「ガラスの天井」を破ったのは政治だけではない…“女性宮家”の扉開く彬子さま、162年ぶりとなる歴史的決断の背景

彬子さまの「三笠宮家」継承は分家ではなく“分裂”に近い, 信子さまが「三笠宮寛仁親王妃家」を創設する意味, なぜ信子さまと彬子さまで皇族費に大きな差がついたのか, 三笠宮家の再編は単なる親子の確執や財政の話ではない

三笠宮家の当主となられる彬子さま(写真:ロイター/アフロ)

(つげ のり子:放送作家、皇室ライター)

彬子さまの「三笠宮家」継承は分家ではなく“分裂”に近い

 自民党総裁選で、小泉進次郎氏有利の下馬評を覆し、高市早苗前経済安全保障担当相が見事、女性として初の総裁に就いた。国会で首相に選出されれば、日本の憲政史上初の女性総理大臣が誕生することになる。

 これまで多くの女性政治家が挑戦しながらも越えられなかった「ガラスの天井」。高市氏の勝利は、それを打ち破る画期的な出来事となった。

 一方で、自民党総裁選の報道が連日紙面を賑わせていた9月30日、皇室でも女性の地位に関するもう一つの大きな動きがあった。それは、将来の「女性宮家」創設の動きに一石を投じることになるのだろうか。

 昨年(2024年)11月、三笠宮妃百合子さまが逝去されて以降、注目されてきたのが「三笠宮家の今後」だった。

 そしてこの秋、宮内庁が発表したのは、彬子さまが「三笠宮家」を継承し、信子さまが新たに「三笠宮寛仁親王妃家」を創設するという前例のない決定であった。

彬子さまの「三笠宮家」継承は分家ではなく“分裂”に近い, 信子さまが「三笠宮寛仁親王妃家」を創設する意味, なぜ信子さまと彬子さまで皇族費に大きな差がついたのか, 三笠宮家の再編は単なる親子の確執や財政の話ではない

三笠宮家の構成(図:共同通信社)

 宮内庁の発表はあくまで「宮家の中で話し合われた結果」という簡潔なものだったが、その内実を読み解くと、皇室制度が抱える根本的な構造問題が浮かび上がってくる。

 皇室解説者の山下晋司氏は、今回の措置を「分家」ではなく「分裂」と表現した方が良いのではないかと言う。

「宮内庁としては“話し合われた結果”としか言えず、『分家』や『分裂』といった表現はしないでしょうが、印象としては『分裂』です。ただ、信子妃殿下の新宮家の名称を『三笠宮寛仁親王妃家』としたところから、三笠宮家の分家であり、全く新しい宮家ではないことを示したいのかと思いました」

彬子さまの「三笠宮家」継承は分家ではなく“分裂”に近い, 信子さまが「三笠宮寛仁親王妃家」を創設する意味, なぜ信子さまと彬子さまで皇族費に大きな差がついたのか, 三笠宮家の再編は単なる親子の確執や財政の話ではない

2018年1月2日、新年一般参賀に臨まれた三笠宮妃百合子さま、寛仁親王妃信子さま、長女彬子さま(写真:共同通信社)

信子さまが「三笠宮寛仁親王妃家」を創設する意味

 そもそも「三笠宮寛仁親王」という皇族は存在していない。

「寛仁親王」は崇仁親王(三笠宮)の長男であり、生前はいずれ「三笠宮家」を継ぐことを考え、「寛仁親王家」という宮家を名乗っていた。

 したがって、「三笠宮寛仁親王妃家」という名称は、「三笠宮家から出た寛仁親王妃の家」という、異例の構成である。

 制度上、誰が命名を主導したのかは明らかにされていない。だが山下氏は、「宮家の序列上の位置づけ」を考慮したのではないかと見る。

「現在の序列は、秋篠宮家、常陸宮家、三笠宮家、高円宮家の順。三笠宮家とは関係なくまったく新しい宮家として位置づけると高円宮家より下になる。そこで“三笠宮”を冠すれば高円宮家より上位になる。そういう序列を維持するための措置と考えれば、“三笠宮”が付いていることも理解できます。序列がどうなるかは近いところでは園遊会での並び順によってはっきりします」(山下氏)

