《もう常識は通用しない》今年のクマがいつもより”イライラ”神経質になっている理由
秋田県と青森県にまたがる十和田湖。同地の観光の玄関口に位置する大湯温泉は開湯800年の歴史を持つ県内有数の温泉地である。ここは歴史ある温泉地として華美ではなく落ち着いた風情を求める多くの観光客を集めてきた一方、熊の出没が多いことでも知られる。
「長年、ここに住んでいるがこんなに熊が出てくるのは初めてだ」と住民たちは口々に言う。熊の出没に怯える地域では今、現実に何が起きているのか――。
【前編記事】『「どこにでもクマがいる日常を理解できますか」秋田県民の憂鬱…都会の人間にはわからない“異常すぎる生活”』よりつづく。
今年のクマが「神経質」になっている理由

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秋田県大湯地区で暮らす70代の男性に話を聞くことができた。この男性は年間を通じて山に入り、春は筍を、その後は様々なきのこ類を採って友人たちに振る舞っているという。
昭和40年代に狩猟免許を取り、本業の傍ら付近の山々に入ることを続けていた。還暦を迎え体力の衰えを感じ狩猟は辞めたがそれでも山に入ることは継続している。専門家ではないが経験から導き出される深い知識には驚かされた。
以下にできるだけ要約する。
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私が入る山は登山客など決して来ないところです。これまで熊とは何度も出会ってます。もし、やられたら自己責任と考えてます。怖いけれど、これが私の習慣だし楽しみは山にしかないからやめらんねぇな。季節を通じて山は美味しいものを沢山くれます。
今年は夏の大雨で山の中の沢沿いの地形が変わってしまった。夏場のキノコは異常な暑さと大雨でほとんど全滅だった。どんぐりもブナも胡桃もあまり実をつけていない。ナラクイムシにやられてナラの大木が何本もダメになっている。強いはずのブナも枯れている。
広葉樹の実が成らないと獣たちが困るな。餌がないからイライラしているんだ。熊も怖いが猪も怖い。猪は大きな群れで動いていて、いきなりこちらに突っ込んでくる。転ばされたこともあったよ。熊も猪も頭数は明らかに増えている。ただでさえ少ない餌を互いに奪い合っているので生存するのに必死なんだよ。
おまけに最近は人工林の切り出しが多い。そうなると車両が多く山に入り、騒音と木材を運ぶ林道が作られてさらに熊を追い込むことになる。今年のような大雨地形が変わってしまって熊も混乱しているんだ。いつもの場所に餌がないから余計に神経質になっている。決まった習慣で活動している熊にとっては大問題だ。
匂いを嗅ぎつけ、どこにでもやってくる
山で餌を取れないので里に降りてきたばかりの熊は、里での環境にかなり神経をすり減らすことになる。里には山にはない騒音や家に人に車に色んな匂いなど山中とは全くの別環境に緊張する。
だから里にいる熊は山の熊よりも気が立っている。事故が多いのはそういった神経を尖らせた熊が多いのだと思う。本当はもっと臆病な動物だが環境がそうさせているのだろう。

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山と違って里には熊の食べ物がたくさんある。米、蕎麦、りんごや栗、柿、畑には食い物がいくらでもある。夏場のとうもろこしなんて大好物だ。コメも精米すれば、その匂いが好物だから釣られてやってくる。
奴らは常に腹を減らしているから餌を探して匂いを嗅ぎつけどこにでもやってくる。畑も家の中も倉庫も畑もゴミ箱も奴らにしてみたら同じことだ。誰かの所有だなんて事は考えね。
自分の餌場となるとそこに執着するから出会い頭に人間がいたらやられることもあるし、一度でも人間を襲ったクマはそれを学習する。今度は人間が餌になるということだ。
人間が動きを止めても襲ってくる
大型で強い熊は奥山で条件のいい広い縄張りを持っている。弱い熊になるほど、里の方に追いやられる。一度でも里に降りてきたら他の熊の縄張りがあるので山には戻れない。
里の近くで巣を作り、子を育てそこからエッサホッサと里に出てくる。里で生まれた小熊は山での移動の仕方も餌の取り方も知る術がない。だから里で餌を取り、遊び、活動し繁殖することになる。針葉樹林には冬でも雪が積もらないので暖かいからそこに居着く。

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秋田は人工林(針葉樹)が日本一多い。道路脇、市街地近くの伐採しやすい場所はほとんど人工林だ。そこにジッといるわけだ。山を知らない人には熊がどこにいてどこを移動しているのかなど分からないよ。
私も熊のことを知っているつもりだったが、それでも今年の熊は違うな。気が立っているよ。山中でも木を揺すぶったり、吠えて威嚇されることが多い。
これまでは、こちらも動きを止めて一服していれば安心できた。でも今は違う。熊鈴なんて何の効き目もない。自分の考えでは熊が寄ってくると思っている。拡声器を使って音を鳴らせば大丈夫だと言うのは昔の話だ。余計に刺激してしまう。
キャンプの人も登山の人も食べ物持ってくるだろう。熊の鼻はすごく効くんだ。弁当の匂いに寄せられて腹を減らした熊は必ずやってくるよ。自分は水だけで食糧は絶対に持っていかね。
匂いのする甘いドリンクもダメだ。はちみつレモンってのがあったろ。あんなの持ってきたら自殺行為だよ(笑)。熊のいる山では匂いのあるものを持ち込まず、音を立てずにゆっくり動くことしかない。
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今年の熊はいつもと違う――。男性は一貫して、そう警告を発していた。それを踏まえた上で、もし熊と出会ってしまったどうすればよいのだろうか。【後編記事】『学者は絶対知らない「もしクマと遭遇したら…」山のプロが実践している《本気の対処法》』につづく。