今度はロシアの運輸大臣が謎の「自殺」、その「真相」を追った

7月11日、前ロシア運輸相で元クルスク州知事だったロマン・スタロヴォイト(下の写真(1))が、サンクトペテルブルクのスモレンスク正教会墓地に埋葬された(下の写真(2))。スタロヴォイトの死因は、汚職事件で元部下が逮捕されるなか、ウラジーミル・プーチン大統領によって大臣を解任された後の自殺とされているが、葬儀には高官が参列した。

運輸大臣の前職はクルスク州知事, 飛び交う各種の陰謀論, キーパーソンの兄弟, なぜ「口封じ」が必要だったのか

写真(1) ロマン・スタロヴォイト Фото: VK (出所)https://novayagazeta.eu/articles/2025/07/07/zastrelilsia-roman-starovoit-otpravlennyi-v-otstavku-s-posta-ministra-transporta

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写真(2) 7月11日、埋葬式でのロマン・スタロヴォイトの娘 Фото: Коммерсантъ/Александр Коряков (出所)https://iv.kommersant.ru/Issues.photo/CORP/2025/07/11/KMO_204577_00241_1_t249_150414.webp

7月7日午後、治安当局筋に近いテレグラム・チャンネル『112』『Mash』『Shot』が、スタロヴォイトの死を報じた。別のテレグラム・チャンネル、Bazaによると、スタロヴォイトは7月5日から6日にかけての夜に自殺した可能性があるという。どうやら、自殺する前には、大統領による解任を知っていたらしい。彼を解任するとの大統領令は7日朝に公表されたが、この時点でスタロヴォイトはすでに死亡していたとみられている。

運輸大臣の前職はクルスク州知事

複数の報道をもとに、スタロヴォイトの死について考えてみよう。それを知れば、プーチン政権下で蔓延する腐敗の実態が理解できるからである。

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Photo by gettyimages

昨年5月に運輸大臣に任命される前、スタロヴォイトはクルスク州知事だった。同州は、同年8月6日からウクライナによるロシアへの奇襲攻撃がはじまった場所である。彼はプーチンによって出身地の首長に任命され、それ以前は連邦道路庁(ロスアフトドル)を率いていた。

スタロヴォイトの後任は、彼の第一副官であるアレクセイ・スミルノフだった。ウクライナ軍のクルスク地方侵攻後、同年8月12日までに28の集落がウクライナの支配下に置かれ、領土への侵入深度は12kmに達した。このため昨年12月、スミルノフは知事を辞任した。

その後しばらくして、法執行機関が、この地域での汚職を国境の防衛線建設と結びつけて報告しはじめる。その結果、この腐敗は詐欺事件として立件された。検事総長の訴訟から、2022年から2023年にかけて、クルスク州政府は、防衛構造物(壕、射撃点、要塞、対戦車ピラミッド[竜の歯]、溝)の建設のために、連邦予算から194億ルーブルを割り当てられていたことがわかった。被告らは、「国防構造物の建設工事を実施しているように見せかけ、建設資材の供給に関して一日限りの会社と架空の契約を結ぶことで、虚偽の支出計画を実行した」、と原告側は主張している。

この事件の捜査の一環として、防衛構造物設置の責任者でもあったクルスク地方開発公社のウラジミール・ルキーン社長とその代理が昨年12月に逮捕された。スミルノフは今年4月に逮捕された。

こうなると、スミルノフの上司だったスタロヴォイトの関与が疑われても仕方ない。ゆえに、彼の運輸相解任の主な理由が、クルスク地方での捜査の結果だとみなすことができるだろう。

飛び交う各種の陰謀論

ただし、だからといって、スタロヴォイトが自殺したと確証できる証拠があるわけではない。彼が殺害されたと考えると、まったく別の議論が可能だ。

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たとえば、スタロヴォイトがクレムリン(ロシア大統領府)からの命令で殺されたという見方がある。だれかに殺害されたのではなく、自殺を強要されたという推論も成り立つ。この場合、クレムリンはスタロヴォイトに自殺するよう勧めることで、他の役人に盗みが見つかったら、逃げ道は死しかないという「教訓」を残そうとしたとみなすことができる。

ほかにも、クルスク州侵攻で脆弱だったロシア側の本当の原因を隠蔽するためにスタロヴォイトは殺されたとする説もある。つまり、侵攻前に知事だったスタロヴォイトが、ウクライナ軍の侵攻にかかわりをもっていたとみなされたのだ。

