極細1ミリの竹ひご数百本が整然と並ぶ「駿河竹千筋細工」 一人で全工程こなす匠の技

竹製の輪に極細の丸ひごを手際よく挿していく神谷恵美さん=静岡市駿河区(田中万紀撮影)

日中の蒸し暑さはなお残るも、朝晩の空気はいくらかひんやりとし、耳をすませば秋の虫の音が聞こえてくる。古来、虫かごとして使われてきたのが、1ミリ前後の細さの竹ひごを数百本も使って組み上げた竹細工。この優美で繊細な「駿河竹千筋細工」の手仕事は、静岡市でのみ連綿と受け継がれている。

小さな穴が開いた鉄板に竹ひごを通して、薄皮をはぐように表面を削ぎ、角を取っていく(田中万紀撮影)

静岡市の山あいに突如現れる大型施設に、観光バスで訪れた国内外の老若男女が吸い込まれていく。ここは、工芸職人と触れ合い、制作体験ができる「駿府の工房 匠宿(たくみしゅく)」。駿河竹千筋細工の職人、神谷恵美さん(42)が竹と向き合っていた。

大胆にして緻密。大きな機械に竹を当てて熱を加えたり、削ったりする力仕事を行ったかと思えば、極細1.1ミリ径の丸ひごを小さな穴にテンポよく挿していく。高校時代から親方の元に通って修業を始め、25年。キャリアはベテランの域に達しつつある。

始まりは虫かご、傷つけぬよう丸ひごで

駿河竹千筋細工は、江戸時代の1840年頃。岡崎藩(現在の愛知県)の武士が駿河(静岡)で投宿した際、虫かご作りの技を宿の息子に伝授したことが端緒とされる。角を削り落とした丸ひごを使うのは、中の虫を傷つけないため。竹ならではのすっきりした風合いと独特の艶、自然な色と質感が生かされている。

「滑らかになるまで角を落とし、熱を加えてしならせた1ミリ前後の細さの丸ひごを、数百本から1千本以上も使って作り上げる繊細さとやわらかさが魅力です」と神谷さん。

竹をなたで割り、刃物で削(そ)ぎ、穴を開けた鉄の板に通して薄皮をはぐように削って、素材となる丸ひごや竹の輪を作る。ひごの細さも、ひごを挿す穴の位置も、0.1ミリの狂いさえ許されない。機械仕掛けのような正確さと、手作業ならではの緻密さ。

駿河竹千筋細工の伝統的な形状の虫かご

目指すのは、何百と開けられた穴の間隔がぴったりそろい、数百本のひごが整然と同じ弧を描くこと。「いい細工は、すっきりと整った美しさを持っていると思います」

そのために、竹割りの工程では、一本一本異なる竹の「くせ」を見抜き、硬さやしなり具合、節の位置を見繕ってひごの取り方を考える。

デザイン画も自ら描く。静岡県内で行われる女子プロゴルフ大会の優勝トロフィー制作を担当しており、「毎年違うデザインを求められるので、なかなか大変で」と苦笑するものの、勝者が「すてきなトロフィーをいただきました」と喜んでくれることが励みになっている。

竹割りから組み立てまで、分業せず

デザイン考案、竹割り、ひご作り、曲げ、穴開け、組み立て…全工程を、分業せず一人の職人がこなすことも、駿河竹千筋細工の伝統だ。工程が多く、作業の種類が多岐にわたるので、職人には多様な技量が求められる。そのためか、業界団体に所属する職人はわずか11人。200年近く、受け継がれた匠の技は風前のともしびだ。

「奇抜なデザインやちょっと変わったものを作ろうとしたこともあります。でも結局、何十年も前から同じように作り続けられているものが、息長く人気です。やはり定番の品は安定しているし、時代を超える魅力があるのでしょう」という神谷さん。受け継いだ匠の技を未来につなげたいという熱い思いを抱いている。

竹に熱を加えて曲げる。割れやすいので慎重に

「何も知らない高校生だった自分を受け入れ、育ててもらったこの業界に貢献したい。素晴らしい工芸品が静岡に脈々と伝わり、今まで続いているので、ずっと残っていけばいいなと思っています」と表情を引き締めた。(田中万紀)