「日本人にとって美しい歴史」書き換えの背景には、差別がある ノンフィクションライターの安田浩一さん【戦後80年連載・向き合う負の歴史(14)】

インタビューに応じるノンフィクションライターの安田浩一さん=2025年4月17日、東京都港区の共同通信社、大森裕太撮影

 「外国人が優遇されている」「日本は日本人のものだ」。こうした排他的なデマや言説が、インターネット空間だけでなく、日常生活にもはびこり始めた。日本人にとって居心地のよい物語が語られ、加害の歴史が塗り替えられていく。「歴史修正主義の背景には、人種差別がある」。そう語るのは、ノンフィクションライターの安田浩一さんだ。

 著書に、関東大震災の朝鮮人虐殺をテーマにした「地震と虐殺 1923―2024」(中央公論新社)などがある安田さんは、各地でヘイトスピーチ、ヘイトクライムなど、差別の現場を取材している。戦後80年の節目に何を思うか、話を聞いた。(聞き手・共同通信=角南圭祐)

 ▽100年後の自警団

関東大震災の朝鮮人虐殺をテーマにした著書「地震と虐殺 1923―2024」(中央公論新社)

 私は最近ずっと、埼玉県川口市、蕨市に多く住むクルド人への差別を取材しています。クルド人への嫌がらせ、排除、恫喝(どうかつ)を目的とした「自警団」と称する人たちが現れ、「民族浄化」を連想させるような危険な発言を繰り返しています。

 自警団という言葉を何のためらいもなく使う。これも歴史修正、歴史否定の一つの結果ではないでしょうか。およそ100年前、関東大震災(1923年)の中で、自警団が多数の朝鮮人を虐殺した。差別と排外主義の歴史がきちんと社会に根付いていない。

 ▽ネットがドライブに

ヘイトデモ禁止を求め、さいたま市で提訴記者会見する「日本クルド文化協会」関係者や弁護士たち=2025年2月

 ネットの普及により、誰もが情報の発信者になりました。裏付けされていない情報、フェイクニュースを含め、多くの情報が流れ、歴史の見直し、修正、否定という形で歴史が改ざんされ始めた。歴史修正の「ドライブ」は、ネットであることは間違いありません。

 クルド人差別も、ネットの影響が大きい。実態とかけ離れ、小さな事象を大きく膨らませ、恐怖をあおります。

 在日コリアンに対する差別も、まさにそうでした。朝鮮学校が高校無償化から排除されるなど、政府による制度的な差別もあるが、ネットでは「特権を持っている」「生活保護で優遇されている」などとガセネタが振りまかれました。

 ▽気持ちのよい物語

インタビューに応じる安田浩一さん

 外国人に対し「少数者のくせに。日本は日本人のものだ」という、戦前のような言説が装いも新たに流布されています。

 治安が悪いと感じるのも、生活が苦しいのも、外国人や海外ルーツの人たちが悪いんだという短絡的な考え方。日本人が自信を持つため、日本人にとって気持ちのよい物語が優先される。

 その中で、常に排除される人たちが生み出される。歴史修正主義の背景には、人種差別があります。

 歴史に修正はつきものです。検証を加えて再構成するのは当然です。しかし今、社会で進行している歴史修正主義は、歴史否定に近い。再構成ではなく、新たな物語に塗り替えるものです。

 つまり、加害の歴史を無視し、日本人が被害者だという物語に作り替える。日本人に都合のよい「美しい物語」に作り替える動きになっています。

 ▽歴史否定の成功体験

群馬県高崎市の「群馬の森」に設置された朝鮮人労働者の追悼碑を県が撤去する前日、碑前に集まり献花する人たち=2024年1月28日

 取材の中で何度も、歴史が書き換えられる現場を見てきました。代表的なのが「群馬の森」。群馬県の県営公園から2024年、戦時中に動員された朝鮮人労働者の追悼碑が撤去されました。

