卒業生の半数が海外大学に進学 「環境」を必修教科とする福岡・中高一貫校の「和魂英才」

インドから訪れた生徒と環境問題について議論するリンデンホール中高学部の生徒たち=6月6日、福岡県筑紫野市(一居真由子撮影)

国語や数学などと並んで「環境」を必修教科にしているユニークな学校が福岡県筑紫野市にある。中高一貫の私立「リンデンホールスクール中高学部」。文部科学省の教育課程特例校に指定され、全国で唯一、環境の時間をカリキュラムに組み込む。6月の環境月間に合わせ同校を訪問し、狙いを聞くと、世界共通の課題である環境問題や対策を学ぶだけでなく、古来日本が大切にしてきた「自然との共生」「畏敬の念」といった和の心を理解するという深い理由があった。

国語以外は英語で授業

6月6日、同校の教室では生徒たちがインドから来校した中学生と、環境問題について議論する姿があった。プレゼンテーションを含めて全て英語だが、生徒は臆せずに自分の考えを伝える。

リンデンホールスクール中高学部の環境の授業で、生態系について英語で学ぶ高校生=6月13日、福岡県筑紫野市(一居真由子撮影)

環境月間に設けた国際交流で、リンデンホールスクールの生徒は「リサイクルされた素材で循環型ポリエステルの体操服をつくった」と独自の取り組みを紹介。インドの生徒からは「インドでも大気汚染が深刻。日本人の環境への意識の高さを自国に戻って伝えたい」との声があがった。

学校では国語以外の授業は英語で行われ、その環境で生徒たちは英語を自由に使えるようになる。参加した姫野結月さん(15)は「大気汚染や温暖化など、国ごとに異なるテーマに各国がどのように力を入れるかに関心がある」と話し、吉岡実咲さん(14)も「環境と人々の暮らしが調和する方法を授業で学びたい」と意欲をみせた。

リンデンホールスクール中高学部の環境の授業で植物の生態を調べる高校生=6月13日、福岡県筑紫野市(一居真由子撮影)

国連の資料参考に教材

学校法人「都築育英学園」が運営する同校は、平成22年に開校。当初から環境を基礎科目に取り入れ、中学では週に1回、高校では国際的な教育プログラム「IBコース」の受講生が週5回学ぶ。

中学では環境や生態系に関する知識習得や調査、問題の解決法を考えることに力点を置き、高校はより専門的な探求活動や研究発表を行う。学習は「発電とその課題」「製品やサービスの環境負荷」などから、「インドネシアのパーム油とオランウータンを通じて環境保護を考察する」といったテーマまで幅広く、担当教諭のグリム・リサさん(27)が国連や海外の大学の資料などを参考に教材を作成している。

米ポートランド出身で、大学では環境政策と生物学を学んだリサ教諭は「環境が自分や人類にどうつながっているかを知り、問題の解決方法や取り組み方を身に付けてほしい」と語る。フィールドワークにも力を入れ、昨年は高校1年の生徒がインドネシアでの世界水フォーラムに参加し、地元の川で50種類以上の魚が絶滅の危機にひんしていることを各国参加者に発信。米ニューヨーク国連本部での2023年国連水会議ユースセッションで、共同議長を務めた卒業生もいる。

「日本の文化や価値観を学ぶことが大切」と語るリンデンホールスクール中高学部の都築明寿香校長=福岡県筑紫野市(一居真由子撮影)

日本への理解を深める

全校生徒約90人のうち帰国子女は4分の1程度だが、国際感覚を身に付けた生徒の多くは海外を目指す。令和6年度も卒業生の約半数が海外の大学に進学した。イギリスの大学で海洋汚染を引き続き研究する学生もいるほか、ある卒業生は大学在学中に起業。クローゼットに眠る洋服を個人間で貸し借りするユニークなサービスを立ち上げ、大量に生産し消費する現代の課題に一石を投じる。

ただ、環境を必修教科に取り入れた狙いは意外にも「日本への理解を深めること」という。都築明寿香校長は「日本人には自然との共生や調和、自然を崇敬する心がある。それを教科とすると環境になる」と説明する。

古来日本は、山や岩、木や滝など自然物に神が宿るという考えを重んじ、畏敬の念を抱いて生きてきた。その気持ちが日本人の精神性と品格を形成し、今につながっている。環境の授業の根底には自然との共生を学び、日本の文化や価値観を身に付けてほしいという意図があるという。

海外に出れば自国の代表として「日本ではどうか」や「日本人としてどう思うか」を問われる機会が多い。「世界に飛び立つと、自国の文化や国民性といったバックグラウンドが非常に大切になる。日本人としてのアイデンティティーが確立されていなければ、世界と渡り合えず、グローバルな舞台では活躍できない」と都築校長は言う。

同校は「和魂英才」を教育理念に掲げる。日本の精神を持ち、英語をツールとして使う国際人材の育成を目指しており、学問の神様・菅原道真が提唱した「和の心を大切にし、中国大陸の学問を活用する」という「和魂漢才」に由来する。「和魂のたねプロジェクト」として歌舞伎などの伝統文化を深く学ぶ機会も設け、リンデンホールスクール小学部では、児童が古事記を学習している。

環境の授業では日本と西洋の自然への関わり方の違いなども伝えている。現代において失われつつある日本人の精神性を、環境の授業が教えてくれる。(一居真由子)