「加速膨張する宇宙」は将来どうなるのか? そのカギを握る「ダークエネルギー」の正体

ビッグバン以降、この宇宙は「加速膨張」していることがわかってきた。このまま膨張し続けるのか? それともどこかで収縮へと転じるのか? 米国カリフォルニア大学バークレー校教授で、著書に『95%の宇宙 解明されていない“謎”を読み解く宇宙入門』がある野村泰紀氏が、「宇宙の将来」をわかりやすく解説する。

「宇宙の膨張速度」は加速している

宇宙はビッグバン以降、膨張し続けています。

20世紀の終わり頃までは、その膨張速度はだんだんと遅くなっていくと考えられていました。なぜなら、重力は必ず「引力」として働くので、物と物が遠ざかっていく速度は遅くなるはずであり、これは宇宙の膨張速度が減速していくことを意味するからです。

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しかし、1998年に、その常識を覆す観測結果が発表されました。

宇宙の膨張の歴史は、遠くの天体の距離と後退速度の関係を調べることによって得られます。これは、遠くの天体ほど(光の速度が有限のため)過去を見ていることに対応するからです。

そして、天体の地球からの後退速度は宇宙の膨張に関係しているので、この二つの関係を調べることで、膨張速度の過去の推移がわかるというわけです。

このような観測をするには、地球から天体までの距離を正確に推定する必要があります。この推定は、経験則により絶対的な明るさがわかっているIa形超新星(星の爆発)という天体現象の観測で可能になります。

そして、当時ライバル関係だった二つの研究グループが観測を行ったところ、どちらも宇宙の膨張速度が加速しているという結果を得たのです。これは、二つのグループからほぼ同時に発表され、世界中の研究者を驚かせました。

・仮説

宇宙には、加速的な膨張を引き起こす何ものかが満ちていると考えられます。そして、重力現象を引き起こすものは(定義により)エネルギーであるので、これは何らかの「物質ではないエネルギー」だということになります。

この物質ですらないエネルギーを、総称としてダークエネルギー(暗黒エネルギー)と呼びます。

「ダークエネルギー」の正体とは?

・検証

このダークエネルギーについてわかっていることは、宇宙の膨張を加速させるということです。実は、このような働きをするエネルギーは知られていて、「真空のエネルギー」と呼ばれます。

この真空のエネルギーとは、空間自体が持つエネルギーのようなもので、空間全体に一様に分布し、宇宙が膨張してもその密度は変化しません。より正確には、ダークエネルギーは真空のエネルギーのように振る舞うものという可能性もありますが、この場合でも、そのエネルギー密度の時間変化は非常に緩やかです。

このように膨張を加速させる成分の時間変化が緩やかだということは、一般相対性理論の帰結であり、ダークエネルギーの正体が何であれ、一般に成り立ちます(もちろん一般相対性理論が正しい限り)。

このような緩やかな時間変化をするエネルギーの存在は、宇宙の過去の歴史を詳細に調べれば、その存在を明らかにすることができます。

特に、宇宙マイクロ波背景放射のゆらぎはそのような情報を詳細に含んでおり、現在ではIa形超新星の観測とは独立に、現在の宇宙のエネルギー密度は、約68%がダークエネルギー、約27%がダークマターであることがわかっています。残りの約5%が、星、銀河、星間ガスなど、私たちの知る素粒子からの寄与です。

他にも、宇宙の構造の形成の解析などからもダークエネルギーの証拠は得られており、その存在に関しては、もはやほぼ疑う余地はありません。では、その正体は何なのでしょうか?

この宇宙は数ある宇宙の一つにすぎない?

ダークエネルギーの謎の一つは、その大きさです。

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実は、真空のエネルギー密度の大きさというのは、理論的には観測された値よりはるかに大きいのが自然なのです。真空を量子力学的に考えると、そのエネルギー密度は実際の観測値より120桁程度大きいのが自然だという結論に至ります。

しかし、私たちの宇宙は、そのような巨大な真空のエネルギー密度を持たないことから、長い間、真空のエネルギー密度は何らかの理由によりゼロになっていると考えられてきたのです。

しかし、1998年の発見は、それがゼロでないことを示唆しています。しかも、その値は現在、物質のエネルギー密度の2倍程度、つまり大まかに言って同程度の大きさなのです。

これは、よく考えると非常に不思議なことです。先に述べたように、真空のエネルギー密度は時間がたってもその大きさは変わりません。一方で、物質のエネルギー密度は、時間がたって宇宙が膨張していくにつれ、薄まって小さくなっていきます。

これは、初期の宇宙では、物質のエネルギー密度の方が真空のエネルギー密度よりもはるかに、何十桁も大きかったということを意味します。

また、将来の宇宙では、反対に真空のエネルギー密度の方が物質のエネルギー密度よりもはるかに大きくなるはずです。事実、一度真空のエネルギーの方が支配的になると宇宙は加速度的に膨張していくため、物質のエネルギー密度は急速に薄まり、事実上ゼロになってしまいます。

つまり、私たちはこの二つのエネルギー密度がほぼ同じ大きさで存在する、極めて特別な時代に生きているというわけです。

この不思議さを実感するため、仮に真空のエネルギー密度を決定する何らかのメカニズムが、宇宙初期に存在したとします。そのメカニズムが働いた頃に支配的だったエネルギーに比べると、真空のエネルギー密度は無視できるほど小さかったはずです。

そのような完全に無視できるほど小さいものを微妙に調節するメカニズムが存在することすら考えづらいのに、観測結果を説明するためには、それがいつ高等生物である人間が誕生して宇宙を観測するようになるかをあらかじめ「知って」おり、ちょうどその百数十億年後の時代に、真空と物質の二つのエネルギー密度が同程度の大きさになるように働かなくてはならないのです。

現在、この謎を説明できる理論としては、私たちが全宇宙だと思っていたものは数ある宇宙の一つにすぎず、「別の宇宙」では真空のエネルギー密度や素粒子の性質などが異なっている、という「マルチバース理論」しか存在しません。

「宇宙の将来」はどうなっていくのか

では、宇宙が現在加速膨張をしているという観測結果を受けて、宇宙の将来はどうなっていくと予想できるのでしょうか?

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・仮説

これは、ダークエネルギーの正体や理論の詳細によります。もし、私たちの宇宙が唯一無二の宇宙で、ダークエネルギーの正体が真空のエネルギー密度であるならば、宇宙は永遠に加速膨張を続けるでしょう。

一方で、もしダークエネルギーの正体が真空のエネルギー密度であったとしても、マルチバース理論のように、私たちの宇宙が数ある宇宙の一つにすぎないのであれば、私たちの宇宙は将来のある時点で別の宇宙に崩壊してしまうと考えられます。

また、もしダークエネルギーの正体が「本当の」真空のエネルギー密度ではなく、現在そのように振る舞っている何かにすぎないのであれば、将来はダークエネルギーが消えてしまうことも考えられ、その場合は宇宙の加速膨張は将来、減速膨張に変わり、ついには収縮に転じて宇宙が潰れてしまうことも考えられます。

この宇宙の将来についての謎の鍵は、この先のダークエネルギーの詳細な観測の結果によるところが大きく、今後も活発な研究の対象になっていくでしょう。