無期懲役が「事実上の終身刑」に…27年前の「マル特無期」通達が本紙に公開 当時の背景と見落とされた視点

<「マル特無期」を問う>前編

 無期懲役刑が確定した事件のうち、「特に犯情等が悪質な者」を「マル特無期」として選定し、仮釈放の際に検察側が厳しい意見で臨む運用が行われている。1998年に最高検が出した通達が根拠となっているが、これまで通達の存在や運用状況は非公開となっていた。「こちら特報部」の情報公開請求で、その一端が判明。「マル特無期」に指定することで、「事実上の終身刑化を招く」との懸念の声も上がる。通達の是非を検証する。(木原育子)

◆「特に犯情等が悪質」な事件は「マル特」扱い

 今から27年前の1998年6月18日に、最高検の堀口勝正(故人)次長検事名で、全国の地検高検に出された通達。一体、どんなものだったのか。

 ◆「特に犯情等が悪質」な事件は「マル特」扱い, ◆検察が「仮釈放」に意見を求められた場合に「備える」, ◆「マル特無期事件整理簿」を読むと、544人が対象か, ◆通達当時は「無期刑でも18年ほど服役すれば仮釈放できた」, ◆「通達の廃止を検討する必要があるとは考えていない」, ◆「受刑者の更生の可能性という将来に向けた視点を考慮していない」, ◆「更生したと考えられる人を永続的に収容し続けることは合理的ではない」

情報公開請求で開示された1998年の通称「マル特無期」通達

 「こちら特報部」の情報公開請求で開示された文書は、A4サイズ11枚とA3サイズ1枚。表紙に「取扱注意」と書かれている。通達は、無期刑判決を受けた人について「終身又はそれに近い期間の服役が相当と認められる者もいる」とし、「犯情に即した適正な刑の執行が行われるべき」と指摘。「特に犯情等が悪質」とした事件について「相当長期間にわたり服役させる」よう、地方更生保護委員会から求められた仮釈放に対する意見には「より適切で説得力のあるものとする必要がある」とした。

 対象事件を、マルで囲った「特」の文字を使って表現したため、「マル特」と呼ばれてきた。具体的には、無期刑の判決が出された時点で、地検、高検が最高検と協議して「マル特無期事件」を選定するとしている。

◆検察が「仮釈放」に意見を求められた場合に「備える」

 日本の司法制度に終身刑はなく、死刑に次いで重い刑罰が無期刑だ。さらに無期刑受刑者にも仮釈放はあり、刑法28条は「改悛(かいしゅん)の状があるときは無期刑については10年を経過した後、行政官庁(地方更生保護委員会)の処分で仮に釈放することができる」と定める。

 仮釈放は刑事施設(刑務所など)からの申請を受け、地方更生保護委員会の合議で決める。その際、刑の執行権者である検察官に意見を求めることができる、とされる。

 ◆「特に犯情等が悪質」な事件は「マル特」扱い, ◆検察が「仮釈放」に意見を求められた場合に「備える」, ◆「マル特無期事件整理簿」を読むと、544人が対象か, ◆通達当時は「無期刑でも18年ほど服役すれば仮釈放できた」, ◆「通達の廃止を検討する必要があるとは考えていない」, ◆「受刑者の更生の可能性という将来に向けた視点を考慮していない」, ◆「更生したと考えられる人を永続的に収容し続けることは合理的ではない」

黒塗り公開されたマル特無期事件整理簿。整理番号を数えていくと…

 ただ、2004年の刑法改正で有期刑が最長20年、加重で30年となり、無期刑受刑者が30年未満で仮釈放が認められたのは2014〜23年でわずか2人。無期刑受刑者は2023年末時点で1669人いるが、社会で更生するのは1%にも満たない狭き門になっている。

