ウクライナ軍が謎めいた行動、旧式の小型哨戒機と輸送機を優先的に攻撃

海上自衛隊の「P-1」対潜哨戒機(海上自衛隊のサイトより)
ウクライナはロシアの防空兵器を多数破壊してきた。
一方、ロシアはウクライナの無人機攻撃をほとんど阻止できずに、石油関連施設など次々と破壊されている。
クリミアでも、ロシアの防空兵器や衛星コントロールシステムがことごとく破壊されている。
9月には、ウクライナ国防情報部(GUR)特殊部隊(プリマリー)は、ロシアの戦闘機や爆撃機ではなく、ちょっと変わった航空機を破壊している。
1960年代に製造された小型の対潜哨戒機「Be-12」×2機と1970年代に製造された比較的小型の輸送機「An-26」×2機である。
また、水上の船舶の動きを監視する沿岸監視レーダーも破壊した。
ロシアはなぜ、このような旧型で小型の航空機をクリミアに配置していたのか。
そして、ウクライナはこれらをなぜ優先して攻撃して破壊したのか。
これらのウクライナの動きは、クリミアやノボロシスク港に対する攻撃の予兆であるように思われる。
これらを解明するために、以下に考察する。
1.最小のBe-12対潜哨戒機
(1)Be-12対潜哨戒機の特色
ウクライナ国防省情報局特殊部隊「プリマリー」は9月、ドローンでクリミアの飛行場に駐機してあったBe-12対潜哨戒機(水陸両用対潜哨戒飛行艇)2機を攻撃し破壊した。
その時の映像が写真1左である。
この機には、機体尾部に突起が見える。この器具は潜水艦を探知するための磁気センサーである。
これが対潜哨戒機の特色であり、ロシアの「IL-38」対潜哨戒機、日本の「P-3C」や「P-1」対潜哨戒機にも同様の突起がある。
写真1 Be-12

左:プリマリーのドローンによる撮影、右:ロシア海軍提供
つまり、Be-12は、水上を移動する艦艇や水中の潜水艦を探知し攻撃する能力を有している。潜水艦や艇を発見して攻撃するために、対潜魚雷を装備している。
ロシア海軍は、3種類の対潜哨戒機を保有している。
①Be-12、ロシア対潜機の中でも最も古く1960年代に製造され、全長約30メートル、保有数6機(数量はミリタリーバランス2024参照)
②長距離対潜哨戒機「Tu-142」、全長52メートル、保有数22機
③哨戒機IL-38、ロシア機の中では最も新型で2000年代初頭に製造開始、全長約40メートル、保有数22機
(2)ウクライナがBe-12を破壊した理由
ウクライナは、黒海において小型無人艇を自爆用、ドローン発射母艦、対空ミサイル装備艇として運用している。無人潜水艇がクリミア大橋の下部構造に突っ込み爆破したこともあった。
これらにより、ロシア海軍の艦艇や空軍機はクリミア半島やノボロシスク港付近の活動に大きな制約を受けた。
ロシアはウクライナの無人艇や無人潜水艇の動きを早期に発見するために、この比較的小型の対潜飛行艇Be-12を配備していた。
図1 Be-12の対潜行動と「Mi-8」電子戦機の作戦行動イメージ

出典:各種情報に基づき筆者が作成したもの(図については同じ)
ロシア海軍は6機保有していることになっているが、かなり古い機体であるために、6機のうち何機が運用できているか分からない。
使用できない機もあると考えられることから、運用できるのは数機であろう。そのうちの2機が破壊されたために、使えるのはたぶん1機か2機だ。
対潜機として他に「IL-142」やIL-38があるが、大型のIL-142は、ウクライナのドローン攻撃を受けて、現在、極東方面に避難して、ウクライナのミサイル射程内や無人機の飛行範囲には入ることはできない。
ロシアは、中型のIL-38をBe-12の代わりに使用することになるだろう。
だが、40メートルもある機体が、海面近くを飛行すると、携帯用の対空ミサイルを搭載した無人艇に撃墜されることになるだろう。
このため、ウクライナの無人艇や無人潜水艇を発見し、攻撃することは、困難になるだろう。
2.電子戦機に改修されたAn-26輸送機
(1)An-26電子情報収集機の特色
ウクライナGUR特殊部隊は9月、クリミアに配備されていたロシアのAn-26カール輸送機2機をドローン攻撃で破壊したと報じた。
写真2 An-26

左:特殊部隊のドローンから撮影 右:ロシア軍提供
An-26は通常、輸送機に使用されているが、そのほかに対潜機、電子戦機(電子妨害機)、電子情報収集機(ELINT)に改造されている。
ドローンが撮影した写真を見ると、潜水艦を発見するための磁気センサーの突起が見えないことから、対潜哨戒機の機能はないようだ。
これまで、情報収集のための早期警戒管制機が撃墜されたこともあり、その代役のために電子情報収集機に改修された機である可能性が高い。
(2)ウクライナがAn-26電子情報収集機を破壊した理由
An-26電子情報収集機は、ウクライナの無人艇が黒海の水上や水中を行動している時に、ウクライナ基地との電子信号を送受信する。
ロシアは、それを解析し、航行中の位置を発見しようと考えている。
図2 An-26電子戦機の作戦行動と沿岸監視レーダーの監視イメージ

