コメ高騰の原因は流通の「ブラックボックス」ではなかった 「なぜ謝れないのか」米店は“悪者扱い”に怒り

■「悪者扱い」された流通の怒り, ■調査自体が大きな負荷, ■調査の結果は…, ■石破首相は「生産量に不足があった」, ■農水省の説明に現場は疑問, ■調査結果を受けての説明は?, ■農水省の説明「説得力に欠ける」, ■「机上の計算」が実態と乖離

 なぜ、米価が高騰しているのか。国や農林水産省は、これまで「流通の目詰まり」が原因と説明してきた。農水省は調査を行い、「流通の目詰まりは確認されなかった」と発表。8月5日、石破首相は米価高騰について「生産量の不足」が主因だったと認めた。

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■「悪者扱い」された流通の怒り

 つまり、「ブラックボックス」はなかった、ということだ。

「『流通業者は悪玉だ』と信じた客から、『米をため込んで、もうけているんでしょ』と言われたこともあります。なぜ、『申し訳ありませんでした』と謝れないのか」

 東京近郊の老舗米店の店主、中村真一さん(仮名)は、憤懣(ふんまん)やるかたないという表情でこう語った。国と世論から一時的にでも“悪者扱い”された流通側の思いは、察するに余りある。

 農水省はこれまで米高騰の原因を、米をため込んだ業者による「流通の目詰まり」と説明してきた。小泉進次郎農水相は流通を「ブラックボックス」とまで表現、国に届け出ているすべての米の出荷・販売業者に対して、在庫量の報告を求める調査を行うと発表したのは6月17日のことだ。

■調査自体が大きな負荷

「米の収穫は年1回です。われわれ米屋は、年間販売量を予測して、米を仕入れ、次の収穫時期まで在庫を持つ。そのコストは当然かかる。小泉農水相は、そういう仕組みを全く無視して、思いつきで発言しているとしか思えなかった」(中村さん)

 調査は米店にとって大きな負荷でもあった。事業者は2023年7月から25年6月末までの仕入れ、在庫、精米、販売、それぞれの量を報告することを求められた。しかも約2週間の短期間でだ。

「おじいちゃん、おばあちゃんが経営している米屋なんて大変ですよ。『提出が任意であれば、俺は出さない』という怒りの声が、同業者からいくつも寄せられました」(同)

■調査の結果は…

 小泉農水相は7月29日の記者会見で、米高騰の原因を検証するために実施した調査が終わったと明らかにした。

 調査結果の詳細は翌30日、有識者による「食料・農業・農村政策審議会食糧部会」で静かに示された。今年6月末時点の米の在庫量(速報値)は、農家、JAなどの集荷業者、小売り・中食・外食業者、いずれも前年並み。つまり、流通の目詰まりは確認されなかったのだ。

「コメの流通、目詰まり確認されず 量が足りず値上がり? 農水省調査」(朝日新聞)

 農水省の調査の結果は、各紙が静かに報じた。

■「悪者扱い」された流通の怒り, ■調査自体が大きな負荷, ■調査の結果は…, ■石破首相は「生産量に不足があった」, ■農水省の説明に現場は疑問, ■調査結果を受けての説明は?, ■農水省の説明「説得力に欠ける」, ■「机上の計算」が実態と乖離

■石破首相は「生産量に不足があった」

 さらに、8月5日の関係閣僚会議で、農水省は検証結果を提示。石破首相は「生産量に不足があったことを真摯に受け止める」とし、「減反政策」を見直し、増産にかじを切る方針を改めて表明した。

「調査を始める前から結果はわかりきっていた。この調査は、流通段階で米の在庫を持つ業者は『悪』だと、やり玉に挙げ、その追及姿勢を国民にアピールする意図しか感じませんでした」(同)

