クルド人側「説明あれば案内したのに」 埼玉県議らは「視察妨害」と刑事告訴…何が起きた?それぞれの主張
在日クルド人が集住する埼玉県南部で、県議と川口市議が、クルド人らが経営する解体会社の資材置き場(ヤード)を視察中に襲撃を受けたなどとして、クルド人らを刑事告訴した。県議らは「議員としての公務への深刻な妨害」と訴えるが、クルド人らの見方は異なる。盗撮などで日常的に生活の場を侵されている現状への憤りが見えてきた。(池尾伸一、森本智之)
◆監禁や暴行などの容疑で告訴
クルド人らが経営するヤード視察での「トラブル」を巡り、1日に行われた議員らの記者会見。視察を主催した高木功介埼玉県議が「民主主義に対する冒瀆(ぼうとく)だ」と訴えた。奥富精一川口市議、諸井真英県議も同席した。
議員らによると、トラブルが起きたのは6月2日。高木、奥富両氏ら数人がワゴン車に乗り、川口市内の道路上からクルド人が経営する解体会社のヤードを視察していたところ、「車をたたく音がした」という。

記者会見する(左から)奥富精一川口市議、高木功介埼玉県議、諸井真英県議=1日、東京・永田町で
運転手に逃げるよう指示し、その後も視察を続けたが、しばらくして後ろから車で追われているのに気付き、110番した上で市内の武南警察署に逃げ込んだ。すると追いかけてきた車3台に取り囲まれ、降りてきたクルド人とみられる人らに「罵声を浴びせられた」とした。
高木氏は口々に「怖い思いをした。警察官もすぐに助けてくれなかった」と話し、取り囲んだ人らを監禁や暴行などの容疑で告訴したと明らかにした。
◆視察の中身や目的は明らかにせず
議員らは視察を「公務」としたが、記者から問われても、他の参加者の氏名や人数を答えなかった。視察の目的についても「地域からトラブルや苦情があった場所を視察した」としながら、その中身については「被害者が脅迫されるおそれがある」として明らかにしなかった。
そもそもヤード視察にあたり事前にクルド人関係者らのアポを取らなかったと認め、「マイナスのことが起きている時は取らずに行くこともある」と説明した。車をたたかれた際、外に出て説明すれば良かったのではないかと問われると「(クルド人への)恐怖でできなかった」とした。
さらに会見で焦点となったのは、議員らがヤードを撮影したかどうかだ。近年、クルド人を盗撮し、中傷とともに交流サイト(SNS)へ投稿する被害が相次いでいる。今回の視察でもクルド人らは「無断で撮影された」と主張していた。
◆県議、公道からの視察に「許可は必要ない」
高木氏はトラブルを避けるため「同乗者には動画や写真の撮影をしないよう要請していた」と否定した。ただ記者が重ねて問うと「(同乗者らは)撮影していないと断言しており、信じるしかない」と言葉を濁した。仮に撮影していても違法ではないと認識を示した。

侵入者による迷惑行為が相次ぐヤード付近にはられた「進入禁止」「撮影禁止」の看板=埼玉県川口市で
川口市のクルド人団体「日本クルド文化協会」はトラブルを受けて、「残念ながら一般的な政治的・倫理的な原則に反する」「誰かの住居や事務所を訪問、撮影する際は事前にきちんと許可を取るのが礼儀であり、世界共通のマナー」と表明。今後の視察の際は連絡がほしいとした。これに対し、諸井氏は「公道なので許可は必要ない。日本の主権の及ばない地域ができているのか」と疑問視した。
会見の終盤、会場の記者からこんな質問が出た。「地域住民から苦情を受けて視察したというが、クルド人も盗撮に恐怖を感じている。それを解決するのも議員の役目ではないのか。クルド人は地域の住民ではないのか」。奥富氏はこう応じた。「僕のところには被害を受けている(日本人の)住民からの訴えが主です。被害を受けた市民の声を大事にして活動する」
◆車をたたいた人物が語った当日のこと
埼玉県議らが国会内で会見をする2日前の6月29日、記者はクルド人の関係者に取材した。
会見で県議らが「恐怖を感じた」と述べた車をたたいた人物は、解体会社を経営する男性の妻で日本人の女性(30代)だった。「ヤードの前を車が徐行で通り過ぎた。後ろの座席の人たちがスマホを構えているのが見えたので『なぜ撮ってるんですか』と車をノックした」と振り返った。
車はいったん止まった後、急発進して立ち去った。女性はこの時「またSNSに動画をアップされる」と思ったという。これまでヤードも頻繁に撮影されており、クルド人同士で注意を呼びかけ合ってきた。過去には子どもや家族の写真までさらされていた。
◆「警察や行政に訴えても何も変わらない」
「まさか議員だとは思わなかった。やましいことは何もないので、説明してくれれば、いくらでも案内したのに」と嘆いた。

