【参院選】終わりのはじまりが見えた自民党、小泉進次郎の「持ち上げ論」に落選議員が語ったこと
石破首相は橋本元首相の轍を踏むのか?
各メディアが弾き出す参議院選挙(以下、参院選)の情勢調査をつぶさに分析していると、石破茂首相の近未来が、27年前の参院選で退陣した橋本龍太郎氏の姿にオーバーラップしてくる。
まだ筆者が駆け出しの政治記者だった1989年7月、当時、自民党幹事長だった橋本氏は、テレビカメラの存在も忘れ、「ちくしょー」と本音を口にした。
その選挙で自民党が獲得したのは36議席(改選69議席)。選挙の責任者として、土井たか子氏率いる社会党に屈した橋本氏は、1996年1月、首相に就任し行革などに取り組んだが、金融不安と「恒久減税」をめぐる自身の発言のブレで失速し、1998年7月の参院選では、事前予測の60議席を大きく下回る44議席(追加公認1を加えて45議席)と敗北した。
参院選での惨敗を受け、橋本氏は、投開票日の翌日、7月13日に退陣を表明している。

故・橋本龍太郎元首相(写真:gettyimages)
そんな橋本氏と石破氏には共通項がある。ともに政治家を父に持ち、最終学歴は慶應義塾大学法学部。
大学卒業後、民間企業に勤務し、政治家になって所属したのは田中派。その後、紆余曲折はあったものの、国民的な人気は一貫して高く、要職を歴任した後、首相に……というキャリア。それに永田町きっての愛煙家という点もよく似ている。
加えて言うなら、ともに経済対策が不評で、参院選の結果が命取りになりかねないところまで、である。
1998年のケースで言えば、橋本氏の退陣表明から11日後の7月24日に自民党総裁選挙(小渕恵三氏、梶山静六氏、小泉純一郎氏)が実施され、7月30日には小渕内閣が発足している。
橋本氏と似たルートを辿ってきた石破氏も、参院選で躓き、首相の座を別の誰かに明け渡すことになるのだろうか。
情勢調査が弾き出す自公への厳しい数字
筆者は本稿を開票前に書いているため、中には、選挙後に目にされている方もいるかもしれない。
ここまでの段階で言えば、筆者が入手したマスメディア各社による事前の調査では、中盤、朝日、毎日、読売、共同などが「自公で過半数の50議席獲得は微妙」とする数字をまとめ、それが終盤になって「過半数維持は厳しい」へと変化した。
どちらかと言えば見通しが甘めの自民党による情勢調査ですら、自民党の予想獲得議席を、47(4月)→49(5月)→46(6月)→41(7月)と下方修正せざるをえなかった。
その理由はいくらでもある。以下は、各党の遊説を取材する中で聞いた石破政権への不満の声である。

石破茂首相(写真:gettyimages)
「物価高でトランプ関税不安もあるのに有効な手立てが打てていない」(50代男性会社員)
「2万円配るのは冬とかでしょ? バラマキだし、配るにしても遅い」(30代女性会社員)
「非課税世帯に2万円プラスするのはおかしい。我々、氷河期世代は苦しみながらも税金をちゃんと納めてるんだから。困っている人は政策で救えばいい」(50代男性団体職員)
もちろん選挙は蓋を開けてみないとわからない。先に述べた1998年7月の参院選のように、楽勝予測の自民党が惨敗した例もある。逆のケースだってなくはない。
ただ、今回、新興勢力の参政党や「手取りを増やす夏」というキャッチコピーが明快な国民民主党に勢いがあり、自公だけでなく日本維新の会や共産党の苦戦が伝えられてきたのは、SNSを駆使した戦略の巧拙に加え、誰のメッセージが国民に響いたか、今の有権者心理をとらえたかによるものが大きいと筆者は見る。

