セブン「中国(台湾)で炎上」が他人事でないワケ

「中国(台湾)」という表記を行った投稿について、セブンは謝罪文を発表したが、事態は沈静化せず、むしろ火に油を注ぐ状態になっている(撮影:今井康一)
セブン&アイホールディングスの、公式SNSアカウントが炎上した。それは「世界のセブン‐イレブンのユニフォーム」を紹介する画像で、台湾が「中国(台湾)」と表記されていたからだ。
【写真】削除された台湾(中国)の写真。会社の資料にも同様の記載が…
台湾の人や、台湾に寄り添う日本人ユーザーからの批判。一方で、日中共同声明の内容から、中国はたしかに台湾を内包するものだ、という主張。さまざまが入り交じり、セブン&アイホールディングスは公式に謝罪し、投稿を削除した。
この文章はセブンの対応を批判するものでも、称賛するものでもない。グローバルにビジネスを展開する企業の場合、よくありがちな陥穽であると指摘するとともに、どのような施策を実行すればいいかを検討するものだ。
まず、遡れば、いくつかの事例がある。
セブン「台湾(中国)」表記炎上から考える
今回のセブンは、自ら拡散した側面がある。ただ中国政府からの投げかけの事例がある。たとえば2018年には各国の航空会社に、台湾の記述を「Taiwan, China」に変更するように指示をした。
日本の航空会社は対応を迫られた。しかし台湾のユーザーも多くいる。単に従うこともできない。そこで、中国や台湾、韓国をふくめて「東アジア」と表現し、戦略的に“お茶を濁す”こととした。
国はどこか置いておいて、都市名だけを列記する“意図的な適当さ”を前面に出したのだ。これはギリギリの判断で、中国政府から批判はされるが、大きな制裁は避け、騒ぎにはなったものの、不買運動等は避けた。
次に有名な事件で良品計画の例がある。これは「原産国:台湾」と台湾をストレートに“国”とした。その商品を扱った上海当局は看過できずに罰金を課した。衣料品のハンガーが台湾からだったために、同社は「原産国:台湾」と表示したのだ。
同社はすぐさま修正し中国政府の姿勢に沿ったコメントを出した(なお、当件で台湾側は、良品計画側の対応を批判するというよりも、中国側に抑止を求めた)。
通販サイトの表記やVTuberの発言も非難のきっかけに
またEC(通販サイト)の選択肢で可哀想な目にあったのがアシックスだ。
同社は2019年にサイトで地域を選ぶ「国選択」のドロップダウンのリストで「香港」「台湾」が中国とは別の独立した国として明記されていた。
私のような日本人からすると許してほしい事態だったが、中国のネットユーザーからは許せなかったのか、大きな非難につながった。
アシックスはただちに謝罪し、中国行政の考えに従うとした。まあ、それしか選択肢はなかったのかもしれないが、大変に厳しい対応を強いられたと思う。
似た問題はパナソニックにもあった。国別の携帯電話の選択画面で、台湾と中国と別にしていたことで中国当局の怒りを買った。
さらに「許してやれよ」と思うのだが、VTuber事務所も影響を受けた。というのも。某VTuberが中国でも人気だったのだが、視聴解析画面を分析した際に、国別で「台湾」が上位だといってしまったのだ。
中国ユーザーからすると台湾を国扱いしたわけで批判が殺到。収まらないので、活動停止と、さらに謝罪文を公開することになってしまった。多少のミスは許すのが友愛ではないかと個人的には思うが、台湾問題は友愛の対象ではないらしい。
なお日本企業だけをとりあげているが、他国のブランドもおなじで、たとえば他国のハイブランドも中国の国土を示すTシャツを発売しては、台湾が含まれていない、といった炎上を経験している。
人権遵守目的でも炎上…ファーストリテイリングの事例
セブンの炎上は、グローバルに活動する企業にとっては決して他人事ではないということだが、もっと理不尽な目に遭ったのが、ファーストリテイリングだ。
中国の新疆ウイグル自治区は強制労働が疑われている。また、他地域へ強制的に住民を移送し働かせていると疑いもある。アメリカを中心として同地区の調達品は使用しないトレンドだ。
