大量絶滅から日本海の歴史、巨大地震の痕跡や生命存在の謎まで。海底下地質試料「コア」に刻まれた地球・生命の記録を読み解く

重たい扉を開けると、そこは厚手の上着なしでは震えてしまう巨大な冷蔵庫のような空間。高い天井まで届きそうな棚がいくつも並んでおり、中には細長い筒がギッシリと詰め込まれています。

ここは、高知龍馬空港からほど近い高知大学物部キャンパス。その一角にあるのが「JAMSTEC高知コア研究所」です。この研究所が管理する冷蔵保管庫は、世界でも3ヵ所にしかないコア保管拠点のひとつなのです。

コアとは、世界各地の海底下を掘削し採取した研究用地質試料のこと。世界中の研究者たちが、そこから自分に必要なサンプルを高知コア研究所にリクエストするそうです。

一体どのようしてコア試料を採取し、それを調べることで何がわかるのでしょうか。そこで、多国間科学研究共同プログラム「国際深海科学掘削計画」(IODP)のキュレーターとして研究者のリクエストに応えている、高知コア研究所 技術支援グループの久保雄介さんにお話を聞きました。

長さ300kmに及ぶコア試料が保管されている, 南海トラフ、断層帯のコア試料の特徴は!, 青森八戸沖の海底下にある黒い地層の正体は?, 海底地下の掘削は、どのように行うのか?, 世界に3ヵ所しかない「地質コア試料保管庫」, コア試料の掘削はいつから始まったのか?, 掘りクズの中にも貴重な試料が含まれている, 「ちきゅう」には、どんな研究者が乗っている?, 「地震研究」から「海底下の微生物」まで, 2億3000万年前のコア試料には!?, 古気候研究から大量絶滅の痕跡まで, 日本海の歴史を記録したコア試料, 国際研究で進んでいるコア試料の掘削!, コア試料から発見された微生物の謎!, 生物が暮らす限界はどこにあるのか?, 海底下という未知の世界に挑む!

写真:左・高知コア研究所。右・コア試料が保管されている保管庫内。(撮影:市谷明美・講談社写真部)

*本記事は、JAMSTECの研究のなかから「海底下地質試料(コア)研究」に焦点をあて、『JAMSTECアーカイブス』として、とくに話題となった記事を再編集しています。この記事は2023年2月に配信された2本の記事をもとにしています。

長さ300kmに及ぶコア試料が保管されている

――この冷蔵保管庫に並んでいるのが、すべて海洋底から掘削された地質コア試料なんですね。全部で何本ぐらいあるんですか?

20万本ぐらいあります。1本は長さ1.5メートルなので、全部つなげると300キロメートルになりますね。船からパイプを下ろして採取するのは10メートル分のコアなんですが、そのままでは扱いにくいので、1.5メートルに切りそろえます。

さらに、円柱状のコア試料を縦に2分割して、半分は手をつけずにそのまま保管します。もう半分が、研究のためにサンプルを少しずつ取ってよいもので、「ワーキングハーフ」と呼んでいます。同じ試料が2本ずつあるので、実質的にはおよそ10万種類のコア試料が保管されていますね。

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写真:左・JAMSTEC 高知コア研究所 技術支援グループの久保雄介さん。後ろに並んでいるのが保管されている海底地下からのコア試料。右・研究用のサンプルを採取するためのワーキングハーフ。白い部分がサンプルを採取した跡。(撮影:市谷明美・講談社写真部)

南海トラフ、断層帯のコア試料の特徴は!

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写真・地震発生帯から採取しされた2種類のコア試料。上は地球深部探査船「ちきゅう」によって採取された南海トラフのコア試料。下は米国の掘削船によるもの。上のフキダシ内は、南海トラフから採取した断層帯のコア試料を拡大したもの。過去に起きた地震により破壊されていることがわかる。(撮影:市谷明美・講談社写真部)

たとえば、これは南海トラフの断層帯から採取したコア試料です(※写真・上)。何百万年にもわたって何度も地震による破壊が進んだことで、ガサガサになっているのがわかりますよね。

青森八戸沖の海底下にある黒い地層の正体は?

――そもそも、このコア試料はどれぐらいの深さから採取するのでしょう?