国民民主党代表の玉木雄一郎氏(写真:gettyimages)
マスメディア各社の情勢調査で勢いがあるとされてきた、ある政党の代表による街頭演説では、動員をかけていないにもかかわらず、駅前広場を埋め尽くす人垣ができた。36度を超す酷暑にもかかわらず、代表が登壇するとみるみるうちに聴衆が増えていった。
代表の言葉に呼応して「そうだ!」とこぶしを突き上げる人、激しく手を叩く人が続出した。情勢調査など見なくても、「この政党は議席を爆増させる」と直感したものだ。
本当の戦いは参院選後に始まる
「この秋は、衆議院解散・総選挙だな」
これは、筆者が、自民党のベテラン衆議院議員に電話した際、返ってきた言葉だ。全ては自公の獲得議席が50議席を超えるかどうかによるが、今回の選挙は、終わった後から本格的な戦いが始まると言っても過言ではない。
予想されるケースを見ていこう。
(1)自公で過半数を維持
アメリカとの関税交渉等もあり石破氏は続投。
(2)自公で過半数に届かず連立組み替え
追加公認しても過半数に若干足りない場合、自公国、自公維、場合によっては参政党も加わって連立の組み替え論議が生じる。
(3)自公と立憲民主党で大連立
第1党と第2党で大連立。立憲は政権交代と金看板を下す形になりハードルは高いが、年金制度改革等で共通点があり、立憲は「税と社会保障の一体改革」に着手できる。
(4)立憲を中心に野党連立
可能性はゼロではないが、立憲、維新、国民それぞれが対立点を抱え、実現は困難か。
(5)自民大敗で石破氏辞任
自公で過半数に大幅に届かない惨敗となった場合、石破氏の退陣、もしくは「石破降ろし」は不可避。その場合、自民は新総裁を選び、国会で首相指名選挙に臨むことに。
上記のうち、(2)から(5)は自公で過半数を割り込んだ場合のシナリオだ。いずれのケースも石破氏の責任論は避けられず、仮に退陣表明となれば、前述した橋本内閣のケースと同様、短い期間で総裁選挙(1998年は自民党所属の衆参国会議員+都道府県連代表で投票)が実施され、お盆休み前の8月8日頃までには新総裁を選出することになる。
その場合、少数与党の自民総裁が、衆参両院で実施される首相指名選挙で当選できるかという問題も残る。もし野党が、立憲の野田佳彦代表で一本化すれば、衆参で異なる結果にはならず、両院協議会を経ることなく野田氏が首相に返り咲く可能性もある。
いずれも、まだ「頭の体操」にすぎない。あくまで自公の議席しだいで、自公で過半数維持に必要な50議席に届かない場合、「届かない度合い」によって変わってくることは付け加えておきたい。
自民が描く秋の総選挙
石破氏が続投する場合は、秋の衆議院解散・総選挙が視野に入る。衆参ともに少数与党という状況では何も前に進められず、物価高対策を中心とした補正予算案すら、どこかの党を取り込まない限り成立させられない。
衆議院選挙は去年10月27日に実施されたばかりだが、こう着状態を打開するために、リスクを承知でガラガラポンを狙って解散に踏み切る可能性は十分にある。
ただ、自民党が秋の解散総選挙を視野に入れるなら、むしろ、衆院選、東京都議選、参院選と負け続けてきた石破氏以外の「顔」で戦うほうが有利になる。
後継の総裁選びとなれば、高市早苗前経済安保相や小林鷹之元経済安保相らが出馬し、その結果、小泉進次郎農水相が新総裁、新首相にでもなれば、今の自民党には好都合だ。

高市早苗氏(写真:gettyimages)
最後に、落選中の前議員から興味深い言葉を聞いたので付記しておく。
「負けたら石破さんは降りるべきだよね。小泉新総裁? それは捲土重来を期す私みたいな候補者には理想的だけど(笑)。どっちみち、秋は選挙があると思って準備をしなくてはと思っていますよ」(自民党・落選中の前衆議院議員)
「ただね、大相撲の高安関、前の場所で6勝9敗だったのに三役(小結)から陥落しなかったよね? 他の力士の成績との関係で異例の残留だったのだろうけど、石破さんもトランプ氏との関税交渉だけでなく防衛費増額要求問題も抱えているからね。ちょい負けなら、今は降板させられないという判断が働くかもね」(同)
果たして石破氏は、選挙の大勢が判明した後、心の中で「ちくしょー」と叫ぶことになるのだろうか。