甲子園が消滅する日…「広陵高校」以外にもあった高校野球界に隠された「大問題」
「甲子園」に隠された「大きな問題」
史上最悪の猛暑というのに、今夏の甲子園も満員でした。日本人の郷土愛と「汗と涙の感動物語」好きは、まだまだ健在のようです。
しかし、私は、今夏の高校野球が、甲子園大会消滅への第一歩となりうる大会だったのではないかと懸念しています。広陵高校の大会途中での出場辞退という騒動が、高校野球の多くの問題点をあぶりだしましたが、今大会に潜んでいた、もうひとつの大きな問題には、あまり気付いていないようです。
それは、郷土の選手がほとんどベンチ入りもしていない高校が県代表として、何校も参加していたことです。

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全校生徒ほぼ全員が野球部員「未来富山」
代表例が、富山県代表となった「未来富山」。朝日新聞のAERA増刊「甲子園2025」のベンチ入りメンバーによれば(出場高校が決まってすぐに編集されるので、実際のベンチ入り選手と異なる場合もあります)富山県の中学出身の高校生は一人だけ。あとは、全員他県出身。それも近隣の県ではなく、神奈川、東京、群馬などの首都圏の中学から入学しています。過去にも、島根県の岩見智翠館高校など、県民ゼロのチームが出場し、地元で総スカンをくらったケースはありました。野球で有名になり、生徒を大勢集めて、有名校となったあとは、普通の高校として学校の発展を考える戦略は以前からもありました。
しかし、未来富山の場合は、その中でも極端なケースといえます。本校は、富山から遠く離れた愛媛・松山にある広域通信制普通科未来高校松山本校。未来富山は、全校生徒はわずか25人。そのうち23人が野球部に在籍し、残りの2人も卒業のために必要な単位を取るために残っている野球部OBという極端な構成。全寮制ですが、学校にはグラウンドがなく、市営の運動場や公演を利用して、野球を練習、創部2018年で、初出場は快挙といえますが,富山県民も県代表として素直に応援できたのでしょうか。
甲子園のあり方への疑念
この学校が出場することで、甲子園大会のあり方に幾つかの疑念が出てきました。ひとつは、もはや、予選で優勝したからといって県民、あるいは地域代表の高校生チームが出場するわけではないという点です。NHKの放送では、試合毎に高校の存在する町の紹介をしていますが、その地方に育っていない選手しかチームには存在しないのですから、実態とそぐわない放送となっています。
そして、第二の問題は、本校から離れて野球部員だけで,十分な高校教育を受けることができるのか、という問題です。元々松山の本校自体が、通信制ですから、通信で松山本校の授業は受けられるでしょう。未来富山高校は自分たちは学業にも厳しい学校だと主張しています。しかし、彼らの日常は、朝7時に起床と点呼があり、朝食を摂る。8時30分からプリント学習に励み、11時30分の昼食後に寮を出発。13時から練習が始まる。17時に練習が終わると寮に戻り、19時の夕食までに洗濯や入浴を済ませる。その後、寮の清掃などをして就寝となる……。
午前中だけの勉強で、高校卒業に必要なカリキュラムの授業が受けられるのか、疑問は残ります。しかし、高校側は「勉強をしっかりしないと野球ができないというのは、他の高校さんと同じです」と、実際、単位不足で留年している生徒がいる例をあげています。
「午前中だけの通信授業」の効果
松山の本校は、通信制で全国に学習センターを設けており、未来富山はそのひとつにすぎません。「今は高校生の10人に1人が通信制で学んでいて、他にフリースクールといった学校もあるので、いろんな形のチームがあってもいいのでは?」という考え方はあってもいいと思います。
しかし、私が現在特任教授として勤務している教育テック大学院は、ICT教育を完全に実施できる高校や、その指導者や経営者が少ないため、そういう人材を育てる社会人専門の大学院として初めて 認可されました。つまり、現在の高校では、完全遠隔・通信授業を行うのは、相当、機材と授業のためのソフトとノウハウが不足していることが明白なため、設備とソフト開発のノウハウをもった指導者の育成が大事であるという認識が文部科学省にもあるのです。
午前中だけの通信授業では、「未来富山」は卒業しても、野球がダメになった場合のセカンドプランがない高校生を育てているのではないかという疑問は残ります。