その調査対象によって深さは異なりますが、JAMSTECが運用している地球深部探査船「ちきゅう」が採取したものでいちばん深いものは、海底下3085.5メートルから取ったものです。そのとき、海底までの水深が1939メートルですから、船上からは5キロメートルぐらいパイプを伸ばしたことになりますね。

ここに保管されているもので2番目に深いのは、やはり「ちきゅう」によるものですが、青森県八戸沖の海底下約2500メートルから掘削したものです。それがこのコア試料です。

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写真・海底地下深部から採取された2種類のコア試料。上・地球深部探査船「ちきゅう」が海底下3085.5メートルから採取したもの。下・「ちきゅう」で採取した青森県八戸沖の海底下約2500メートルのコア試料。 フキダシ内は、青森県八戸沖の海底下約2500メートルから採取されたコア試料(保管用のカバーを外し拡大)。石炭の特徴である黒色をしている。(撮影:市谷明美・講談社写真部)

ご覧のとおり真っ黒ですが、これは石炭なんです。

植物が地熱や地圧によって変質したのが石炭ですが、もともとは陸上だったところが地殻変動によって、この深さまで下がっていったのでしょう。青森県八戸沖の海底下は、北海道にたくさんある炭田とつながっているわけです。

海底地下の掘削は、どのように行うのか?

――コアの掘削は、やはり海底をドリルで掘削していくんですか?

掘削というとガリガリ削りながら進んでいくイメージがありますが、海の底、とくに海底直下は柔らかい泥の層なんですね。浅いところは柔らかいので、いわばお豆腐にストローを突き刺して採取するイメージで、パイプを勢いよく突き刺すことで採取します。

ラベルに「H」と記されているのは浅いところで突き刺して採取した泥のコア試料。「R」は深いところを削って採取したコア試料です。また、この中間の「X」と書かれたコア試料もあります。

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写真:左・赤い丸で囲んだ部分のアルファベットに注目。「H」は浅いところから採取した泥のようなコア。ここが「R」の場合は深いところから掘削された硬いコア。写真のものは「H」。 右:実際に使用されたドリルビット。(高知コア研究所、撮影:市谷明美・講談社写真部)

深いところは海底火山から噴出した溶岩が固まってできた石だったり、もともと泥だったものが何百万年も経つうちに上からの圧力で押しつぶされて固くなったりしたものなので、そこから先は「ドリルビット」と呼ばれる器具でガリガリと削りながら掘っていきます。

コア試料採取用のドリルビットは真ん中に穴が開いていて、周辺部分を削りながら進むと真ん中の芯の部分だけが残って穴に入ってきます。それがコア試料になります。

世界に3ヵ所しかない「地質コア試料保管庫」

――こちらには、いつからコア試料が保管されているのでしょうか。高知コア研究所の成り立ちなども教えてください。

先ほども少しふれた地球深部探査船「ちきゅう」が竣工したのが、2005年7月です。そこで「ちきゅう」をはじめとする科学掘削船が採取したコア試料を保管・管理し、それを使った研究も行うために、同じ年の10月に高知コア研究所が設立されました。   

2007年からは、国際深海科学掘削計画「IODP」(当時は統合国際深海掘削計画)という多国間科学研究共同プログラムに基づいて、世界3ヵ所にあるコア保管拠点のひとつとなりました。

コアの保管場所は、採取した海域ごとに分担が決まっています。大まかに言うと、太平洋は米国、大西洋は欧州、そして西太平洋からインド洋にかけた海域で採取されたコアは日本の高知コア研究所が保管する。ですから、ここには欧米の科学掘削船が採取したコア試料もあります。

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写真:左・赤で囲まれた薄紫色のエリア(西太平洋からインド洋にかけた海域)から採取されたコアは、高知コア研究所で保管されることになっている。右・取材で訪れた日もがJAMSTECが運用する海底広域研究船「かいめい」が採取したコアが運ばれてきた。(撮影:市谷明美・講談社写真部)

コア試料の掘削はいつから始まったのか?

――国際的な協力体制がしっかりとできあがっているんですね。そもそも人間が海底を掘削してコア試料を集めはじめたのはいつ頃ですか?

