藤井聡太竜王「永世」資格なるか、佐々木勇気八段は前期の雪辱期す戦い…いざ2年連続の竜王戦七番勝負

竜王戦七番勝負に向けて撮影を行った藤井竜王(左)と佐々木八段=西孝高撮影

 藤井聡太竜王に佐々木勇気八段が挑む第38期竜王戦七番勝負が10月3日、東京都渋谷区のセルリアンタワー能楽堂で開幕する。藤井竜王にとっては5連覇と史上3人目の永世竜王資格、2期連続挑戦の佐々木八段にとっては初タイトルがかかる。歴史的な大勝負を控えた両対局者に意気込みを聞いた。(文化部 星野誠)

体調管理が課題、体力面を強化したい

 ――2期連続で佐々木八段が挑戦者になりました。率直な感想は。

 藤井 永瀬拓矢九段との決勝トーナメント(本戦)準決勝や石田直裕六段との挑戦者決定(挑決)三番勝負を見ると、内容的にも充実ぶりを感じました。今回もやはり大変な戦いになるかなと思います。

 ――佐々木八段の調子をどのように見ているか。

黙考のポーズを取る藤井竜王

 藤井 前期七番勝負もそうでしたが、1局ごとに作戦やテーマを入念に考えて、それを生かした戦い方をされている。中終盤の鋭さも含めて、完成度の高い将棋を指されています。 緻密(ちみつ) な作戦でリードを奪って勝った挑決第2局は、佐々木八段の強さが前面に出ていました。

 ――先月からタイトル戦が重なっている。影響は。

 藤井 スケジュールが過密だと体調の管理が課題になります。以前と比べて回復が遅くなっている気がするので、もうちょっと体力面を強化したい。また、連敗した王位戦七番勝負第4、5局は対局中の思考が浅かったという感覚があるので、改善しないといけない。

 ――永世竜王がかかる七番勝負に向けて抱負を。

 藤井 前期は佐々木八段の多彩な作戦に苦しめられ、後手番の第2局、第4局は完敗でした。今期は自分自身の対応力を高めるとともに、こちらからも作戦面での工夫を出していければ。永世竜王については意識せず、一局一局に全力を尽くして熱戦になるようにしたいです。

 ――気になる対局地は。

 藤井 第4局の京都競馬場です。私は競馬場自体行ったことがないので、どういう雰囲気の対局になるか楽しみです。第5局が予定されている姫路文学館望景亭も国の登録有形文化財なので、良い環境で指せると期待しています。

勝負飯より、勝ちにいくことに集中する

 ――2期連続で挑戦者となりました。

 佐々木 挑戦するというのは大変なことだなと、改めて思います。何しろ、一人しかいないので、これから何回チャンスが来るかわからない。自分以上にタイトル挑戦を喜んでくれる人がたくさんいるので、100%の力を出し切りたい。

 ――挑戦までの道のりは。

熟考のポーズを取る佐々木八段

 佐々木 昨年12月に第37期七番勝負の第6局が終わり、年明けに第38期1組1回戦の丸山忠久九段戦があって、一年中、竜王戦を戦っている感じです。1回戦では、電車の網棚にカバンを置き忘れて9分遅刻して、持ち時間3倍引きの波乱から始まりました。その後もきついメンバーとの対局が続きましたが、内容良く指せて、運良く勝ち上がることができた。

 ――前期は惜しくも2勝4敗で敗退した。

 佐々木 自分の中ではやり切ったシリーズではありました。2日間、電子機器に触れないで将棋のことだけを考える。こんな環境は作ろうと思っても作れないから、貴重な経験です。ただ、藤井竜王と対局すると刺激が強いので、他の対局で調子を落とさないように気をつけたい。

 ――今期も前期のように盛り上げたいか。それとも、タイトル獲得に集中する?

 佐々木 どちらかと言えば後者。タイトルを取りたいと言うより、勝ちにいく。今回はあまり勝負飯も頼まないと思います。勝ちにいくことに集中する。また、終盤戦での難解な局面での読み筋にどれだけ付いていけるかが大事になってくるので体力もつけたい。藤井竜王は最近作戦の幅を広げて、あれだけ強くてもさらに上をめざしている。将棋界で一番最善に近い人。そういう相手に何がぶつけられるかが問われている。七番勝負に出られることはうれしいし、きびしい。

最終局まで行けば、何が起きてもおかしくない…森内俊之九段が展望

 竜王2期獲得の実績を持ち、今期竜王戦でも本戦に出場して存在感を示した森内俊之九段が七番勝負を展望した。

森内俊之九段

 佐々木八段は前期竜王戦で挑戦し、今期は1組ランキング戦からの出直しとなりました。対局ごとに多彩な戦型をちりばめて、最先端の研究が行き届いているのに加え、力強さを発揮した内容でした。1組準決勝、菅井竜也八段との千日手指し直し局では、自玉に詰みが生じた場面もありましたが、そこを乗り越えたのは大きかったです。

 前期七番勝負は通算2勝4敗で敗退しましたが、シリーズを通して佐々木八段が誘導した形になることが多く、6局目もそれが非常にうまくいっていた。錯覚があったのか一手で崩れてしまったのが残念でしたが、そこを乗り切っていればフルセットまで持ち込んだ可能性がある。藤井竜王としては大変な挑戦者を迎えたなというところです。

 一方、藤井竜王はこれぐらい勝つのが当然と思われていて話題になりませんが、相変わらず精度も勝率もすばらしい。いつ見ても安定した内容で8割は勝っていて、他の棋士と比較するのが難しい状態になっています。急所の場面での負けが少ないため、番勝負で負ける姿が想像しづらいです。

 以前は完璧に指そうという意識が強くて、相手というより自分に負けてしまうようなところがあった。ここ最近は内容を完璧に指すことと勝負のバランスをうまく取って、負けにくく指しているという印象があります。また、後手番で戦型のレパートリーも広げて、対戦相手からすると対策をしぼりづらくなりました。そのあたりも今期の大きなポイントになると思います。

 前評判はやはり、藤井竜王が有利という見方が多いでしょうか。ただ、佐々木八段も素晴らしい才能があり、最近は研究も積み重ねて評価が高まっている。私見では、勢いに乗せたら、そのまま流れを持っていく力のある挑戦者です。まずは最終局を目指すのが現実的ですが、そこまで行けば何が起きてもおかしくありません。