 通達で最高検は、マル特無期事件で仮釈放の意見を求められた場合に備え、「担当検事がその時点で問題意識を持ち、関係資料を容易に参照して臨み得るよう」事件の概要や経緯などをまとめておくことを要請している。つまり、仮釈放の決定権は地方更生保護委員会にあるものの「マル特無期」という存在を作り出したことで、更生の可能性の有無にかかわらず、仮釈放の審理で不利な影響を与えかねない制度となっている。社会での更生を認めない、「事実上の終身刑」を科しているともとれる。

◆「マル特無期事件整理簿」を読むと、544人が対象か

 実際、どれぐらいの人が選定されているのか。今回、情報公開請求で「マル特無期事件整理簿」を入手。公表されたのは2018年から今年3月に請求した時点の計378ページ。整理番号と作成年月日、氏名、事由などの項目があるが、内容はすべて黒塗りだった。ただ整理番号を集計すると、2018年から2023年で新規で計66人が選定されたとみられ、同時期に無期刑が確定した102人の6割以上が対象だったことになる。

 ◆「特に犯情等が悪質」な事件は「マル特」扱い, ◆検察が「仮釈放」に意見を求められた場合に「備える」, ◆「マル特無期事件整理簿」を読むと、544人が対象か, ◆通達当時は「無期刑でも18年ほど服役すれば仮釈放できた」, ◆「通達の廃止を検討する必要があるとは考えていない」, ◆「受刑者の更生の可能性という将来に向けた視点を考慮していない」, ◆「更生したと考えられる人を永続的に収容し続けることは合理的ではない」

 2018年以降、マル特無期に指定された受刑者は年間20人以下で推移する。2025年に入って選定されたのは4人で、現時点では選定者全体は計544人に上るとみられる。

◆通達当時は「無期刑でも18年ほど服役すれば仮釈放できた」

 だが、そもそもなぜ最高検は、マル特無期の通達を出す必要があったのか。

 当時のことを知る元最高検検事は「昔も今も死刑の次は無期刑。ただ、当時は無期刑でも18年ほど服役すれば仮釈放できた。死刑と無期刑の間が開き過ぎていて、内部で大きな問題になっていた」と振り返る。

 ◆「特に犯情等が悪質」な事件は「マル特」扱い, ◆検察が「仮釈放」に意見を求められた場合に「備える」, ◆「マル特無期事件整理簿」を読むと、544人が対象か, ◆通達当時は「無期刑でも18年ほど服役すれば仮釈放できた」, ◆「通達の廃止を検討する必要があるとは考えていない」, ◆「受刑者の更生の可能性という将来に向けた視点を考慮していない」, ◆「更生したと考えられる人を永続的に収容し続けることは合理的ではない」

検察庁が入る中央合同庁舎6号館=東京・霞が関で

 前年の1997年10月、後に「全国犯罪被害者の会(あすの会)」代表幹事を務めた、山一証券の代理人弁護士の岡村勲氏の妻が殺され、犯罪被害者の権利運動の声が高まった時期でもある。「厳罰化の社会背景もあり、通達を出したと記憶している」と続けた。

◆「通達の廃止を検討する必要があるとは考えていない」

 通達について最高検総務部の大口康郎検事は「法律に定められた仮釈放制度の運用の範囲で定められているもので、内容も適正である」と説明。「地方更生保護委員会から仮釈放に関する意見を求められた際に、適切な意見を述べることなどを求めるべく本通達を定めた」とし、「通達の趣旨は、仮釈放を否定するものではなく、無期懲役受刑者の改善更生も考慮するものだ」とコメント。検察側が意図的に仮釈放を認めないとも取れる見方を否定した上で「通達の廃止を検討する必要があるとは考えていない」とした。

 「仮釈放の理論」の著書がある慶応大の太田達也教授(刑事政策)は「検察官はあくまで刑の執行指揮権者の立場から意見を書いているのであり、その意見に拘束力もない。無期刑には死刑に限りなく近い罪を犯した者もおり、検察官が(仮釈放に)慎重になるのは当然だ」とした一方、こう指摘する。「ただ、一般に検察官は事件の重大性を中心に意見をまとめていると思われ、本来、更生や再犯防止のための制度である仮釈放に対する意見を検察官がどういう基準で書くべきか、指針がないのは問題だ」

