「怖がらせればいいのか」特撮の神様に怪獣たちが談判…「ウルトラマン」前夜、実相寺昭雄が切り取った世界

TBSレトロスペクティブ映画祭で8本上映, 重く観念的な映像…低視聴率で干されたことも, 坂本九の魅力引き出す歌番組も, 京都、大阪、名古屋でも

「ウルトラQのおやじ」では、怪獣たちが円谷宅を訪れる TBS提供

 ドラマや映画で活躍した実相寺昭雄が「ウルトラマン」の前、若き日に演出したテレビ作品8本を特集上映する「TBSレトロスペクティブ映画祭」が5月2日、東京都杉並区の映画館「Morc阿佐ヶ谷」で始まる。才能の 萌芽(ほうが) に触れる貴重な機会だ。(文化部 大木隆士)

TBSレトロスペクティブ映画祭で8本上映

 同映画祭は、今は見る機会の少ないTBSの過去番組をデジタル修復し、上映するのを目的に、昨年始まった。寺山修司に続き、2回目の今年もテレビ草創期に活躍した才能に迫る。実相寺は1959年にTBSに入社、「ウルトラマン」シリーズや「怪奇大作戦」などで異才ぶりを発揮した。退職後は映画「無常」「帝都物語」などを監督し、オペラも手がけ、2006年に死去した。

 特集のうち6作品は、1話完結の30分のドラマ枠「おかあさん」で放送された。当時は番組は残されないのが通例だったが、TBSに保管されていたり、実相寺が個人で所蔵したりしていた。いずれも実験的で、20歳代だった実相寺の「新しいものを」という意欲があふれる。

 ドラマ初演出の「あなたを呼ぶ声」(1962年)は映画監督・大島渚の脚本。冒頭、妊娠が判明した女性(池内淳子)が雑踏の中を歩く姿を長回しで追う。喜びが顔に広がる中、「おかあさん」という少年の声が耳に入る。「生きる」(同)は一転、ぼろアパートを舞台に演劇のようなセットで展開するドタバタコメディー。壁1枚を隔てて隣り合う2部屋を横から撮り、同じ画面に映し出した。

重く観念的な映像…低視聴率で干されたことも

 「演出に熱く“青い”人だったと分かる。この時期に試行錯誤したものが『ウルトラマン』などにつながる。逆算して見るとおもしろい」と、映画祭をプロデュースする佐井大紀・TBSプロデューサーは話す。

 脚本には大島のほか脚本家の田村孟や石堂淑朗らも参加。社会問題や中絶、親への反発など複雑なテーマと向き合う。映画監督・恩地日出夫の脚本「汗」は、団地を舞台に自由奔放な妹(加賀まりこ)と堅実な姉の確執を描く。2人がとうもろこしをかじりながら、終戦の日に妹を産んだ母親について語る場面が印象的だ。

 制作の舞台裏もうかがえる。当時はスタジオ収録が中心だったというが、「さらばルイジアナ」(63年)は生放送に加え、フィルム、ビデオテープで撮影した部分が混在している。切り替わると画質が変わるのが分かる。

 「おかあさん」というほのぼのとした番組タイトルとは異なる、重いテーマ、時に観念的な映像は、お茶の間向きとは言いがたい。担当したその後の番組で実相寺は低視聴率で演出を外され、干されたこともあったという。

 配信の荒波にテレビがさらされる現在、佐井さんは実相寺の作品に可能性を感じている。「大衆の顔は見えていなかったかもしれない。視聴者に寄り添うのがテレビの王道だとしても、実相寺さんのような挑戦にもっと柔軟になっていいと思う」と語った。

坂本九の魅力引き出す歌番組も

 ドラマ以外も上映される。「ウルトラQのおやじ」(66年)は特撮の神様・円谷英二に密着したドキュメンタリー。実相寺と円谷プロの接点となった番組だという。怪獣たちが応接間で円谷に「見ている人を怖がらせればいいのか、親しまれればいいのか」などと尋ねる場面は秀逸。後の「ウルトラマン」シリーズの名場面も想起させる。

 「坂本九ショー」(63年)は歌番組。ドラマのようなセットを組み、次から次へ滑らかなカメラワークで見せる。伸びやかな歌声にはじける笑顔。九ちゃんの魅力を存分に引き出した。

京都、大阪、名古屋でも

 上映は2本立て。詳細は「Morc」の ホームページ で。同映画祭は、全国で随時実施される。「アップリンク京都」(京都市)では5月23日~6月5日、「シネ・ヌーヴォ」(大阪市)では6月7~20日に開催されるほか、「シネマスコーレ」(名古屋市)でも予定されている。