急死した女性初経団連役員、吉田晴乃さんが目指した「平等」 遺志継ぐ万博で掲げる新目標

2019年3月、大阪市内で講演した吉田晴乃さん。この年の6月、G20大阪サミット閉幕翌日に急死した(南雲都撮影)
2019年、大阪で開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)で、一人の女性が「大阪から世界をよりよい社会に変えよう」と訴え、2025年大阪・関西万博までにジェンダー平等を実現することを目標に掲げた。英通信大手の日本法人「BTジャパン」のCEOとして15年に女性初の経団連役員に就任、G20では女性に関する政策提言を行う「W20」運営委員会の共同代表を務めた吉田晴乃さん=当時(55)。吉田さんはG20の閉幕直後に亡くなったが、遺志を継いだ人たちが今年8月下旬、万博会場のウーマンズパビリオンに集まった。日本の女性たちをエンパワーし、男性たちと力を合わせて未来を切り開く-。そんな理想をこれからも追い続ける。

HYMECについて説明する塚原月子さん。モニターに映っているのは故・吉田晴乃さん=8月23日午後、大阪市此花区の夢洲(HYMEC提供)
「理想の社会のために」語り合う
「毎年イベントやセミナーを続け、その先にずっとこの日を見てきた」
遺志を継ぐ活動の中心になってきた女性活躍・ダイバーシティ推進の専門家、塚原月子さん(コンサルティング会社「カレイディスト」代表取締役)は8月23日、万博で開かれたイベントで感慨深そうにそう述べた。

「ウーマン・エンパワーメント・サミット2025」のワークショップでファシリテーターを務めた荒金雅子さん=8月23日午後、大阪市此花区の夢洲(HYMEC提供)
イベントの名前は、「ウーマン・エンパワーメント・サミット2025~私たちの新しい成長のカタチ:いのちを活かす社会をつくる~」。まず、米コロンビア大ビジネススクール教授で心理学者のシーナ・アイエンガーさんが基調講演。課題を解決するための手法「シンク・ビガー(大胆に発想する)」を紹介し、「どのような課題であろうと『仕方がない』と言う前に自分で選択肢を作っていこう」と呼び掛けた。
会場には約80人、オンラインで55人ほどが参加。パネルディスカッションの後、参加者同士がグループになり、理想の社会の実現に向けて自分にできることなどを話し合った。オンラインで参加した女性は「目指す方向が明確になった」。会場に足を運んだ宮崎県の女子中学生は「今日聞いた話を生かしていきたい」と目を輝かせた。
5つの柱の重点「女性役員を増やす」
吉田さんは生前、「女性が経済的にエンパワーされると、持続可能な開発目標(SDGs)の他の項目も改善される」「大阪万博でウィメンズエキスポを開催し、世界中の女性を呼ぼう」と訴えていた。G20の閉幕後も吉田さんがそうした活動の中心になると、誰もが信じていた。
そんな吉田さんが志半ばで亡くなったことを受け、塚原さんらは翌年、「吉田晴乃記念実行委員会(HYMEC)」を結成。①女性役員を増やす②女性起業家・企業家を支援する③女性首長と地域活性化を後押しする④若い女性リーダーを育てる⑤エシカル消費(社会的課題の解決を意識した消費行動)で世界を変える―の5つの柱を掲げた。
起業家や企業役員、弁護士などを本業とするメンバー13人がそれぞれの専門性を生かし、計5回の年次大会やテーマごとのオンラインイベントを開催。参加者は延べ約千人に上った。
HYMECが特に力を入れたのが、役員を展望する女性への支援だ。「企業の役員会に女性が入ることで議論が活性化する」。メンバーの一人で、大阪でコンサルティング会社「クオリア」を経営する荒金雅子さんはそう語る。
吉田さんと交流のあった女性役員や経営者らが講師を務め、経営に携わるためのマインドやノウハウを学ぶ約半年間のセミナーを開催。20年から毎年実施し、今月始まった第5期までに100人近くが受講した。その多くが実際に役員を含む上位職へのステップを踏み出したという。
関西電力コンプライアンス推進本部チーフマネジャー、片本真代さん(47)は、グループ会社を含めた内部統制やリスク管理を統括しており、昨年度のセミナーに参加した。「今いる場所から上なり横なりへ進んで行こうという強いメッセージや、それに必要な組織の動かし方、他への影響の及ぼし方、ビジネス情報が盛り込まれていた。参加して考え方、行動、言葉が変わった」と振り返る。志を持った受講生同士のネットワークから、今も力を得ているという。
2050年へ新たな目標「50by50」
女性活躍推進法の制定から今年で10年。だが、24年度の「雇用均等基本調査」で、課長相当職以上の管理職に占める女性の割合は13・1%、役員は 21・1%にとどまっている。「それでも、G20のあった19年よりは加速している」と荒金さんは実感している。
万博のレガシーを残すため、今年10月に大阪大と関西経済3団体が発起人を務める「いのち会議」が発出予定の「いのち宣言」の起案にHYMECも参加。宣言には、50年までに、日本のあらゆる分野における女性比率を50%にするという新たな目標「50by50」が盛り込まれる予定だ。
荒金さんは「吉田さんは『いつまでも私の名前を使わないでよ』と言いそう。彼女のやりたかったことを私たちが代理でやったのではなく、よりよい社会を作りたい私たち一人一人の背中を、吉田さんが押してくれていたという気がする」とほほえむ。
「吉田晴乃記念」の呼称は8月23日のイベントまでだが、ジェンダー平等を目指す活動は今後も続く。塚原さんは「吉田さんのビジョンを胸に活動してきたことを誇りに思う一方、いつか天国の吉田さんに『さすがの私もそこまで想像していなかった』と思われるくらい前進したい」と語った。(加納裕子)