そこで、同社のCEOは「新疆ウイグル自治区の綿花は使っていない」(大意)と発言した。これは当然ながらSDGsや人権遵守の観点からウイグル・フリーの姿勢をうたったものだ。
しかし、中国ユーザーからは反発を受けた。ファーストリテイリングのボイコットを訴えたり、中国市場から出ていくようにと主張をしたりする意見が多数あった。
以上のような事例を聞いて、次のように思った読者もいるかもしれない。
「はあ……中国の政治問題については、結局のところ何をいってもダメなのね……」
少なくともそう思った企業人は多かったはずだ。実際にH&Mも同地域からの綿花調達を避けると発表したら、ただちに中国側からの反発をうけ、さらに不買運動にまでつながってしまった。
企業はどのように対応すべきか
このような状況において、企業はどうすればいいか。私は別記事で、企業全体での対応を求めた。それに加えて下記を記す。
・各国の情勢や確認漏れがないようにする:もしかすると日本国内のウェブ関係者と、中国、台湾、香港等の担当者が連携していない可能性がある。そこは政治的な内容を含めてチェックリストを共有したいところだ。
・組織内コミュニケーションを欠かさない:表記の統一や、そもそもどのような表記にするかどうかはトップの判断により規定される。後手後手の対応になると、さらに火に油を注ぐことになる。早急な対応をするためにもトップ主導のコミュニケーションが望まれる。とくにグローバルポリシーは広報部門だけで担えるものではないため、経営側からの明確な社内向けメッセージが重要になるだろう。
ところで、私が思うのは、各企業の担当者は矛盾を感じているだろうな、ということ。というのも、各社の謝罪文を読んで感じるのだが、「誰に対して、何を、どのような理屈で謝っているか」がわからない。
たとえば、台湾を中国と記載して謝罪するとする。その時、本音をそのまま書くとしたら、「いやあ、日本政府の正式見解でも、『一つの中国を主張し、台湾は中国の一部だとする……という中国の立場を理解、尊重する』というふうになってはいるんですけれど、まあ、あれですわ。私たちは台湾を、思想の近い“国”と思っているわけで、難しいですねえ。だから、台湾を中国と称することに非難が届くのも理解できるって言うか、まあ、そうですねえ、総合的にいえば悪かった、と言える可能性は否定しませんねえ。少なくとも、絶対的に弊社が悪いかは判断を保留しますが、騒がせた事実だけは悪かったとも言えるわけで……」という、ゴニョゴニョとした内容になるに違いない。
もはやこんな謝罪文を掲載するメリットはない。ゆえに、「誰に対して、何を、どのような理屈で謝っているか」がわからない謝罪文になるのだ。
しかし、それは収益と利益を最大化する企業の立場からすると当然といえる。高度な曖昧戦略、高度な二枚舌戦略を取らざるをえない。正しさは一旦脇に置いて、企業としては台湾も中国も、両方の顧客を大切にしなければならないのだ。
もちろん、そのせいで、どっちの側からも「裏切り者!」と指をさされるかもしれない。そして、それはグローバル市場でメシを食っていくための、必要なコストなのかもしれない。これからの時代に重要なのは、正しさを断言できないグレーゾーンこそ考え抜いて、「全員から賛同はされないけれど、この路線で行こう」という決断なんだと私は思う。
結論。企業はギリギリの線で頑張っている。なので、日本企業に対してはできれば優しくみてやってほしい。
その他の画像

現在は削除済みの投稿(画像:セブン&アイ・ホールディングスの公式Xより)

「中国(台湾)」の表記に批判が集まった(画像:セブン&アイ・ホールディングスの公式Xより)

もう1枚の画像では「中国(広州)」「中国(香港)」と記載されている(画像:セブン&アイ・ホールディングスの公式Xより)

なお、他の資料にも「中国(台湾)」の記載が。真ん中下あたりに「中国(台湾)」の文字が確認できる/出所:「コーポレートアウトライン2024年度版」