外国人の替え玉受験、組織的犯行多発のTOEIC不正。問題は日本式試験の脆弱性

TOEIC、日本語能力試験……日本でのキャリア構築のための重要な試験で、外国人による不正が相次ぐ。
日本で実施されている試験で、外国人による不正が相次いでいる。英語の能力を測る日本生まれの試験「TOEIC」で「替え玉」役と見られる京都大学院生が5月に逮捕されたほか、日本語関連の試験でも昨冬以降ベトナム人による不正・逮捕が続発した。
いずれも組織犯罪の疑いが濃く、日本の不正対策の緩さが指摘されている。ただ、TOEIC870点のスコアを持ち、日本語能力試験(JLPT)講座で講師を務めた経験がある筆者からすると、これら日本生まれの試験そのものに不正をしやすい構造があり、AI(人工知能)と通信機器技術の進展を考慮すると、監視強化だけでは足りず、試験方法の抜本的な見直しを取るべきだと考えている。
逮捕者出ても替え玉チャレンジやめない中国人
5月18日、TOEIC公開テストの試験会場で替え玉役と見られる中国籍の京都大学大学院生・王立坤(おうりつこん)容疑者が逮捕された。これまでの捜査で、王容疑者が過去の試験でも別人になりすまして受験していたことや、王容疑者ら約40人が同じ住所で試験を申し込んでいたと判明している。
事件を取材する大手マスコミの記者によると、同事件に関わっている中国人の多くがこの日の受験のために中国から来日していたようで、「TOEIC不正受験ツアー」が行われていたとの見立てもある。なかなかのパワーワードだ。
王容疑者の逮捕を受け、筆者はテレビ局の取材に「今回の逮捕が見せしめとなり、TOEICの替え玉受験はしばらく落ち着くのでは」と答えていた。
ところが報道によると、6月7日のTOEICテストでも、都内の会場で中国籍の10人がカンニングをしようとしたのを警視庁の捜査員が発見し、任意で事情聴取したという。申し込みの住所はまたしても全員同じだったそうだ。
一度雷が落ちた場所は、しばらく安全とでも考えたのだろうか。
中国人による試験不正は大きく報道されやすい。日本人には想像もつかない斜め上を行く手口が多いし、「中国の壮絶な学歴社会」「中国のカンニング対策のすごさ」と結び付けて解説しやすいからだろう。事実、筆者もその角度でコメントをしばしば求められる。
しかし「中国」に目を奪われていると、この問題の本質を見誤ると筆者は考えている。
中国人によるTOEIC不正が大きな反響を呼んだのは、TOEICの認知度の高さも理由になっている。実際には外国人の不正行為は日本語関連試験の方でより多発しているし、日本語試験の不正で逮捕されるのはほぼベトナム人だ。日本人が受けない試験なので世間の関心は低いが、在留資格に関係している分、個人的にはこちらの方が深刻だと思っている。
「TOEIC」「日本語」の試験で替え玉受験などの不正行為が相次ぐ背景について、両試験の共通点を挙げながら深掘りしたい。
共通点1:日本でのキャリア構築に重要な試験

日本で介護職に就く外国人を対象にした日本語試験でも、替え玉受験が起きている。
TOEICで不正行為を働いた中国人は、日本での入試に向けて公式証明書が必要なのだと推察できる。
TOEICは、日本人の英語力の物差しをつくるために、アメリカのテスト開発機関「ETS」に依頼して開発された日本発祥の試験だ。公式には「160カ国で実施されている」と説明されているものの、日本と隣国の韓国以外の国ではそれほど認知されているわけではない。
TOEICの日本の運営団体である国際ビジネスコミュニケーションのサイトで2018年に公開された記事では、「(TOEICは)世界で700万人が受験している」と言及されている。
同年度の日本での受験者は約266万人のため、かなりの比率を日本が占めていることが分かる。日本人の受験者が多い理由は、そのスコアが入試や採用、昇進など人生を左右する幅広いシーンで使えるからに他ならない。
国際ビジネスコミュニケーション協会が2021年に日本の大学院を対象に実施した調査によると、92校中77校が入学試験でTOEICを活用していた。
中国では近年の就職難を背景に大学院進学者が増加している。そして中国人の間で、日本の大学院は入りやすいと認識されている。つまり、日本での大学院進学を目指す中国人の一部が、入試で有利になるように不正を働いたと考えることができる。

