「再エネって本当にいいの?」浮体式洋上風力発電で水産業も雇用も人も元気になった「五島の奇跡」

35度を超える猛暑日が過去最多

2025年の夏は、誰もが認める「異常な暑さ」となった。35度以上を超える「猛暑日」は関東で過去最高を記録。干ばつ被害と豪雨被害とが農作物を襲った。9月に東京で開催された世界陸上でも競技は朝と夜がメインだった。

35度を超える猛暑日が過去最多, 日本は「再エネ後進国」, 「浮体式洋上風力を活用して、水産業を良くしたい」, 「石油から再生可能エネルギーに変わるのが時代の流れだと思う」, 1回目の番組との「違い」

Photo by iStock

気象庁は「気候変動2025」を発表。日本における年平均気温が1898~2024年の間に100年当たり1.4度の割合で上昇していることも伝えた。国連が提案している気温上昇を1.5度以内に食い止めようとする「1.5度の約束」がもはや破られつつある待ったなしの状況だ。

そこで期待されるのは再生可能エネルギー(再エネ)だ。太陽光や風力、地熱といった自然エネルギーによって電力をまかなうことができれば、CO2を排出する化石燃料によるエネルギーに頼らなくても済む。

2025年9月21日に放送されたテレビ朝日のドキュメンタリー『4人のおじい奮闘記!~輪島 スコットランド 希望をつなぐ風~』は、再エネビジネスによってエネルギー問題と地方創生を叶えるための鍵だと改めて伝えるものだった。

海に囲まれているスコットランドは100%再生可能エネルギーによって電力をまかなっている。同じく海に囲まれている日本で、海沿いにある輪島の方々が浮体式洋上風力導入を考え、実践すべく漁業組合とも連携をとっている。実際、輪島に「4人のおじい」がスコットランドの海に視察にいったときの目を輝かせる様子が印象的だった。

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スコットランドの洋上風力 Photo by iStock

ここで注目されるべきは、再生可能エネルギーは企業がただビジネスとして行うのではなく、国のサポートとともにその地域とともに作り上げてこそうまくいっているということだ。

北海道釧路での太陽光パネルによる環境破壊の問題や、三菱商事の浮体式洋上風力事業からの撤退のニュースも流れる中、どのようにしたらそのビジネスを誰もが幸せな形にできるのか。

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釧路湿原では太陽光パネル設置による環境破壊が問題となっている。太陽光パネルがわるいというよりも、他のあらゆる工事同様、大規模な工事のために必要な地域とのコミュニケーションが不足していたのだと思われる Photo by iStock

9月27日には千代田区ワテラスで、28日には渋谷のサクラステージで、「再エネの日」を記念したイベントが開催される。そこで2024年に開催されたイベントにてパブリックビューイングが行われたテレビ朝日のドキュメンタリーを、長く気候変動の取材を続けている中田真弥氏がリポートする。

日本は「再エネ後進国」

筆者は2024年8月までハフポスト日本版の記者として、気候変動について取材を続けてきた。気候変動の取材を始めたきっかけは、2021年の夏に制作したオンライン番組「『再エネ後進国・日本』は変われるのか?」だった。

気候変動を食い止めるために欠かせない再生可能エネルギー(以下再エネ)。番組は特に電力にフォーカスし、「再エネをめぐる日本の常識は10年遅れ?」「日本の再エネ普及、乗り越えるべき壁は?」「再エネ転換に向けて、私たちにできることは?」の3つのトークテーマに沿って、専門的な内容もふんだんに詰め込んだ。

気候変動は、産業革命以降人間が使ってきた化石燃料から大量に排出されている温室効果ガスが主な原因だと科学的に指摘されている。気候変動を食い止めるためには、利用時に温室効果ガスを排出しない太陽光発電や風力発電などの再エネへの大胆な転換が必要で、世界的にプレッシャーが高まっている。

日本の場合、2023年度時点で再エネは電源全体の22.9%だが、石炭は28.3%、天然ガスは32.9%など化石燃料が大部分を占める。2030年には再エネを36〜38%まで引き上げることを目指しているが、今後更なる引き上げが求められている。また、依然として石炭を19%活用する予定で、廃止の見通しを明言していない。

