【自民党総裁選】小泉氏優勢も林氏に軍配? 永田町でささやかれる“逆転シナリオ”と大御所の不満

 自民党最後の総裁選になるのか――。ポスト石破の座をめぐり、小林鷹之・元経済安全保障担当相、茂木敏充・前幹事長、林芳正・官房長官、高市早苗・前経済安全保障担当相、小泉進次郎・農林水産相が争っている。もっぱら小泉氏と高市氏の一騎打ちとして注目されてきたが、小泉氏にステマ疑惑が浮上。永田町からは最終的に林氏に軍配が上がるという声も聞こえてくる。

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 今年の総裁選(10月4日投開票)は昨年とは様子が違う。高市氏が靖国神社参拝を明言せず、小泉氏も選択的夫婦別姓や解雇規制の緩和という持論を封印。それぞれの特徴を出さず、波風を立てないように配慮している印象だ。

 ところが9月25日発売の「週刊文春」で、小泉陣営がインターネット動画に小泉氏を称賛するコメントを投稿するように“ステマ”を指示していたことが報道された。しかも示したコメントの参考例には、「ビジネスエセ保守に負けるな」「やっぱり仲間がいないと政策は進まないよ」といった文面もあり、高市氏への批判とされた。小泉氏は26日の閣議後会見で事実関係を認め、「いきすぎた表現があった」などと陳謝した。

 小泉陣営で総務・広報班を担当した牧島かれん・元デジタル相は、「私の事務所から参考例を送った。私自身の確認不足で一部いきすぎた表現が含まれた」と謝罪文を公表した。そして殺人予告などが相次いだことを理由に役職を辞任したが、影響は小さくない。その“ネット戦略”は総裁選の動向を大きく変える可能性があるからだ。

 フルスペック型で行われることになった今回の総裁選は、自民党国会議員の衆参議長を除く295票と、同じ295票が党員・党友票に割り当てられ、計590票を争う。1回目の投票で過半数を得た候補がいない場合、上位2人での決選投票が行われる。5人が出馬している今回の総裁選は票が散らばることが予想され、決選投票が行われる可能性が高い。その場合の組み合わせはどうなるのか。

 9月27・28日、共同通信社が自民党支持層に対して「新総裁に誰がふさわしいか」を尋ねる電話調査を行ったところ、高市氏の34.4%、小泉氏の29.3%に続き、林氏の支持率は19.5%と健闘している。党員票ではこの順番で落ち着きそうだ。一方、議員票では小泉氏、林氏、高市氏の順で獲得するとみられており、小泉VS.林の決選投票になる可能性もある。

■「小泉VS.林では林が勝つ」の声

 実は永田町では、小泉氏のステマ疑惑の前から、「小泉VS.高市では小泉が勝つが、小泉VS.林では林が勝つ」との声が多かった。決選投票では安定感がある林氏に議員票が流れるとの見方だ。昨年の総裁選でも、議員票では、1回目の投票で46票しか取れなかった石破茂首相が決選投票で189票に伸ばし、高市氏が獲得した173票を上回った。

 衆院議員としては当選2回と、総裁候補5人の中で最も少ない林氏だが、東大法学部から三井物産に入社。退職後はハーバード大学に留学し、その後に亡父・義郎氏の大蔵大臣秘書官を務めた。

 1995年の参院選で初当選し、参院議員として5期26年務めた後、衆院議員に転じて2期目。農水相や文部科学相、外相などを歴任し、岸田文雄政権と石破政権で官房長官を務めてきた。参院議員時代の2012年、自民党総裁選に挑戦し、5人中最下位で落選したことで、衆院進出を狙うようになり、21年の衆院選で旧山口3区に出馬して当選。30年同選挙区を守ってきた河村建夫・元官房長官は選挙区を譲り、政界引退を余儀なくされた。

 定数4の旧山口1区(中選挙区)時代には、安倍家、林家、河村家(田中家)がそれぞれ議席を確保。安倍家からは故・安倍晋三元首相、田中家からは陸軍大将だった故・田中義一元首相が出ている。林家の義郎氏は大蔵相や厚生相を歴任した。父と祖父、そして高祖父が国政に従事した林氏。林家にとって一族からの総理総裁誕生は宿願と言えるだろう。

■林カラーに染まる安倍王国

 かつては安倍王国だった山口県も、今はすっかり林カラーに染まっている。地元の山口県連は、林氏を支持する柳居俊学・県議会議長が牛耳る。柳居氏は今年5月の県議会議長選で5期連続7回目の当選を果たした。21年の衆院選では、比例中国ブロックから出馬が内定していた河村氏の長男・建一氏を北関東ブロックに追いやった。

 選挙区が隣接する福岡県との関係も深い。福岡が地元で、宏池会の名誉会長だった古賀誠氏は、派閥を岸田氏に委ね、林氏を総理候補と位置づけて12年の総裁選で後押しした。林氏と定期的に会合を重ねていた古賀氏は「ポスト岸田は林」と明言し、麻生太郎元首相に接近した岸田氏をけん制したこともある。

 前回の総裁選では天敵・石破氏に対抗するために高市氏を支援した麻生氏だが、林氏が決選投票に残り、小泉氏と戦う場合には、林氏を支援する可能性も否定できない。小泉氏のバックには菅義偉元首相がついており、石破氏が退陣表明した9月7日の前夜、菅氏と小泉氏が公邸を訪れて石破氏を説得した。「引導を渡したのは菅氏と小泉氏」と持ち上げられては、麻生氏が面白いはずがない。同氏はいまだ支持を鮮明にしていない。おそらく状況をじっくりと観察しているのだろう。

 林氏が決選投票に残った場合、期待するのは全体の半分を占める295票の議員票だが、議員たちが何より関心を寄せるのが衆院選の時期だ。もし小泉氏や高市氏が総理総裁になった場合、支持率は一時的に高騰するが、ハネムーン期間が過ぎると下降する恐れがある。特に小泉氏の場合、「総裁選後の臨時国会を乗り切れるか怪しい」とまでささやかれている。

 一方で林氏には、「党改革をじっくり進めてくれるのではないか」との期待が寄せられる。不祥事を起こした閣僚の後任に任じられたことも複数あり、林氏はその誕生日にちなんで「政界の119番」の異名をとる。ある自民党の関係者はこう言った。「林氏が総理総裁になれば、総裁任期満了までの残り2年間は衆議院の解散はないだろう」

 未曽有の危機に陥っている自民党を救うのは誰か――。カウントダウンはすでに始まっている。

(政治ジャーナリスト・安積明子)