 そして、もう一人の当事者である彬子さまは、三笠宮家の当主として正式に宮家の名称と、その祭祀を「継承」された。

 もともと三笠宮ご夫妻(崇仁親王と百合子妃)、寛仁親王の祭祀は彬子さまが執り行っており、今回の決定でその立場が明文化された形だ。

「三笠宮家の継承は、物理的な邸宅ではなく、祭祀を継ぐことを意味します。これまで実質的に彬子女王殿下が担われてきた役割が、法律上も認められたということです」(山下氏)

 信子さまが独立したことで、三笠宮家の祭祀は今後、正式に彬子さまが担われることになる。つまり、実質的にも法律的にも、彬子さまは「三笠宮家」を継ぐ存在となられたのである。

彬子さまの「三笠宮家」継承は分家ではなく“分裂”に近い, 信子さまが「三笠宮寛仁親王妃家」を創設する意味, なぜ信子さまと彬子さまで皇族費に大きな差がついたのか, 三笠宮家の再編は単なる親子の確執や財政の話ではない

2025年4月6日、F1日本グランプリを観戦された彬子さま(写真:Formula 1 via.Getty Images/ゲッティ/共同通信イメージズ)

 一方、信子さまは、三笠宮家の長子・寛仁親王の早世によって、「親王妃」という身位を保ちながら、三笠宮家に合流されていたが、今回の独立は、その地位を前例に合わせたと見ることができる。ただし、皇室経済法では、信子さまと彬子さまの処遇の差がはっきりと出てしまった。

なぜ信子さまと彬子さまで皇族費に大きな差がついたのか

 皇族には定額の「皇族費」が支給される。2012年に寛仁親王が逝去された後、妃の信子さまは親王家(当時、寛仁親王家として独立)の当主にならず、娘の彬子さま・瑶子さまとともに「三笠宮家」に合流している。

 そのため、信子さまは「親王妃(=親王の妻)」という扱いのままで、皇族費は独立した宮家当主の半額の1525万円だった。

 今回、独立した信子さまは、新たな宮家の当主となったことで、皇室経済法に則り倍額の年間3050万円が支給されることになる。

 しかし、三笠宮家を百合子さまから受け継がれた彬子さまは、宮家の女王という身位から、これまで年間640万5000円が支給されてきたが、皇室経済法、皇室経済法施行法の規定から、当主となったとはいえ、信子さまの約3分の1の年間1067万5000円と大きな差がついた。

 この点について山下氏は、こう指摘する。

「そもそも今回のような状況を法律は想定していないということです。長く続いてきた三笠宮家としてのお付き合いに伴う費用や祭祀に関する費用も負担しない信子妃殿下が定額の3050万円となり、それらを負担する三笠宮家は彬子女王殿下の1067万5000円と瑶子女王殿下の640万5000円を合わせた1708万円になる。宮家を継承していくためには定額の3050万円が必要だという条文の趣旨に合っていません」(山下氏)

 とはいえ、これは条文の自動適用による結果であり、現行法上は是正できない。

 昭和28年、秩父宮殿下の逝去に伴い、妃が当主となった際に法律を改正し、「妃が当主となった場合にも同額支給」が可能となってはいたが、その改正が想定していたのは、当主亡き後に、男子の跡継ぎがおらず、妃が祭祀を継ぐ場合であり、今回のように「妻が新宮家を立て、娘が旧家を継ぐ」という状況は想定外だ。

 一連の三笠宮家の分裂によって「皇族費」が増加し、「国の支出が増える」と報じる記事もいくつか散見されるが、山下氏は長期的な視点で見るべきだと語る。

「2012年に寛仁親王が亡くなって以降、前例どおり信子妃殿下が当主になっていれば皇族費は定額の3050万円になっていました。約1年間、当主不在が続き、結局、三笠宮家に合流しましたが、今年の8月までの約13年2カ月間、信子妃殿下の皇族費は半額の1525万円でした。結果、この期間で国の支出は2億円強、少なくなりました。

 信子妃殿下の皇族費が前例どおりだったとすると、今回の措置で増えるのは彬子女王殿下の427万円だけとなります。これまで抑えられてきた国の支出と相殺するには40年以上かかることになります。ですから、トータルで見ると増額とは言えません」(山下氏)

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2025年9月30日、皇室経済会議に臨む石破首相(右から2人目)(写真:代表撮影/共同通信社)