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県民がほとんどベンチ入りしていない高校が多数
そして、未来富山ほどではありませんが、ほとんど県民がベンチ入りしていない高校が今回ほど多数出場していたことはなかったと思います。
まず、県の中学出身生徒が3人までの学校を列挙します。
★ 仙台育英(宮城県) 2人
★ 明秀日立(茨城県) 2人
★ 健大高崎(群馬県) 0人
★ 山梨学院(山梨県) 1人
★ 未来富山(富山県) 1人
★ 聖隷クリストファー(静岡県)1人
★ 京都国際(京都府)2人
★ 鳥取城北(鳥取県)3人
★ 尽誠学園(香川県)1人
★ 高知中央(高知県)0人
★ 創成館(長崎県)3人
県下の中学出身者が2人以下のチームが6チーム。その他にも4人以下に智弁和歌山・日大三校・天理高校などがありました。もちろん、強豪校ゆえ、他県から、留学してくる選手が多いという高校もあるので、すべてが高校の宣伝のための野球部とはいえませんが、これだけ、県民が出場しない高校野球を県別対抗のように謳いあげるのは、高野連としてもそろそろ考え直すべきではないでしょうか。
朝日新聞が追及しなかった「広陵高校」問題
そして、もうひとつの問題は広陵高校に象徴される高校野球名門校の問題です。
今回、広陵高校は、暴行事件のことを高野連に報告した上で、許可を得て出場。当初、朝日新聞などは、高校への誹謗中傷と、爆破予告がでたため、出場を中途で辞退するという異例の措置がとられたと記事にしていました。
しかし、夏の高校野球の主催者は朝日新聞社。メディアであり、コトの真相はもっと確かめられたはずです。

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実際に起こったことは、寮内で禁止されていたカップ麺を食べた下級生1人と友人に対して、上級生が、制裁を加えました。便器をなめろ、といった口頭での暴力に始まり、その後、実際に暴行が加えられました。正座をさせられ、腹部を強く殴られ、腹部を抑える下級生に対し、「正座をするときは、手は後ろだろう」と、さらに殴る蹴るの暴行が続きました。暴行に耐えられなくなった当該生徒の1人は、尞を脱走、母親に助けてほしいと連絡をとったことで、ようやく問題が明るみに出ました。
カップラーメン禁止は、監督である中井哲之氏も知らなかったという奇妙なルールで、たしかにルール違反はルール違反ですが、上級生が加えた暴力行為は常識の範囲をこえていて、彼らこそ、罰則を受けるべきだったはずです。
しかし、中井監督は、脱走した生徒に、この問題を高野連に報告すべきかどうかを質問し、そのためにチームが甲子園に出場できなくてもいいかという、完全な誘導尋問をして、生徒に「それは望まない」という答えを導き出し、当該生徒も報告を望んでいないと学校に報告しています。そして、生徒が尞に戻るにあたって、加害部員を生徒から遠ざけ、食事の時間帯もかぶらないようにすると親に約束した上で、暴行については保護者会でも説明するという約束を、監督の息子である中井惇一部長が面談で約束しました。しかし、約束はまったく守られず、3人のコーチも同席する場で、当該生徒は監督から厳しい口調で語りかけた内容が、前記のチームが甲子園にゆけなくてもいいのかという問答でした。
結局1年で当該生徒は学校を去り、父親は広島県警に被害届けをだし、高野連にも質問しましたが、高野連の回答は「高野連は調査機関ではない」と回答。8月2日生徒の母親がSNSで投稿したことで、大きな話題となり、出場辞退となりました。
以上が広陵高校の試合辞退の詳細な顛末ですが、これは柳川悠二氏(ノンフィクションライター)の調査の結果わかったことであり、大部隊で甲子園の取材をしていた朝日新聞も、他の新聞も当初はまったくこの経緯は報道していませんでした。
「野球マンモス校」の扱いを再考すべき
高校野球の暴行事件など、昔から常に起こっているし、汗と涙の甲子園などという感動の物語など、ファンタジーとして聞いているだけで、どこの高校でも野球部といえば、暴行やたばこなど不良行為の塊じゃないかと思う読者も多いでしょう。
しかし、今や、こういう高校野球部が甲子園をめざす時代ではなくなろうとしているのです。

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現在、教師不足は各自治体の頭痛の種であり、そのひとつが、教師の仕事の多さで、仕事量を減らす切り札のひとつが部活のアウトソーシングというプランです。現在では主に中学で部活の地域移行という言葉で徐々に進められていますが、いずれ高校にもこの流れがきます。地域代表という意味では、この制度の方が高校野球らしい大会となるでしょう。しかし、広陵のような野球マンモス校の扱いをどうするか。こういう学校をそのままにしていると、甲子園は私立の強豪校だけの戦いになりかねません。
そして、日本人の好きな「汗と涙」の物語は残っても勝利至上主義で、高校野球が終わったらなにも残らない生徒を大量に輩出することにもつながります。高校野球の監督は、サッカーなどとちがい資格試験もなにもありません。広陵野球部のように、監督の息子が部長といった家族で運営している逃げ場のない学校も多々あります。今回の大会を機に、甲子園大会のあり方、高校野球のあり方を、主催者である新聞社が深く考えるべきではないでしょうか。