研究目的で海底下のコア試料を採取しようとしたのは、1960年代に米国が始めた「モホール計画」が最初だと思います。地球の地殻とマントルの境界線のことを「モホロビチッチ不連続面」、略して「モホ面」(図1参照)と呼びますが、モホール計画はそこまで掘削しようという野心的なチャレンジでした。陸より地殻が薄いので、海底下を掘削しようとしたんですね。

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図1・海洋地殻(茶色の層)と上部マントル(薄緑色の層)との境界面が「モホ面」(モホロビチッチ不連続面)と呼ばれる。(イラストレーション:鈴木知哉氏・JAMSTEC提供をもとに作成)

モホール計画は、費用を含めたいろいろな理由で頓挫してしまいましたが、モホ面までは到達できなくても、そのプロジェクトを進める過程で、さまざまな研究分野にとって価値のある試料が地殻から取れることがわかりました。そこから、現在につながる掘削が始まったんです。

そのため以前は米国の科学掘削船が中心で、保管庫も米国にしかなかったのですが、2003年から日本と欧州の科学掘削船を加えた国際協力体制ができあがりました。

掘りクズの中にも貴重な試料が含まれている

――欧米の科学掘削船と「ちきゅう」には性能の違いなどがあるのでしょうか?

深く掘るのが得意なのは日本の「ちきゅう」ですね。それに比べて効率良く作業ができるのが米国の「ジョイデス・レゾリューション」という科学掘削船です。欧州は専用の船を所有せず、計画内容に合わせて石油・ガス業界など民間の船をレンタルしています。

いろいろなタイプの船があるので、日本にも米国にもできないような掘削ができるのがメリットですね。たとえば北極に行くなら、耐氷船とコンビで動ける科学掘削船が必要になります。ただし民間の船には分析装置や実験室などが備わっていないので、別途それを用意しなければなりません。

また、「ちきゅう」は米国の科学掘削船ではできない掘り方ができます。

掘削した穴から出る岩石の破片のことを「カッティングス」といいますが、米国の船はカッティングスを海の中に排出するんですね。そのほうが技術的には簡単なんですが、カッティングスにも貴重な試料が含まれているので、できればそれも回収したい。

そこで「ちきゅう」は掘った水と土をいったん船上に回収し、カッティングスを取り除いてから、残った泥水を再び掘削孔に注入します。これは「ライザー掘削」という技術で、特殊な泥水を使うことによって、掘削孔を壊さずにより深くまで掘り進むことができるんです。ただし短期間で多くの場所を掘削するなら「ライザーレス掘削」のほうがいいですね。

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図2・掘削の違いの解説。掘った水と土をいったん船上に回収し、貴重な試料が含まれている可能性があるカッティングス(岩石の破片)を取り除いてから、残った泥水を再び掘削孔に注入する「ライザー掘削」(左)。海底下浅層部を掘削する「ライザーレス掘削」では、カッティングは回収しないが短期間に多くの場所を掘削できる。

「ちきゅう」には、どんな研究者が乗っている?

――久保さんご自身も「ちきゅう」に乗船するんですか?

いまは乗りませんが、2007年から2019年までは「ちきゅう」で研究者を支援する仕事をしていました。30人ぐらいの研究者が乗船するのですが、彼らが船の上の限られた時間で最大限の成果をあげられるように支援する役割です。

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写真・地球深部掘削船「ちきゅう」。中央部に建てられたやぐらから海底下に向けてパイプを下ろしていく。全長210 m、船底からやぐらの上端までは130 mもある。(写真提供:JAMSTEC)

研究分野は各人それぞれ違うので、彼らがやりたいことを理解して、それがうまくできるように実験装置などを手配したりしていました。いまは地上で世界中の研究者から「こういうコア試料が欲しい」というリクエストに応じてサンプルを提供していますが、船上での経験も生きていると思います。

――どんな分野の研究者がコア試料を使うんですか?

乗船する研究者の肩書きだけでも、堆積学、構造地質学、古生物学、有機化学、無機化学、古地磁気学、微生物学など10種類ぐらいありますね。海底下から採取したコア試料は上から下まで年代がきれいにつながっているので、どの分野であれ、過去の状態や履歴を知りたい研究者にとっては価値があるんです。陸で採取したコア試料は、長い年月をかけて海から陸に上がるまでに複雑な過程を経ているため、断片的になってしまうことが多いんですね。

「地震研究」から「海底下の微生物」まで

――同じ場所で掘削したコア試料でも、いろいろな研究分野で使われるわけですね。

たとえば南海トラフの掘削と聞くと地震の研究だと思われやすいですし、実際それもありますが、そのほかにも微生物研究のための航海もしています。海底下は深いほど温度が高くなりますが、南海トラフはふつうよりも温度勾配が高いので、比較的浅いところでも100度を超える場所があるんですよ。どこまで高温の環境で生物が生きていられるかというのは微生物研究者にとって大きなテーマのひとつなので、南海トラフはその分野でも重要な海域なんです。

――研究対象が微生物だと、コア試料の保管にも気を遣いそうですが。

コア保管庫は室温4度、湿度80%を維持していますが、微生物や生体分子の研究に使う一部の試料はマイナス80度の極低温で管理しています。ただ、微生物の研究者はあまり古い試料を使いたがりませんね。地上の微生物が混入しないよう、採取したばかりのコアを船上で開ける際に、空気に触れないように保管して使用する人もいます。

――保管庫のコア試料は、リクエストすれば誰でも使えるんですか?

