北朝鮮の最新鋭戦車「天馬-20」を地獄絵図が待ち受ける

米陸軍のM1エイブラムス(M1A2=A2はA1の改良系、9月2日エジプトでの演習で、米陸軍のサイトより)
1.北朝鮮新型戦車「天馬-20」登場
北朝鮮は、2025年10月10日の党創立80周年軍事パレードで、各種新型兵器を登場させた。その中に、地上兵器として「チョンマ(天馬)-20型」新型戦車があった。
そして、この戦車を「強大な攻撃力と頼もしい防護システムを備えた現代式主力戦車」と紹介した。
写真1 2025年10月10日の軍事パレードに登場した天馬-20戦車

出典:朝鮮中央通信
だが、この戦車は、今年5月4日に金正恩総書記が戦車工場を視察した時に出現した戦車と同じものだ。
さらに、この戦車は5年前に党創立75周年の2020年10月10日に登場したものに似ており、車体はほぼ同じである。砲塔部分に鉄板を取り付けて改造し、戦車として必要な装備を取り付けているように見える。
この戦車には、とても不思議な点が多い。そこで、以下の点について考察する。
①どのような経緯で製造されてきたのか。
②この戦車はどのような能力を備えているのか。
③製造するために、どの国の協力(供与)があったのか。
④備えた装備の能力を実戦で発揮できるのか。
2.北朝鮮新型戦車の開発製造の経緯
北朝鮮の新型戦車が最初に登場したのは、2020年10月党創立75周年軍事パレードの時だった。
最初に見た印象は、米国陸軍の「M1エイブラムス」戦車やイラン陸軍の「ゾルファガール」戦車に酷似していると感じた。その理由は、砲塔部分がとても似ていたからだ。
砲塔部分で異なるのは、米軍の戦車の砲塔部分は大きいこと。一方、北朝鮮の戦車には、下の写真で赤丸部分のアクティブ防護システムと対戦車ミサイル発射器が装着されていること。
この2点を除くと、非常に似た形をしている。
写真 左:北朝鮮新型戦車2020年登場 右:米陸軍M1エイブラムス戦車

出典:朝鮮中央通信、米陸軍公表
次に、金正恩氏が戦車部隊の訓練を視察(2024年3月)した時は、新型戦車は色を迷彩色にして、砲塔部分を一部変更して登場した。
変更した(下の写真の赤丸)のは、爆発反応装甲(Explosive Reactive Armour)や光学監視装置を装着し、対戦車ミサイルの位置や角度を変えたことだ。
アクティブ防護システムのアンテナなどが明瞭に見える。
写真 2024年3月訓練中の新型戦車

出典:朝鮮中央通信発表写真に筆者が印をつけた
今年5月、金正恩氏が戦車工場を視察した時の写真では、車体部分がこれまでの新型戦車と同じであったが、戦車砲塔の前と側部が鉄板で覆われていた。
その部分には、リベットを撃ち込んだ跡があることから、前述の戦車に鉄板で覆って形成したのだろう。
写真 2025年5月金氏が戦車工場の新型戦車を視察

出典:朝鮮中央通信発表写真に筆者が印をつけた
その目的は、以下の3点が考えられる。
①戦車の主装甲と新たに作った鉄板の間に、追加の複合装甲板(増加装甲・付加装甲)を入れるため
②近代的な重戦車と見せるため
③軍事同盟国から供与されたものではなく独自開発であると見せるため
北朝鮮が独自に複合装甲版を製造できるとは考えられず、①の可能性は低く、②と③の可能性が高い。
2025年10月10日、党創立80周年軍事パレードで登場したのが、この戦車である。
3.この戦車の由来はどの国か
2020年に初登場した時は、私は砲塔部分が米陸軍のM1エイブラムス戦車やイラン陸軍のゾルファガール戦車によく似ていたので、砲塔部分の映像に引き付けられてしまった。
そして、北朝鮮が独自にM1戦車に似た戦車を製造したのか、あるいはイランからの技術供与を受けたのか、またはロシアか中国で製造されたものかと考えていた。
最近、ウクライナ戦争を分析し、ロシアの最新型の「T-14」戦車を見ていて気づいたことがあった。
北朝鮮の新型戦車とT-14戦車を比べたところ、砲塔部分は全く異なるが、車体部分がほぼ同じだったのだ。
写真 ロシアT-14と北朝鮮新型戦車の比較