三笠宮家の再編は単なる親子の確執や財政の話ではない

 今回の分裂によって、最も注目すべき点は彬子さまが宮家の当主となり、また親王妃であった信子さまが新たに宮家を創設した点にある。

 現行法では問題ないとされるが、女性皇族が宮家を継ぐのは、実に162年ぶりのことであることから考えても、画期的かつ女性皇族の立場を大幅に見直す動きが出ている証左でもある。

 では、162年前の江戸末期、何があったのかというと、当時の仁孝天皇が世襲宮家の名門・桂宮家が当主不在に陥り、宮家廃絶の危機に陥った際、第三皇女の淑子内親王(孝明天皇や皇女和宮の姉)が、天皇の命によって便宜的に当主となった。

 おそらく緊急避難的な対応であり、いずれ他の宮家から養子を得るなどで、再興する考えだったのだろう。しかし、結局、淑子内親王はおひとりのまま亡くなり、桂宮家は断絶した。

 戦後の皇室では、妃が当主となった前例(秩父宮妃、高松宮妃、高円宮妃、三笠宮妃)はあるが、独身の女王が宮家の当主となるのは今回が初めてだ。

 側室制度がなくなり、男子の皇族が減る中で、女性が家を守るしかないという現実的な流れによって、制度の“想定外”が制度の壁を突き破ったとも言える今回の処遇。

「そもそも、宮家の定義自体が法律で明文化されていません。独立して生計を営む皇族として認められれば、男女を問わず、“いわゆる”宮家の当主になることは現行法のままで可能です。彬子女王殿下はその“実例”を国民に示されたわけです」(山下氏)

 つまり、今回の「継承」と「創設」は、皇室典範や皇室経済法を改正せずに女性皇族が世帯主となることを示し、これは将来、佳子さまや愛子さまにも同様の可能性が開かれたことを意味する。

彬子さまの「三笠宮家」継承は分家ではなく“分裂”に近い, 信子さまが「三笠宮寛仁親王妃家」を創設する意味, なぜ信子さまと彬子さまで皇族費に大きな差がついたのか, 三笠宮家の再編は単なる親子の確執や財政の話ではない

秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年6月13日撮影、写真:ロイター/アフロ)

彬子さまの「三笠宮家」継承は分家ではなく“分裂”に近い, 信子さまが「三笠宮寛仁親王妃家」を創設する意味, なぜ信子さまと彬子さまで皇族費に大きな差がついたのか, 三笠宮家の再編は単なる親子の確執や財政の話ではない

天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年6月5日撮影、写真:工藤直通/アフロ)

 しかし、彬子さまや瑶子さまが皇族以外の男性と結婚すれば、皇籍を抜けなければならず、お二人が結婚した時点で三笠宮家は廃絶となってしまうのだ。

彬子さまの「三笠宮家」継承は分家ではなく“分裂”に近い, 信子さまが「三笠宮寛仁親王妃家」を創設する意味, なぜ信子さまと彬子さまで皇族費に大きな差がついたのか, 三笠宮家の再編は単なる親子の確執や財政の話ではない

三笠宮家の長女彬子さま(右)と次女瑶子さま(2025年9月6日撮影、写真:共同通信社)

 戦後の皇室制度は、男系維持を前提に設計されているため、現在30歳以下の男子皇族は悠仁さまお一人ということを考えれば、宮家の廃絶は時間の問題であり、制度の維持そのものが現実と乖離しつつある。

 今回の三笠宮家の再編は、単なる親子の確執や財政の話ではない。それは、「皇室とは何か」「家を継ぐとは何か」という根源的な問いを突きつける出来事でもあった。

 祭祀を継ぎ、家名を残す。二つの役割を担う宮家の存続は、ぎりぎりの判断で保たれたように見える。とはいえ結婚による皇籍離脱を防ぐには、制度改正のみで可能であることからも、速やかに手を打たなければ、皇室そのものの存亡に関わってくる。

 彬子さまの“宮家継承”は、女性皇族が皇室を守るもう一つの道を示した歴史的な一歩でもあり、女性宮家創設の嚆矢となるかもしれない。

彬子さまの「三笠宮家」継承は分家ではなく“分裂”に近い, 信子さまが「三笠宮寛仁親王妃家」を創設する意味, なぜ信子さまと彬子さまで皇族費に大きな差がついたのか, 三笠宮家の再編は単なる親子の確執や財政の話ではない

皇室の構成(図:共同通信社)

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