◆「受刑者の更生の可能性という将来に向けた視点を考慮していない」

 日本の刑事司法に詳しい、英国ロンドン大の佐藤舞教授(犯罪学)も「検察官の求意見は既に起きた犯行のみに焦点を当てた『後ろ向き』の評価で受刑者の更生の可能性という将来に向けた視点を考慮していない。この通達で地方更生保護委員会の審理の選択肢が狭められている可能性がある」と訴える。

 国会も動き始めた。今年5月の衆院法務委員会で、弁護士の藤原規眞(のりまさ)議員(立憲民主)が、通達を境に仮釈放された無期刑受刑者の数が大幅に減少していることを指摘。仮釈放が許可された数は通達前の1989年から1997年までは年平均約16件だったが、通達の翌1999年から2023年までは約7件と半数以下に減った。

 ◆「特に犯情等が悪質」な事件は「マル特」扱い, ◆検察が「仮釈放」に意見を求められた場合に「備える」, ◆「マル特無期事件整理簿」を読むと、544人が対象か, ◆通達当時は「無期刑でも18年ほど服役すれば仮釈放できた」, ◆「通達の廃止を検討する必要があるとは考えていない」, ◆「受刑者の更生の可能性という将来に向けた視点を考慮していない」, ◆「更生したと考えられる人を永続的に収容し続けることは合理的ではない」

鈴木馨祐法相(資料写真)

 有期刑の最長が30年に厳罰化されたことを挙げ、藤原氏は「2004年の刑法改正時に通達を廃止すべきだった」とただしたが、法務省の森本宏刑事局長は「趣旨は引き続き妥当しており指摘は当たらない」と突き放した。鈴木馨祐法相も「廃止を検討する状況ではない」とした。

◆「更生したと考えられる人を永続的に収容し続けることは合理的ではない」

 だが一概に、刑務所の中で服役することだけが罪を償うということでもない。

 ◆「特に犯情等が悪質」な事件は「マル特」扱い, ◆検察が「仮釈放」に意見を求められた場合に「備える」, ◆「マル特無期事件整理簿」を読むと、544人が対象か, ◆通達当時は「無期刑でも18年ほど服役すれば仮釈放できた」, ◆「通達の廃止を検討する必要があるとは考えていない」, ◆「受刑者の更生の可能性という将来に向けた視点を考慮していない」, ◆「更生したと考えられる人を永続的に収容し続けることは合理的ではない」

刑務所を取り囲む高い塀(写真は記事とは直接関係ありません)

 無期懲役刑で30年以上服役し、数年前に仮釈放された男性は「服役中も被害者のことを思っていたが、仮釈放の今の方が贖罪(しょくざい)の思いが強い」と明かす。「料理ができる、仕事ができる、好きな時に本が読める。自由にできることが増えれば増えるほど、その自由を奪った自分が許せず、償いの気持ちが大きくなる」

 前出の佐藤氏は英国を例に「仮釈放の可能性が全くない終身刑は、2013年の欧州人権裁判所大法廷判決で欧州人権条約違反と判断された。日本では無期刑は既に事実上の終身刑として機能している」と指摘する。その上で「功利主義的な観点からも、更生したと考えられる人を永続的に収容し続けることは合理的ではない」と、無期刑受刑者の処遇のあり方に疑問を投げかけた。

◆デスクメモ

 検察は犯罪捜査で逮捕、起訴の権限を持ち、公判で有罪立証、求刑を行う。刑の執行を指揮する立場でもある。これほどの権力を持つ機関が受刑者の更生を正面から否定する「マル特無期」選定を30年近く続けてきた。基準も不明で正しく運用されてきたのか。検証が求められている。(祐)

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