学術的利用については世界中の研究者に公開されています。教育目的や博物館での展示のために利用することもできますね。リクエストした研究者自身が来て持ち帰ることもありますが、基本的にはこちらのスタッフが必要な部分をコア試料から採取して、世界中に発送しています。

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写真・高知コア研究所では採取したコア試料の切り出しや分析も行う。(撮影協力:マリン・ワーク·ジャパン、撮影:市谷明美・講談社写真部)

冷蔵保管していても、どうしてもカビが生えてしまうことはあるのですが、有機物の研究者にはその表面を薄く削ってきれいにしてから送ることもありますね。研究内容によっては、金属やプラスチックに触れないようにしてほしいという要求もあるので、それに合わせて使う道具も変えながらサンプルを取っています。

2億3000万年前のコア試料には!?

――さまざまな分野の研究者がコア試料を使うということですが、その中でもいちばんリクエストが多いのはどのようなジャンルでしょうか。

年間150件程度のリクエストがあるうち、100件ぐらいは地球環境の変化に関わるものです。やはり、コア試料の使いみちとしてはそれが第一でしょうね。環境というテーマは幅が広いので、数百万年前のことを知りたい研究者もいれば、ごく最近の状態を知りたい人もいます。調べる対象もさまざまで、微化石、花粉、粘土の粒など、環境変化の研究方法は無数にあります。

たとえば、これはオーストラリアの北西で採取された三畳紀のコア試料で、2億3000万年前のものと推定されています(※写真)。ところどころに点在している白いものは、貝殻。しかし、同じ場所で採取した別の時代のコア試料には、この貝殻はまったく見られません。特定の時代のコア試料にしかないので、海流など当時の環境が反映されていると考えられます。

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写真・中央部の白い円形のものが2億3000万年前に生息していた貝の殻。(撮影:市谷明美・講談社写真部)

ちなみにこの三畳紀のコア試料は、この保管庫の中ではダントツに古いものです。海底下の地層は動いているので、古いものはどんどん沈み込んでいってしまうんですね。だから1億年以上前のコア試料はあまりありません。日本周辺の海底には、せいぜい2000万年前までの地層しかないんです。

古気候研究から大量絶滅の痕跡まで

――それでも古気候の研究には役に立つんですか?

もちろん深いほど古いことがわかるのですが、昔のものほど長い時間をかけて変質していたり、地層のつながりがわかりにくかったりすることも多いので、浅いところのものでもいいから、連続性がきれいにわかるきれいなコア試料がほしいという人も多いです。

コア試料に入っているプランクトンの死骸を使ってさまざまな元素の同位体を調べることで、それぞれの時代の温度などがわかります。

また、環境の変化を知る上でとくに注目されるのは、たとえば、北極海と太平洋をつなぐベーリング海のように、二つの海域をつなぐ場所で採取されたコア試料。そういう場所で海水の入れ替えがあったか、なかったかによって、地球全体の気候が大きな影響を受けます。

――たとえば恐竜を絶滅させたといわれる隕石が衝突したときの痕跡なども、コアから読み取れたりするのでしょうか?

はい、隕石が落ちたメキシコ湾でサンプルを採取すれば、恐竜が絶滅したときに何が起きたのかはわかります。ここにあるのはインド洋のコア試料なので、メキシコ湾から見ると正反対の場所になりますが、隕石衝突が全地球的に及ぼした影響はわかりますね。化石の種類や同位体を調べると、そこを境に前の時代とは大きく異なる変化が見て取れます。

生物の大量絶滅というと、「海洋無酸素事変」というのもありますよね。これは、海が淀んで閉ざされた池みたいになっていまい、上のほうには酸素があるけれど、下のほうは酸欠状態になったという時期です。それについても、コア試料の有機物の変化などを調べて研究している人がいます。

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写真・地球史における大量絶滅イベントとして知られる「海洋無酸素事変」の痕跡を残すコア試料。(撮影:市谷明美・講談社写真部)

日本海の歴史を記録したコア試料

――酸素が多いか少ないかでコア試料の状態が変わるんですか?