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日本は今なお化石燃料を原料とする発電が大部分を占める Photo by iStock

この「エネルギー」という難しい内容を、どうすれば単純化せずに分かりやすく伝えられるか、悩みに悩んで涙目になりながら台本を書いたのを覚えている。視聴者の方からいつもより活発なコメントをいただけたのが何よりも嬉しいことだった。

一方で、今だったら「もっと伝えたい」と思うこともいくつかある。その一つが「希望」だ。

気候変動を食い止め、脱炭素社会を実現するためには、システムチェンジが必要だ。でも、システムチェンジと言われても、何をどうしたら人が変わり、企業が変わり、地域が変わり、国が変わるのか、想像しづらい人も少なくないだろう。

だからといって、課題や日本の「遅れ」を指摘し、「難しい問題ですよね」と言って、個人の行動変容だけを促すだけに留まっていては、気候変動は止まらないし、再エネも十分な速度で増えていかないだろう。「こうすればできるかもしれない」という、具体的な希望も重要だ。

実際に、日本にも「希望」を感じられる事例は出てきている。2024年9月22日に放送されたテレビ朝日の特番「緊急報告!再エネ革命 風車が導く奇跡の物語」は、個人、企業、行政が動いて地域が元気になっていくさまを立体的に描いていた。

「浮体式洋上風力を活用して、水産業を良くしたい」

2024年の9月22日、東京・渋谷で開催されたイベント「みんなでつくろう再エネの日!2024」には、特番のパブリックビューイングが行われた。番組のなかで現地を取材している山口豊アナウンサー本人の解説を聞きながら、ドキュメンタリーを見るという稀有な環境で、観客たちは食い入るように番組に集中していた。

35度を超える猛暑日が過去最多, 日本は「再エネ後進国」, 「浮体式洋上風力を活用して、水産業を良くしたい」, 「石油から再生可能エネルギーに変わるのが時代の流れだと思う」, 1回目の番組との「違い」

再エネの取材を続けているテレビ朝日の山口豊アナウンサーの解説を聞きながらドキュメンタリーを見るという贅沢 写真提供/Media is Hope

番組は長崎の五島を舞台に始まる。浮体式洋上風力の実証事業から商用運用、そして風車が8基連なるウィンドファームの稼働に向けて、地元企業、風力発電企業、行政、漁師、潜水士、商工会議所などの一人ひとりが「自分がやるしかない」と奇跡のバトンをつなぐドキュメンタリーだ。

35度を超える猛暑日が過去最多, 日本は「再エネ後進国」, 「浮体式洋上風力を活用して、水産業を良くしたい」, 「石油から再生可能エネルギーに変わるのが時代の流れだと思う」, 1回目の番組との「違い」

長崎県五島列島は、長崎の西方100kmに浮かぶ大小140余りの島々からなる自然豊かな地域。2018年6月には、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として登録され、世界文化遺産の島に登録された Photo by iStock

浮体式洋上風力とは、その名のとおり「海に浮かぶ」洋上風力だ。「洋上」に吹く風を利用してエネルギーをつくる風車を海の中に設置する際に、海底に固定するのではなく、洋上の浮体製造物に設置するもの。水深の深い海でも設置できる。それを、水深の深い五島で設置しようと決めた官民の人々の奮闘が描かれていた。

結果的に、浮体式洋上風力の海中にある柱にはサンゴや魚がたくさん集まる「魚礁」になった。五島の主力産業である水産業が活気づき、洋上風力を組み立てる工場ができたことで地元の雇用も増えるなど、たくさんの好循環が生まれた。

私が特に印象的だった一人は、元五島ふくえ漁業協同組合組合長の熊川長吉さんだ。熊川さんは、実証実験後に撤去されるはずだった浮体式洋上風力の風車をそのまま残したいと思った当時を振り返り、こう語った。

僕は洋上風力をやりなさいという人じゃない。この浮体式洋上風力を活用して、水産業を良くしたい

熊川さんの言葉を聞いて、再生可能エネルギーがもたらすものは、脱炭素だけではないと改めて気づかされた。自然と人が共生し、エネルギーの地産地消が行われ、エネルギー自給率が上がり、地域経済との好循環も生まれる可能性を秘めている。そんな地域の希望になりうるのだ。