TOEICではこの6月、受験要領を改定している。
次に日本語関連の試験。こちらは言わずもがな、日本に留学するにしても、働くにしても非常に重視される。外国の日系企業で働く上でも重要だし、特に日本語能力試験の2級以上の合格は、日本語学科の学生が卒業するための要件になっていることも多い。昨年12月実施の同試験では、極めて不自然な同じ解答が集中したことが明らかになっているが、産経新聞の報道などによると、中国で他国より早く試験が実施され情報が漏れた疑いがあるという。
昨年12月に独立行政法人の国際交流基金が実施した「日本語基礎テスト」では、依頼者、替え玉合わせてこれまでベトナム人7人が逮捕された。同テストの判定は「特定技能」の在留資格申請などに利用でき、技能実習生が特定技能の資格を得て収入増を図るために不正を働いたと可能性が高いと報道されている。読売新聞は同試験を巡って国際交流基金が同月に「替え玉が疑われる受験が約100件ある」と府警に相談したと報じた。
ちなみに入試の不正は偽計業務妨害罪や有印私文書偽造罪、偽造有印私文書行使罪などが適用されるが、本件の容疑者は入管難民法違反の疑いでも逮捕されている。
6月19日には、昨年12月に厚生労働省が実施した介護日本語評価試験で「替え玉受験」をあっせんしたとして、ベトナム国籍の容疑者が逮捕されたと報じられた。こちらも特定技能の在留資格申請に利用できる。容疑者はSNSを通じて替え玉受験の希望者を募り、報酬の一部を受け取っていた疑いがあるそうで、同事件でも既に複数の逮捕者が出ている。
共通点2:全問選択式の試験問題
逮捕者が出ているこれらの試験のもう一つの共通点が、試験が全問選択式、平たくいうとマーク試験であることだ。記述試験に比べてマーク試験の方が会場で通信機器を用いた不正がやりやすいのは、何となく想像がつくだろう。2022年の大学入学共通テストでも通信機器を使った不正が発覚している。
昨年12月以降の試験で逮捕者が続出しているのは、最近不正行為が増えたというより、以前から横行していた替え玉受験が運営側として見過ごせない水準に達し、警察も積極的に摘発するようになった結果だろう。
実際、これらの試験の運営側は、この1、2カ月で本人確認、電子デバイスの利用制限を強化している。
たとえば日本語能力試験の運営団体は、海外で実施する試験について2025年7月6日実施分から休憩時間も含めた通信機器の利用を禁止する。
TOEICも6月22日実施の公開テスト試験で、受験者の電子機器の電源がオフになっているかと、メガネにに通信機能がついていないかを確認すると発表した。
Xでは「検査が厳しくなった」と多数投稿されている。
AIの進化考慮した試験改革必要

中国の大学入試では非常に厳しい持ち物検査が行われるが、日本で同じことはできないだろう。
ただ、通信機器の持ち込みチェックを強化したところで、結局のところいたちごっこではないだろうか。中国の大学入試は金属探知機による検査、電波遮断、ロボット犬やドローンによる監視など、超絶厳しい対策が取られているが、それでも2年に1回ほどすり抜ける事例が報告される。
メガネの通信機能を確認したとしても、マスクの下の小型マイク、髪の毛で隠した超小型イヤホンマイクを、人権意識の高い日本にあって徹底検査できるだろうか。
替え玉受験のような大がかりな不正でなくても、ウェブ試験で生成AIに答えを聞くといった不正は水面下で広く行われているかもしれない。不正のハードルは物理的・心理的ともにこれまでになく低くなっている。
日本の試験で不正が発覚すると、マスコミの記者から「どうすれば防げるか」についてコメントを求められ、筆者はこれまで「持ち物検査の徹底」など運営会社が今やっているような対策を挙げてきたが、組織的不正が止まないのを見ているうちに、試験の「本来の趣旨」に立ち帰り、試験方法そのものを見直す必要があると考えるようになった。
大学・大学院入試や在留資格に使われるなど影響力が大きい語学試験は全問択一式にせず、スピーキング試験を加えるべきだ。グローバルに認められている英語試験のTOEFLとIELTSはスピーキングがあり、集団不正はしにくい。
語学能力試験の多くは、業務や学校生活を遂行するあたって必要な語学力を身に着けているかを確認する試験である。そして選択式の試験が測るのは、文法、読解、リスニングの能力だ。
現実はどうだろうか。ChatGPTの登場以来、筆者は外国語を読んだり書いたりする際は、最初にAI翻訳にかけるのがすっかり当たり前になった。かつては「海外のニュースや文書を理解する」「外国人とテキストでコミュニケーションする」ためにそれなりの英語力が必要だったが、今は多くをAIに丸投げできる。
一方で会話力はまだまだAIに頼れない部分が大きい。翻訳アプリ、リアルタイムAI翻訳があるじゃないか、と思う人もいるかもしれないが、実際の外国語の会議や質疑応答でデバイスを使っていたら流れについていけなくなる。
冒頭で筆者のTOEICは870点と書いたが、その点数を取るために培った単語力や文法理解はAIに代替されるようになって、本格的に学習に取り組んだことがなかった会話が相対的に重要になっている気がする。だから今になって、ひいこら言いながら会話練習をしている。
TOEICは実は複数の試験形式があるが、択一式問題で聴解力と文法・読解力を測るListening & Readingテストが受験者のほとんどを占めている。就活や入試の指標に使われているのは同テストだし、受験者にとってはスピーキング試験を受けるメリットが見出しにくい。
組織的な不正をなくすために、さらには時代に合わせて試験をアップデートする上でも、コストがかったとしても試験方式を見直す意義は大きいし、入試や在留資格に活用する側も、試験のスコアを活用する趣旨と妥当性を真剣に考える時期に来ているのではないだろうか。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。「新型コロナ VS 中国14億人」「崖っぷち母子 仕事と子育てに詰んで中国へ飛ぶ」(大和書房)。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。