県議らの車に女性が声を掛けるとスピードを上げて立ち去った(防犯カメラの映像)
「動画を消してもらうため」女性は夫と共に車で後を追いかけることにし、車内から「盗撮された」と110番した。
実はこの2〜3時間前から県議らの車は目撃され、「迷惑ユーチューバーが来ている」と注意を呼びかける連絡がクルド人の間に回っていた。別の解体業のクルド人男性(41)も連絡を受けた一人。武南署で女性らと合流した。
「警察署で相手が議員と知りショックだった」。声を荒らげて抗議したが警察が間に入るだけで最後まで議員らが直接、話すことはなかった。男性は「議員が正しいことをしているというならば、降りて話をしてほしかった」と訴える一方、やまないヘイトについて「日本に来て26年、日本はすばらしいと思ってきた。でもこの2年間は、理由もなく攻撃される。私は家族や会社を守らなければいけない。警察や行政に訴えても何も変わらない」と話す。
◆集会や講義では撮影・録音を制限
この視察が一部で報じられた後、X(旧ツイッター)では別のヤードの写真とともに、クルド人殺害を予告するような書き込みも現れた。この男性の妻は「今は黙って我慢するしかない感じですが、いつか危害を加えられるのではないかと不安です」と漏らした。
7月2日には日本クルド文化協会が、神奈川県の男性に対し、クルド人排斥デモを行わないよう求める訴訟の報告集会がさいたま市であった。この集会には多くの支援者も詰めかけたが、マスコミを除いて撮影は禁止された。批判的な人が参加し、写真や動画が「さらし」に悪用されるのを防ぐためだ。

写真は記事の内容と直接関係ありません
埼玉県内の大学が今年、クルド人をゲストに招いて講義をした際も、学生に撮影や録音を禁じた上、教室に入る際に名前や住所を確認した。クルド人たちはナーバスになっている。
◆「撮影していなくてもプライバシー侵害になりうる」
報告集会で、30代のクルド人の男性は言った。「毎日、家族の顔、子どもの顔、家の住所、職場もSNSにさらされる。反論すると、クルド人は暴力的だとバッシングされる。皆さん、子どもが撮られたらどんな態度しますか。同じ立場に一回、立ってほしいんです。立てないと思うけど」
記者は質疑応答で、県議らの視察について尋ねた。日本クルド文化協会の代理人の神原元弁護士は「公道上からの視察と言っても、どこから覗(のぞ)いたかは問題ではなく、何を覗いたかが問題だ。撮影をしたかどうかは争いがあるようだが、仮に撮影していなくても私的スペースを覗けば、プライバシーの侵害になりうる」と反論した。
◆デスクメモ
外国人の集住地区に無遠慮に立ち入り、民家の軒先にカメラを向ける。ネットには今こうした動画もあふれている。怖いのは差別を動機とした暴力への発展だ。クルド人に対しても殺害予告が起きている。差別や暴力を批判し、全ての住民を守ると約束するのが政治ではないのか。(恭)
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