ロシアの電子情報収集機を破壊して、その機能を完全に消滅させてしまえば、電子情報の送受信により位置が発見されることはない。
ウクライナは、ロシアの早期警戒管制機の撃墜に続き、その他の電子情報収集機を破壊して、電子情報による位置が解明されることを防ぎたかったのだろう。
3.電子妨害と無人艇を攻撃するMi-8ヘリ
(1)Mi-8多目的ヘリコプターの特色
ウクライナGUR特殊部隊は9月21日、クリミアでロシアの多目的使用のMi-8ヒップヘリコプター3機を破壊した。
このヘリコプターは本来、多目的使用のヘリコプターであり、主に兵員や兵站物資の輸送に使用される。
重量は7.6トンで、自衛隊の多用途ヘリコプター「HU-1H」の4.8トンよりも大型である。
装備は57/89ミリロケット弾、対戦車ミサイル、12.7ミリ機関銃を備えている。電子妨害機能を有する機体も多い。
写真3 Mi-8

左:特殊部隊のドローンから撮影、右:ロシア空軍提供
(2)ウクライナがMi-8を破壊した理由
ウクライナが無人艇を黒海で運用した時、電子妨害や機関銃による機銃掃射を受け、行動停止あるいは破壊されたことがあった。
ウクライナは、クリミアの軍事基地、クリミア大橋やノボロシスク港を無人艇で攻撃しようとすれば、Mi-8等に発見されて攻撃を受ける可能性がある(図2参照)。
ウクライナの無人艇に対空ミサイルを装備した艇を随伴していれば、ヘリコプターを撃墜可能であるが、単独行動する場合には、このヘリコプターが天敵となる。
そのため、Mi-8を破壊したのだ。
4.水上艦を探知する沿岸監視レーダー
(1)「MR-10M1E」沿岸監視レーダーの特色
ウクライナGUR特殊部隊は9月25日に、クリミア半島西端に配備されて水面上の艦艇を監視するMR-10M1E沿岸監視レーダーを破壊した。
このレーダーの監視範囲は水面上の目標、約240キロまでを捜索するものである。
現地では、水面を移動する小型無人艇を容易に発見できるように、鉄塔によって高く持ち上げられている。
反面、敵からも発見されやすい欠点がある。
写真 MR-10M1Eレーダー

左:特殊部隊ドローンから撮影 右:ロシア政府提供
(2)ウクライナが沿岸監視レーダーを破壊した理由
ロシアは、黒海の水上を動き回るウクライナの無人艇により被害を受けている。
そのため、無人艇を早期に発見して、ヘリコプター、攻撃機、ドローンで攻撃したいと考えている(図2参照)。
ウクライナはクリミア周辺を航行する無人艇が、ロシアから発見され攻撃を受けない対策をとる必要がある。
もしも、発見されたとき、携帯の対空ミサイルを装備した無人艇が近くにいなければ、ロシアのヘリから機関銃掃射を受け撃沈される場合があるからだ。
ウクライナのオデーサ付近から出航する無人艇は、クリミア半島の西端にある沿岸監視レーダーから発見される恐れが十分にあった。
ウクライナはこのレーダーを破壊して、監視の目を消滅させたのである。
5.ウクライナ無人艇等への運用妨害阻止
ウクライナは、これまでクリミアに配備してあったロシアの防空兵器を大量に破壊してきた。
これにより、ウクライナは、大型の無人機や巡航ミサイルでクリミアの軍事基地や兵器で攻撃することが容易になった。
とはいえ、ロシアの防空兵器や監視レーダーをすべて破壊できたわけではない。
ウクライナは、クリミアの各港、ノボロシスク港、およびクリミア大橋を攻撃するには、大型の無人艇や大型の水中ドローンを運用する必要がある。
その時に、ロシアの妨害を受けずに攻撃できることが望ましい。
図3 ウクライナ大型水中ドローン、巡航ミサイルの攻撃イメージ

したがって、ウクライナは無人艇などの攻撃を妨害できるロシアの攻撃兵器や監視レーダーを破壊しているのである。
6.クリミア大橋やノボロシスク港攻撃へ
ウクライナは、2025年9月19日に「ディフェンス・テック・バレー2025」展示会で、3種類の水中ドローンを発表した。
特に大型の「TLK-1000」水中ドローンは、全長12メートル、直径1.5メートルの大きさで、行動可能距離は2000キロ、重量5トンの爆薬を搭載できる。
写真 ウクライナの大型水中ドローンTLK-1000

出典:ウクライナ参謀部(2025年9月21日)
ロシアは、黒海の水上や水中を行動するウクライナの水中ドローンや無人艇をほとんど攻撃することができなくなってきている。
近く、ウクライナの大型水中ドローンがクリミア大橋、ノボロシスク港を攻撃できるようになる。
この攻撃が成功すれば、ロシアは極めて大きな衝撃を受けるに違いない。
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