無酸素まで行かない変化でも、酸素の量によって色が敏感に変わったりします。じつは、それがよくわかるのが日本海のコア試料なんですよ(※写真)。日本海は狭くて閉鎖的な領域なので、外海の水が流入したり、逆に周囲と隔離されて淀んだ状態になったりすることで、酸素の量が変化しやすいんです。それを反映して色が変わるので、ご覧のとおり、きれいな縞模様が見られます。

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写真・日本海海底下から採取されたコア。縞模様は酸素量の変化や生物相の変化を記録している。(撮影:市谷明美・講談社写真部)

それ以外の点でも、日本海は比較的高い解像度が求められる研究に適した場所です。気候変動などで、短い時間スケールで起こった地球規模の変動を知ることができるコア試料は、日本海で採取しやすいんですね。また、陸地に近いところでは、花粉やキノコの胞子なども含まれているので、その時々の植生や気候などがわかります。

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写真・高知コア研究所にはさまざまなコア試料が保管されている。このコア試料はインド洋海底から採取されたコア試料。縞状になっている色の薄い部分が、ヒマラヤ山脈の砂と同じものであることから、ヒマラヤ山脈から流れ出た砂がインド洋に堆積していることがわかる。(写真提供:JAMSTEC)

国際研究で進んでいるコア試料の掘削!

――では、欧米の船も日本海にはよく来るんでしょうね。

2013年に日本海を科学掘削した際はライザーレス掘削が得意な米国の科学掘削船が用いられました。

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写真:地球深部探査船「ちきゅう」(左)と米国の科学掘削船「ジョイデス・レゾリューション」(右) (写真提供:JAMSTEC・左、IODP/JRSO・右)

――ここまでのお話をうかがって、やはり地球の過去を知るにはコア試料が重要な役割を果たすことがよくわかりました。ほかにも何かわかることはありますか?

たしかにコア試料には過去の環境が記録されているので、それはきわめて大きな意義ですが、それと同時に、現在もそこで暮らしている微生物もいるんです。100万年前に死んだ生物だけでなく、100万年前からずっと生き続けている生物もいる。ですから、過去の地球環境に加えて、コア試料からは現在の地球がどうなっているのかも見えてくるんですね。

コア試料から発見された微生物の謎!

たとえば日本近海には大量のメタンハイドレードが埋蔵されていると考えられていますが、あれは微生物が作ったメタンなどが集まって固まったもの。そのメタンハイドレードが環境変動によって溶け出たり隠れたりすることで、地球環境に影響を与えています。その気温変化などがこんどは地下の生物に影響を与え、その活動がまた地表の環境に影響を与える。そういうフィードバックの繰り返しによる気候変動を研究している人もいます。

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コアから見つかった微生物(メタン菌)(提供・JAMSTEC)

そういった研究は、コア試料の掘削技術、分析技術が進歩したおかげで可能になった比較的新しい分野だと言えるでしょう。50年前は、コア試料を取ってきても、そこに生きた微生物がいるとは誰も想像していませんでしたからね。でも考えてみれば、地球の7割は海底。地表よりも圧倒的に多いので、地球環境全体を知るにはそれを無視して考えることはできません。そういう発想は、わりと最近になって出てきたものです。

生物が暮らす限界はどこにあるのか?

――海底下の地下世界で生きる生物がいるんですね。当然、海底下ですので、高温だったり、高圧だったりする世界だと思います。

2016年の室戸沖限界生命掘削調査「Tリミット」という研究航海では、海底下に暮らす生物がどのくらいの温度の地層まで生息しているのか? という調査が行われました。

その結果、「100度以上になってもまだ地層の中で生物は生息している」という驚くべき発見があったんです。

これからも、未知の微生物が発見される可能性もまだまだあります。また、そのような微生物がどんな形で生きているのかも想像がつきません。それは、生命の定義そのものが変わるような大発見になる可能性もあります。

海底下という未知の世界に挑む!

――地球科学という分野には大きなフロンティアが広がっていることがよくわかりました。コア掘削が担う役割もますます大きくなっていくと思います。

海洋科学掘削をもとにした研究は、今後も国際的な協力のもとで行われ、ここから得られたさまざまな知見は、地球科学はもちろん、気候学や生命科学など、さまざまな分野の研究に役立つものだと考えています。

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(撮影/市谷明美・講談社写真部)

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  • 取材・文:岡田仁志
  • イラストレーション:鈴木知哉
  • 取材・写真・図版協力:国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)
  • 撮影:市谷明美・講談社写真部