノンのシーア派組織「ヒズボラ」を支援していて、シリアはそのための武器流通拠点でもあった。ヒズボラはイスラエルと敵対している。

<アメリカはシリアに対する1970年代以来の制裁を事実上解除し、中国も暫定政権との間で投資・貿易などに関する協議を進めている>, 中国出身テロリストの「昇進」, ザヒードだけではない, シリアを制圧した過激派, 「次は中国の番だ」, 米国の安全保障、欧州の難民

つまり、アサド政権を倒してヒズボラやイランと対立するシリア暫定政権との関係は、アメリカにとって「敵の敵は味方」の論理から重視せざるを得ない。

次にヨーロッパの場合、最大の焦点は難民問題だ。

シリア内戦の激化によって発生したシリア難民は600万人以上におよび、ヨーロッパ各国も2014年以降受け入れてきた。しかし、シリア難民の急増はヨーロッパで反移民の気運をそれまでになく高め、極右が台頭する一因にもなった。

そのためヨーロッパ各国は昨年12月、ダマスカス陥落の直後、まだ治安回復が確定していないなかでシリア難民帰還を後押しし始めた。

とすると、たとえアル・シャラの「脱過激派」が表面的なものだとしても、ヨーロッパ各国にとってシリア難民帰還を加速させるには暫定政権との良好な関係が不可欠といえる。

一帯一路の拠点

そして最後に、中国にとっておそらく最も重要なのはシリアの立地条件だ。

中東、ヨーロッパ、アフリカの繋ぎ目に当たるシリアは、中国の進める「一帯一路」でも重要な場所にある。

アジア、中東方面から地中海にぬけるルートで大きな物流拠点の一つがイスラエルのハイファだが、この地域ではイスラエル軍とヒズボラの衝突がしばしば発生していて、安全保障リスクが高くなっている。

<アメリカはシリアに対する1970年代以来の制裁を事実上解除し、中国も暫定政権との間で投資・貿易などに関する協議を進めている>, 中国出身テロリストの「昇進」, ザヒードだけではない, シリアを制圧した過激派, 「次は中国の番だ」, 米国の安全保障、欧州の難民

そのためアジアとヨーロッパを結ぶ交易において、シリア西部のラタキア、タルトゥースなどの港湾都市の重要度はこれまでより高まっている。中国がこれを重視するなら、ザヒードなどウイグル過激派の問題を多少大目にみても不思議ではない。

このように各国がそれぞれの事情からシリアとの関係を重視せざるを得ないなか、暫定政権はそれを利用して国際的な立場を確立しつつある。とすると、仏紙ル・モンドが5月20日、「アル・シャラが外交的ギャンブルで勝利を収めつつある」と評したのは、まんざら誇張とはいえない。

その現実的、実利的対応を考えると、シリア暫定政権は単なる過激派の寄り合い世帯から脱皮しつつあるといえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース エキスパートからの転載です。

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