 市民団体と称する人たちが、行政に電話したりメールしたり、保守系の政治家に働きかけたりして、圧力をかける。応対させられる職員は疲弊していました。そして、碑を撤去させたり書き換えさせたりするのです。

 働きかけた人たちは、2010年代に在日コリアンに対するヘイトデモをやっていたメンバーと重なります。差別主義者と歴史否定主義者に、行政が成功体験を与えてしまったことになります。

 これにはもちろん、政治の後押しがあります。歴代の自民党政権が、歴史問題にカタをつけてこなかった。こうしたツケがあるでしょう。

 ▽すでに共に生きている

安田浩一さん

 では、「日本は日本人のもの」という一見わかりやすい言葉に、どう反論すればいいか。

 現実には、日本には300万人を超える外国人、海外ルーツの人が暮らしていて、すでに共に生きている。生きているというか、(私たちが)生かされている。

 いま外国人が消えてしまったら、農業や工場、建設の生産活動や、介護現場が立ちゆかなくなり、コンビニも居酒屋もストップしてしまう。すでに移民国家であるということを直視すべきです。日本は日本人だけのものではない。

 外国人と共に生きることは、彼らの主張を受け入れることでもあります。安い時給でもおとなしく働く外国人は称賛されるが、当たり前の権利であっても主張する外国人は嫌われる。それはおかしい。

 ▽殺し、殺させ、殺されない

関東大震災時に虐殺された朝鮮人の追悼式で、朝鮮半島の伝統芸能「プンムル」が披露され、多様な民族、国籍の大勢が見守り楽しんだ=2024年9月、東京都墨田区の荒川河川敷

 「外国人は外国人らしく」「障害者は障害者らしく」「女性は女性らしく」生きろという社会は、つまり「日本は日本人のもの」の考え方に基づいていて、その日本人とは健常者中心、男性中心ということになります。

 こうした言葉にひるんじゃいけない。外国人差別を許さない社会は、ほかのいろんな差別にも向き合うことにつながります。

 差別を放置し歴史否定を放置すれば、行き着く先は反省なき殺戮(さつりく)であり、戦争です。差別の末に、殺し、殺させ、殺されるような歴史を二度と繰り返さないために、歴史を直視しなければなりません。

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 やすだ・こういち 1964年静岡県生まれ。ノンフィクションライター。「ネットと愛国」で講談社ノンフィクション賞、「ルポ 外国人『隷属』労働者」で大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)、「地震と虐殺 1923―2024」で毎日出版文化賞(特別賞)を受賞。

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 これまでの連載

【(1)県が撤去した朝鮮人労働者追悼碑は「加害の歴史」伝えるシンボルだった】

【(2)フェミニズムを入り口に慰安婦問題を学ぶ若者たち―東京、5千人学ぶカフェ】

【(3)集団自決の傷痕撮る沖縄の写真家「真実伝え、戦争なくしたい」】

【(4)うそつき呼ばわりされても、731部隊の「本当のことを語る」―94歳の元少年隊員】

【(5)神奈川の人造湖を造った朝鮮人、中国人。碑が傷つけられても地域ぐるみで語り継ぐ】

【(6)戦争経験継承は未来に向けた責任、「否定論」は実証積み重ね欠く】

【(7)南京大虐殺を武勇伝のように語った元兵士。聞き取った神戸の老華僑が感じたことは】

【(8)「歴史修正主義」と批判されるが、自分は極めて誠実な立場だ―当事者証言の検証欠かせない】

【(9)ホロコースト否定が犯罪?!ヨーロッパが禁じる歴史修正主義から見る日本】

【(10)「強制的に動員」の看板を市が隠した…戦争末期の極秘計画跡地で起きたこと】

【(11)東京の政府施設と、長崎の市民資料館。論争となった軍艦島の展示を見比べてみた】

【(12)市が立てた強制連行の説明板。19年後、自ら撤去した背景にあったこと】

【(13)2万人の犠牲者数は「盛りすぎ」―正しく伝えようとした先人と、その後継者たち】