46都道府県で支払い率低下、ショックを受けた経営委員に副会長「今が受信料に基づくNHKの持続可能性の分かれ目」
NHKの屋台骨である受信料収入が下げ止まらない。契約数が5年間で145万件減った昨年度末から3か月、さらに14万件減少した。支払率も厳しい状況だ。テレビ所有者が契約義務を負う受信料制度に基づく公共放送運営に黄信号がともる中、NHKは視聴者へのアプローチを強化する新たな営業戦略の検討を開始した。赤字財政の下、目標とする2027年度の収支均衡が達成できるか、いよいよ正念場を迎えている。(文化部 旗本浩二)
第1四半期も契約14万件減

東京・渋谷のNHK放送センター
先月公表された第1四半期業務報告によると、受信契約数は6月末で4053万件。3月末の4067万件から14万件減少した。契約数は2019年度末の4212万件をピークにコロナ禍がきっかけとなって減少に転じた。コロナ禍収束後も減り続けているが、世帯数の減少や物価高、テレビ離れ以外に、営業手法を変えた影響が大きいと指摘されている。
NHKは営業経費削減に向け、21年度以降、これまでの人海戦術による戸別訪問営業の手法から、地域密着イベントで番組をPRするなど「訪問によらない営業」への移行を強化。住所の記載があれば宛名がなくても配達できる「特別あて所配達郵便」を使った契約促進も開始した。しかし、十分な成果が出ず、新規契約の件数が解約件数に追いつかないのが現状だ。
こうした中、NHKの最高意思決定機関である経営委員会が6月24日に開いた会合では、高知県を除く全都道府県で推計世帯支払率が低下したことが報告され、議論となった。監査委員を務める田渕正朗委員(元住友商事代表取締役専務執行役員)は「都道府県別支払率を見ると、ほぼ全部下がっています。これはかなりゆゆしき状態だなと、少しショックを受けた。分析と施策をどうするか。徹底的に深掘りし、視聴者の声、支払っていない方々の声、そこに何があるのか、(問題点を)きちんと解消していかないといけない」と指摘した。
これに対し、井上樹彦副会長は「今が受信料に基づく『NHKの持続可能性の分かれ目』だという認識を我々としては持っている。インターネット必須業務化が始まり、新しい形の契約、新しい営業戦略を考えていこうということで、今週末から早速、検討を開始する」と述べた。
「コンテンツ力示し、回復傾向に戻したい」

NHKONEについて説明する黒崎めぐみ理事(左)と鈴木奈穂子アナウンサー(7月29日、東京・渋谷のNHK放送センターで)
改正放送法により10月からは、ネット業務が放送と同等の必須業務となり、テレビを持たない人も受信料を負担することでネット経由で番組を視聴することができるようになる。これを踏まえた新サービス「NHK ONE」の準備が現在急ピッチで進んでいる。ネット全盛期の今、スマホがあるなら家にテレビは置きたくないという人も増えている。そうなった場合、これまではテレビがない以上、受信契約を求めることはできなかったが、改正法により、ネット視聴時も契約が義務化される。時代に合わせた変更で、契約確保がままならず、支払いも不調な現状では、帯を締め直す絶好の機会だろう。
そこで「NHKの持続可能性の分かれ目」との発言について、7月30日の定例会長記者会見で改めて真意を確認してみたところ、井上副会長が答えてくれた。
「ちょうど放送100年の今年、放送と通信の融合の完成形として必須業務化が出てくる中で、ネットを通して公共メディアNHKの価値を若年層も含めて今一度、我々のコンテンツ力を示すことによって、受信料収入を回復傾向に戻したいという意味で『分かれ目』と言った。ここでどれだけ受信料収入の確保を踏みとどまれるかという意味で話した。この現状認識は経営陣には強くあって、今進めている営業アプローチの課題も明らかになってきたので、なんとかして(減少傾向の)下げ止まり、収入確保に向けて具体策を検討している」
営業戦略見直し「昔に戻るということではない」
だとすると、従来のような戸別訪問型の営業に戻るのだろうか。訪問営業は視聴者との間でトラブルも頻発していたため懸念される。この点、井上副会長は明確に否定した。

井上樹彦副会長
「もう人海戦術とか営業経費を使った形だけではとても追いつかない。いくら人を確保しても、例えばタワーマンションなどでは中に入ることもできない。相手と対面して理解を求めるやり方は基本的に変わらないが、ネット社会がこれだけ普及して、もっと効率的な様々なやり方でアプローチできるのではないか。その手応えも少し見えてきている。昔に戻るということではないです」
効率的なやり方と言えば、番組視聴の対価として契約を求め、未契約者には番組を見せないスクランブル方式の導入も考えられるが、井上副会長は改めてこれを否定。あくまで受信料制度に基づく公共放送、公共メディアとして、まずは番組を見てもらい、その価値を十分理解してもらった上で契約してもらう努力を強調する。
「もう一回、原点に戻ってNHKのコンテンツとか番組とかニュースの価値を伝えて、これだったら(受信料を)月に1100円払う価値があるということをとにかく理解してもらっていくのが基本。そのアプローチのやり方を広げていこうという戦略です」
番組・サービスへの理解が得られるか
NHKは、23年10月に実施した受信料の1割値下げの影響で、27年度までに1000億円の支出削減を迫られている。そのため、24~26年度は赤字予算を組み、27年度に年5770億円で収支均衡させるのが最終目標だ。これを実現するためにも営業状況の回復は不可欠で、対策としては、既に実施している未契約者に対する民事訴訟や割増金請求、不払い者に対する簡易裁判所を通じた支払い督促手続きをこれまで以上に強化することも考えられる。
しかし、何より重要なのは、井上副会長が指摘するようにNHKの番組やサービスに対する視聴者の理解が得られるかどうかだ。営業活動の新たな戦略が果たして功を奏するか、まさに受信料制度に基づくNHKが存続できるかの大きな分かれ目だろう。