出典 北朝鮮新型戦車:朝鮮中央通信 ロシアT-14戦車車体:ロシア国防省
そこで、各部分を比較してみた。
①片側の転輪(車輪)の数は、T-14と北朝鮮のものは7個である。
7個の転輪というのは極めて特異であり、ロシアと中国のほかの主力戦車には見つけることができない。珍しい一致である。
例えば、ロシアの戦車「T-54」「T-62」は5個、「T-72」「T-80」「T-90」は6個、中国の88式・96式・99式・15式は6個である。
つまり、ロシアと中国にはT-14以外、7個の転輪をもつ戦車はない。
②エンジンの排気部分の位置に金網があるのは、中国・ロシアの戦車の中では、ロシアのT-14と北朝鮮の新型だけである。
③車体の側面には、複合装甲版が付加されている。その形状は、T-14と北朝鮮新型(2024年出現)では同じ、2025年とはほぼ同じである。
④車体側面の傾斜は、両方とも全く同じである。
⑤正面の形は、両方ともほぼ同じである。
車体部分においてロシアのT-14と北朝鮮の新型が、これほど一致しているということは、北朝鮮の新型戦車は、ロシアから導入したものと考えてよいだろう。
また、北朝鮮で新型が初めて登場したのは2020年であり、ウクライナ戦争よりも前だ。
ロシアは、ウクライナ戦争を始めてから戦車を輸出できなかったと思われるので、それ以前に輸出されたと推定してよいだろう。
4.新たなセンサーや監視装置も
今回、10月10日のパレードに登場した新型戦車には、形だけで見れば対戦車防護用の装置、監視用の装置がある。しかし、これらの装置が実際に機能するかどうかは分からない。
対戦車防護装備にはソフトキル型とハードキル型がある。2つの型ともに、ミサイルの接近を察知するレーダーセンサーを備えている。
ソフトキル型には以下のような種類がある。
①センサーが察知すれば妨害電波を発し、ミサイルの飛行を混乱させる。
②チャフ(アルミの破片)を投射して、ミサイルを目標の戦車ではなくチャフの方向に飛行させる。
③煙幕を出し、誘導手やミサイル自体による誘導を難しくする。
ハードキル型は、目標に接近するミサイルに対して、擲弾などを放出し、擲弾から出る金属破片などでそれを破壊するものである。
監視装置には、光学カメラなどで監視するものがあり、敵戦車の位置をこのカメラで自ら識別し、その情報を車内の映像装置に映し出す。
5.実戦で装備の能力を発揮できるのか
北朝鮮の新型戦車にも、ロシアのT-14戦車が備えている装置が取り付けられているようだ。だが、それらは、戦場で使えるほどの機能があるのだろうか。
チャフや煙幕を発出することは、これまで訓練でも頻繁に使われていたこともあり十分に可能だろう。
ミサイルの接近を察知するレーダーセンサーが、飛行してくる対戦車ミサイルやドローンを発見することができるのかというと、条件がよければ、発見できるかもしれない。
次に、もしレーダーセンサーでミサイル等の接近を察知できたとして、高速で飛翔するミサイルに上手く擲弾の破片を衝突させて、目標に到達する前に破壊できるだろうか。
実験場ではできたかもしれないが、実戦では不可能とみられる。その理由は、ウクライナ戦争でロシアのこの装置が効果を発揮しているという情報がないからだ。
ロシアの戦車は、車体や砲塔部分が、弁当箱のような四角い箱で覆われていた。
それらの箱は、爆発反応装甲(explosive Reactive Armor)といって、成形炸薬弾を運搬する対戦車ミサイルやドローンが衝突し爆発するときに生じるメタルジェット(激しく飛散する金属片)が、戦車等の内部に到達することを止めるためのものだ。
米欧の戦車にも、この爆発反応装甲が取り付けられている。
爆発反応装甲は理論上、対戦車ミサイル等が衝突したとき、そこでミサイルが爆発してミサイル攻撃の効果を消滅ないし減滅させられる。
だが、ロシアの戦車は、ウクライナの対戦車ミサイル等の攻撃を防ぐことができずに、大爆発して木っ端みじんに破壊されている。
ウクライナ戦争で、ロシアの1万両以上の戦車がウクライナの対戦車ミサイルやドローンで破壊された。
このため、ロシアは、金網を戦車の周りに取り付け、対戦車ミサイル等の攻撃を防ごうとしている。
それでも、ロシアの戦車や装甲車は破壊され続けている。
写真 金網を全周に取り付けているロシア軍戦車

出典:ウクライナ国防総省
つまり、ロシア戦車の爆発反応装甲は、機能していないのである。
当然、これよりも高性能で複雑なレーダーセンサーなどが機能するとは考えられない。
6.天馬-20を待ち受ける運命
北朝鮮の天馬型戦車は、ロシアの最新型戦車の車体を使っているのは間違いないだろう。
砲塔部分やその上に備えられる対戦車兵器や監視装置もロシアで製造されたものと考えてよいだろう。
ロシアの戦車はウクライナ戦争では、破壊され続けている。ミサイル攻撃を防ぐのに全周に金網を設置するしか方法がないのである。
北朝鮮の新型戦車が対戦車ミサイルから防護する装置を付けていても、それらは見せかけだけのものであり、実際は、戦争には使えないのである。
パレードでは、新型戦車「天馬-20」の登場と騒がれるが、実際は、ミサイルが飛び交う戦場では使い物にならない。
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