35度を超える猛暑日が過去最多, 日本は「再エネ後進国」, 「浮体式洋上風力を活用して、水産業を良くしたい」, 「石油から再生可能エネルギーに変わるのが時代の流れだと思う」, 1回目の番組との「違い」

ただエネルギー供給のためだけではない Photo by iStock

「石油から再生可能エネルギーに変わるのが時代の流れだと思う」

もう一人、印象的だったのは、五島に風車の組み立て工場を作るよう説得し、地元の雇用を増やした福江商工会議所会頭の清瀧誠司さんだ。清瀧さんは、長年ガソリンスタンドを運営してきた「“油屋”だからこそ敏感にわかる」と語っていた。

石炭から石油に変わっているように、石油から再生可能エネルギーに変わるのが時代の流れだと思う。今後は五島中のエネルギーの大半は再生可能エネルギーになると思う。そこのところは子どもたちにもしっかり教えています」

清瀧さんは再エネビジネスの創出に動き、再エネを供給する五島市民電力を作った。こんなにも柔軟に「トランジション(移行)」できるのかと驚いた。よく脱炭素化を阻むのは、石油や石炭を多く消費する産業だと指摘されるが、変化の兆しは地域にあるかもしれないと希望が持てた。

1回目の番組との「違い」

もう一つ、私が印象的だったことがある。実はこのテレビ朝日の再エネ特番は2024年で2回目。2023年1回目の特番「再エネ革命! ニッポンの挑戦」が生まれ、2025年のドキュメンタリーは3回目となる。

35度を超える猛暑日が過去最多, 日本は「再エネ後進国」, 「浮体式洋上風力を活用して、水産業を良くしたい」, 「石油から再生可能エネルギーに変わるのが時代の流れだと思う」, 1回目の番組との「違い」

2023年に開催された「みんなで作ろう!再エネの日」イベントでも山口豊さんの解説のもと、テレビ朝日のドキュメンタリーパブリックビューイングが行われた Photo by FRaUweb

1回目の内容は再エネに関わる熱い思いを持った人たちの挑戦を知ることができる、非常に希望を持てる内容だったのだが、一つだけ気になることがあった。特番の中で女性が一人も登場しなかったことだ。

2023年の特番を見た時、私はフィンランドで気候変動について取材をした帰りだった。フィンランドで取材した経営者も、科学者も、市民も、女性が本当に多くて驚いた。ちょうど映画『バービー』が人気だったこともあり、「リアルバービーの世界だ!」と感動したのを覚えている。

そんな取材の帰りだったこともあり、違和感がことさら強かったのだと思う。1回目をみた後日、山口さんに、「男性ばかりだったのが残念でした」と伝えた。

そして2024年、特番放送の数日前に山口さんにお会いした時、「あの時中田さんが言ったことがずっと頭から離れなくて……。今年は女性も登場します」と話してくれたのだ。

35度を超える猛暑日が過去最多, 日本は「再エネ後進国」, 「浮体式洋上風力を活用して、水産業を良くしたい」, 「石油から再生可能エネルギーに変わるのが時代の流れだと思う」, 1回目の番組との「違い」

2024年のイベントは渋谷のサクラステージにて開催された Photo by FRaUweb

特番で紹介されたのは、九州で初の女性市長になった中尾郁子さんだった。最初に五島に浮体式洋上風力の実証事業の話が来た時、「やる。やらないと島が廃れる」と決断したキーパーソンの一人だったようだ。

なぜ私がジェンダーバランスを気にしたのか。それは、気候変動や脱炭素を考える時に重要だと思っている視点の一つが、「気候正義」だからだ。気候変動の被害を真っ先に受けるのは、途上国の人々や女性、子どもなど、社会的に弱い立場に置かれた人々。情報を発信するときも、不正義、不公正が隠されてしまっていないか、気をつけるように心がけている。

一歩前進した特番は、とても嬉しかった。そして、2025年の特番では、20年以上輪島で海女漁を続ける門木奈津希さんや、スコットランド自治政府洋上風力担当局長のミシェル・クインさんなど、複数人の女性が登場。さらに前進を続けていた。エネルギー分野でもジェンダー比率50:50が当たり前になるような社会を目指して、私も頑張ろうと思う。