しかし、こうした陰謀論は少なくともいまのところ、たしかな証拠をともなって主張されているわけではない。

むしろ、ここで注目したいのはロシアにおける腐敗の構造である。少なくとも、何らかの汚職がクルスク州であったことは間違いない。そこにスタロヴォイトも関与していたと考えるのが自然だろう。

キーパーソンの兄弟

スタロヴォイトの経歴をみれば、どのように人的関係が構築され、汚職へとつながっていったかがわかる。スタロヴォイトは、サンクトペテルブルク投資委員会の第一副議長(2007~2010年)を務めていたことが決定的に重要だとみられている(7月8日付「メドゥーサ」を参照)。そこで、プーチンの盟友のローテンベルグ兄弟と知り合ったと考えられているからだ。

ローテンベルグ兄弟については、拙著『プーチン3.0』において、「プーチンの柔道のスパーリング・パートナーとして知られているのが兄のアルカジ・ローテンベルグである。彼は、2001 年に突然、銀行北方航路(SMP 銀行)を別のパートナーと設立。後に弟ボリスも出資し、SMP 銀行の共同保有者になった」と説明しておいた。その後、兄アルカジは建設業、弟ボリスはパイプ製造業などで大儲けする。

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この二人の知遇を得て、スタロヴォイトは2012年11月から2018年9月まで、連邦道路庁(ロスアフトドル)長官を務めた。スタロヴォイトはこの役職で、主要インフラプロジェクトの予算配分に関与した。オリンピック関連施設、主要交通インターチェンジ、高速道路などが含まれていた。これらの工事をアルカジの会社が水増しした経費で請け負い、巨額の利益をあげたと推察できる。

そうしたプロジェクトの一つが、ロシアとクリミア半島を結ぶクリミア(ケルチ)橋の建設であった。同プロジェクトを監督したのはスタロヴォイトであり、彼は定期的にクリミアに赴き、検査を行った。

クリミア橋の完成後、スタロヴォイトは一時的に運輸副大臣に就任し、その後、現地で仕事ができることを証明するため、現地の指揮を執るようになる。2018年、スタロヴォイトはクルスク州の暫定知事に任命され、2019年9月の選挙では81%の得票率で勝利し、知事に就任した。そして、昨年5月以降、ミハイル・ミシュスチン首相のもとで、ロシア連邦運輸相となったのだ。

もちろん、スタロヴォイトが知事として実績をあげた結果、モスクワに大臣として呼び戻されたわけではない。ローテンベルグ兄弟の口利きで、自分たちに忠実な人物をクレムリンに配置することで、汚職利権の維持がはかられたのである。

なぜ「口封じ」が必要だったのか

スタロヴォイトの後任として運輸相となった人物をみれば、ローテンベルグ兄弟の権益構造がいかに堅固なものであるかがよくわかる。プーチンは今月8日、アンドレイ・ニキーチン(下の写真(3))を、新たな運輸相に任命した。

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写真(3) アンドレイ・ニキーチン © РИА Новости / Владимир Федоренко (出所)https://ria.ru/20250708/putin-2027966268.html

「ノーヴァヤガゼータ・ヨーロッパ」によれば、ニキーチンもまたローテンベルグ家とのつながりをもっている。ニキーチンに近い人たちは道路分野の政府契約で収入を得ており、彼の兄はプーチンの娘の友人と共通のビジネスをもっている。ニキーチン自身も、過去10年間に運輸省のトップを務めた前任者たちと同様、プーチンの幼なじみでロシア最大の道路・鉄道建設業者であるアルカジ・ローテンベルグ(兄)とつながっていることが判明したという。

実は、スタロヴォイトの前の運輸相は、アエロフロート社長を長年務めてきたヴィタリー・サヴェリエフであったから、ローテンベルグ兄弟との太いパイプがあったとは思えない。しかし、2018年5月から2020年11月まで運輸相だったエフゲニー・ディートリッヒは、2005年から2012年まで連邦道路庁(ロスアフトドル)の副長官を務めていたから、ローテンベルグ兄弟との一定のつながりがあった可能性が高い。

このように、ロシアでは、プーチンの盟友が政府高官と結託して、リベートやキックバックなどを利用して、財政資金を掠め取る仕組みが構築されている。こうした腐敗の構造は、今回の「自殺」にみられるように、死を賭して守り抜かねばならない鉄壁の掟のもとに成立しているのかもしれない。権威主義国家がもたらす典型的な支配構造となっているのである。