消えた湖、村人総出でとった魚で夕飯カレー バングラデシュのワイルドな地元グルメ

バングラデシュの魚のカレー「マーチェル・ジョル」と旅で出会った人々 (イラスト=織田博子)
マンガ家の織田博子です。世界25カ国を巡り、現地の人と家庭料理を作って食べてきた体験を、イラストとエッセーで紹介します。バングラデシュで食べたのはカレー。その食材は、「あっ」と驚く調達の仕方で、忘れられない味となりました。
家庭料理を味わう旅へ…優しい人が暮らす国
25歳のとき、会社を辞め、ユーラシア大陸を旅した。食べる事が好き。「ふだんのご飯」に興味があった。だからテーマを「世界家庭料理の旅」と決めた。インターネットで世界の裏側の情報も手に入るといわれたが、本当にネット上にすべてがあるのか。これからを生きるため、生の情報が必要だと思った。

バングラデシュの村の湖。木々の緑がまぶしかった
南アジアのバングラデシュ。日本の4割ほどの面積に1億7千万人が住み、首都ダッカの人口密度は世界トップクラス。かつては最貧国と呼ばれ、河川氾濫による水害も多い。2024年には学生運動を機に首相が国外逃亡し、暫定政権が発足した。

干上がった湖から魚をとり、村人総出で仕分けをした
日本に伝わるのは大きなニュースばかりだけど、私にとっては、森と湖があり、心優しい人たちが暮らす国。ノーベル文学賞を受賞したインドの詩人、ラビンドラナート•タゴールが「黄金のベンガル」と呼んだ美しい国。
イスラム教徒が多く、訪ねた15年ほど前は、街ですれ違うのは男性ばかり。人口の大半を占めるベンガル人はシャイで外国人女性の私に話しかけてはこない。が、困っていると心配そうに見守り、どこからともなく日本語ができる人(出稼ぎで覚えたそうだ)を探してきてくれる。

長粒米のごはんを盛った皿に、カレーがよそおわれるのを待つバングラデシュの子供たち
日本と同じ「米と魚」の国だった
ハネムーンで人気の観光地、セントマーティン島で出会った新婚カップルは、「よかったら田舎を見に行きませんか?」と誘ってくれた。東部の都市クミッラ郊外にある田や湖、ヤシの木に囲まれたのどかな村で、「初めて外国人が来た」と歓迎を受けた。
温暖だから米は三期作。バスマティライスという長粒米を、魚ベースのスープ状のカレーと一緒に手で食べる。辛さは控えめ。アチャールと呼ばれる漬物を混ぜて辛さを調節する。米と魚の組み合わせは、異国を渡り歩いていた私の口に懐かしく、おいしく感じた。バングラデシュも米と魚の国なのだ。
村には店がなく、ほぼ自給自足のようだった。湖川にはジュート(黄麻の繊維)の網がついた魚取り器が設置されていた。
昨日あった湖が・・・ない!
ある朝起きて散歩すると、昨日まであったはずの湖がなくなっていた。聞くと、村人の男性が大きなポンプを指さした。水を全部抜いたそうだ。
水のひいた場所で、大勢の男性がかがんで魚を拾っていた。それをかごに入れ運ぶと、女性と子供がより分ける。私も手伝った。
魚のぜいごやひれを取り除き、かごに入れる。女性たちはゆったりとおしゃべりしながら、子供たちは遊びながら、魚を下ごしらえし、それぞれの取り分を持ち帰る。屋外の土間の台所で、大量の魚がタマネギなどの野菜とともにマスタードオイルやスパイスで炒められ、大量のバスマティライスの横に添えられた。インドのベンガル地方やバングラデシュでよく食べられている魚のカレー。これが夕飯。
朝から村人総出で魚を取り、みんなで下ごしらえをし、夕飯に…という体験に驚きながら味わった。「スーパーで肉や野菜を買い、家で作る」のとは、全然違う家庭料理がある。なんて奥深いんだろう。まだまだ知らない世界がある。
マーチェル・ジョル(魚カレー)のレシピ
材料(4人分)
白身魚の切り身…600グラム
タマネギ…250グラム
トマト…30グラム(乱切り)
ヨーグルト…50グラム
ショウガ…1かけ
マスタードシードオイル…大さじ3~4
※なければサラダ油大さじ3~4とマスタードシード小さじ1
砂糖、塩
(A)ターメリック(パウダー)…小さじ2/3、塩大さじ…1/2
(B)バター…10グラム、赤唐辛子…4本、ローリエ…4枚、カルダモン(ホール)…4粒、シナモン…2本、クローブ(ホール)…4粒、クミンシード…小さじ1
(C)ターメリック(パウダー)…大さじ1/2、クミン(パウダー)…小さじ1、チリパウダー…大さじ1/2
作り方
1.魚に(A)をまんべんなくまぶす。
2.タマネギ150グラムとショウガをみじん切りにする。
残りのタマネギを5ミリ幅の半月切りにする。
3.フライパンを火にかけ、油を温める。サラダ油の場合は、油が温まったらマスタードシードを加える。②の半月切りタマネギを入れ、黄金色になるまで炒め、取り出す。
4.①の魚を③のフライパンに入れ、両面を揚げ焼きにする。黄金色になったら、取り出す。
5.④のフライパンに(B)と②のみじん切りにしたタマネギとショウガを加え、黄金色になるまで炒める。
6.⑤に(C)、砂糖大さじ2、塩大さじ2、トマトを入れて蓋をし、2分煮込む。
7.⑥にヨーグルトを入れ、手早く混ぜる。少し煮立てたら、お湯500ミリリットルを加える。
8.⑥が沸騰したら④、③を戻し入れて完成。好みでガラムマサラ、青唐辛子、フライドオニオンを加えても。
おだ・ひろこ
食を旅するイラストレーター、マンガ家。料理教室「世界家庭料理の旅」を主宰、3児の母。イラストには自身のトレードマーク「ブタ」の絵が登場する。