■農水省の説明に現場は疑問

 これまで農水省は、米の需要見通しに対して生産量が足りていることを根拠に、「米不足は起きていない」との説明を繰り返してきた。今回、「流通の目詰まり」が自らの調査で否定されると、「需要の見通しと実需の乖離」を食糧部会に示している。

「乖離」が大きくなったのは2年前からだ。23年産米は681万トンの需要見通しに対して、実際の需要は705万トン。24万トン上振れした。24年産米は674万トンの見通しに対して、実需は711万トンで、37万トン多くなった(※ただし、現在の算定方法による)。

 これに対して、中村さんは首をかしげる。

「2年連続で20万トンを超える需要増があれば、現場はそれを感じるはずです。しかし、そのような実感はありません」

■調査結果を受けての説明は?

 食糧部会の翌日となる7月31日、記者が農水省に問い合わせたところ、担当者によると、23年産の米の実需の増加には3つの要因が考えられるという。

 1つ目は、猛暑による「精米歩留まり」の低下だ。精米歩留まりとは、玄米を精米して表面のぬか層を削り取ったあと、得られる白米の割合のことだ。米は稲の種子だ。猛暑にさらされた稲は種子を守るため、もみ殻やぬか層を厚くする。厚くなったそれを取り去れば、可食部になる白米は当然、小さくなる。そのぶん、農水省が統計で扱う玄米の実需は多くなる。

 2つ目は、小麦価格の上昇で、パンやうどん、パスタなどの商品が値上がりしたため、米の需要が増えた可能性だ。

 3つ目の要因として、「インバウンド増加の影響も多少はあると考えられます」(農水省の担当者)

 だが、報道によると、こうした農水省の分析に対して、食糧部会の有識者からは「エビデンス(科学的根拠)を説明しきれていない」という声が相次いだという。

■「悪者扱い」された流通の怒り, ■調査自体が大きな負荷, ■調査の結果は…, ■石破首相は「生産量に不足があった」, ■農水省の説明に現場は疑問, ■調査結果を受けての説明は?, ■農水省の説明「説得力に欠ける」, ■「机上の計算」が実態と乖離

■農水省の説明「説得力に欠ける」

 農業経営学が専門の宮城大学・大泉一貫名誉教授も、農水省の説明は「説得力に欠ける」と指摘する。

 たとえば、精米歩留まりの低下について。精米歩留まりは通常90%ほどだ。農水省によると、23年産米は88.6%、24年産米は89.2%で、若干低い程度だった。

「90%弱という値は信じがたい。卸売業者に聞くと、精米歩留まりは80%強と、著しく低下している」(大泉名誉教授)

 稲の高温障害によって白く濁った「白未熟粒(シラタ)」や、亀裂の入った「胴割れ米」の割合も増加しているという。そのため、消費者の欲しがる高品質の米が減った。23年産米は、最も品質がよい「1等米」の比率は全国で60.9%で、前年同時期を17.7ポイントも下回った。

■「机上の計算」が実態と乖離

「新潟県は特に低く、コシヒカリの1等米比率はたった4.9%しかなかった。米価高騰の原因は、需要に対して単純に生産量が不足しただけだと考えています」(同)

 これまで農水省は生産現場に目を向けず、「鉛筆なめなめ、机上の計算で需要見通しや生産目安を決めてきた」と、大泉名誉教授は指摘する。

「だから、ここまで実態と乖離してしまったのでしょう」

 実質的に23年産米は「不作」だったのだとしたら、24年は大きく増産しなければならなかった。

「ところが、農水省はこれまでの誤りを認めず、備蓄米の放出を渋り、増産に舵を切れなかった」(同)

 だが、ついに8月5日、農水省の提示した検証結果に対して、石破首相が「生産量に不足があったことを真摯に受け止める」と述べたのだ。コメ問題はようやくスタート地点に立ったとみるべきだろう。

 今夏は全国的な猛暑が続き、新潟など米どころを含め渇水が報じられている。米をめぐる難局はまだ続きそうだ。

(AERA編集部・米倉昭仁)